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メールマガジン第457号

掲載日2012 年 6 月 4 日

メールマガジン第457号’5月28日)
皆さんこんにちは!

資産価値形成を実現してきたガーデンシティの研修ツァー
5月18日から24日まで英国とドイツに住宅地経営の見学研修ツァーに出かけてきました。
このツァーの狙いは、「エベネツアー・ハワードのガーデンシティ理論が、優れた住宅資産形成にどのように成果を上げてきたか」という事実を確かめることでした。
研修は110年前の英国での最初の「ガーデンシティ」の開発(1900年)から、戦前のドイツでの「ガルテンシュタット」の開発(1920年)、さらに戦後のフライブルクにおけるBプランとコーポラティブによる環境都市(1990年)の新開発(リーゼルフェルト)と再開発(ヴォーバン)を見学しました。
それから米国でニューアーバニズムと呼ばれる「現代のガーデンシティ」運動が、英国に里帰りした取り組みが、英国の現代の条件下で、「アーバンビレッジ」運動として展開されている様子(2010年)を研修することでした。

チャールズ皇太子による「ビジョン・オブ・ブリティン」の実践開発「パウンドベリー」
英国皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)の領地(ダッチ・オブ・コーンウォール)は、ドルセット州ドルチェスター南端にある。ウエスト・ドルチェスター・ディストリクト・カウンシル(地方議会)は、この農業土地「パウンドベリー」を、1987年、地方の住宅需要に応えるため、都市開発地に選んだ。そして、プリンス・チャールスの都市論が、その地で実践されることになった。その都市論とは、1988年BBC放送で「ビジョン・オブ・ブリティン(邦訳:東京書籍「英国の未来像」)」として3日間にわたって取り上げられ、視聴者の99%がその主張を支持したものである。TV放映は同名の書籍として出版された。パウンドベリー開発は、そこで明らかにした「われわれが守るべき10の原則」を実践した事業である。いわば、開発事業主であるプリンス・チャールズの「われわれが守るべき10の原則」を計画条件とし、ニューアーバニスト、レオン・クリエが計画者・設計者として纏めた事業である。ウエスト・ドルチェスター地方政府も、事業計画を策定する際のシャレットに加わって実施した官民共同のニューアーバニズム事業なのである。

「われわれが守るべき10の原則」
1.    ザ・プレース(場所):風景を蹂躙するな。
2.    ヒエラルキー(序列):建築が自己を表現できなければ、建築物を理解することはできない。
3.    スケール(大きさ):小さいものほど、より多くをもたらす。多過ぎるのはよくない。
4.    ハーモニー(調和):聖歌隊とともに歌い(建築は讃美歌で)、そのリズムに逆らうな。
5.    エンクロージャー(囲い込み):子供等に遊び場を与え、風はどこか違う場所で吹かせよ。
6.    マテリアル(材料):材料は作るべきものに適したように使え。
7.    デコレーション(装飾):むき出しな外殻とせず、詳細な装飾を造れ。
8.    アート(芸術):ミケランジェロは、孤立する抽象彫刻を請負ったことはない。
9.    サインズ・アンド・ライツ(標識と照明):公共の場に粗悪な標識を置くな。
10.    コミュニテー(地縁共同体):住むべき人たちの意見を聴いて、住宅を建てよ。
(以上、10項目は、比喩的表現があり、解釈が難解なものもあります。)

「シーサイド」と「パウンドベリー」
プリンス・チャールズは、1888年のBBCで放映された「ビジョン・オブ・ブリテイン(英国の未来像)」では、著書の中の、TND開発事業・シーサイド(フロリダ)を紹介している。
この番組は、チャールズが戦後の機能主義という合理主義を背景にした1950-60年代の近代建築が地域の景観を破壊してきたことに疑問を感じ、70年代に入ってモダニズムに対する問題点を公式の場ではっきり批判をするようになっていった経緯を説明していた。
全く同じ時期に米国において、モダニズムと高速道路による郊外開発によるアーバニズムが、都市の個性の喪失とドーナツ化現象を生んだ。都心でも郊外部でも、住民の地域や地区への帰属意識が失われ、セキュリティの弱い都市が出現した。当初は、「合理的な機能や性能の良い都市づくりをすれば、優れた都市となる」という日本の大学で「現代でも推進している都市工学」優先の都市計画がやられてきた。しかし、都市を都市工学的優位性で造ることは、人間にとって豊かな都市を作ることにならないという事実が、1970年代までに確かめられた。
特に米国では、歴史的にセキュリテイの高い都市を実現するための調査が始まり、それは居住者が帰属意思のもてる、懐かしさを感じることのできる伝統的近隣住区開発(TND)であることが明らかにされた。その取り組みは、DPZ(アンドレス・ドゥアーニーとエリザベス・プラター・ザイバーグ)らによるマイアミ(フロリダ)を拠点とするアメリカ南部の都市調査に始まった。その調査結果をもとに最初に取り組まれたTNDがデベロッパー、ロバート・デービスによるDPZとレオン・クリエによるシーサイド(フロリダ)である。この開発計画をプリンス・チャールズが知り、彼自身が考えていた都市の考え方と共通する理解により、DPZとレオン・クリエをプリンス・チャールズの領地に招き、今回見学したパウンドベリーの計画が取り組まれた。

ニューアーバニズムとアーバンビレッジ
TND開発は、その後、全米各地で取り組まれた。アメリカンドリームを実現する「資産価値が形成できる住宅地」として各地で取り組まれたサステイナブルコミュニテイ、地球環境を取り入れたエコロジカルな(グリーン)開発に先駆的に取り組んだ計画者、設計者が中心になり新しい住宅地の取り組みの原則・「アワニーの原則」を纏めた。そして、その原則を展開する都市づくりの考え方や手法を「ニューアバニズム」として纏め、世界で展開することになった。英国のパウンドベリーでの街づくりは、ニューアーバニズムと基本的に同じ考え方である。プリンスチャールズはそれを「アーバン・ヴィレッジ」運動という形で取りまとめ、英国における国民の住宅により資産形成となる都市開発手法として展開してきた。
ニューアーバニズムでは、ジョルジュ・オースマンのパリ改造計画の考え方を明確にし、車と歩行者の関係を敢然と対立する交通手段として扱ったのに対し、アーバンビレッジは、事実上、車のスピードを人間の歩行者の行動を妨害できない程度に抑圧することが出来るならば、自動車交通が生活者を脅かさない時代に計画されたエベネッツアー・ハワードによるレッチワースガーデンシティのように、歩行者中心の歩車共存というT型フォードが登場する1920年代前の自動車と歩行者の関係として共存できると考えられている。
パウンドベリーの考え方は、ヨーロッパの既存市街地のように、自動車交通を消極的であるが受け入れている「ボンネルフ」と同じ考え方が採用されている。これは米国で最初に取り組まれたシーサイドにおいて、ロバート・デービスやDPZ,レオン・クリエらにより計画された道路の考え方は、「自動車の速度を安全とされる状態にまで確実に引き下げられるならば、歩車共存の道路を計画しても良い」として実施してきた。シーサイドやパウンドベリーを見る限り、自動車が歩行者空間に入っているが、「歩行者優先」を徹底的に実現している計画手法であるため、「歩車共用していても、歩行者の安全は第一にする」という仕組みに依存しているので、自動車が我が物顔に往来することを許すものではない。

フライブルクの環境都市の技法を取り入れた荻浦ガーデンサバーブ
フライブルクは、現在、世界で最も注目されている環境都市と呼ばれているが、そこには1920年代に開発されたガルテンシュタットという英国のガーデンシテイの街づくりの考え方を抜きにしては考えられない。緑と水と太陽をひとびとの生活空間に取り戻す取り組みが、フライブルクの既存市街地にも、ヴォーバン再開発にも、リーベルフェルトの新開発にも共通して取りいれられている。特に雨水を浸透する緑の大地と大きな樹木を住宅地に取り入れて炭酸同化作用と水の蒸散時に気化熱を奪うことにより、住宅地の気候を穏やかにする。現在、福岡県糸島市で㈱大建が取り組んでいる「荻浦ガーデンサバーブ」も、松尾社長自身がレッチワース・ガーデン・シテイやフライブルクの環境都市や米国の多くのニューアーバニズムプロジェクトをつぶさに調査研究し、取り組んだ事業である。特に、そこでは緑と水と土壌というエコロジカルな環境都市に倣って、ヒートアイランド現象と全く逆な環境形成の小さな取り組みが行われ、エアコンをつけなくても快適に生活できる住宅地環境づくりを目指している。

「荻浦ガーデンサバーブ」の現地訪問研修ツァーを6月中旬に実施する予定である。日本での取り組みと合わせて英国とドイツの研修ツァーを再度実施する必要があると考えている。
GKK・HICPMの研修ツァーは、基本的にオン・ザ・ジョブ・トレーニングである。実例の発する大きな情報をHICPMが情報、理論、調べた知識を持って現地で解説するもので、その技術を手に入れる力をつけるため、何度でも時間と経済が許す限り,出掛けることが、最も正しく技術移転を受けられることである。
物見遊山の観光旅行であれば、1回見れば様子が分ったつもりになり、驚くこともなく、それでよいかもしれないが、優れた住宅開発のノウハウを学ぶときには、実践できるようになるまで繰り返し訪問し、説明を聞き、資料を調べ、質問し、納得するまで研究することが必要である。
(特定非営利活動法人住宅生産性研究会理事長 戸谷英世)



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