メールマガジン

メールマガジン第421号

掲載日2011 年 9 月 15 日

メールマガジン第421号(9月13日)
みなさんこんにちは
これからの住宅地開発のための国内研修ツアー
先週はGKK/HICPMによる国内研修ツァーで「ガーデンタウン南桜井」、「南桜井タウンハウス」、「こしがや四季の路」、「ムカサガーデン」の4住宅地区を見学研修してきました。
前者の2団地は、今より33年前住宅金融公庫が2×4工法モデルタウンハウス事業として展開した時代の代表的な事業です。現在、HICPMが推進しているアタッチドハウスが30年後にどのような社会的評価を受けるかを考える重要な事例となると考え、見学・研修地に選定したものです。
後者の2団地は、お屋敷跡地に開発された全体で21戸のこじんまりした開発で、現在時点で取り組まれたビオトープを取り入れた「小京都の街並み」を実現した開発と、「100年定期借地権事業」で、熟成拡大している話題の住宅団地が、どのように成功をしているかを研修・見学するためのものです。

33年前に取り組まれた「2×4モデルタウンハウス」事業
住宅金融公庫が推進した「2×4工法モデルタウンハウス」事業は、米国における1960年代に急成長を遂げていたタウンハウスを、日本の2×4工法の推進にも有効に利用できると考え活用されたものです。当時、米国では経済成長により、住宅産業も活性化しており、住宅不動産価格は上昇していました。その中で土地を高度利用し、より多くの低所得者層に対しても資産価値の形成できる住宅として、「アパート並みの価格で、独立住宅並みの居住環境を提供する住宅」として登場した住宅がタウンハウスでした。

タウンハウスとは何か
タウンハウスの語源は、英国における貴族たちの首都での下屋敷、上屋敷という意味の住宅(タウンハウス)です。貴族の領地・荘園(マナー)にある「お国(我が郷土)」の邸宅(カントリーハウス)に対応する邸宅を言います。タウンハウスは、4月から7月という花が咲き乱れる「シーズン」と呼ばれる季節に開催された貴族院議会に出席するために、貴族やそのお供が首都ロンドンやエジンバラで生活した邸宅でした。タウンハウスやカントリーハウスは、アメリカ大陸に渡ったアングロ・サクソンにとっては、憧れの邸宅です。現在でも高級な邸宅を、英国でも、米国でも、カントリーハウスや、タウンハウスと呼んでいます。

米国で発展したタウンハウス
外観上はタウンハウスと呼ばれる住宅を、複数の家族で分割居住するというアイデアが、潜在的に存在していた所得の低い人たちの需要を顕在化させることができると考えられ、現代に登場したのが、米国で始まった集合住宅としてのタウンハウスです。
タウンハウスは2×4工法による住宅に関し、石膏ボードによる防・耐火構造を利用したファイアーコンパートメント(防火区画)の技術の確立を背景に実現した住宅とも言えます。ファイアーコンパートメントは、各空間にある火災荷重を、その燃焼熱に耐える防耐火構造で空間を区画する防・耐火システムのことで、大きな建築物を火災に対して安全に造る技術です。
ファイアーコンパートメントが火災に対し安全であることが証明され、ファイアーゾーニング(防火地域制)の廃止と一体に法制化されました。また、ファイアーコンパートメントで区画されたタウンハウスは、PUD(プランドユニットデベロップメント)に対するモーゲージに対するFHA(連邦住宅庁)の債務保証がなされることにより、急激に拡大することになりました。

一団地の総合設計制度の本質
当時(1970年代後半)は、日本でも住宅価格が高止まりし、地価上昇が引き続き昂進している時代であったことから、米国のタウンハウスの技術を利用し、土地の高密度利用の利益を生かし、2×4工法の推進を進めることになりました。それを法律的に推進した制度が建築基準法第86条を都市計画法違反で運用した「一団地の総合設計制度」でした。
当時、建設省住宅局は、都市局が新都市計画法の施行主体が建設大臣から都道府県知事に移行することになって忙殺されているどさくさにまぎれて、建築基準法だけで都市計画決定をしないで行政をする法律違反を画策していました。
それは、都市計画法第11条第1項第8号で定めている「1団地の住宅施設」を、都市計画決定の手続きをしないで、都市計画法第8条による都市計画決定を適用しないでよい(建築基準法第3章を適用除外にしてよい)と言う法律違反を、あたかも建築基準法第86条を根拠にしてできるかのようにすることでした。住宅局市街地建築課は都市局を騙して、「一団地の総合設計制度」という法律に根拠を置かない制度としてでっち上げ、都市計画の実現を図るべき立場の特定行政庁が、その権限で都市計画法に穴を開ける制度を作りました。

官僚による法律違反
当時、住宅局建築指導下のW専門官と、M係長が、都市局に出向き、都市局の業務を軽くすると説明し、「都市局をうまく騙しこんだ」と笑いを隠し切れないほど喜んで帰ってきたことを今も鮮明に覚えています。(当時、私は、建築基準法の単体規定と総則の施行を担当していました。)この都市計画法違反の「一団地の総合設計制度」を利用して、法律上の根拠もなく、建築基準法第3章規定を適用しないで展開された事業が、「2×4工法タウンハウスモデル事業」であったわけです。
2×4工法モデルタウンハウス事業は有名建築家や、一般の建築士からは相手にされませんでした。その理由は、彼等には十分美味しい仕事があったこともありますが、日本の建築教育として住宅地計画の教育も技術も存在せず、これらの建築技術者には、米国のタウンハウス自体が分からなかったことにあります。そこでこの事業に取り組んだ建築家たちは、米国の建築事情に関係のあった住宅関係者で、日本の建築設計開から相手にされず、ハングリーな状態にあった建築設計者によって、米国のタウンハウスを見よう見真似で実践する取り組みとして始めました。
日本にきて初めて2×4工法に出あったにもかかわらず、米国の大学の建築学科を卒業してきたから、2×4工法に精通しているかのように振舞って仕事を拡大した人もいました。

タウンハウスとアタッチドハウス
日本のタウンハウス事業は、米国のタウンハウスの理論や技術が分からない状態でしたが、現地に出かけたり、雑誌情報などから、結果的に高容積率が実現でき、土地の高密利用ができるという経済的な利益があることに支えられ、取り組まれました。同じ規模の住宅を建てる場合、タウンハウスを導入し、同じ敷地に、大体50%も余分に住宅を建てることができました。連続住宅による高密度開発は、敷地の高度利用と合わせて、道路という公共施設の利用密度を高め、開発密度の高度利用が実現できたのです。現在、HICPMが推進しているアタッチドハウスは、世界中の都市住宅の多くがアタッチドハウスとして建てられることで土地を高密度利用していることと同じ理屈を生かしたものです。

タウンハウスから戸建住宅への逆行
タウンハウスによる住宅地開発は、住宅価格を切り下げ、優れた住宅地環境を実現し、消費者からも高い関心が寄せられ、法律上耐火建築物しか建てることのできない日本住宅公団もタウンハウスに関心を持ち、鉄筋コンクリートによるタウンハウスの建設に取り組むようになりました。そして4大都市圏に、に鉄筋コンクリート造のタウンハウスが建設されました。しかし、住宅局および日本住宅公団は、住宅産業界の中心に成長したハウスメーカーの利益を重視し、その重点を宅地開発におくこととし、そこではタウンハウスではなく、住宅営業マンによるセールスに好都合な戸建住宅を推進することが決められました。ハウスメーカーの利益を考えた宅地供給は、護送船団方式の役人の骨を拾う住宅産業界の利益になると判断され、住宅地として纏めた環境開発をしようとする手のかかるタウンハウス政策を止めて、無政府的に営業マンが住宅を売り歩く戸建住宅推進に政策の重点を移行させました。

敷地の「全共有」
一方、住宅金融公庫は住宅地の経営管理を継続的に進めるためには、「開発地全体の土地を一元的に共同所有にしなければならない」という一種のドグマを、住宅金融公庫関係者だけで勝手に考え、「土地の全共有」という条件をモデルタウンハウス事業の中心にすえることになりました。
このような土地の全共有を強行した欠陥が生まれた背景は、住宅金融公庫の関係者が米国の住宅地経営を基本的に学ぼうとはせず、勝手な思い込みを、あたかも米国のタウンハウスによる住宅地計画技法や住宅地経営のやり方であるかのように語って、多くの工務店を誤った方向に導くことになりました。住宅の資産価値を維持向上する役割を担っているホーム・オーナーズ・アソシエイション(HOA)に対する理解を住宅管理組合と同じもののような勘違いが、その中の最大の欠点でした。今回見学した2団地は、まさに、その代表的な団地でした。たしかに、土地が全共有され、住宅地全体はまとまりのある維持管理を実現していましたが、土地の全共有が災いし、不動産取引で価格下落要因を生み出していました。即ち、土地の全共有自体は良好な住環境管理に必要な方法の一つであったかもしれませんが、土地が全共有にしたため、「持ち家」住宅市場でうまく販売できませんでした。

不当な宅地建物取引業者
たまたま、在る住宅所有者がその住宅を売り急がなければならない事情のため、宅地建物取引業者に売却を持ち込んだところ、「仲介手数料をなるべく早く手にしたい」という仲介業者が、極端に低い値付けをしたチラシを配布し、そのチラシを多数その地域にばら撒いて顧客を獲得しました。その結果、チラシはこの住宅地全体の住宅価格相場を社会的に宣伝するものとなってしまい、それ以降の住宅価格は、その前例に縛られて改善できない状態においやられてしまいました。
欧米のように住宅金融がモーゲージよって行われている国では、適正な不動産取引が行われるように、エスクロウというシステムがあって、売り手および買い手のいずれもが、適正な状態で取引に望んでいる条件を具備していることを、客観的なデータで確かめることがなされています。その中の重要な要素が不動産鑑定制度です。金融機関にとって、不動産鑑定結果は、住宅金融対象物権の担保価値を示すもので、不当な売買実例を作ることは不動産市場の混乱以上に、既存の金融機関の融資物件担保(モーゲージ)価値を切り崩すものとして、金融界としても容認できないことになっています。

健全な不動産取引
適正価格による不動産取引ができない限り、不動産市場の健全な発展を望むことはできません。日本では盛んに不動産市場の活性化を進めるような議論がされていますが、不動産取引の原点である不動産価格の適正評価をすることができない状態で、不動産の流通市場の健全化は望めません。住宅の価値は、住宅の需給市場での取引を前提にしていますが、その取引環境が基本的に整備されていなくて、取引手数料を速く手に入れたい宅地建物取引業者の間違った価格販売を排除することができなくては、健全な不動産流通市場の形成は望めません。エスクロウ制度が健全な不動産取引に必要不可欠であることは、これまでも指摘されてきました。しかし、エスクロウが正しく実施されるためには、不動産鑑定制度の整備と住宅金融制度とが適格に結びつくモーゲージ制度の導入が不可欠でもあります。

不動産業者の利益中心の不動産行政
日本の住宅金融、住宅取引制度が全く業者の利益本意で運営され、住宅購入者や住宅所有者は無視され続けてきました。日本政府には官僚が中心になって業者の利益と官僚の利益を優先することでしか対策は採られておらず、消費者の利益のために既存危険を切り崩す変更を期待する努力は、ほとんど無駄のようにさえ思われます。そのため、官僚に頼ることなく、住宅に取り組んでいる関係者の中で、住宅購入者及び住宅所有者の利益を重視し、それを守ろうとする人たちによってできる方法を探して取り組むほか、実際的な方法はありません。その考え方の中で期待の持てる方法が、実質的なモーゲージによる金融を可能にするためのHOAによる住宅地経営管理をすることです。HOAによる「三種の神器」による住宅地経営管理の強化を通して、不動産の取引の健全化のための介入をすることだろうと思います。

今求められている住宅産業人の専門技術の向上
今回、現地研修と引き続いて実施された近畿能力開発大学校主催の住宅地開発・経営管理に関する実践研修セミナーは、HICPMが協力して開催されました。現在の厳しい住宅産業環境であるにも拘らず、能力開発大学校が企画し、大阪駅前の足の便利なところで開催されたにもかかわらず、勉強しようとする人が極めて少ないことは、此処で提供した技術や知識が重要なことが住宅産業関係者の共通理解になっていないことです。大学でも高等専門学校でも扱っていない知識は、重要でない技術、知識だと勘違いしているのです。日本の都市住宅教育はきわめて低い水準にあります。それに気付かなければ、日本の将来に不安を残す材料のように思われます。
これまでに日本でも住宅先進国・欧米の経験を学んだHICPM会員の手で多くの取り組みがされてきました。その経験に学ぶことが如何に大切かと私は考えています。先月の理論編で。「サスティナブルコミュニティの実現」をテキストに基礎理論を学習したことに引き続き、今月の実践編は、近畿能力開発大学校の田島教授の準備された膨大な過去の実践データによって、参加者には大きな満足を与えることができたと思います。
また、今回の実践編では土地と住宅を一体的に計画するという取組みとして、HICPMの前野理事やHICPMの監事会社のブリックプロダクツ東京の黒瀬さんにも開発計画に対応する標準化、規格化、単純化、共通化の実現のためのホームプランシステムの知識や情報提供の協力をしていただき、実りの多い研修になったことを嬉しく思っています。
(NPO法人 住宅生産性研究会理長 戸谷英世)



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