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メールマガジン第454号

掲載日2012 年 5 月 1 日

メールマガジン第454号
皆さんこんにちは。

今回は、「天空率」(建築基準法第56条第7項)による「街並み景観破壊」に対する大田区池上本門寺通りのHICPM会員の「高層マンション反対」の取組み支援をご報告します。

開発計画とその分析
現在、池上4丁目の五交差路にある二面が大田区道に接する三角地に、株式会社リンク建設(開発担当責任者企画開発部長近江大介)が、仮称「アルファーコート池上4丁目」という鉄筋コンクリート造8階建て単身住宅マンションを建設する計画をこの地区に持ち込み、住民説明会がもたれました。この開発計画は、地域の住民が守ってきた街造りに対する配慮をせず、開発業者の利潤追求一辺倒の計画を一方的に進める身勝手なもので、開発業者の説明は「建築基準法に適合しているから邪魔するな」という一方的な内容で、5月7日工事に着手すると通告するものでした。
住民としては突然出された計画に大変困って相談がありました。検討の結果、この開発計画は住民のこれまで守ってきた環境を破壊する都市計画法及び建築基準法に違反する計画であることが確認されました。この計画は歴史文化を破壊するという観点で、大田区、東京都および国にとっても好ましくない計画であるので、修正させなければならないという結論になりました。

大田区長は建築基準法の施行者・特定行政庁です。この計画について、大田区長から確認検査機関に対し、「開発業者は地元との調整を進めるよう」な指導を要請してはどうかということになりました。そこで、過日、地元住民から大田区長への要請趣旨について、その内容を文書にまとめました。

池上本門寺通りの街並み景観破壊
池上本門寺は幕末に西郷隆盛と勝海舟が江戸の無血開城の話合いをした日本の近代史として重大な場所であるとともに、わが国を代表する日蓮宗大本山です。池上本門寺通りは、その歴史文化が対外的に高く評価されないまま現在に至っていますが、地元の商店街や住民は、何とか門前町の歴史と文化のある街並み景観を守ろうと、お互いに歴史建築物のデザインの保存や開発とともに、「建築物の高さは4階以下に押さえよう」という努力をしてきました。最近になって地元では、池上本門寺に参拝や近代日本史の歴史観光にこられた方に、地元の歴史ある街並み景観を、歴史に照らして文化的に優れたものにする取組みを始めてはどうかと言う声が、地元でも上がっています。そのような折に、街並み景観を真っ向から潰す10階建てマンション(本音は8階建て)計画が提起されました。
池上本門寺通りの都市計画は、池上の過去からの文化を未来に伝承することがなければ、帰属意識のもてる街とすることはできません。住民が帰属意識のもてる街並み景観を造るため、都市計画法と建築基準法の構成も、基本的に、「都市計画決定で定められた内容を、建築基準法第3章規定で建築規制する」ように街造りの制度が作られています。

違反建築とする理由:都市計画決定に違反する建築基準法の緩和
地元の不動産所有者及び居住者が、今回の開発で問題にしていることは、都市計画決定した土地利用計画(街並み景観形成のための形態計画:道路車線制限と絶対高さ)に違反し、この計画が作成されていることです。マンション開発事業者は、埼玉県川越市に拠点を定めている業者です。住民から街並み景観を重視してきた川越の開発業者に対し、街並みの重要性を指摘した質問が出されたのに対し、川越市では、このような建設計画はできない暴挙であると認めました。街並み景観が重要であることを承知の上で、「本開発は、利益のための適法な計画であるから、池上の歴史文化を破壊することになっても、誰からも口出しさせない」と明言しています。
業者が「適法である」とする根拠は、建築基準法第56条第7項に定められた「天空率の規定」に適合しているという理由です。確かに、この計画は「天空率の規定」に適合しているようです。しかし、この規定は都市計画決定された土地利用規制に対応した街並み景観形成のための形態規制に違反しています。都市計画法と建築基準法の姉妹法の関係を考えた場合、「天空率の規定の適用は、都市計画法に違反しないこと」という優先性が、法律の文理上、存在すると考えるべきです。

都市空間の秩序を蹂躙する天空率緩和
天空率の規定は、平成14年、小泉内閣の時代に不良債権を良債権化するために都市計画法と建築基準法の関係を破壊し、容積率と建築物の高さに対する規制緩和が行われたときの「一種の例外許可」です。この規定の適用範囲は、「街並み景観を配慮した都市計画決定に違反しない範囲でしか有効ではない」ことは、都市計画法と建築基準法の姉妹法の関係を考えれば当然のことです。
本開発業者は池上本門寺通りの住民に対し、「川越では、利潤追求本位の開発は、街並み景観に関する詳細な規定によりできない。しかし、池上ではそれがないので建築基準法に違反していなければ、地域の環境を壊しても法律上問題はない。」と開き直っています。しかし、都市計画決定の内容を建築基準法行政で実現する建築行政から見た場合、都市計画決定された街並みの空間計画を蹂躙する手段として使われる「天空率」の適用は、脱法の手段といっても過言でありません。
池上本門寺通りの人たちが自らの建築をする場合、4階までの建築とする暗黙裡の地域の申し合わせを、都市計画決定で定めた建築物の形態規制の内容として大切に守ってきました。その地域の合意を、「天空率」による緩和を理由に蹂躙する建築計画は、確認するようなことがあってはなりません。建築基準法第56条第7項による例外規定の適用は、「都市計画法及び建築基準法の姉妹法の関係を破壊しない範囲でしか適用してならない」、と解釈すべきです。

地元による開発業者のための代替案の提起
今回、この計画には納得できない一部の住民は、適法になる別案を用意しようと、開発業者が現在計画しているマンションと同等以上の計画内容(現在計画されているマンションと同等以上の床面積)をもつ4階建てのマンションを計画できるかどうかの検討を、開発業者の立場に立って「代案」作成することをHICPMに依頼しました。HICPMで基本的な設計上権とエスキースをまとめ、+HICPMの岡田さんに設計を依頼しました。
まとめられた代案は、地域の住民のこれまで守ってきた4階以下と言う開発条件を満足した上で、今回、開発業者が計画したマンションと同等以上のマンション床面積をもち、計画マンションより20-30%も安い建設工事費で建設でき、収益性の高いマンションを造るものでした。

「天空率」を利用した開発が法律違反とする理由
開発業者は「天空率を用いた計画」に関し、住民からの指摘を受けるまで説明しませんでした。住民が都市計画法との関係で見て違法な計画であると指摘し、計画変更提案にもとづく個別の説明会で、「天空率緩和の計画」であることを初めて認めました。しかし、開発業者は「天空率による緩和」が街並みを計画する都市計画法上、適法なものであるという具体的な内容の説明はできませんでした。開発業者自体には、「天空率」による計画が周辺地域に与える影響についての理解はなく、「法律に適合している計画に文句をつけるな」という態度に終始するものでした。
建築基準法に適合していることは、「最低限の基準に適合している」というだけで、実際に建築できる建築物は、その地域の住民が守ってきた環境のルールに適合しなければなりません。しかし、開発業者は始めから、地元住民としても支持でき、市場でも受け入れられる建築計画を全く検討しようとせず、開発業者の既存の計画を現地に強行に実行しようとし、それが地元の住民と軋轢を起こしています。このような地域の靴(池上本門寺通りの環境)に収まらない足(本計画マンション)を無理に入れようとして、靴(池上本門寺通りの環境)を壊すような横暴な計画は地域にとって受容れ難いことです。

指定確認検査機関への指導
特定行政庁である大田区長は、指定確認検査機関を指導監督する立場にあります。法律違反と思われる確認が行われますと、それに対し納得できない住民は、やむを得ず、確認処分をした「指定確認検査機関」と、確認処分を追認した「特定行政庁・大田区長」を相手に、不服審査請求を大田区建築審査会に起こすことになります。建築工事をめぐっての建築紛争審査や紛争処理、損害に対する民事訴訟としての賠償請求や、さらには、行政処分に対する行政事件訴訟まで、地元は多くの紛争に振り回されることになります。それは大田区の調和を乱し、政治的な問題にも発展する危険性を孕んでいます。このような不毛の紛争に多大のエネルギーを費やすことがないようにしなければなりません。特定行政庁(大田区長)は、現在の段階で指定確認検査機関に対し、都市計画法と建築基準法の姉妹法の関係を理解し、確認審査に十分な時間をかけて、住民の提起した案に対し開発業者は住民に納得の行く説明をし、住民との合意の得られるような計画にしない限り、確認処分をしてはならないという指示(行政指導)をするべきです。

特定行政庁(大田区長)に採るべき行政
建築基準法上、指定確認検査機関による確認には、審査期間の定めはなく、地元住民と十分納得の行く協議を促すことを、建築基準法は否定してはいません。法律上、適法なものは確認しないわけにはいきませんが、本事例のように都市計画法との関係でみる限り、明らかに違法状態になっている計画であることから、特定行政庁・大田区長による指定確認検査機関に、「開発業者が地元住民との協議を続けること促す」ように指導することは行政庁の義務であり、建築基準法及び都市計画法の立法趣旨に適合しているものと確信しています。
(特定非営利活動法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷英世)



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