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メールマガジン第430号

掲載日2011 年 11 月 13 日

メールマガジン第430号(11月12日)
皆さんこんにちは
TPPの議論と日米安保
TPPが野田政権を揺さぶっています。すでに、菅内閣が成立したときから政治問題となっていましたが、今、土壇場に追い詰められるまでに、TPPが国民の議論として議論されていないところに、日本の政治が主権在民になっていない政治の未熟さを感じます。HICPMは約1年前のBM174号のカレントトピックスで住宅産業化にとって大きな経済環境変化となることを知ってもらおうと考えて取り上げてきました。その理由は、1960年日米安全保障条約と一体として取り組まれた自由化政策が、基本的に日本をそれまでと完全に変えてしまったことを知っている人が、その経験をTPPの議論に読み替えて説明する義務があると考えたからです。

日米同盟の基本枠組み
日本の高度経済政策を支えたものは、池田内閣による所得倍増計画でした。この所得倍増計画は、「パイを大きくしてから分配しよう」と言う政治的キャッチコピーで政府が推進した自由化政策の説明で、現在、結果的に見ると池田内閣の説明した形で、日本は自由化政策により経済を拡大し、国民は豊かになりました。この池田内閣の説明は、1960年安全保障条約で日米対等の同盟になるよう安保条約の改正を前提にした経済政策でした。日米対等ということは、50年日米安保では、東京裁判の結果を認めて、日本は憲法第9条(戦争放棄)を基本条件としてサンフランシスコ講和条約で、日本は社会主義圏からの軍事的脅威から日本を守るために米国の軍事力に依存する見返りとしての対応でした。つまり、米国経済として、農産品と石油の経済的弱点を日本が支援することで対等の同盟関係としたのです。

炭鉱の閉山と農業構造改善
日本は炭鉱を閉山してエネルギー源は石油としました。農業は、米作以外は自由化し、その後、構造改善政策の結果、日本の農業耕作面積は半減しました。基本的に日本の農業は国家として農産物の自給体制を放棄することになりました。炭鉱の閉山と農業構造改善で生み出された失業者が10年以上にわたり、都市の工業生産のための低賃金労働として供給されたため、10%以上の経済成長を可能にしました。
その経済成長を支えたものが、石油輸入関税を利用したガソリン税でした。それを利用した税収の増大で、特に、ガソリン税は、国土の道路のネットワークを作る列島改造を推進する原動力になりました。列島改造を進め、国家全体を「土建国家」に変え、公共事業による地価高騰、株価高騰による相乗効果が高度経済成長を推進し、最後はバブル経済を生み出すことになりました。
GNP(GDP)を経済政策の中心の据えたスクラップアンドビルドが現在の日本の巨大な経済を作ってきました。農業は建設業に変化し、農業が崩壊させられながらも、農業地域は列島改造で潤い、農家は公共事業により、資産を「濡れ手で粟」とすることになりました。

TPP時代の条件変化
60年安保時代には、先進工業国は資本集約的産業を担い、発展途上国は労働集約的産業を担う、という「南北問題」が国際経済関係を律していました。しかし、現在は発展途上国の教育水準が高まり、労働力として先進工業国の労働力と比較して、全く遜色のない労働力となっています。先進工業国の資本にとって、もっとも重要な利潤追求のためには、低賃金労働力を利用した産業に対し資本を投下により、製造業としての最大利潤を得ようとしてきました。つまり、金融資本は、高い利潤を得ることのできる「低賃金労働力を得て生産をしている企業または低賃金労働力の利用のできる地域」に投資をしようとしてきました。
金融資本が先進工業国から発展途上国に移動しているとことで、先進工業国からは労働の場、雇用の機会が失われているのです。当然、失業者が増大し、賃金自体が発展途上国と平準化する方向で賃金が下落せざるを得ないというのがTPPの経済環境です。
国内的に見れば、間違いなく先進工業国においては雇用機会が縮小し、賃金水準が悪化することになります。しかし、TPP全体としては、先進工業国でも発展途上国からの生産品が輸入されることで、安い物資が購入することができるようになります。そのため、TPPの圏域全体としての経済活動は活発化し、その経済規模の拡大が先進工業国に対する需要として景気を良くすることになります。しかし、安い輸入品を加工し、輸出できる競争力を持てる経済成長が、先進工業国の国民にどのようなタイムラグを経て反映するかが分かりません。

直接利益を受ける金融機関と大企業
目下TPPを推進している金融機関と大企業は、低賃金国の労働者を利用できる業種ばかりです。金融機関は発展途上国で安い労働力を利用して大きな利潤を上げる産業、企業に投資し、安い労賃によって得られた利益を金融を通じて手にすることができます。その利益を国内に持ち帰るために、国境と言う障壁をなくするため、TPPと言う自由化を推進する政策を指示することになります。
一方、トヨタ、ニッサンなどの自動車産業など世界規模となった企業はこれまですでに低賃金を提供できる発展途上国に生産拠点を移し、大きな利潤を上げてきました。これらの国際的な企業にとっては自社の利益拡大のためには労働力の利用だけではなく貿易、為替、関税の全てにおいて国京の障壁をなくすることで利益を拡大できるTPP参加を推進してきました。彼等は自社の利益が急拡大することが国家としての富の拡大と言っていますが、実はこれらの国際的な大企業自体を見ると、いずれも国内の労働機会を縮小し、国内の賃金を絞り、企業規模としては国内が小さくなっているのです。発展途上国に送る生産に国内生産が押されているのです。
TPP参加国の経済規模の拡大は、中国やロシアの経済圏との政治、経済、軍事バランスの関係で推進すべきであるという議論が底辺にありますが、TPP全体の将来像をしっかり国民に説明することがない限り、今後の国内では実体経済の悪化と、疑心暗鬼の不安が払拭できないため社会的にも政治的にも混乱を招くことは必至です。

住宅産業との関係
失業率の拡大、労賃の低下という一般的な傾向は、TPPの参加により、自由化の実効が上がるにつれて、60年安保時代から農村に起こった過疎化現象と同じような現象が起きることになります。当然、住宅産業はその影響を受けることになります。国民の購買力の低下に対応した住宅を供給するためには、これまでのような「建設サービス業」と言った重層下請け構造による住宅産業は崩壊せざるを得なくなります。「一層下請け」とCM技術を実践する業者以外は成立できなくなります。
日米の住宅生産性を比較すると、日本は米国の2.5分の一、つまり40%程度である、といろいろの調査機関の報告にあります。これは同じ住宅を同じ期間内に建設できる速度を表しています。日本の生産性を米国の生産性まで向上することができた工務店は、売り上げ総額や粗利総額が大きくなります。それは工務店の利益が向上するだけではなく、建設労働者の賃金が2.5倍になることでもあります。
しかし肝心の消費者全体が失業と賃金低下に追いやられることになるわけですから、それらの守秘者の購買力にあった住宅を供給するような努力を工務店もしない限り生き延びることは出来ません。そのためにはCM(コンストラクションマネッジメントの建設業者として不可欠な経営管理技術を身につけなければなないのです。

住宅産業との関係でTPPの議論を
かつて、1986年、プラザ合意の後、前川レポートを軸に、輸入住宅が取り組まれました。日本の円高が昂進し、当時と基本的に同じ経済環境になっています。しかし、その当時と同じような議論はほとんどされていません。それはこれまで輸入住宅に取り組みながら、それを目先の利益に走って、住宅産業体質改善の問題として取り組んでいないためでした。
TPP の住宅産業への影響は間接的であっても、住宅価格自体が非常に大きいため極めて大きく、住宅産業関係者は十分注意を払ってみていかなければならない問題です。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷英世)



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