メールマガジン

メールマガジン第465号

掲載日2012 年 7 月 23 日

メールマガジン第465号(7月23日)
皆さんこんにちは
アーバン・ヴィレッジ運動:パウンドベリー

7月18日に、今年5月に実施した英国ドイツの住宅地研修ツァー報告会を、20名弱の参加者を得て実施しました。このツァーでは、英国のチャールズ皇太子のパウンドベリー、ハワード、レッチワースガーデンシティ、ヘンリエッタ女史のハムステッドガーデンサバーブ、ドイツのフライブルクのガルテンシュタット、など現代のニューアーバニズムに繫がる住宅地開発を研修しました。その中心はチャールズ皇太子のパウンドベリーでした。

チャールス皇太子がコーンウォールにある約6千ヘクタール弱の領地内の160へクタールを使い、自著「英国の未来像(ヴィジョン・オブ・ブリテイン)」の中で明らかにした「私たちが守るべき10の原則」を実現したプロジェクトとして、世界中の街造り関係者から注目され、世界各地から見学者が後を絶たないというプロジェクトです。

HICPMが15年ほど前に学芸出版から刊行した「アメリカの住宅地開発」の中で、一緒に執筆編集をしたHICPM副理事長、故成瀬大治さんがこのパウンドベリーのことを書き入れ、二人で是非見たいプロジェクトだ、といっていたことを思い出します。この本は、戸谷・成瀬共著で絶版ですが、アマゾンの中古市場で手に入ると思います。綺麗な本は価格が10,000円とつりあがっています。この本の前身の原稿は、HICPMビルダーズマガジンに連載し、作成した冊子『資産形成のための住宅と住宅地造り』(¥2,000)は、目下、HICPMで販売中です。

皆さんに報告するための現地調査と調査報告会
今回の報告をした5月のツアーの参加者は5名しかなく、中止の惧れがありましたが、私が何とか実施できないかと考えていたことも考慮して、GKKの小林さんが実施に漕ぎ着けてくれました。世界が高い関心をもって見ているプロジェクトであり、チャールズ皇太子が先頭に立って進めているアーバンヴィレッジ運動の実践例です。2002年に着手され、2025年に完成する予定で進められています。

過去の経緯を考え、居住者に高い満足を与えることのできる、訪問する価値の高い事業と分かっていました。しかし、自分自身で確かめていない事業へ皆さんを無理にお誘いすることはできないと思い、HICPMの会員の方にも強くお誘いはしませんでした。私自身がよく見て、その成果を皆さんにお知らせしようと思い、現地での開発事業者による教室セミナーをしてもらい、現地ツァーに参加し、できるだけ沢山の写真撮影をしてきました。

結果から言いますと、期待以上に学ぶところが多い事業でした。世界各地からの見学者がやってきていて、もっと皆さんをお誘いしたらよかったと思いました。チャールズ皇太子の街造りに対する力をあらためて見せ付けられた思いです。今回のセミナーでは私のツアー報告と、参加者全員の研修報告と膨大な量の撮影した映像をCDにして配布しました。

英国の日本大使と『英国の未来像』
10年ほど前、英国政府からの招待で英国のブリック産業の調査に出掛けたことがありました。そのときはチャールズ皇太子がBBC放送で3日間にわたって放映した「英国の未来像」が日本語版も出ていて、それに感動していたときでしたので、皇太子の視点で英国の歴史文化を、レンガの街づくりの視点から見て回りました。そこで見てきた成果を、帰国後、英国大使館の報告会で発表する機会が与えられました。話は10分ぐらいということで話し始めました。

ところが、突然、英国の日本大使が私の話をさえぎり、流暢な日本語で、「ここに集まっている人の半分は英国人です。あなたの話を皆に聞かせたいので私が通訳をやってあげましょう」と通訳を買って出てくれました。私も嬉しくなって話を続けて、気が付いたら45分近く話しをいたしました。大使の通訳は非常に分かりやすい解説付きで、時間のたつのも忘れ、日英両国、100人以上集まった満員の会場も盛り上がり、参加者は大使が通訳をした私の報告に集中して聴いてくれました。

話が終わったとき、大使に「どうして通訳をしてくださったのですか。」とたずねますと、彼は「ヴィジョン・オブ・ブリティン」がBBC放送で放映されていた頃、チャールズ皇太子の書記官の地位にあり、この本の出版にも関係したため、本の話がこんな形で説明してくれるというハプニングに大変興奮したということでした。

『ウエラーストリートのコーポラテイヴ』
チャールズ皇太子は、住宅、建築、都市に関し高い造詣をもっておられる方です。皇太子は庶民住宅にも高い関心をもっておられました。サッチャー首相が英国の財政危機に直面したとき、公営住宅の払い下げを実施し、住宅政策が公共賃貸住宅から、家賃補助政策で民間住宅や新しいコーポラティブに移ろうとしていた時代でした。産業構造の変化によりリバプールの町が急激に衰退し始めていた頃でした。

サッチャー首相は、それまで英国の重厚長大産業を支えたリバプールを何とか立て直そうと、産業都市から、歴史文化記念都市に変えようとしていました。失業した労働者がストックコーポラティブ(住宅協同組合で住宅を保有し、組合員が入居できる)に取り組む模索をしていました。『ウエラーストリートのコーポラティヴ』という書物に纏められたリバプールでのコーポラティブは、国家財政に依存せず、居住者の主体性を生かした事業でした。当時、初めてのこのコーポラティブ事業のため、賃貸居住を希望する労働者たちが試行錯誤を繰り返しながら取り組んだ新しい住宅事業でした。この事業にチャールズ皇太子は関心を示し、事業を支援していました。

この事実を知って、当時住宅都市整備公団の職員3人でその本を翻訳し、横浜市の予算で発行しました。その思いもあり、英国に出かけこの翻訳したウエラーストリートのコーポラテイブがどのようになったのかを現地に出かけ確かめに行きました。チャールズ皇太子が事業を支援したことも影響し、居住者のニーズを発展させた住民の主体性が発揮されたとてもよい住宅地経営がされていました。

賃貸住宅居住を望む人たちが集まり、協同組合(コーポラティヴ:組合法人)がモーゲージを組み「持ち家」を造ります。その後、その「持ち家」をコーポラティヴの組合員に「賃貸住宅という形式」で利用してもらうという日本にはない形式です。この事業はこの地域に根を張ってどんどん企業を拡大していました。その計画にも空間の形成に、ヴィジョン・オブ・ブリテインの『10の原則』考え方が大きく影響していました。

チャールス皇太子の住宅、都市、建築空間の視点
チャールズ皇太子は、水彩画にも造詣が深く、自作品の展覧会を開催するくらい社会的に評価をされた人です。街の景観を歴史文化の空間という4次元の視点で見てきた方です。歴史という流れの中で、人々は過去のよい歴史文化を未来の子孫たちに伝承することこそ、現代に生きる人たちのするべき役割であるといっておられます。「10の原則」はその点を明らかにしたものでした。

都市、建築、住宅は生活文化を豊かにするための空間です。チャールズ皇太子は、人間の生活空間を文化空間として捉え、人文科学(ヒューマニティ)の問題として造り、管理運営するべきことを主張しておられます。日本のように都市、建築、住宅空間を工学(エンジニアリング)の問題に矮小化している国とは基本的に違います。

私は住宅問題を住居費負担という社会科学の視点で取り組み始めました。大学や社会では安全や衛生という自然科学の問題として住宅を教育してきました。確かに住宅や、都市、建築には工学や社会科学の問題として取り組む視点であります。

住宅・都市・建築の中心問題は、豊かな生活文化という人文科学の問題です。それはチャールズ皇太子の視点を明確にするものでした。今回、パウンドベリーの報告会はそこに重点を置着、住宅・都市・建築を理解してもらおうとして実施したものです。パウンドベリーに多くの方が関心をもち、国民の利益を増進しようとするアーバンヴィレッジに、より多くの人が関心をもってくれることを願っています。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷英世)



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