メールマガジン

メールマガジン第301号

掲載日2009 年 5 月 12 日

みなさん、こんにちは。

メールマガジン300号では、長文過ぎて送れないことを初めて経験しました。

竹山清明氏の労作『サステイナブルな住宅・建築デザイン』は、「消費者に長く喜ばれる住宅デザインとは何か」を建築計画論から解き明かそうとしたものです。更に工務店や設計事務所が住宅デザインを考える上で基本的な問題を提起する本だと思い、その考え方を熱心に説明したためかなり長くなり、何度送ってもメールが拒否されたというわけです。

以前、HICPM研修ツアーで、イザベラ・バード女史(英国の女性探検家、米国のロングフェロウについで2番目に日本国内を単身探検旅行した人で、その旅行記は人気)が、明治の初めに美しい光景と評価した山形県金山町を訪れ、参加者全員大変感銘を受けたことを思い出しながら、連休初めに山形県銀山温泉に出掛けてみた。そこの能登屋旅館は大正時時代のロマンがあるとTVで紹介されていたことから、今回二年越しの想いを実現しました。

江戸時代まで銀山として開発され、閉山後に優れた温泉があったことから湯治場として栄え、明治、大正、昭和、平成と栄えてきたところです。TVで放映された「おしん」の話とも関係があるところのようで、音羽信子の写真が飾ってあり、おしんこけしも売っていました。美味しいそばと山菜のてんぷらを食しながら見る、激しく雄大な滝と渓流は、多くの人を惹きつける自然環境の優れたところです。

しかし、20軒ほどの旅館街が多くの人を惹き付ける理由は、渓流をはさんで建ち並ぶ建築の面白さに尽きます。中でも私が泊まった能登屋は、4階建ての建築の上に2層の塔屋が取り付けられ、その塔屋は単なる吹き抜けの塔なのですが、建築デザイン的にこの旅館街を一つの造形にまとめる役割を果たしています。大変面白い建築なのでよく調べてみると次のようなことが分かりました。

和風建築が建ち並ぶ旅館街で、妻入りでむくりの付いた破風や切り妻破風が、入り口と屋根部分に造られています。窓に小庇が付き、全ての垂木の小口には白色の漆喰が塗ってあります。露出した木材は防腐処理がされてこげ茶色のため、垂木の小口の使途が町全体のリズムを作っています。その中でも能登屋は、玄関部分に洋風の角柱の柱頭飾りのあるポーチコがあり、その部分が4階まで立ち上がり、ベイウインドウのような形を構成しています。1階と2階との間には庇を設けず、洋風建築に見られる建築全体の構成を配慮したプロポーションのファサードとなっています。

最上階に2層造られた塔屋は、どう見てもイタリアネイト様式にしか思えませんでした。そこで若女将に建築様式について尋ねてみたところ、「確かに大正時代に優れた建築家が関係して建てられた和洋折衷の建築物だと聞いています。」とのとでした。建築物の内部も、大広間には洋風建築で見られる鏡が使われています。和風の空間として計画されているのですが、勾配天井の欄間部分に鏡を使うことで、シャンデリアの照明が反射し、天井空間が連続して映り、空間の広がりの両面で驚くべき豊かな空間を創り出していました。

建物の外部から最も目立つ塔屋の下には、塔屋に吹き抜ける空間を利用し喫茶室が設けられていて、窓からは、渓流両側に造られた歩行者専用の通りを見下ろすことが出来ます。そこからの鳥瞰図としてのストリ-トスケープに、大正ロマンを見る想いがします。

ここだけではなく、私が多くの観光地を見て共通に感じることは、そこに住んでいる人が誇りを持ってその空間を使い生活しているとき、旅行客もまた、生活者と同じ文化を享受することに喜びを感じるということです。

能登屋の3代に亘る女将と従業員からは、自分の宿の歴史と文化を誇りに思い、その良さをいかに宿泊客に楽しんでもらえるかと言う配慮が痛いほど伝わってきました。料理も、この地のその季節のものを楽しんでもらおうという気配りがなされ、大正ロマンを現代的な環境で楽しめる旅館だと思いました。

この旅館を訪れる人達は、旅館の耐震性や防耐火性、高気密高断熱高性能に憧れて宿泊したわけではありません。端から端まで歩けば2分で行ってしまうような小さな旅館街の珠玉の歴史文化を担った景観と、懐かしさを感じさせる和洋折衷様式の一軒の旅館の歴史文化空間とそこでのお持て成しに、高い満足を感じるのです。

このことは、住宅についても全く同じです。人々は自分にとって、宝と思える歴史文化空間を持った住宅を手に入れたいと願っています。消費者がアイデンティティとして望むことは、個々人の家族の歴史文化の中で形成される感性に共鳴できる歴史文化が、空間に正しく取り入れられていることです。そのような住宅のデザインをクラッシックと呼んでいます。竹山氏が著書で実証的に明らかにされたことは、多くの住宅様式を消費者に見てもらい、どのような住宅に共感を覚えるかと言う調査です。

今月の2122日には、「サステイナブルな住宅・建築デザイン視察ツアー」を企画し、京都、近江八幡を訪ねます。竹山氏が著書の中で調査対象とされた住宅や住宅地を実際に訪れ、竹山氏から直接その評価を聞き、参加者とは質疑応答を通してデザインについて考えます。新しい方向性を見る上に大変有意義な研修になるものと確信しています。そのためには参加者が主人公となり、住宅のデザイン問題について高い意識を持ち、意見交換が出来ることが大切であると考えています。(戸谷英世)

 


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