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耐震偽装事件における国家(検察庁)の憲法違反を証明する

掲載日2009 年 9 月 6 日

本鑑定意見書は、現在最高裁判所に上告されている詐欺容疑の被告マンション業者社長ヒューザー、小嶋 進に対して、建築基準法行政の専門家としての意見を求められて作成した鑑定書である。これは、建築行政を25年間携わってきた私自身に対する検察庁の挑戦と言うように私には感じられるもので、件引く行政を真っ向から無視する控訴審までの裁判経過に対しても大きな疑問を感じざるを得ないものである。建築基準法に関係知る人達がこの鑑定書を読んでどのように考えるか、国家とは何かを考える一つの契機にしてもらえたら幸いである。行政法が粗末にされているということは、国民と国家との社会契約の実体が粗末にされているということでもある。

鑑 定 意 見 書

平成21年9月 7日
鑑 定 人
特定非営利活動法人住宅生産性研究会理事長 
戸 谷 英 世  
[目次]
鑑定人の経歴    2
第1 鑑定事項    3
第2 鑑定結果    3
1 建築基準法を基軸とした建物の安全確保の法律システムと実務    3
(1)安全とは公的な概念である―建築行政の基本的理念    3
(2)安全確保の体系    4
(3)安全性は法的に幾重にも確認されている―建築基準法による安全性の確認    5
ア)建築確認の流れ    6
イ)計画段階の審査と工事段階の検査の関係    6
ウ)建築工事段階の工事検査確認    8
エ)特定行政庁の権限    10
オ)指定確認検査機関と特定行政庁の関係    12
カ)完了検査済証を受けた既存建築物の安全実現の体系    13
(4)小括    13
2 建築基準法体系による人・業者による建築物の安全確保システム    15
(1)建築士法による安全管理    15
ア)建築士法の定め    15
イ)設計・工事監理の定め    16
ウ)行政による監督    17
(2)建設業法による安全管理    18
ア)建設業法の定め    18
イ)許可制    18
ウ)下請に対する規制と安全確保    19
エ)施工技術の確保    19
オ)行政による監督    20
(3)建築基準法による安全管理    20
ア)建築主事    21
イ)指定建築確認検査機関(民間)    21
ウ)特定行政庁    21
エ)建築監視員    21
3 建築基準法等行政法の建物安全確保システムを補完する民事上の瑕疵担保責任制度    22
4 結論    22

鑑定人の経歴 (都市計画法及び建築基準法関連分)
昭和36年 人事院国家公務員試験上級職甲(建築職)合格
昭和37年 建設本省住宅局採用(技官)住宅局住宅建設課配属
昭和41年 建設本省住宅局建築指導課、建築指導室改良係長
当時、建築指導室は、住宅局の中での都市局との関連の強い建築基準法第3章(集団規定関係)、住宅地区改良法(改良地区の都市計画決定及び改良事業の都市局稟議)、防災建築街区造成法(都市計画法に吸収)の3法律を扱う3係(市街地整備係、改良係、防災係)を建築指導課の内部の建築指導室として組織された。新都市計画法制定に対応して、住宅局の都市局窓口として、建築指導室全体で、「新都市計画法への対応」の議論をし、問題点を纏めて、建築指導課として住宅局の意見を纏め、都市局と事務ベースの折衝をした。
昭和44年 建設本省住宅局建築指導課基準係長
建築基準法第五次改正担当(基準係長として、建築基準法施行関係規定、特定行政庁(25万人以上の都市に対する建築主事の義務設置)、限定特定行政庁の規定、建築監視員制度、建築物定期調査制度、建築設備等の定期検査制度、防耐火規制の強化、防災避難規定の整備で内閣法制局審査及び各省折衝を担当し、法律制定後は、法律の施行のため、全国の建築指導行政を指揮した。
昭和47年 建設本省住宅局建築指導課長補佐(建築士班長)
建築士法の施行を通して、改正建基準法を、建築士行政を通して徹底するとともに、不正建築士及び建築士事務所に対する行政処分を行う一方で、その指導監督を行うとともに、建築士の業務基準を作成し、建築士業務の適正化の指導行政を担当した。
昭和49年 大臣官房技術調査官(その内の3年間インドネシア政府で住宅都市開発行
政勤務)
昭和52年(建設本省派出人事)愛媛県土木部住宅建築課長
特定行政庁(愛媛県知事)の建築基準法行政担当事務責任者として、県下の建築行政を施行した。
昭和55年(建設本省派出人事)住宅整備公団都市開発計画部、都市開発調査課長
昭和61年(建設本省派出人事)大阪府建築部参事(部長特命参事)
地区計画による大坂府下の整備及び木造密集地区(木賃ベルト)の整備改善
昭和64年 建設本省退官
平成7年 住宅生産性研究会設立(副理事長)
平成12年 特定非営利活動法人住宅生産性研究会理事長就任(現在に至る)
都市計画法及び建築基準法関係の行政不服審査請求及び行政事件訴訟事件で、法治国における秩序を守るため『行政法の適正な施行の実現』を目指して行政法上の支援に取り組んできた。

第1 鑑定事項

建築確認申請段階で正規の構造計算書によって確認されていなかったことが、建築行政法規のうえで、完成した建物の安全性にとって重大な問題と言えるかについて意見を求められたので、前記経歴のとおり長年、住宅・建築・都市に関する政府立法作業及びその行政に関与した者として、以下、鑑定意見を述べる。

第2 鑑定結果

1 建築基準法を基軸とした建物の安全確保の法律システムと実務
(1)安全とは公的な概念である―建築行政の基本的理念
建築物に関する特別な知識や技術がなくても、憲法で保障された安全で文化的な建築物を国民が利用できるために、安全で文化的な建築の実現を建築行政として実施しなければならない。そこで、建築行政は、建築基準法によって「安全実現方法」を定め、建築士法及び建設業法によって「建築物生産(設計・施工・工事監理)及びその審査(確認審査)に携わる人に排他的独占的営業」を保障することによって、安全で文化的な建築の実現を確保しようとしている。
ここで、建築の「安全」とは、建築物の単体としての構造耐力、防耐火、避難安全、衛生安全等、建築基準法第2章(単体規定)の安全と、都市計画法に定められ都市計画決定に係る地域地区計画に対応する建築基準法第3章(集団規定)の安全を含む概念である。
そのうち、耐震強度に関しては、建築基準法第2章及び同法施行令に基づき、各建築物の構造計画に基づく構造計算がなされ、安全に造られていることを確認する仕組みになっている。その際の建築物の構造耐力安全性に関して、建築基準法令は、大要、次のような考え方を採用してきた。すなわち、しばしば発生するであろう中地震に対しては、建築物の機能が十分に保持されていて構造が損壊せず、生命及び財産が守られること、極めて稀に発生する関東大震災級の大地震に対しては、構造にある程度の損傷を生じてもやむを得ないものとするが、損傷を受けても構造が崩壊して人命を失うことがないように安全避難できる、という思想である。
このことに示されるように、建築における構造計画により計算された建築物の「安全」とは、個別にその建築物の構造・形態に合わせて、過去に発生した巨大地震波との共振の危険性を検討して、個別に審査することになる。しかし、一般的には構造計画された建築物に対しては、建築基準法で定めた構造計算に従って、地震により発生した応力が建築物の構造耐力上主要な部分に使用されている材料強度、材料への許容応力度以下であることを確かめるほか、建築物の形態、地盤の状況による建築物の地震との対応についての建築基準法で定める耐震強度を検討して程度が決まる。つまり、建築における「安全」とは、憲法で国家が国民に保障する内容を建築基準法規として定めた法律上の基準であり、建築士により建築物は設計され、建築主事による行政手続(確認)によって実現される。この建築基準法規として定められた「安全」(法律上の基準)は、自然科学的な概念ではない。自然科学的な意味での安全はゼロから100%まで存在する。これに対して、建築基準法規として定められた「安全」概念は、建築基準法に適合するか、しないかの二者択一の社会科学的な概念なのである。しかも、建築基準法上の安全判定は、確認事務により建築主事がなすものである。不正利益をあげるために違反建築を計画することが日常的に行われているので、それを未然に防ぐことも確認の役割である。

(2)安全確保の体系
建築基準法は、その目的について、「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」と定めている(同法1条)。
この建築基準法が定める建物の安全を確保するための体系は次のとおり、建築物という物に着目して安全を実現する建築基準法と、建築物の生産に関する人・業者に着目して安全の実現を図る建築士法及び建設業法の体系の両方である。
この中「人・業者による安全」については、別項「2」で説明する。
イ.    安全性判断の基準:建築基準法第2章(建築物の敷地、構造及び建築設備)
ロ.    安全性判定者:①建築基準法との適合審査・判定は建築主事又は指定確認検査機関(以下「建築主事等」という)が行う。
②建築基準法上の危険の程度の判断は特定行政庁が行う。
ハ.    安全判断方法:①建築計画段階は確認済証の交付
②建築工事段階は建築工事請負契約書添付工事用設計図書の検査で合格した設計図書と工事との照合確認
③建築工事検査は中間検査と完了検査があり、それぞれの工事完了検査済証の交付
このように、建築基準法のうち、本事件に関する構造耐力の安全性判断の基準として、敷地(19条)、構造耐力(20条)、及び補足するために必要な技術的基準(36条)に基づき、建築基準法施行令第3章鉄筋コンクリート(第6節)構造計算(第8節)に定められている。建築確認申請では、確認申請に係る構造計画及び構造計算が建築基準法令に適合していることを審査し、その基準に適合していれば、確認済証が交付される。その後、建築請負契約の締結により、実際に建築する工事内容が工事請負契約添付設計図書で確定する。建築主事等は、その工事契約に添付された設計図書の検査確認を行なう。それ以降は、工事内容と法令に適合すると、建築主事等が検査した設計図書と適合していることを確かめられる内容との照合検査がなされる。
以下、具体的に、建築計画段階から工事完了に至る段階での安全性確保の仕組みについて説明する。

(3)安全性は法的に幾重にも確認されている―建築基準法による安全性の確認
ア)建築確認の流れ
建築基準法に基づく建築確認による審査事務は、建築主事等により建築計画段階と建築工事段階との2段階に分けて行われる。
前者(建築計画段階)は、確認申請に基づき、申請内容が建築基準法で定める建築士により設計され、建築基準法第2章に定める構造耐力の規定を含む建築基準関係規定と適合しているか否かの確認審査として行われ、適合が確認されたときは、建築主事等による確認済証の交付が行われる。
その後、後者(工事段階)において、建築工事内容が確定した工事請負契約書添付工事設計図書が、建築基準関係規定に適合していることを検査し、以後、その工事設計図書と建築工事との照合が工事検査によって行われ、中間検査及び竣工検査に合格したものに対して工事検査済証を建築主事等が交付することによって確認事務は完了する。
このように、確認という行為は、計画段階の確認済証の交付で完了するのではなく、建築物が完成して工事検査済証の交付が成されるまでを指し、建築主事等による確認により法律上確定する。
次に、各段階における確認行為について説明する。

イ)計画段階の審査と工事段階の検査の関係
① 計画段階の審査は、確認申請書に添付された設計図書が、建築基準関係規定に適合していることを審査するものであるのに対し、工事段階の検査は、そこでなされた工事が建築基準関係規定に適合していることを検査確認するものである。そして、すべての工事業者は、請負契約書に添付された工事用設計図書に基づいて工事をするので、工事段階の検査では、請負工事に使用される工事請負契約書添付工事用設計図書の審査が求められる。工事検査は、確認申請書添付設計図書(以下「確認済証」という。)どおりの工事の実施を求めてはいない。それは、確認済証は単なる確認申請が建築基準関係規定に適合していることを確認したものであって、実際に工事する設計図書として確定したものの確認ではないからである。

② 工事用図書と確認申請図書とでは時間的なズレがある。そして、建築主の要求自体は絶えず変化している。そのため、工事段階での建築主の要求は、確認申請時とは基本的に相違していることが通例である。法律では、建築主の要求に適合した適法な建築物の実現を求めており、建築主の要求を確認申請時の確認申請書添付設計図書に限定するものではない。よって、工事段階での確認申請建築物と形態の変化する大きな変更には、計画段階の確認申請書の変更承認が必要であるが、軽微な変更は、計画段階の設計変更ではなく、建築主の求めに応じた工事段階の変更となり、建築主事等による工事用図書の検査確認で足りると考えられている。

③ 審査に当たり、建築主事等はまず、確認申請に係る敷地の状況について、現地に赴き、申請書添付設計図書の記載事項(位置、形状及び面積、道路との関係)が、現実に存在することを審査する。
そして、申請建築物が開発許可を要する場合、開発許可に係る完了公告がされていること及びその建築物が、開発許可に係る予定建築物と基本的に同じであることを確かめる。以上で、敷地に関する調査は完了し、それ以降は、敷地及び建築物と建築基準関係規定との照合審査が行われる。
その際、全ての内容について建築主事等が審査するのではなく、建築基準関係規定の審査(令第9条)については、各関係法の施行者によりなされた審査が法律上正しくなされたものであるかどうかの確認することが、建築主事等の義務である。建築主事等には各行政法に踏み込んで判断する権限はなく、各関係法がそれぞれの法施行責任者の下で適正になされたことを確認する。もし関係行政法での審査がやられないとすれば、建築主事等には、関係行政法の専門的知識や施行権限がないため、法律上適正になされたという審査を、「建築基準関係規定との照合審査」としてやらせる意味はなくなるからである。
建築主事等による確認審査は、確認申請に係る計画に関し、建築基準関係規定との照合審査を求めている。よって、計画として決定していない段階の事項は記載できないので、当然、計画として決定していないところは記載できず、審査はできない。
確認済証の交付は、確認申請されたことが、建築基準関係規定に適合していることの事実確認であって、行政処分ではない。確認は許可と違って、建築主事等による計画内容と建築基準関係規定との照合確認であるが、確認済証の交付のない建築物は工事してはならないという規定により、事実上許可に近い効力をもっている。

ウ)建築工事段階の工事検査確認
① 確認済証の交付にあたり、確認申請段階で計画内容が未決定な事項に関しては、その全てが建築工事段階で、請負工事当事者間による工事請負契約で確定することになる。このように、確認済証は、確認申請書の記載内容が、建築基準関係規定に適合していることの確認に過ぎず、建設業者は、確認申請図書記載事項だけでは具体的に正確に建築工事を進め建築物を造ることはできない。そこで、建築主事等は、確認済証の交付にあたって、この確認済証は確認申請に係る部分が建築基準関係規定に適合していることの確認済証であって、本申請に記載していないこと又は変更することは、工事請負契約書添付設計図書で確定することになる。

②     建築基準法は、建築主が建築工事を確認済証どおりに造ることを義務付けているものではなく、建築基準関係規定に適合した工事をすることを義務付けている。このことは、「建築確認は、建築基準法6条1項の建築物の建築等の工事が着手される前に、当該建築物の計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果が付与されており、建築関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものということができる。しかしながら、右工事が完了した後における建築主事等の検査は、当該建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを基準とし、同じく特定行政庁の違反是正命令は、当該建築物及びその敷地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを基準とし、いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない」から、「建築確認の存在は、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発する上において法的障害となるものではない」という最高裁の判断(最高裁第二小法廷昭和59年10月26日判決)からも明らかである。
そこで建築主事等は、確認済証の交付をする際に、法律の定めているこのような確認処分の意味を建築主に説明し、その後建築主事等が行う工事検査事務の内容を説明することになる。建築工事は、工事請負契約に用いた建築工事設計図書に基づいて行われる。そのため、工事検査事務ではまず、建築工事請負契約に添付された工事用設計図書が、建築基準関係規定に適合しているかが行なわれ、確認済証交付後に始まる工事検査は、ここで検査のなされた工事用設計図書に基づいて行うことを教示しなければならない。建築工事は設計図書と照合させることはできても、その全てについて建築基準関係規定と直接照合させることは不可能である。
その際、確認済証において審査した内容を再確認する必要はないことから、確認済証の添付図書と工事契約書添付図書とを比較して、追加変更分に関しては工事検査段階の検査事務として行うことになる。

③ 建築工事段階での設計変更のうち、確認申請に係る内容と建築する建築物が、社会通念上、または建築技術上、同一の建築物とみなされる限り、確認申請をやり直す必要はなく、確認申請時点と工事段階での変更内容が建築基準関係規定に適合することを建築主事等に説明して、その承認を得て工事を継続することになる。
通常、建築物の規模や用途の種類により、検査をする場所も回数も異なる。建築工事は連続的に進められなければならないので、建築主事等は建築主に対して、あらかじめ工事工程計画を提出させて、工事検査が必要と判断される時点を指示し、その時点の検査合格がなければ、次の工程に進んではならないことを指示しなければならない。しかし、建築主事等の都合で工事を遅延させることは出来ないので、建築主事等の都合で検査が出来ないときは、それに変わる検査(記録保存等)によることになる。

④ 建築工事が建築基準関係規定に適合することを検査するということは、建築現場に建築基準関係規定を持って出掛けることではない。建築現場の検査は工事用設計図書との照合以外の方法では不可能である。(工事請負人が工事をする場合、工事用図書がなければ建築工事が出来ない理由と同じ理由である。)同様に、建築現場で撮られた写真だけでの確認は、どの工事用設計図書の内容を、どの場所で、何時、誰が、どのようにして、何を検査したかの説明がなければ、どれだけ多くの写真が撮影されていても検査の役割を果たしていない。
したがって、建築工事が建築基準関係規定に適合することの検査は、まず建築主事等が建築工事請負契約に添付された工事用設計図書が建築基準関係規定に適合しているかを検査し、適合されると判断された場合は、その工事用設計図書と現実の工事との照合によって行われる、という段階を踏んで行われるのである。

⑤ 建築主から建築工事が完了したことが報告されたときには、建築主事等は建築工事完了検査をしなければならない。この検査は、建築工事着工以降の工事段階で、建築主事等が指示した工事検査のすべてに合格していることの書面検査をしたうえで、最終完成建築物が工事用設計図書のとおりに出来ていることを検査するものである。そして、建築主事等による検査に合格したら、建築主事等が工事検査済証を建築主に対して交付して、確認事務は完了する。

⑥ 建築工事検査は、建築物の保存登記や、不動産譲渡の関係で必要となるため、確認申請が行われず、または、確認済証が交付されていない建築物、もしくは、中間での工事検査を受けていない建築物に対しても求められることがある。
工事完了までの段階での建築基準法上の手続きのないものに関しては、違反を犯した建築主、工事監理者、施工者を、それぞれ建築基準法により手続き違反として処分されることになる。しかし、工事自体が建築基準関係規定に適合している限り、建築物を取り壊し、または、建築物自体の変更をする理由はない。

⑦ 建築主は、建築物を外部から見て、建築基準関係規定に違反しているところは是正しなければならない。しかし外観から判明できない違反部分に関しては、通常、建築物の工事施工者は工事を実施するために工事用の設計図書は不可欠であるため、建築主事等は、工事に使用した工事用設計図書及び工事日報や、下請けによる工事の検査記録等からそれらを調べることになる。この際、それらの書類検査で判明しないところは、部分的に建築物を破壊して検査することになる。いかなる検査をするかは、建築主事等が工事の施工者との違反事実の解明方法を検討する中で個別に決められるもので、一般的な方法は決められていない。

エ)特定行政庁の権限
① 設計図書の審査又は建築工事の検査を実施している建築主事等の事務は、建築基準関係規定の照合審査又は検査までの適合している判定までである。そして審査に不合格になった建築物に対する建築行政上の処分に対する判断は、すべて特定行政庁が行う。よって、建築基準関係規定に違反した工事であるときには、建築主事等はその旨を特定行政庁に報告するまでが、建築主事等の事務である。建築基準法上、建築主事等には、建築基準関係規定との照合確認事務に限定されていて、一切の行政処分を行なう権限を与えられていない。
特定行政庁は、建築基準法の施行主体として建築基準法を施行するうえで、必要な一切の行政処分を行うことになる。その中で最も重要な行政事務は、違反建築物を生み出さないこと及び違反是正をすることである。
少なくとも、建築主事等による「確認できない旨の通知」をなさないかぎり、その建築物が建築基準法に不適合であるという判定はされたことにはならない。但し、特定行政庁は、建築主事等の判定とは別に、その判定を覆して建築基準法に違反しているとする行政上の判断をすることができる。建築主事等及び特定行政庁以外の者が、建築物の違反判定をしても、その判定には法律上の効力はない。

② 建築物に対する建築基準法による是正や使用禁止処分は、特定行政庁が行う行政事務である。
そして、この特定行政庁の違反是正命令について、ウ)の②で引用した最高裁判決は、「工事が完了した後における建築主事等の検査は、当該建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを基準とし、同じく特定行政庁の違反是正命令は、当該建築物及びその敷地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを基準とし、いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない上、違反是正命令を発するかどうかは、特定行政庁の裁量にゆだねられているから、・・・たとえ建築確認が違法である・・・としても、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない。」としている(最高裁第二小法廷昭和59年10月26日判決)。つまり、無確認建築物であることを理由に工事完了届けが提出された場合、その建築物が建築基準関係規定に適合しているかぎり、検査済証の交付をしないわけにはいかない。また、建築主事等は違反建築物に対して、違反判定はできても、行政上の是正をする権限は与えられていない。また、違反建築物に対する特定行政庁の違反是正の規定(9条)は、「できる」という任意規定として定められているが、これは違反建築物を特定行政庁の裁量で容認できるとしたものではない。違反を犯す意図のない建築物が結果的に違反を犯していて、その違反が社会的に容認できるとされるものに対する余地を残したものである。

オ)指定確認検査機関と特定行政庁の関係
① 建築基準法に基づく確認済証及び工事検査済証の交付は、いずれも特定行政庁が最終的に責任を持つことで、公権力の行使が出来るという構成になっている。
したがって、指定確認検査機関に確認済証及び工事検査済証の交付の権限が民間移管されても、最終責任は特定行政庁が負うことができるよう、指定確認検査機関が確認済証及び工事検査済証を交付したときは、それを特定行政庁に報告するという法律の構成になっている。

② 特定行政庁への報告書は、指定確認検査機関が確認済証を交付したことの通知であって、確認申請書の内容に関して報告書に添付されていないので、特定行政庁は審査ができない。指定確認検査機関の確認済に問題があるとする情報が得られれば、特定行政庁は、指定確認検査機関にその確認済に関して説明させることができる。
特定行政庁への報告の規定は、指定確認検査機関の確認済の全てを再検査するものではなく、特定行政庁が、問題があるとされた確認済に対し監督処分を行う行動を起こす際に、指定確認検査機関で確認済がなされたことの内容審査ができるようにするためのものに過ぎない。

③ 特定行政庁は、指定確認検査機関がなした確認済のうち、疑義があるとされると詳細な再検査をすることになる。その結果、違反があれば、指定確認検査機関がなした確認は確認できない旨の通知がされることになる。

④ 同様に、指定確認検査機関が違反建築物である事実を知った場合には、その旨を特定行政庁に通報し、その後の行政処分は特定行政庁の判断に委ねることで、違反建築物の是正が取り組まれるという構成になっている。

カ)完了検査済証を受けた既存建築物の安全実現の体系
建築基準法は、日本国内のすべての建築物の構造安全体系が機能するように、建築基準法第8条の規定により、既存建築物の建築主に対して、その建築物を常時適法な状態で管理することを義務付けている。そして、第12条の規定を根拠にして、特定行政庁が指定した建築物に対しては、建築物定期調査士及び建築設備定期検査士を活用して、建築物の定期調査、建築設備等の定期検査を実施させ、特定行政庁に報告させることにより、安全管理をしている。
調査報告に基づき特定行政庁は、第9条を根拠に違反是正を実施することにより、国民の生命と財産を守ることにしている。また、新築建築物に対しては、確認制度により、それぞれ建築基準法第1条の目的である「国民の生命、健康及び財産の保護を図る」ことを果たすことにしている。国は、建築基準法第8条を根拠に、すべての既存住宅及び新設住宅が満足するようにするとともに、新設住宅の確認申請者に対して、確認申請図書だけでは判明できないところは、第12条の調査権を活用して、安全確認に必要な報告を提出させて、建築物の安全確認を実現しようとしている。

(4)小括
以上のように、建築基準法に基づく建築確認による審査事務は、建築主事等により、建築計画段階(確認済証交付)と建築工事段階(検査済証交付)の2段階に分けて行われるが、建築基準法は、建築主が建築工事を確認済証どおりに造ることを義務づけているのではない。建築基準法は建築主に対し、建築基準関係規定に適合した工事をすることを義務づけ、建築主事等が確認・検査によりそれを監理(モニター)し、特定行政庁がその実現を法律上担保しているのである。
そして、現実の建築工事は、工事請負契約に用いた建築工事設計図書に基づいて行われる。その工事は建築計画段階における確認申請書に添付された設計図書に基づいて行われるものではない。
工事検査事務では、建築工事請負契約に添付された工事用設計図書が建築基準関係規定に適合しているかが検査され、適合されると判断された場合は、その工事用設計図書と現実の工事との照合によって行われる。その結果、現実の工事が工事用設計図書のとおり出来上がっているかどうかが検査され、検査に合格すると検査済証が交付されるのである。
したがって、確認申請の際に提出された構造計算書の計算結果が虚偽であり、建物の安全性が建築基準法に規定する構造計算によって確認されていなかったとしても、建築基準法上の違反建築物とすることはできない。建築基準法上、違反建築物であること又は建築基準法上安全でないとする場合には、建築主事等による「確認できない旨」の通知、又は、特定行政庁による違反建築物であるとする処分がなければならない。
建築基準法は、建築主が建築工事を確認済証どおりに造ることを義務づけているのではなく、かつ、工事検査事務では、建築工事請負契約に添付された工事用設計図書が建築基準関係規定に適合しているかが検査され、その工事用設計図書と現実の工事との照合によって行われるのであるから、現実の建物の安全性は、建築工事段階での中間検査及び完了検査によって確保されているようになっている。
本件のように、建築基準法上の建築主事等及び特定行政庁による行政事務及び行政処分がなされないで、建築主が建築物の違反がなされたという認識ができたというような法律上の判断はできない。仮に、構造計算に瑕疵があった事実に建築主が気付いたとしても、それで法律上の違反があったという判断はできない。
以上のような建物の安全性判断の最終責任者は特定行政庁である。1(1)で述べたとおり、建築物の「安全」とは、自然科学的な概念ではないから、万人が発見・認識しうるような一定の状態を指すのではなく、建築基準法令を支える憲法25条、29条で国家が国民に保障する行政法上の国家責任を背景に、建築基準法令で定める基準に基づく建築主事等及び特定行政庁が確認及び違反是正の行政処分により実現・追求していく過程に他ならない。
特に、違反建築物は、特定行政庁のみが行政法を根拠に危険かどうかを判断する権限を有しているのであり、建築主事にも、指定確認検査機関にもその権限は付与されていない。まして、建築基準法令上、建築主などの民間人には安全性を判定する権限も責任も無いのである。つまり、特定行政庁以外の者には、行政法上違反是正の権限はないのである。
少なくとも本事件において、行政法上の安全性の判定や危険な建築物の判定は全くなされていないし、行政法上の安全判定のなされていない建築物に対して行政上の処分もされていなくて、その判定に行政上の権限のない者の発言を根拠に、国民を拘束することはできない。したがって、本件被告が、構造計算に違反があると知らされたとしても、それは被告が建築基準法上安全でないことを知らされたことにはならない。まして、被告に安全でないと判断する法律上の根拠を与えられたものと判断することはできない。

2 建築基準法体系による人・業者による建築物の安全確保システム
(1)建築士法による安全管理
建築物の生産をその設計及び工事監理を担う者の技術力及びその確実な業務の実現を図るために、建築基準法第5条の4と関連させて、建築士法により、その安全実現を図ることにしている。建築士行政は、建築士事務所の登録更新時の審査及び日常的に建築基準法行政との連携を密にして、建築士事務所の適正な業務実現のための監視・監督を行なうことになっている。
ア)建築士法の定め
① 建築士法は、「建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もって建築物の質の向上に寄与させることを目的」としている(同法1条)。そして、木造建築物で延べ面積が100㎡以内で2階以下のものなど小規模な建物以外は、建築士の資格を有するものでなければ、設計や工事監理(「その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること」同法2条6項)をしてはならないと定める(同法3条の2、同3。ただし、建築士の資格を有さない者による場合でも建築確認申請は必要である)。 これは、建築基準法第5条の4(建築物の設計及び工事監理)が、建築士法第3条に規定する建築物の工事は、同条に規定する建築士の設計によらなければすることができず、また、同条に規定する建築士である工事監理者を定めなければならないとしているのに対応している。

② 建築士法は、マンションのような大型建築物を新築する場合は、一級建築士でなければ設計や工事監理をしてはならないと定めている(同法3条)。そして、一級建築士は国土交通大臣の行う試験に合格し、同大臣の免許を受けなければならない(同法4条)。免許を受けると一級建築士名簿に登録される(同法5条)。そして、建築士がその設計及び工事監理業務を行なうときは、一級建築士事務所登録された建築士事務所に所属し、専任の一級建築士が管理建築士として技術的な管理のなされるところで業務をすることが定められている(建築士法第4章)。そこでは設計及び工事監理業務を外部に下請けさせる場合の業務の監督が適正に行われることも含まれている。

③ 建築士は、虚偽又は不正の事実に基づいて免許を受けたことが判明した場合には、免許を取り消される(同法9条)。また、禁固以上の刑に処せられたときや、法律等に違反したとき、業務に関して不誠実な行為をしたときには、戒告、業務停止、免許取消などの懲戒を受ける(同法10条1項)。この規定は、建築士が建築士法により、排他的独占業務として保護されていることに対する法律上の監督として定められているものであり、建築士法が適正に施行されていれば、違反建築物を未然に防ぐことができるという法律構成となっている。

イ)設計・工事監理の定め
① 建築士法は、建築士の業務について、「建築士は、その業務を誠実に行い、建築物の質の向上に努めなければならない」(同法18条1項)と基本原則を定めたうえ、設計に関しては、法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならない(同条2項)。そして、建築士は設計を行った場合には、その設計図書に一級建築士、二級建築士または木造建築士の表示をして、記名捺印をしなければならない(同法20条1項)。即ち、建築士は建築士法により排他的独占業務としてその職能は法律上保護されていることから、その業務の誠実な履行により、建築士としての職能倫理により、安全な建築物が実現できるようになっている。

② また、建築士法は、建築士が工事監理を行う場合において、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに、工事施工者に注意を与え、工事施工者がこれに従わないときはその旨を建築主に報告しなければならないと定める(同法18条3項)。このように建築士法は、建築士の責任と権限により、建築物が設計図書どおりに施工されるように規定しているのである。これは、建築基準法の定める工事検査事務が工事用設計図書と現実の工事との照合によって行われることに対応している。また、建築士は、工事監理を終了したときは、直ちに、その結果を文書等で建築主に報告しなければならない(同法20条2項、同3項)。そして、最終完成建築物が設計図書のとおりに出来ていることが検査され、合格すると完了検査済証が交付される。このように、建築物は工事監理者による工事監理と建築主事による検査確認と二重の適法チェックがなされる仕組みになっていて、そこで違反建築物が形成されるのは、その機能がいずれも働いていない場合である。

③ その他、建築士法は、建築士に対し、設計及び工事監理のほかに、建築工事契約に関する事務、建築工事の指導監督、建築物に関する調査又は鑑定及び建築に関する法令又は条例に基づく手続の代理等の業務を行う権限を与えている(同法21条)。そして、建築士は、設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上に努めなければならない(同法22条1項)。以上のように、建築士法は建築士に対し、建築物の設計及び工事監理のほか建築工事全般に関して広範な権限を付与し、厳格な責任を負わせることによって、建物の安全性を確保しているのである。
建築物の確認申請及び工事検査に関し、建築主事等による審査を円滑に通過させるため、一般に代願人(確認申請代理出願人)が建築主事等に確認申請する前段階に、迅速な確認審査が行なわれるよう建築主事等の審査に先立ち、事前審査を受ける事前審査事務を行なって、建築主の代理としての出願がなされている。そのため、建築物の法令上の安全確認は、確認申請代理出願者(建築士事務所)と建築主事等との2つの法令確認検査で二重になされている。それにも拘らず、違反建築が出現することになるのは、このチェック機能が働いていなかった場合である。

ウ)行政による監督
建築士は、他人の求めに応じて報酬を得て設計、工事監理、建築工事契約に関する事務、建築工事の指導監督等を行うことを業としようとするときは、建築士事務所を定めて、登録を受けなければならない(同法23条1項)。登録は、その建築士事務所の所在地を管轄する都道府県知事に登録申請書を提出して行うが(同法23条の2)、一定の要件を満たしていない場合には登録を拒否される(同法23条の4)。また、都道府県知事は、建築事務所の開設者が虚偽又は不正な事実に基づいて登録を受けたとき、建築士事務所に属する建築士が懲戒の処分を受けたときなどは登録を取り消すことができる(同法26条)。そして、都道府県知事は、建築士法の施行に関して必要があると認めるときは、建築士事務所の開設者などに対して、必要な報告を求めたり、建築士事務所に立ち入って図書その他の物件を検査させるなど、建築士事務所に対する監督権限を有している。このような監督権限の行使は、建築基準法による確認事務と関連させて行なうことになっていて、建築主事等又は特定行政庁からの情報に基づき、建築士事務所の調査が行なわれる。また、建築士は登録制度によって定期的にその登録更新時に行政の監督を受け、適正な業務を行うよう義務づけられている。
本件関連で違反建築が多数発生していたことは、建築士法による行政として建築士事務所の監督がなされていなかったことを証明しており、建築士法上のチェックが全くと言ってよいほど働いていなかったことになる。

(2)建設業法による安全管理
ア)建設業法の定め

建設業法は、第1条(目的)において、「この法律は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発展を促進し、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的とする」と定めている。すなわち、元請、下請を問わず、建設工事に携わる者に対して建設工事の適正な施工の確保を求め、もって安全な建物を国民が享受できるよう定めているのである。

イ)許可制
建設業を営もうとする者は、「一般建設業」と「特定建設業」との区分に応じて、それぞれ国土交通大臣又は都道府県知事の許可を受けなければならない(同法3条1項)。この許可は5年ごとの更新を受けなければ効力を失う(同法3条2項)。なお、発注者から直接工事を請け負い、かつ下請発注額が一定金額以上の場合には、特定建設業の許可が必要とされ、それ以外の場合には一般建設業の許可で足りる。
国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が、請負契約に関して不正や不誠実な行為をするおそれが明らかな者であったり、請負契約を履行するに足りる財産的基礎又は金銭的信用を有しないことが明らかな者である場合は、一般建設業の許可をしてはならない(同法7条)。特定建設業の場合は、営業所ごとに技術検定に合格した者を専任として置くなど、さらに許可の要件を厳しく設けている(同法15条)。そして、特定建設業の許可を受けなければ、一定金額以上の下請契約を締結することはできない(同法16条)。
このような建設業法上の制限は、すべて建築物が建築基準法に適合して安全に造られるための業者の条件を定めるものである。つまり、これらの業者は、建築基準法に適合した工事能力を有することを建設業法上で認めて業務を行なう許可を得て登録して、建設業法により排他独占的に保護されて営業をすることのできる建設業者である。

ウ)下請に対する規制と安全確保

建設業法は、方法の如何を問わず、一括下請負を禁止している(同法22条1項、2項)。これは、中間搾取、工事の質の低下、労働条件の悪化、実際の工事施工の責任の不明確化を防止し、もって安全な建物の建築を確保するためである。
その他、元請負人は、請け負った建設工事を施工するために必要な工程の細目、作業方法等を定めるときはあらかじめ下請負人の意見を聞かなければならない(同法24条の2)。下請代金についても、下請負人が適切な工事を施工できるよう、元請負人が確実に支払うよう定めている(同法24条の3)。よって、下請業者もまた、建設業法による有資格者で、かつ、元請業者の指揮下で建築基準法に適合した建築物を造るべきことが法律上義務付けられている建設業法で排他独占的に保護された建設業者である。

エ)施工技術の確保
建設業者は、施工技術の確保に努めなければならない(同法25条の25)。他方、国土交通大臣も、施工技術の確保に資するため、必要に応じ、講習の実施、資料の提供等の措置を講ずるものとされる(同)。
そして、建設業法第26条は、建設業者に対し、建設工事を施工するときには、当該建設工事に関して、主任技術者もしくは監理技術者を置かなければならないと定めている。主任技術者も監理技術者も、所定の実務経験や知識、技術、技能を有していると認定された者で、当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどる。
そして、主任技術者及び監理技術者は、工事現場における建設工事を適正に実施するために、当該建設工事の施工計画の作成、工程管理、品質管理その他の技術上の管理及び当該建設工事の施工に従事する者の技術上の指導監督の職務を誠実に行わなければならない。また、工事現場で建設工事の施工に従事する者は、主任技術者もしくは監理技術者が行う指導に従わなければならない(同法26条の3)。
これも、安全な建物が建築されるように設けられているシステムである。

オ)行政による監督
国土交通大臣又は都道府県知事は、建設業者が建設工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼしたり、危害を及ぼすおそれが大きいとき、主任技術者や監理技術者が工事の施工の管理について著しく不適当で、変更が公益上必要であるときなど、安全な建物が建築されないような場合には、建設業者に対し必要な指示ができる(同法28条1項)。そして、建設業者がこの指示に従わないときは、営業の全部又は一部の停止を命じられることがある(同3項、5項)。さらに、不正な手段によって許可を受けた場合や、上記のような事情があって情状が特に重い場合、営業の停止の処分に違反した場合などは、許可が取り消される(同法29条)。
このように、行政は、建築物生産に携わる者に許可制として排他的独占的営業を保障する一方、常に厳しい監督のもとにおいて、建物の安全システムを確保しているのである。建設業者は建設業法に基づき、排他的独占業務として法律上の保護を受けていることから、法律に適合した業務を行なうべきことが厳しく求められているのである。

(3)建築基準法による安全管理
建築物の安全体系を担当する技術者の体系は、次のとおりである。

ア)建築主事
建築物がその計画段階及び工事段階の2つの段階において、それぞれその内容が建築基準関係規定に適合すること(第6条)を確認する業務を行なうために、市町村又は都道府県の職員で建築基準適合判定資格者検定に合格し、国土交通大臣に登録した者(第77条の58)の中から、それぞれの市町村の長又は都道府県の知事が命じた者を特定行政庁が設置する(第4条)としている。

イ)指定建築確認検査機関(民間)
建築主事と同様の建築物の確認検査を実施する機関として、国土交通大臣又は都道府県知事が指定する機関(第77条の18)で、そこで建築物の確認検査は建築主事同様の建築基準判定資格者検定に合格し、国土交通大臣に登録した者(第77条の58)が行なう(第6条の2)こととなっている。なお、指定建築確認検査機関のなした確認事務については、その結果を特定行政庁に報告し、そこで最終的な建築行政上の責任をとることにより、建築主事同様の公的な事務とみなされる。

ウ)特定行政庁(第2条第22号)
建築主事を置く市町の長及びそれ以外の区域については、都道府県知事を言い、建築基準法行政の施行者である。特定行政庁は建築行政を適正に施行するために必要な人材を、地方公務員法の規定に基づき、公募し、試験により選考し、地方公共団体の行政組織法に基づいて適材適所の人事を配置し、建築行政組織として実施することにより、建築行政の確実な実現を行なっている。その行政内容としては、建築物の確認及び工事検査だけではなく、建築士法による建築士の業務、建設業者による建設業者の業務が適正に行なわれる情況を直接間接の指導監督することになっている。

エ)建築監視員(第9条の2
特定行政庁は、その職員のうちから建築監視員を命じ、違反建築物に関する監視として緊急時の対応(第9条第7項及び第10項)の規定を担わせることができることになっている。
なお、特定行政庁の建築行政担当職員の大多数の技術職員は、建築に関する高等専門学校を卒業し、建築士資格を有するほか、建築関係法令の研修を受け、常時研鑽することになっている。

3 建築基準法等行政法の建物安全確保システムを補完する民事上の瑕疵担保責任制度
建築物に瑕疵があった場合、請負業者または販売業者は民事上の瑕疵担保責任を負う。瑕疵担保責任は無過失責任であり、瑕疵がある以上は、請負業者または販売業者は瑕疵の修補や損害賠償の義務を免れることはできない。
さらに、新築住宅の場合、基本構造部分(柱や梁など住宅の構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分)については、住宅の品質確保の促進等に関する法律によって、瑕疵担保責任の期間は10年と延長されている。
こうした民事上の責任制度は、建築基準法等の行政法規による安全システムを最終的に補完するものと言える。

4 結論
以上のように、建築物の安全は、あくまでも、行政法上の概念であり、建物が安全であるかどうかの判断は特定行政庁の専権事項である。したがって、建築確認および検査済の確認が行われている以上、これを否定する特定行政庁の判断がない限り、その建築物を安全であると取り扱うことは行政法上当然であり、安全であるとする取扱いについて、社会的に何ら問題はない。安全であるかどうかの社会的取扱いの原点は、建築基準法に根拠を置く特定行政庁による判断をおいてない。
また、建物の安全は、上記1(建築基準法)及び2(建築士法・建設業法)の行政法規によって幾重にも安全性が確保されており、本件のように、建築確認が正規の構造計算書によって確認されていないという事実があったとしても、それは計画段階における問題にとどまり、完成した建物の安全は、現実の工事に対する検査、つまり完成検査において確保されている。つまり、建築主事等による確認(工事検査済証の交付)がなされていることで安全の判断は確定し、確認のできない旨の通知が交付されるまでは、建築基準法上は安全(適法)な建築物なのである。
さらに、仮に、行政法規による安全確保に瑕疵があったとしても、その瑕疵は、民事法の瑕疵担保責任によって治癒されることになっている。
よって、本件の建築確認が正規の構造計算書によって確認されていないという事実は、未だ特定行政庁による危険との判断が出ていない段階では、建築基準法上安全でないとする判断はなされておらず、建築物の安全性にかかわる重大な問題とは法律上言えない。また、法的な義務として、建築行政上の建築主事等による確認事務又は特定行政庁による行政処分のなされていない段階で、この事実をマンションの購入者に告知すべきとすることを建築主に義務付けることは、法治国の法施行として相当ではない。
原判決の法解釈は、建物が安全であるかどうかの判断を建築基準法の手続きを無視して民間(私人)に委ねるものであり、かつ、民間(私人)による判断を、検察(国家)が建築基準法によらないでなしてよいとするものである。このような建築物の安全判断は、建築基準法をはじめとする建築関係法規の趣旨に反するものである。それだけではなく、建築基準法を無視・蹂躙して、国家権力が建築基準法による安全体系以外の安全判断を別に構築するもので、法治国の秩序を乱し、社会秩序に混乱をもたらすものであって、日本国憲法の下に構築されている行政法体系を乱す司法の勇み足というべきで誤りである。
建築物の安全実現のために膨大な物と人の両面からも行政組織がありながら、それらが全く機能しなかった責任を追及することなくして、このような判決が許されるならば、建築基準法の建築主事等及び特定行政庁による施行体制は不要であるとして機能を果さなくさせられ、建築基準法の施行は機能不能に陥ることになる。


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