メールマガジン

メールマガジン第357号

掲載日2010 年 6 月 29 日

メールマガジン第357号(6月29日)

皆さんこんにちは!

今回のメールマガジンは、「オランダ(アムステルダム、ライデン、デルフト、ゴーダ)の市街地調査についてご報告します。この調査は、長期優良住宅という日本の住宅政策との比較のうえで、オランダではどのような都市と住宅が国民の生活を豊かに育んでいるかを学ぶことを目的にしています。2010年6月21日から23日までの3日間、オランダの4都市の街並みと都市内の農村を、ライデン在住の娘のガイドで見て回りました。

アムステルダム
スキポール空港から自家用車とトラムを使って、アムステルダムの市街地に入り、花市場やあちこちの街中の広場、ミュージアムが立ち並ぶ広場など中心市街地の生活をみて回りました。どの広場でも、建築物は広場に向かって個性豊かなファサード見せており、街並み景観を華やいだ空間に作り上げていました。市民はそこに張り出して設けられたカフェで寛ぎ、お茶を飲み、軽食をとり、楽しそうに街の雰囲気を楽しんでいました。その中には観光客も多いには違いありませんが、この町の学生や当地で働いている人もたくさんいました。

アムステルダム中央駅周辺の工事は依然継続中で、5年前に来たときから少なくとも5年以上かけて延々とやっていました。工事は一向に捗らないようですが、オランダ人はそれをなんとも思っていないようです。オランダ人は怠け者ではなく、コンクリート箱物建設に日本のようにこだわらず、日常の国民生活を重視していることにあるように思えました。

街中で最も幅をきかしているものは、自動車ではなく自転車専用路線を疾走する自転車です。これは、オランダ全土に自転車専用路線を持つオランダに共通することだそうです。オランダ人は男性も女性も背丈が高く、その上自転車で体力づくりをしているため、女性も男性と見分けがつかないほど体格はたくましく立派です。自転車の前の荷台に大きな荷物をつけたり、子供を前後に乗せて自転車をこぎ、運河のところで盛り上がっている道路を気にせず、平地を走る速度のままで走っていきます。

夏というのに、風は涼しく、私は長袖のセーターにウインドブレイカーで歩いているのに、オランダ人は上半身裸や、出来るだけ体を太陽にさらせるような姿で自転車に乗り、犬を連れて歩いていました。このような人たちがたくさんいるのに、半裸の本人も周りの人も全くそれを気にかけず、当たり前のように見過ごしているのにも驚きました。理由を聞くと、皆、健康を考えて体を太陽にさらし、日焼けによってビタミンの形成に努めている、とのことで当然の努力をしているという認識でした。紫外線による癌を心配するオーストラリアとは全く違い、日焼けを競い合っているようでした。

街並み景観は、長崎のハウステンボスがアムステルダム市街地の全体を覆いつくしているように見えるほどでした。町中が運河に面していて、どこに行っても、運河の水面と、並木とに面して、個性豊かな2階から5階の中低層建築が並び、みどり豊かな街路樹とレンガの赤い色が面白いコントラストをなした街の景観を作っています。街中の風景のどこを写真にとっても美しい写真が出来るといっても過言ではありません。

街に人が湧き出してきているように思えるほど人通りは多く、街歩きをしていること自体が楽しい様子が分かります。都市の景観(ランドスケープ)が、個性ある建築の集合として作られている様子は、日本の住宅団地のような高密度以上の高密度でありながら、乱雑で粗暴な日本の無政府状態の街並み景観とは全く違った調和とリズムを感じさせてくれています。
日本では住宅産業界では「差別」をすることを最も重要な取り組みと考える住宅営業をしています。しかし、その結果が建てられた住宅相互が醜い差別をし合うことになり、街並みが「差別の街の醜さ」を造っています。それに引き換え、アムステルダムの住宅は、同じ住宅建築は見つけることは不可能なほど、それぞれが個性的です。日本の街並みと比較してみると、「差別と区別」の住宅街づくりの相違の大きさに驚かされます。

オランダの街並みは、各住宅建築の個性の違いを生かして、相互の個性を尊重して街並みが形成されているために、相乗効果が生まれて、街並み全体としての面白さが増幅されています。そのため、市民が自分の住宅を差別的に自負するのではなく、お互いの個性を尊重しあって相乗効果を発揮するようにすることで、自分の住宅をより魅力あるものにしているのです。

アムステルダムの街並み見学の最中に、ちょうどお昼になったので、近くのタイ料理の店で昼食をしました。狭い店内には、人種も民族も違うお客が入れ替わり立ち代りやってきて、言語の違いを全く意識しないかのように、簡単な食事を楽しんでいました。隣の客はオランダで生活しているインドネシア人の女性の二人連れで、私たちもインドネシア語での会話をしばらく楽しむことになりました。高い居住密度で生活しているアムステルダムは、そこでの生活を楽しむ共通の交流の空間が広がっているように感じられました。

ライデン
運河が張りめぐらされたこじんまりとしたライデンの街並みは、シーボルトが持ち帰った膨大な日本研究資料館や日本からの植物の植えられた植物園、ライデン大学を中心に形成され、その周りにも豊かな緑で囲まれ、歴史と文化の凝縮した街並みが形成されています。レンブラントが生まれ育ったライデンは、レンガ建築を主体として何百年もかけて造られ、維持管理され、過去からの遺産と新規の開発との調和が取られてきたことを感じさせてくれます。

ライデンも、既存の市街地の周辺に都市は拡大して造られていますが、それらの街にはインターナショナル様式の現代建築も多数あり、最新の技術や時代感覚のはっきりした前衛建築も見られます。特に、ライデン駅は20年前とガラッと変って、大きな近代的な商業・業務ビルに再開発されていました。その理由は、駅舎を商業・業務ビルとすることで、列車で駅にやってくる客が、駅ビルで留められ、市内交通量を増大させないで済むというエネルギー節約効果を考えて都市計画をしているとのことでした。

ライデンの建築は都市計画としてのマスタープランが、都市全体の景観を考えて作られているため、既存市街地にしわ寄せをするような建築行為はまったく見られません。市街地内にも新設建築物は結構多く見られます。しかし、歴史文化を基本的に尊重することに最大に優先権が置かれているため、新設建築物が既存建築物が形成したランドスケープを破壊するということはありえないことで、いずれも周辺の建築物との調和を重視して、基本的にレンガのデザインとして建てられています。

一方、インターナショナル様式の建築も多数建設されていますが、いずれも既成市街地の周辺部に建設されていて、都市の景観には相当な配慮がなされています。その結果、開発地と既存市街地の関係といった局地的な土地利用摩擦の問題だけではなく、都市景観という視点で見た場合のライデンの景観という観点でも、歴的景観を破壊するような異常なスカイラインが既存の景観を崩壊するといったことは起っていません。

ライデンでは市民の生活、中でも子供たちの可能性を日常生活の中で開発できるように施設と一体となった専門の人材活用で大切にされていることは、特に都市経営上の特色のように思われました。学校の授業も児童生徒の個別の成長にあわせているだけではなく、放課後の学童保育に関し、学校区の境界を超えて、それぞれの関心や要求に合わせて、親子で相談し、主体的に選択し、取り組むことの出来るスポーツや学習の機会が用意されています。そこには、専門のインストラクターや教師がいて、子供たちの能力と健康を増進させるだけではなく、社会性を高めることに大きな貢献をしている様子を見ることができました。そこでは学校区の枠組みにこだわらない子供たちの要求に対する課外授業施設と運営のシステムが機能していました。

子供たちの小学生高学年の農園を数年前に訪問したが、今回はアグリカルチュラル・アーバニズムの発祥の国という視点で、再度、その活動の実態の変化を確認するために訪問しました。子供たちは草取りや害虫駆除に苦戦をし、個人ごとに責任を持って管理し担当した農地で作った野菜を自宅に持ち帰り、食卓をにぎわしていました。子供の生活の中に農業教育が完全に根付いている様子は、工業先進国が今後取り組むべき農業教育に対する基本的な考え方を気づかせてくれます。

ゴーダ

日本でもゴーダチーズの名前でなじみのあるチーズの集積地であるゴーダは、ライデンから自動車で30分程度の中世に作られた歴史のあるチーズの街です。今はFIFA(日本と同じ予選リーグ第1位通過)の関係で、黄色と橙色の旗やグッズが街中にあふれていました。トラムの駅から徒歩で5分ほどのところにマルクト(中心)広場があり、その真ん中に市役所が立っています。そして、市役所広場を取り巻く形で店舗が並び、その前に屋外のカフェが作られていて、人びとで賑わっていました。私たちは自動車で中心市街地の近くまで行き、そこに駐車して街中に散策することにしました。

街は、中世時代に作られた商業活動の中心でもあるチーズの計量施設のある広いマルクト広場があります。広場を囲んで街並みが形成され、その街並みを囲む形で運河が作られています。その運河沿いに散策道路が作られ、運河の両側に店舗が並んでいます。運河沿いの道には街路樹が立ち並び、道路面にちかい運河の水面と調和して緑豊かなランドスケープを形成しています。

多くのカフェが道に張り出し、人々がそこに寛いでいる姿があちこちに見られます。どのカフェからも市役所が目前に見え、市役所の壁には、カリオン(鐘楼)の付いた時計台があり、30分おきにカラクリ人形の回るのに合わせて観光客が集まり、興味深げに見つめ写真をとっていました。そしてカリオンの音楽は広場一杯に響き渡っていました。
ゴータには、オランダの中ではもっとも長い木造屋根のゴシック様式の教会があり、大きなステンドグラスが沢山あることで有名です。この教会はマルクト広場のすぐ裏に位置していて、屋根は広場からもよく見え、広場の景観に重厚さを与えていました。

デルフト
ライデンとアムステルダムの中間に、青磁の焼き物(デルフト焼き)の街として知られているデルフトがあります。規模はゴータ同様に、中世に作られた焼き物の商業小都市で、この町にも中心にマルクト広場があります。広場を取り込んで立ち並んでいますが、広場の中心には、高い塔のある新教会と、その広場を挟んで対面する市役所の建築が大きな存在感を持ってで立っています。

デルフトのマルクト広場では、ゴータのように広場の中心に市役所はなく、広場全体がオープンスペースです。市役所は広場を囲む建築群のひとつとして建築されていますが、大きな建築物であるため、存在感は大きいものになっています。この広場も、オープンカフェがすべての店舗の前面に広がっていて、そこで多くの人達が寛いでいました。

このマルクト広場から2街区ほど離れたところに旧教会と呼ばれるゴシック様式の建築があります。この建築の中には、光の画家と呼ばれ日本でも高い人気の画家フェルメールのお墓があります。お墓には、最初に埋葬された場所と最後に埋葬されているところと2箇所あります。フェルメールファンにとっては聖地ともいえる場所です。

レンブラントの住んでいたところもこの近くにあります。デルフトの街にも運河が張り巡らされていて、街のどこを取っても絵画になりです。このような所に生活をしていれば、生活の中で絵心も育っていくのではないだろうかと感じさせられます。

デルフトには、確かに青磁の飾り物や陶器が販売されていましたが、想像していたほど多くの店舗は見られませんでした。しかし、街並みは大変興味深いものがあり、ゴータ同様の中世からの都市ですが、町の個性自体はゴータとはどこか違った魅力ある街でした。その個性の秘密の解明は次回の旅行の楽しみに残しておくことにしました。

オランダの街並み探訪
これまでもロッテルダムのような大都市と並んでハーレムや風車の町キンデルダイクなどの小都市を探訪してきましたが、オランダの小都市は大都市とは違った個性的な魅力が一杯です。いずれの都市も中世に建設され、個性豊かな歴史を築いてきたことによって、魅力のある都市が形成されたに違いありません。

歴史を町の中で感じることが出来る運河と緑と建築文化の豊かさがこれらの町の共通点であるとともに、町の個性の違いになっています。

人々が帰属意識を感じる町である秘密は、同時に人々をひきつける魅力にもなっています。水面より低い土地を利用した都市を守るため、市民が協力して作った町の魅力を再評価し、その歴史文化を大切にした街づくりの考え方を学ぶことが必要だと感じました。

特に低湿地帯で、石材などを手に入れることが困難な環境の中で、堆積した粘土を焼き上げることで石材と同じ恒久的な建材を造り、それにより土地の地質にあった色のレンガを作り、町の個性をそれらのレンガによる建築で生み出したということも個性ある街並み景観形成の歴史勇んだと考えられています。

レンガ建築が日本でも広く受け入れられるようになってきましたが、その原点が中世以来のフランドル地方の街づくりに見られることから、ぜひこれらの街並みから学んでもらいたいと思います。 戸谷 英世


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