法令

ラ・トゥールダイカンヤマ都市計画法及び建築基準法違反

掲載日2011 年 5 月 10 日

本訴訟の基本的な争点は、つぎの2点である。

1.最高裁判所の都市計画法及び建築基準法違反判例との戦い

2.小泉内閣時代に実施した規制緩和の本質は、都市計画法と建築基準法との姉妹法関係の破壊

平成22年(行コ)第207号 開発許可処分無効確認等請求控訴事件
控 訴 人(一審原告) 竹 居 治 彦、ほか3名
被控訴人(一審被告) 渋谷区(処分行政庁渋谷区長) 
控 訴 人 第 4 準 備 書 面
2011年5月5日
東京高等裁判所第23民事部 御中
控訴人ら訴訟代理人
弁護士  武   内   更   一
弁護士  升   味   佐 江 子
弁護士  野   本   雅   志

第1 開発工事完了による開発許可処分取消訴訟の訴えの利益消滅論の誤り 

1 はじめに ― 被控訴人の主張 ―
被控訴人は、開発許可処分の取消を求める訴えおよびその無効確認を求める訴えについては、いずれも当該開発行為にかかる工事が完了した時点で訴えの利益が消滅する旨主張し、その論拠としては、「開発許可の効果が既に消滅」するから(当審答弁書第2の1)、または「許可にかからしめた目的は達成」されたから(平成22年12月13日付準備書面3項)であるという。
しかし、被控訴人が主張する論拠は、以下に述べるとおりいずれも誤りであって、訴えの利益消滅の主張は理由がない。

2 開発許可制度の制定趣旨
開発許可制度は、建築物が建設されることで既存の都市施設や都市環境との矛盾、齟齬、混乱を生じさせることがないように、一定の規模の土地の「開発行為」を一律に禁止し、当該土地の開発行為が都市計画と既存の都市の開発の実体と調和して行われるように、予定建築物の敷地として求められる機能を有するものとして整備されるような開発計画となっていることを審査し、許可する制度として、英国の都市計画法による「計画許可制度」を取り入れて整備されたものである。具体的には、都市計画法33条に定める「開発許可の基準」に適合すると認められる開発行為のみ許可することで、その開発が既存の都市に矛盾を生じさせることがないようにすることが図られ、都市施設が未整備な地域では、開発業者が、その負担により、自己完結的な開発にするか、または、その開発を受け入れられるような都市施設の負担をすべきことが求められることとされている。

3 開発許可処分の法的意味
開発許可処分の法的意味は、禁止行為の条件付解除である。
都市計画法29条1項および2項は、一定の規模以上の開発行為をしようとする者は、都道府県知事等の許可を受けなければならないものとし、同条に違反して開発行為をした者に刑事罰(50万円以下の罰金)を科している(法92条3号)。すなわち、都市計画法は、上記規模以上の開発行為を一律に禁止している。
これを前提として、特定の開発行為につき許可申請がなされたときは、許可権者である都道府県知事等は、当該開発行為が法33条の基準に適合していると認めたときは、それに対し許可(開発許可)をすることとされている。これは、特定の内容・条件による開発行為につき禁止を解除するものであって、禁止行為の条件付解除の効果を有する行政処分である。

4 開発許可処分の法的効果の継続
そして開発許可処分の法的効果は、当該開発行為に関する工事が完了しても、消滅しない。都市計画法81条1項は、許可された開発行為の内容または許可に付された条件に違反した開発行為が行われたときは、許可権者たる都道府県知事等は、当該許可を「取り消し、変更し、その効力を停止し」、「工作物等の改築、移転若しくは除却その他違反を是正するため必要な措置をとることを命ずることができる」とされており、これらの措置をとることができる期限は定められていない。したがって、当該開発許可処分が有する禁止行為の「条件付解除」の法効果は、開発行為に関する工事が完了した後も継続していると解されなければならない。
当該開発行為に関する工事が完了した時点で「許可にかからしめた目的は達成」され、「開発許可の効果が消滅」するとの被控訴人の主張は誤りである。

5 都市と「都市計画法」および「建築基準法」の関係
都市計画区域の都市計画は、都市計画決定が行われただけでは実現できないのであり、地域地区の都市計画決定がなされ、その地域地区に対応して定められた建築物の基準に従った建築物が新築または改築によって建築されることによって、それらの集合体として都市計画どおりの都市が出来上がってゆくのであり、都市計画は「百年の計」として実現するものである。地域地区の都市計画が定められた地域の土地に建物を建築しようとする者は、各々自由に建てることができず、日本国憲法29条2項、民法1条1項、同207条などに基づき、具体的には都市計画法、建築基準法などの法令による制限を受けるが、他方で、互いにそれらの制限に従って土地を使用し、建物を建築することによって、自らも定められた都市計画が予定する都市環境および居住環境を享受し得るという法的利益を有している。
このように都市計画の決定とその実現としての個々の建築物の建築は、イギリスを典型として世界の多くの国では単一の「都市計画法」に基づいて行なわれているが、日本では、都市計画法と建築基準法(第3章規定)とに分かれて規定された法令に基づいて行なわれることとされている。したがって、都市計画の決定とその実現に関しては、都市計画法と建築基準法第3章規定は、実質において単一の法体系を構成する法令として理解されなければならない。特に建築基準法は第2章において個々の建築物の安全、衛生、および隣地への影響等の相隣関係に考慮した規制を行なっているために、建築基準法全体が、この趣旨の法令として理解されるという誤りを生じさせ、建築行政と建築物に関する法令の解釈に混乱と誤解をもたらしていることには、注意が必要である。

6 開発許可手続と建築確認手続の一体性
上記のような都市計画法と建築基準法第3章規定との関係からすれば、都市計画地域内における建築物の建築は、都市計画から始まり建物の建築をもって完了する一定の目的を持った一連の行為であり、それらの各部分に関わる行政手続も一定の目的を持った一連の手続であると解されなければならない。
予定建築物を建築することのできる敷地として整備するための土地の開発行為は、都市計画法29条1項および2項を見れば明らかなように「都市計画」が大前提とされており、都市計画に適合した開発が行われるようにするために許可制のもとに置かれている。したがって、開発許可、開発工事完了検査、建築確認および建築工事完了検査は、それぞれ別々の行政手続ではなく、いずれも都市計画の実現に向けた一連の手続の構成部分であり、相互に牽連性を持っており、それぞれ独立して完結する手続ではない。
以上の法令の関係についての理解を前提とすれば、被控訴人が指摘する最高裁の「開発工事が完了した場合は、開発許可処分の取消しを求める訴えは、訴えの利益が消滅する」という判決(平成5年9月10日最高裁第二小法廷判決)は、それ自体が都市計画法と建築基準法第3章規定の一体性についての理解を欠き誤った判断を示したものと言わざるを得ず、その見直しがなされるべきである。

7 結論
以上の理由により、開発許可処分の取消を求める訴えおよびその無効確認を求める訴えについては、いずれも当該開発行為にかかる工事が完了した時点で訴えの利益が消滅する旨の被控訴人の主張は誤りである。 

第2 開発工事完了検査の対象たる「土地」の不存在と「検査」の無効性

1 開発工事完了検査の趣旨と都市計画法37条の建築制限の意味
都市計画法で定められた開発許可制度の持つ上記の意味・内容に照らせが、開発工事の結果として開発許可の内容に従った(予定建築物の)敷地が実現したかどうかを確認するのが開発工事完了検査(都市計画法36条)であり、それが公的に確認されて初めて当該土地に「予定建築物」を建築することを認めることができるのであり、都市計画法37条が、「開発許可を受けた開発区域内の土地においては、前条第3項の公告(開発工事完了公告)があるまでの間は、建築物を建築し、又は特定工作物を建設してはならない。」と定めている趣旨は、この趣旨からである。そして、同条但書きで、「次の各号の一に該当するときは、この限りでない。」とし、同条1号において「当該開発行為に関する工事用の仮設建築物又は特定工作物を建築し、又は建設するとき」と規定しているのは、あくまでも当該開発行為に関する工事を施工するために必要な「仮設建築物」、「特定工作物」のみを指し、当該開発地の上に建築する予定の「建築物」の建築が許されるものでないことは明らかである。開発行為に関する工事か完了し、検査を受ける前に当該土地を敷地とする「予定建築物」の建築工事が開始されては、当該開発行為が開発許可の内容どおりに行われ完成したかどうかを確認することが不能となってしまい、開発許可制度の意義が失われてしまう。
それゆえ、都市計画法37条1号の「その他都道府県知事が支障がないと認めたとき」の意味も、「当該開発行為に関する工事用の仮設建築物又は特定工作物を建築し、又は建設するとき」に準ずる建築物の建築や工作物の建設または上記開発許可制度の意義が失われないような場合に限られると解されるべきであり、「予定建築物」の建築などはいかなる場合でも除外されていると解さなければならない。

2 都市計画法37条違反の行政実務とその結果
しかるに、開発行政、建築行政の実務においては、上記のような法令の理解を歪曲し、開発許可制度の趣旨に反する運用が行なわれている。
本件の場合も、開発行為に関する工事の完了検査および完了公告がなされる前に「予定建築物」である本件建築物の建築工事が、渋谷区長の承認を受けたとして開始されており、開発行為に関する工事が完了したと主張されている平成22年8月23日の時点では、本件開発地の上には本件建築物の大部分が建築されており、当該開発許可にかかる土地の開発工事がどのような状態にまで出来でいるのかどうかさえも確認し得ない状況が現出していたのである。要するに、開発工事完了検査を行なう対象物が存在していない状況があったわけである。
開発工事完了検査とは、開発許可の内容および開発許可に付された条件に従った開発工事が行われ完成しているかどうかを検査することを内容とするものであるが、その対象となる開発工事の完成実体が現存しない以上は、検査そのものが不能であって、そこで行なわれたとされる「検査」は実体のないものであり、そのような「検査」により交付された「検査済証」も、「完了公告」もすべて無効である。都市計画法37条に違背する建築物の建築は、このようにして開発許可手続をすべて破壊する結果をもたらすのであり、厳に禁止されている趣旨もここにある。

3 開発工事完了の判断根拠
そして、開発許可に関する工事の「完了」には、当該土地上において予定建築物の建築工事を開始することができるという法効果を生ぜしめる以上は、「完了」したかどうかの判断は、開発許可を受けた者が工事が完了したと主張したかどうかではなく、適法に「完了検査」が行なわれ、かつ適法の「完了公告」がなされたかどうかにより判断されるべきものである。しかるに、本件では、前記のとおり、「完了検査」も「完了公告」も実体のない開発についてなされたものであって無効であるから、本件開発工事が「完了」したか否かは、依然として公的に確認ができていないのである。

4 結論
したがって、この点からも、開発許可処分の取消を求める訴えおよびその無効確認を求める訴えについては、いずれも当該開発行為にかかる工事が完了した時点で訴えの利益が消滅する旨の被控訴人の主張は、その前提を欠いており、失当である。 

第3 虚偽の「予定建築物」を前提として行われた本件開発許可申請の違法性

1 「土地利用計画図」への「予定建築物等」の形状・位置の記載の必要性(被控訴人の平成23年4月25日付準備書面に対する反論)
(1) 都市計画法第30条第1項が開発許可申請書に記載することを求めている「開発行為に関する設計」(同項3号)は、同法施行規則第16条第2項により「設計説明書及び設計図により定めなければならない」とされ、同法施行規則第16条第4項が「第2項の設計図」の一つとして要求する「土地利用計画図」には、「予定建築物等の敷地の形状」の記載を必要としている。
この「予定建築物等の敷地」は、当然に予定建築物の形状及び位置との関係で定まるものであるから、「予定建築物等の敷地の形状」を記載するには、「予定建築物等」の形状および位置の記載が不可欠である。
(2) これに対し、被控訴人は、平成23年4月25日付準備書面において、「本件土地利用計画図に予定建築物等の具体的な形状、構造等の記載」は必要がないとの見解に立って、「控訴人らの上記主張は、明らかに前提を誤るものである」と主張する。
(3) しかしながら、そもそも、「予定建築物の敷地の形状」を記載するものである以上は、当該「予定建築物」の建築位置、規模等の記載が無ければその「敷地」を特定することができないのであって、それを不必要だとする被控訴人の主張は明らかに現実から遊離している。
また、被控訴人がその主張の論拠として述べている開発許可制度の趣旨(同準備書面2頁12ないし18行目)を前提とすれば、「無秩序な宅地造成の進行による劣悪な居住環境の現出を防止するため」にも、「当該開発区域について地域地区等の都市計画への適合性あるいは道路、公園、排水施設といった公共施設の適正配置といった観点から種々の要件を課している趣旨」からも、どのような規模の「予定建築物」が当該開発地のどの位置に建築される計画かを記載することなくして、これらの趣旨への適合性を判断することは不可能なことであり、開発を許可制にした意味がなくなる。
したがって、開発許可制度の趣旨からしても、「土地利用計画図」に記載が求められている「予定建築物等の敷地の形状」に「予定建築物等の形状および位置」の記載は必要不可欠であると解するのが当然である。

2 予定建築物の形状を偽った開発許可申請
(1) 本件開発許可申請は、添付の「土地利用計画図」には「10棟」(北西角の建物から右回りに順次A棟~J棟)の建物(以下「本件各建築物」という。)を予定建築物として記載して申請がなされ、渋谷区長は、それに対し本件開発許可を行った。
しかるに、控訴人第3準備書面第1項で論証したとおり、実際に本件開発地上に建築された建築物(以下「本件建築物」という。)は、「10棟」の独立した建築物ではなく、用途上も、構造上も、機能上も一体となった、実体としては「1棟」の建築物である。
(2) すなわち、本件建築物は、地下駐車場によって全体が物理的に結合され、「地上1階」(建築確認上は「地下1階」として申請)以上に設けられた居住部分がロの字形に配置され、それらによって囲まれた地下駐車場の屋上部分が「中庭」として供され、各居住部分へのアプローチは、南東端に設けられた「F棟」の「1階」に設けられた「エントランスホール」を通り、同所の北側から出入りする共用の屋内廊下を経由することが不可欠な構造となっている。このような各居住部分へのアプローチの方法は、本件建築物の計画段階から予定されていたものであり、この共用廊下は当然「予定建築物」の一部であるから、開発許可申請書に添付された「土地利用計画図」に「予定建築物の敷地」に対応する「予定建築物」として明示していなければならないものであった。
(3) しかるに、本件開発許可申請は、この共用廊下の位置も形状も全く明示されずになされており、それ自体が「開発行為に関する設計」(法30条1項3号)において虚偽の開発許可申請であり、本件開発許可処分は、虚構を前提としたものであっって、それは重大かつ明白に法令に違背した処分であって無効である。

3 1棟の建築物を「10棟」と偽った開発許可申請者の意図
(1) 上記のとおり、本件開発許可申請の「予定建築物」は、その実態において「1棟」の建築物であるから、その建築主でありその敷地の開発行為者である住友不動産としては、当初から本件各土地の上に1棟の建築物を建築する予定として開発許可申請を行なうべきであった。しかしそうしなかったのは、以下に述べるように、建築基準法によって本来算入されることになる建築面積、床面積等を過少にして、居住部分の床面積を不法に増大させ、貸室による賃料収入を不法に増大させることを意図したものと考えられる。
(2) 本件建築物は、居住部分全体がロの字形に配置され、それが囲む1階部分が「中庭」とされている。
建築基準法施行令2条1項2号は、「建築面積」の定義として、次のとおり規定している。
「建築物(地階で地盤面上1メートル以下にある部分を除く。以下この号において同じ。)の外壁又はこれに代わる柱の中心線(軒、ひさし、はね出し縁その他これらに類するもので当該中心線から水平距離1メートル以上突き出たものがある場合においては、その端から水平距離1メートル後退した線)で囲まれた部分の水平投影面積による。ただし、国土交通大臣が高い開放性を有すると認めて指定する構造の建築物又はその部分については、その端から水平距離1メートル以内の部分の水平投影面積は、当該建築物の建築面積に算入しない。」
同条の定義によれば、ロの字形の建築物に「中庭」が設けられている場合、当該建築物の「外壁」すなわち建物の外面で囲まれた部分の「水平投影面積」には「中庭」部分も含まれ、建物全体の「建築面積」はその分増大することになる。
「建築面積」は、建ぺい率算出の基準となり、建ぺい率は、「建築物の建築面積の敷地面積に対する割合」(建築基準法53条1項)であるから、「建築面積」を縮減すれば、「建ぺい率」も縮減できるという関係にある。本件建築物の「中庭」とされている部分は、甲38号証からもわかるように非常に大きな面積を占めている。この部分を「建築面積」から除外するために、1棟のロの字形の建築物ではなく、「10棟」の個々に独立した建築物がロの字形に配置されている形式としたものと推認される。
本件土地は、第二種低層住居専用地域に指定されている地域内に存在し、建ぺい率は60%とされているが、本件「10棟」建築物の建築計画によれば、下記表のとおり、本件各建築物の建築面積合計の敷地面積合計に対する割合は45%となり、「中庭」部分の面積を「建築面積」に算入した場合は、法定の建ぺい率を超過することは確実である。
訴状物件目録番号    敷地面積    建築面積    延べ面積    容積率    建ぺい率
(2)    1514㎡    674㎡    4405㎡    291%    44%
(3)    1558㎡    678㎡    4919㎡    270%    43%
(4)    944㎡    487㎡    3626㎡    384%    51%
(5)    1024㎡    518㎡    3854㎡    376%    50%
(6)    2246㎡    711㎡    5232㎡    232%    31%
(7)    3608㎡    1269㎡    8795㎡    243%    35%
(8)    1444㎡    820㎡    6081㎡    420%    56%
(9)    1391㎡    811㎡    6025㎡    433%    58%
(10)    1047㎡    582㎡    4140㎡    395%    55%
(11)    946㎡    514㎡    3634㎡    384%    54%
合 計    15,722㎡    7,064㎡    50,711㎡    322%    45%

(3) また、建築基準法施行令2条1項3号は、「床面積」の定義として、次のとおり規定している。
「建築物の各階又はその一部で壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積による。」
同条の定義によれば、ロの字形の建築物に「中庭」が設けられている場合、当該建築物の「壁」すなわち建物の外面で囲まれた部分の「水平投影面積」には「中庭」部分も含まれ、建物の1階部分の「床面積」はその分増大することになる。
「床面積」の合計である「延べ面積」(建築基準法施行令2条1項4号)は、容積率算出の基準となり、容積率は、「建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合」(建築基準法52条1項)であるから、「床面積」を縮減すれば、「容積率」も縮減できるという関係にある。本件建築物の「中庭」とされている部分は、非常に大きな面積を占めているため、この部分を「床面積」から除外するために、1棟のロの字形の建築物ではなく、「10棟」の個々に独立した建築物がロの字形に配置されている形式としたものと推認される。
本件土地の有効敷地面積に対する法定許容容積率は200%とされているが、本件「10棟」建築物の建築計画によれば、上記の表のとおり、本件各建築物の建築面積合計の敷地面積合計に対する割合は322%となり、これから容積率対象床面積以外の面積を除いたとしても、「中庭」部分の面積を「床面積」に算入した場合は、法定の容積率を超過することは確実である。
(4) しかも、地下駐車場は現実には分割することができず、観念的な境界線を設定しているのみで、実態としては1つの広大な駐車場である。

4 「10棟」の建物としたことによる問題と一団地認定と総合設計制度の悪用
(1) ところで、10棟の建物を本件各土地の中に建築するには、公道への接道条件に問題が生じるため、「一敷地一建物の原則」を回避しなければならなくなり、住友不動産は、建築基準法86条に基づく「一団地認定」を受けることを企図したが、そもそも「一団地認定」制度は、都市施設として都市計画法11条1項8号の「一団地」として都市計画決定された「一団地」について適用される条項であって、私的な「一団地」にこれを適用することは許されていない。「一団地認定」制度は、「一敷地一建物の原則」の適用を排除するという点で、都市計画法8条の地域地区制度と建築基準法3章規定との関係を排除するものであるので、それを許せば地域地区の都市計画決定を基礎とする都市計画が破壊されてしまうため、都市施設として都市計画法11条1項8号の「一団地」として都市計画決定された場合に限り、「一敷地一建物の原則」の例外として許容することが認められたものである。
したがって、本件予定建築物の建築につき建築基準法86条に基づく「一団地認定」の制度を適用したことそれ自体が違法であり、その違法は重大かつ明白であるから、本件の渋谷区長による「一団地認定」は無効である。
(2) また、住友不動産は、高さ制限の緩和措置を受けるために、建築基準法59条の2のいわゆる「総合設計制度」を適用を受けたが、同条は、本来建築基準法3章に規定されており、そもそも「一敷地一建物」の原則を前提とする規定であり、同原則を排除した敷地と建築物との関係には適用されるべきものではないにもかかわらず、前記「一団地認定」を濫用してその適用を受けながら、さらに適用できるはずのない建築基準法59条の2を濫用させて同法55条の高さ規制を緩和させており、その違法は重大かつ明白であるから、本件の渋谷区長による「総合設計制度」に基づく許可は無効である。

5 結論
以上のように、本件開発許可申請は、虚偽の「予定建築物」についての申請であり、実体法上も違法であり、取り消されるべき、またはその違法製は重大かつ明白であるから無効である。 

第4 「第二種低層住居専用地域」の都市計画決定の意味

(以下の戸谷先生の論稿から抜粋・要約します)
2011.05.02.HICPM戸谷
都市計画と都市計画法に関する意見書

1.容積率を高める違反開発に司法が如何に臨むか
(1)ラ・テゥール代官山の基本問題は、事業主が不正な利益を上げるために、実際に建築しようとする建築物とは違う予定建築物を前提に法律上の手続きをとることにより発生した事件である。事業主は違反建築物を「合法的な建築物を造る」という私文書不実記載による開発許可申請書及び確認申請書により、都市計画法の開発許可及び建築基準法上の確認の手続きをしようとした。その違反を承知の上で都市計画法の開発許可権者及び建築確認審査機関は開発業者の不正を積極的に支持し、明らかに不正な手続きを容認する開発許可及び確認を実施した。

(2)その手口は都市計画法に定められている「将来の都市の作り上げるべき都市の基本計画(マスタープラン)」である地域地区に関する都市計画決定を蹂躙しながら、都市計画法上は違反した開発行為を適法な開発許可申請(都市計画法第29条)とした体裁を作った。都市計画法上の開発許可権者(東京都知事であるべき権限を都市計画法上で着ないことになっている渋谷区長に権限行使を違法にやらせた。)は、実際の開発許可の基準(都市計画法第33条)どおりの開発行為がなされないことを承知して、実際存在したことのない開発許可どおりの敷地が存在しない(建築基準法施行令第9条第十二号)のにかかわらず、架空の完了公告(都市計画法第36条)が交付された。開発許可とは、予定建地区物の内容に対応した開発許可の基準どおりの当地の歴史環境を始め、公共施設を含む敷地環境が整備されている計画であることを認めて許可をする行為であり、その工事が完了しない限りは、予定建築物の工事に入ってはいけない(都市計画法第37条)とするものである。

(3)一方、建築された建築物は、敷地一杯の駐車場を含む巨大地下室部分を有し、地上部分から地下1階部分に総ての居住者を誘導しそこから総合受け継げというゲートを通って、10種類の建築塔上のマンション部分に分かれる構造になっている。つまり、建築構造耐力的にも、機能的にも、性能的にも、用途上不可分に計画された「一の建築物」であるにも拘らず、10の建築物として建築確認申請を行った。10棟であると確認申請された建築物は、実際に建築物が建築基準法上の「一の建築物」であることには、まったくの疑問の余地はない。確認申請の段階で法律上完成していなければならない開発許可による敷地はできていないどころか、開発許可の段階で建築工事を違法(都市計画法第37条)に開始した。建築確認申請では開発許可を無視して、開発許可による敷地が造られない状態で、建築基準関係規定(建築基準法第6条)に適合していないにもかかわらず、同条文に違反して、建築物の確認申請がなされ、確認済み証(建築基準法第7条)の交付が違法になされ、建築物を違法に着工した。

(4)それにも拘らず、建築物の計画は容積率に抵触するため、確認申請図書では「一の建築物」の形態とせず、10の棟の建築物の部分がそれぞれ独立の建築物として存在し、出入りする建築物とした架空の計画とした。そして、10の独立した建築物が独立して建築されると虚偽の申請書を作り、共同部分であるエントランスホールから各搭状のマンション棟(これらのマンション塔は、ほぼ隙間なく繫がれて、外観上も一体の建築物の形態をしている)を繋ぐ廊下を面積にいれず、10棟で囲われる前面地下室部分を駐車場等で利用した建築物のアトリウム部分まで建築面積の算定から排除して確認申請を行った。
その敷地は、都市計画法上開発許可を要する規模の敷地であるが、開発許可の完了していないにも拘らず、開発許可どおりの敷地が整備されたという「私文書不実記載」の確認申請を行った。開発許可にかかる敷地が事実上築造されず、存在しないにも拘らず、確認済み証の交付がなされ、都市計画法第37条に違反して建築物が着工された。

(5)確認申請と並行して、10の建築物の容積率を実質的に緩和する「手口」として、「一の建築物」とすることで控除したアトリウム面積や地価のエントランスホール、廊下面積を実際は存在しながら、存在しないようにして建築容積をごまかした上、ここでは実際と違う都市計画法第11条第1項第八号の都市施設としての都市計画決定なされていない敷地に建築基準法第86条による緩和を追加させたものである。すなわち、都市計画法第8条の都市計画決定に対応する建築基準法第3章規定を排除するために、「一団地の総合設計」と称して建築基準法第86条を適用した。その目的は、敷地内に計画すべき道路を全て敷地とすることで、敷地面積に対する延べ面積の比率、容積率を変えないで延べ面積を拡大することであった。都市施設としての「一団地の住宅施設」(都市計画法第11条第1項第八号の都市計画決定)の都市計画決定がない限り、「地域地区」(都市計画法第8条の都市計画決定)を排除することは姉妹法の法律の文理上不可能なことである。

(6)その上でさらに容積を積み上げるために、一旦、第86条を適用することで適用排除となった建築基準法第3章規定のうち、第59条の2に根拠を置くとされる「総合設計制度」を、唐突に適用すると持ち出して、更なる容積緩和が生み出されている。建築基準法第86条においては、この条を適用する計画に対しては、第59条の2は適用しないと明記してある。「総合設計制度」自体が第59条の2を根拠にしているわけであるから、第86条を適用した計画に59条の2が適用できるわけはない。この「総合設計制度」自体は、第59条の2に違反している都市計画決定そ破壊する特定行政庁の都市計画違反の許可制度である。このように法律上容積緩和の出来る制度は、法律の適用条件にかかわらず総て利用するといった驚くべき違反を重ねてなにが正しいかを分らなくしてしまっている。このようなことを特定行政庁が裏にいて指定確認検査機関が設計事務所及び事業主と共謀して実施したのである。

(7)要するに本事件は、事業主単独で実施することのできる都市計画法及び建築基準法違反ではなく,行政機関と綿密な不正を実行する共同謀議を前提としなければできない非常に手のこんだ不正を組み合わせ、異常な高密度開発を実現させ、通常の適法開発の3倍近い開発を可能のした事業である。つまり、この敷地の2倍の土地を法律違反をすることで、無償で手に入れたと同じ不正利益を上げたことになった事業である。

2.事業主だけでは実行不可能な複雑な法令違反
(1)本事件の法律違反は、それが発覚したならば、構造計算をした姉歯一級建築士による耐震偽装など比較にならない悪質な詐欺事件として、設計者及び建築し事務所として、刑事事件及び行政上の処分を受けるべき違反である。当然、建築士法及び建設業法上の行政処分を受けるべき違反事件であり、社会的な制裁を受けるべき事件である。本裁判は、その基本となる法律違反の事実関係を明確にするものでもあり、不正業者の行政処分をするためにも必要な判断となる。
日建設計、住友不動産は、それぞれの業界において指導的立場にある一級建築士事務所及び特定建設業者で業界を代表する企業である。これらの業者は、社会的信用を得てきた株式を公開している上場企業でもある。これらの業者は法律を遵守する業務をしているという国民の信頼を裏切って、建築士法上,建設業法上も重大な違反を犯し、刑事事件を形成する行政法違反事件に手を貸している。違反の大きさと大胆さは、通常の常識で考えることができない大きな違反で、発覚した場合には危険が大きすぎる事件である。

(2)建築基準法及び都市計画法に関し、専門的知識を有しているはずの業者たちが,法律により排他独占的に営業が保護されている業者であるにもかかわらず、内在的制約も利かず、かくも大胆に、上記1のような法律違反を犯すことができた背景には、行政機関によっては「違反とはされない」という行政当局との綿密な打ち合わせ(謀議)があったと考える以外に、実施に踏みきることは考えられない。
事実、その後の行政不服審査請求及び行政事件で事業主と行政当局は全く口裏を合わせて「違反を違反ではない」と口裏を合わせた弁明に終始してきた。行政法に専門知識を持たない司法(東京地方裁判所の判決)までが行政に追従してきた。

(3)違反の基本となっている「一の建築物」か、どうかは、最も基本となるべき争点である。最判官は、この問題に絞って日本中のどの建築主事も特定行政庁にでも、国土交通大臣、内閣法制局、行政学者だれにでも質問をしてみたらよい。本件の被告らのような法律解釈や認識はありえないと断言できる。国民一般が法律上当然と読めることを裁判所が牽強付会な理屈をつけて
国民の理解と違う法解釈を持ち出して不正な利益を幇助する法解釈をもちだすとしたら、それはもうまともな法治国家といえない。「真昼の暗黒」というべき社会である。

(4)本建築事業主が、高い容積率開発をするために、実際建築する建築物とは全く違う建築物の設計図書を作成し、それを持って開発許可申請及び建築確認申請を行って、開発許可申請及び建築確認申請をおこなった。その事実を知って、本来、その種の違反を防止する立場にある都市計画行政及び建築基準法行政が、事業主と共謀して違反幇助をしていたという事実が、本事件の最大の問題である。

(5)都市計画の開発許可権者と建築確認検査機関は、自らのなした不正幇助が指摘されて、共謀しておこなった不正を、あわてて「不正ではない」と否定し、事実関係での釈明ができなくなったことを悟って、逃げ場がなくなって、最高裁判所が法律に違反して行った判例を持ち出して、逃げ切ろうと必死になっている。
この最高裁判所の判決は、都市計画法と建築基準法がその制定の経緯を反映して姉妹法の関係をもっていて、かつ、以下のように行政事務を正確に行うよう名法律構成がなされていることを理解できなかったのか、それとも知っていて不正業者を救うために牽強付会名解釈をでっち上げたものとしか考えられない。
適法な建築物を建築する手順は、以下の通りである。
① 敷地の計画許可をして工事許可(開発許可)した後、
② 開発許可どおりの工事完了公告により予定建地区物の敷地の完成を確認する。その後、
③ その敷地のうえで建築計画の確認申請をし、
④ その建築工事の完了を検査して建築物の供用開始を許すという一連の事務である。
最高裁判所は、この4つの区切りを、「行政事務として、別の事務である」と間違って判断したのである。4つは一連の事務で、それぞれ独立して存在することの出来ない事務である。
これらの事務の目的は予定建築物を建築し供用できるようにすることである。建築物の工事完了検査が行われた以降において、これら関連を持つ一連の4段階の総ての行政処分に対する不服審査はもとより行政事件訴訟をすることができて当然である。この最高裁判例は、国民の行政処分をさせない半民主的な法律違反の判例である。

(6)このような不正の隠れ蓑と利用されている最高裁の判例を下級審判事が勇気を持って審理の対象にできるか、それとも自らの立身のために法律違反の判例に迎合するかという場面になっている。

3.都市計画と土地利用
(1)「都市とは何か」、そして、「都市計画法とは都市づくりにとってどのような役割を果たしているか」、という都市計画制度の理解が都市計画及び建築基準法行政関係者にないことに、都市計画決定を尊重しなければならないという基本が守られない原因がある。

(2)この事件を単なる一建築の安全問題の単なる相隣関係の問題と考え、「都市計画制度にとっての危機である」と深刻に考えていない。その理由は、その背後に「都市の形成が、都市100年の計によっている」ことを忘れ、目先の建築の周囲への影響に関し、以下に示す「建築単体の問題と、都市環境という都市全体の問題との関係が理解されていないことにより生まれている次の2つの基本的な問題」がある。
①「矮小化された都市計画決定の理解」及び「都市計画決定は直接的な利害を決めていないとする間違った理解」
②「建築確認事務を都市計画決定に従わなくても、特定行政庁権限で自由にやってもよい良いとする間違った理解」
①(前者)は、「都市とは、個別の建築を都市内に法令どおり建築して都市が形成される」という(6)に説明するとおり「モザイク画とモザイクの石の関係」の理解であり、
②(後者)は、(4)及び(5)で説明するとおり、全体計画の実現という視野で見ることがなければならないもので、「建築行為による周囲に対する影響を相隣関係に矮小化し、建築物単体の近隣への影響に限り、建築行為が都市施設のシステムに与える直接的な負荷という都市環境への影響」という理解でしか見ることができないことである。
この2つの視点は、公害対策に対応して説明をすれば、前者が「排出基準」の考え方に対応し、後者は「環境基準」の考え方に対応する。
これは都市計画法違反を問題にできる原告適格の範囲の考え方と共通の問題である。都市環境を教授する権利はすべての市民はもっており、市民はその権利を代表民主主義の手続きにしたがって、公選知事が決定する。「都市計画決定の主権」(決定権者の知事は公選首長で、市民の代表である)が「都市計画区域内の住民」にあるということで都市計画区域内の住民が総て利害関係者である。都市計画決定の実現は都市市民の生活環境利益と不可分一体となっているため、市民は都市計画法違反に対してそれを訴える権利を持っている。

(3)都市計画法に基づいて、「都市の土地利用計画を都市計画決定する」ことで、都市のマスタープランが作られる。現行法の手続きとしては、都市計画法第8条に規定する地域地区に関する都市計画が、都市のマスタープラン(基本計画)である。都市のマスタープランは総ての関係者が遵守することを強制的に義務付けられるものである。マスタープラン全体として公共性があり、その実現はマスタープランに含まれる居住者全員に利害関係のある都市空間利益である。

(4)都市計画法で地域地区(都市計画法第8条)を決める(都市計画決定)理由は、都市における都市活動は多種多様であるが、それらの都市活動は、都市居住者の総てに対しその特性を区別して生かすことができるようにマスタープランによって「土地利用を法律(都市計画決定)によって強制する」という形で実施するためである。

(5)都市は一朝一夕につくられるものではない。私有財産制を前提にする自由社会において敷地を所有する者が都市のマスタープランがなければ、それぞれ方向性が分からなくて自由に利益を追求すると無政府状態が形成される。個々の私有財産権の主張としてなされる小さな建築行為というベクトルを、都市計画決定されたマスタープランに従って造ることで、全体としてマスタープランどおりの都市を造ることができる。都市計画決定を遵守する公共性は、単に相隣の関係ではなく、地域地区としての環境整備のためである。

(6)欧米の都市計画学では、都市をモザイク画に例えて理解するように教育している。
モザイクの各石は、モザイクの下絵として描かれた下絵(マスタープラン)どおりに埋め込まなければならないと教育している。ひとつのモザイクの石は、全体のモザイク画のためであり、モザイク画を計画どおり作成するためには、モザイク画の下絵に合わない「モザイクの石」の使用を認めてはならないのである。この「モザイクの石」は、都市計画における敷地に定められる「土地利用」に相当するものである。

(7)「土地利用」には、住居,商業,業務,工業などの用途の違いはあるが、それぞれの用途に利用の種類は広い。そして、住居地域(常住地)と、工業、業務、または商業といった(就業地),または,住居(常住地)と商業(利便施設)との関係のように、各「土地利用」は相互に有機的な関係を持って利用されている。「土地利用」の繋がりという観点では近くに立地しあうことが「便利」であるが、「土地利用」が違うため、近くにあると「干渉」しあうため、悪い影響が及ぶということもある。

(8)「土地利用」決定をされた内容を守ることがなければ、都市計画は画餅にきしてしまう。建築行政は、都市計画(土地利用計画)を実現するための行政であって、都市計画法と独立して存在する行政ではない。

4.「土地利用」と地価負担能力
(1)「土地利用」の内容が違うことによリ、それぞれの空間環境は違う。その結果、相違する「土地利用」は、その性質により干渉試合、それぞれの活動を妨害することも起きる。「土地利用」の性格による相互の干渉と、もうひとつの不都合な現象は、「土地利用」によって地価負担能力が違うということである。

(2)同じ土地を、「地価負担能力の違う土地利用」が、競合して土地を手に入れようとすると、地価負担能力の強い「土地利用」が、地価負担能力のない「土地利用」を排斥することになる。
わが国では高級住宅地にマンションが乱入して、片っ端から邸宅地が崩壊させている。邸宅地を破壊して、その後にマンションが建設され、高所得者の住宅は、高いマンションから覗かれ、プライバシーを侵害され、都心の邸宅地から追い出される。
日本では、住居という建築物の用途にだけこだわって、そこでの居住者の生活に着目せず、住居費負担と不可分の関係にある地価負担力という概念を放棄している。そのため、地価負担力による相違する「土地利用」間の弱肉強食を放任しているのが日本の状況である。

(3)そのような「土地利用」の混乱がおきないように、近代都市計画では、戸建住宅(欧米では「シングルファミリーハウス」といい、土地の上下に他人の権利が存在しない住宅をいう。)と、共同住宅(欧米では「マルチファミリーハウス」という土地を共同で利用し、権利が重層している住宅をいう)とは、都市計画上同じ「土地利用」の住宅として扱われない。

(4)日本では結果的に、戸建住宅と共同住宅とが土地を奪い合い、地価負担能力の弱い戸建て住宅地が破壊されている。戸建住宅と共同住宅とは住宅としての効用は同じであっても、道路、公園下水道などの都市施設との対応という観点から見ると土地利用密度は違い、社会的にはまったく別の土地利用である。欧米では土地利用と都市施設との関係という都市計画上の理屈から、シングルファミリーハウス(戸建住宅)とマルチファミリーハウス(共同住宅)とは、当然、別(異質)の土地利用として都市計画上扱われている。
日本の都市計画における低層住居専用地域は、欧米のシングルファミリーハウスを真似て、「近代都市計画による土地利用規制らしく」定めたもので、その考え方は、「箱物」(形態規制という都市工学の考えに縛られ、社会科学的考え方や人文科学的考え方を捨象したために起きている問題である。

(5)しかも、地価負担を相対的に引き下げるために土地の高層、高密度をすることになる。すると、結果的に建築床面積を増大させる。増加した延べ床面積に収容した利用者の増加に伴う発生交通量の増大、使用する電気、ガス、上水、下水等の使用量の増大による都市施設需要が増大する。個別の建築によるこれらの公共施設、利便施設、公益施設に対する負荷は直接的にそれらの施設を麻痺させることがないとして、そのような利用を都市計画で予定されていない都市計画法第33条第1項第一号及び第二号(土地利用計画として都市計画決定した内容としての開発許可基準)に違反して認めることになれば、結果的に、都市としての機能は失われ健全な都市環境は崩壊することになる。

(6)さらに、学校、福祉・医療施設、娯楽リクリエイション施設、商業・業務施設需要といった都市活動に関係する床需要が拡大する。このような都市の生活環境全体に影響があるため、都市は、その間政治に調和した環境を作ることができるようなマスタープラン(基本計画)を都市計画決定する必要がある。

5.第2種低層住居専用地域
(1)世界の大都市において高級住宅地が次々のマンションやアパートに侵食されていく例は日本だけといってもよい。中国をはじめ都市化が急激に起こっている急激な都市成長をしている発展途上国では、都市の人口増加に対して宅地供給が追いつかなくて、都市再開発をして計画的に高層・高密度化を進めている国は発展途上国には多数ある。しかし、発展途上国において、日本のように通常の都市において、戸建住宅とマンションとが同じ「土地利用」という土俵で競争して奪い合いをするような国はない。

(2)都市には所得の低い人も、所得の高い人も生活する権利がある。所得の高い人は高い地価負担力を持ち、所得の低い人は低い地価負担力しかない。所得の高いか低いかにより都市居住を制限されることは、国民の居住の自由を制限することになる。都市計画は、市民の所得にかかわらず押しで居住できる環境を創ることでなければならない。

(3)第1種低層住居専用地域及び第2種住居専用地域とは、いずれも都市内で土地に定着した生活を享受したいとする所得に高い人たちの居住地域として計画される地域である。一方、中高層住居専用地域には、比較的所得の低い人でも、低い地価負担となるため都市で生活できる地域として計画されている。所得の高い低いということで居住の場所を差別されることなく、その社会的属性の違いを区別して、それぞれの生活を尊重することが都市計画として決定されることになものである。

(4)しかし、本開発により作られようとしている高級賃貸住宅といわれているものはおよそこの地域との関係の薄く、この地域に溶け込む可能性がほとんどない居住者を対象にする「ゲーティッドコミュニティ」の開発である。この様な開発は、この地域と全く社会的に関係を断ち切った特異の住宅地開発で、地域との有機的な関係を分断した巨大な施設建築物で、都市計画法上も既存環境を分断する施設としてしか考えられない。
つまり、この計画は計画自体が都市のマスタープランを無視して計画したものであり、現に、この計画は都市計画決定された都市計画法第8条地域地区を蹂躙した計画である。仮に造るとした場合には,「一団地の住宅施設」としての都市施設として計画される性格の開発計画である。そのような計画の場合であれば、都市計画としての十分な審査を受けなければ計画することはできないはずである。事業主はそれを知っていて、この開発では正当な方法を選択しなかったのである。

(5)近代都市国家の都市計画としては国民を差別することは好ましくないが、区別することは、その特性を尊重する重要なことである。それは、地価負担力の大きい商業や業務のための土地利用が、地価負担能力の低い住居地域との関係で近くに立地することが求められているのと同じ関係である。しかし、本開発は都市計画として近隣との相互依存の関係にはなく、非常に高層高密度な開発で。第2種低層住居専用地域として都市計画決定された土地利用とは基本的に馴染まない計画である。都市計画はこのような開発を制限する目的で「土地利用規制」を行っているものであるが、その都市計画決定をして排除すべきと定められたものを、法律違反を犯して持ち込むために行政が協力していること自体、法治国では考えられない醜態である。東京地方裁判所では、国家の醜態をさらに大きくした。本控訴審では司法の本質が問われている。

(6)都市計画は、空間的に隣接または近接することが好ましい土地利用に関し、土地利用の違いによる地価負担能力の違いを土地取得において競合関係にしないで、平和共存できる関係として計画するという手法(専用用途地域)ととりこむことで、それを可能にした。

6.都市を市民の生活文化の場と考える見方の欠如
(1)世界の都市計画法上の土地利用では戸建住宅と共同住宅とは都市における生活のあり方と土地の開発密度が質的に違うため、都市計画上は別の土地利用とされている。日本では住居を単なるシェルター(箱物)と考え、住宅の中で住生活が完結するかのような勘違いがあり、都市生活という考え方が脱落していた。

(2)日本の民法上、土地と住宅とはそれぞれ独立した不動産という社会科学的に間違った扱いをしてきた。そして、住宅を社会的関係と切り離せると間違って考え法律上扱ってきた。
世界では、住宅は人々の生活文化空間であると考え、住宅は土地に定着して形成する生活空間として土地の一部に吸収される。よって、住宅は土地と一体的になるため、都市計画決定された「土地利用」の加工方法のひとつとして、宅地造成の延長に住宅建築がなされると考えており、造成地同様、住宅は土地と一体的に登記されている。

(3)都市計画という人間の生活文化を扱う学問が、「都市工学」という工学部(エンジニアリング、ナチュラル・サイエンス)に範疇に閉じ込めているため、経済的な活動を扱う都市社会学(ソーシャルサイエンス)や、都市の中心の歴史的な都市の生活文化の集積として都市を扱う人文科学(ヒューマニティー)の視点が失われている。

(4)わが国の都市計画法は、英国の都市計画法(タウン・アンド・ルーラル・プランニング・アクト)を参考にし、1968年に秩序ある日本の都市の100年の計を立てるため、計画許可制度(プランニング・パーミッション)制度を、都市計画法上の開発許可制度とそれに連動するように姉妹法である建築基準法を改正して、開発許可制度に対応した建築確認制度として導入した。
また,ドイツの都市計画法(バオゲゼッツ)にあるB-プラン:街区設計制度(ベバオウングスプラン)は、日本では「地区詳細計画制度」として紹介されている。日本ではB=プランに倣って、より都市空間の空間文化性を実現できるように、「地区計画制度」が都市計画法と建築基準法に取り入れられた。

(5)しかし、英国及びドイツの制度は換骨奪胎されて、全て広角的な計画手法に矮小化されて導入されているが、法律制度の背景として英国及びドイツの都市計画制度が、日本の都市計画法及び建築基準法の基本的枠組みとなっていることは否定できない。
都市計画法の導入された開発許可制度では、開発許可制度の中の開発許可の基準(都市計画法第33条)に、第1項第2号にはっきり条文の記述として記載されている。

(6)都市にとって、その中で取り扱われている環境という文言は、最も重要な言葉である。環境といった場合、それは包括的に都市環境を指し、底には都市の自然環境も含まれるが、都市は歴史文化の集積であるという意味で、都市の歴史文化環境が、また、市民の豊かな生活文化を創造する場であることから、人間の都市人文環境及び都市社会環境が最も重視するものであるから、開発許可に置いて審査されるようになっている。しかし、開発許可に置いてはもとより、そこで取り上げられなかった問題として開発審査会で審査請求したが、いずれでも都市環境は基本的に取りあげられなかったのである。

(7)本事件の最初の段階で、旧石器時代から弥生時代の東京区部で最大の集落跡がこの開発地で発見された。そこで当地の歴史文化を尊重する開発計画にするべきであるという地域住民の意見が提起された。しかし、市民の意見は開発業者だけではなく,開発許可権者も開発審査会も、歴史文化環境は都市環境の問題ではないと切り捨てた。環境に関しそれを自然環境というように環境問題を矮小化するときに、歴史社会的環境問題は捨象され、また相隣問題に矮小化されることになった。この扱いは都市計画法違反である。

(8)都市を市民の生活文化の場であるとする近代都市計画に倣った法制度を導入しながら、それを有機的で一体的な繋がりを持った社会制度として都市計画を理解せず、問題を工学の領域に矮小化してもおかしいと感じないところに、都市計画行政が都市工学に汚染された日本の都市計画の特殊性がある。

7.姉妹法の関係を「規制緩和」で破壊された都市計画行政
(1)日本の都市計画制度は、大義名分としても、国家としての取り組みとしても、近代都市計画法の理論体系としてとりまとめられた。しかも、日本の都市計画は近代都市計画法によって造られたとされ、近代都市計画の父と呼ばれ、自らを「都市の発明家」と呼んだエベネッツアー・ハワードの都市と都市計画法の関係の上に、わが国の都市計画法及び建築基準法が構築したとされてきた。

(2)しかし、わが国の歴史を振り返ってみると、都市計画という有機的な計画を日本では欧米から学ぶモデルが、フランスや英国から、日本に近いプロシャをモデルにするという大きな方向転換に翻弄された。そのため、都市計画制度の創設に当たっては、都市計画法(フランスをモデルにした都市計画法の計画法部分)と市街地建築物法(ドイツをモデルにした都市計画法の建築規制部分)という姉妹法による世界に例を見ない法律体系をとることになった。そのことから、本来、都市計画をマスタープラン(基本計画)として定め、その計画通りアーキテクチュラルガイドライン(建築設計指針)どおり造ることにこだわる1元的な行政が、都市計画法と建築基準法の姉妹法関係が粗末にされ、それぞれの法律ごとに一人歩きして、一貫性を失い、そのしわ寄せが都市の混乱に現れてきている。

(3)この法律体系は、1950年の建築基準法の制定及び1968年の都市計画法制定にあっても「姉妹法の関係」は踏襲されてきた。法律体系上の姉妹法という事実と実際の別の法律体系という矛盾する関係が、法律の施行実態に大きな矛盾が表れてきている。都市計画決定された都市計画を建築基準法行政によりしっかり実現するという取り組みをしない限り、都市計画どおりの都市は創り上げることはできない。あくまでも建築基準法は都市計画の枠の中での行政であり、それを逸脱するものであってはならない。

8.小泉内閣の規制緩和の本質
(1)近代都市計画制度においては、将来の都市空間として実現する都市計画(マスタープラン)を計画区域内の権利者の全てが遵守することがなければならない。そのため、都市計画決定の手続きのために厳しい法律上の手続きを定め、空間計画の立法と位置づけ、その実現のために国家権力が土地収用法の適用を含む強制力を行使できることにしている。その計画を国家権力によって担保する権限を「計画公権」(「計画高権」ともいう。)といい、それを建築基準法における第3章(集団規定)の強制権の裏付けとしている。言い換えれば建築行政を施行する特定行政庁の行使する強制権は、都市計画決定による計画公権を背景にするものである。

(2)小泉内閣の時代に行われた規制緩和は、この姉妹法の関係を破壊して、目先の利益追求に迎合できるようにした代表的な政治による法律蹂躙の行政である。即ち、本来、都市計画決定された内容は、都市の将来到達するべき都市空間の計画であって、それを都市計画法の手続きで決めることは、個別の建築行為を積み上げて作り上げる都市空間の形成にあってはきわめて重要なことであるが、それを真っ向から否定するものであった。

(3)小泉内閣時代の規制緩和は、建築規制緩和という概念として、「土地の高度高密度利用をすること自体に公益性がある」といった誤った認識にたっていた。
つまり、小泉内閣の都市計画は、都市計画を多様な土地利用の有機的関係を持った総合的な都市生活空間として計画されているという将来の都市のマスタープランの持つ意味を基本的に理解していない。都市計画行政を単に景気刺激や事業採算を有利にするという開発業者の経営利益を中心に考え、都市計画決定した内容に「例外許可」により穴を開けることを規制緩和として実施してきた。

(4)規制緩和の中心となった「総合設計制度」こそ、法律を無視した緩和となった代表的な取り組みであった。「総合設計制度」の根拠法である第59条の2をどのように読んでも、現在、準則として国土交通省が定めた内容を容認することは不可能である。
総合設計制度は、事実上、「建築基準法を根拠にする」と準則の頭書きに記述されているだけで、条文の趣旨と全く矛盾した内容である。開発事業者に都市計画決定された内容を破壊することを勧めたものであった。

(5)本事件はまさにその代表例といえる。事業主が開発許可権者及び指定確認検査機関と共謀してこの事件のような違反がやれた背後には、間接的に小泉内閣による規制緩和が、法律違反を支援していることは否定できない。このような規制緩和を容認していけば、都市計画法第8条の地域地区に基づいて作られた都市のマスタープランは間違いなく破壊されていく。
日本ではこのような都市計画と建築基準法の施行を見て、都市計画や建築行政関係者のみならず、学者や研究者たちのように行政の内部事情に関係し、または観察してきた人たちは「都市計画法によって都市を作ることはできない」と多くの人が口にしている。

(6)都市計画は100年の計である。多くの国民は都市計画を信じ、その規制に従ってきた。都市計画や建築行政が法律通りの行政をしていると信じてきた。
しかし,現実に日本各地では行政に裏切られた事例が相次いで来た。そこで各地では行政不服申請がなされてきたが、ことごとく却下されてきた。それを不服として、行政事件訴訟が各地で取り組まれるようになてきた。しかし、司法は行政法の知識が不足し,現行秩序の維持という安定に司法が判断の根拠を求め、行政前例、行政実績に追従して、本来の司法に対する国民の期待に応えてはいない。

9.結論
都市計画決定された都市のマスタープランは、100年後又はそれ以上の将来の都市の基本的な姿の骨格を決定するものである。そのことは、将来に発生することになる都市災害に対して都市市民の健康で文化的な生活を守ることを配慮した計画でなければならない。都市計画で決めた内容は、個別の建築において都市計画どおりの建築規制をすることで、その積み上げが将来の都市環境を造るものであるという考え方が必要となる。
都市計画法で都市計画決定した内容を実現する方法は、個々の建築活動において、都市計画決定どおりの建築をすることで実現されるという方法が都市計画法及び建築基準法の考え方である。
つまり、建築基準法の施工者である特定行政庁の強制権は、都市計画決定された計画公権を担保として、行使できることになっている。特定行政庁の権限は、都市計画決定を実現するための強制権であって、それ以上のものではない、つまり、特定行政庁の権限は都市計画決定を前提に行使されるものであって、都市計画決定を変更し、又はその内容を左右するものであってはならない。
上記3の(2)で環境問題を例に説明したとおり、都市環境に対する規制も、基本的に同じ「排出規制」と「環境規制」の考え方で規制されている。欧米の都市計画学では、3の(6)の「モザイクの例」で都市計画を説明している。
日本の遊びにある「福笑い」のように、顔の構成部分のすべてが顔の環境の構成に関係しており、顔の全ての部分は、顔全体の利害に深く関係している。都市のすべての部分は都市環境の享受者であるとともに担い手である。すべてが利害関係者である。
モザイク画にとって、一つのモザイクの石がモザイク画のルールのしたがっていなければ、モザイク画全体が駄目になってしまう。モザイク画を校正するすべてのモザイクの石は、そのモザイクの石の周辺だけではなく、モザイク画に対して利害関係者である。
通し計画と建築基準法の関係は、このように全体と部分の関係である。同じ建築基準法にあって、建築基準法第2章(単体規定)は、その単体との影響する範囲の問題であるが、建築基準法第3章は第2章とは全く違い、相隣の関係ではなく、全体との関係を規定している。
このような都市計画法と対応している建築基準法第3章の規定の適用に当たっては、都市計画法の地盤である都市計画学に立ち戻って考えることがんあければならない。
以上


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