メールマガジン

HICPMメールマガジン第498号

掲載日2013 年 3 月 15 日

HICPMメールマガジン第498号(平成25年3月18日分)
皆さんこんにちは
ニューアーバニズムによる住宅地

米国で取り組まれているニューアーバニズムによる住宅地が、福岡県糸島市で実施されてきました。
その物造りとしての半地階の未仕上げ空間計画(ハード)と住宅購入者の収益を生む空間利用(ソフト)との歯車がうまく絡んでいなかった訳を発見することができました。目下、その改良に取り組んでいます。すでに前回のメールマガジンで現地での検討を含め基本的なことをお話してきましたが、この改良を実現するためには、ニューアーバニズムの基本的考え方を理解することが不可欠になります。

ミックスドハウジングとミックスドユース
ニューアーバニズムの理論は、長い歴史を経た優れた住宅地での人々の生活を調査分析し、約30年に亘る調査と試行錯誤を重ねて形成された理論と実践の計画指針です。この理論は、人びとが高い帰属意識を抱いている住宅地(計画的につくられた住宅地だけではなく、自然発生的につくられた住宅地)を調査研究し、その実例の中から帰納的な方法で見つけ出した「資産形成が増進できている住宅地」の造り方です。ニューアーバニズムのモデルになった住宅地には、ライフステージも、所得も、職業も、家族構成も多様な人びとが、その違いをお互いに尊重しあって生活している街でした。
その街には大きなスーパーやファミリーレストランはありません。基本的には専用住宅に混じって日常生活に必要な店舗が兼用住宅としてつくられている住宅地(ミックスドユ―ス)です。住宅には戸建て独立住宅もありますが、その建て方は隣地境界線に接して建てられる戸建てアタッチドハウス(連続住宅)が中心です。持ち家も賃貸住宅も下宿も混在してある(ミックスドハウジング)住宅地です。ニューアーバニズムによる住宅地はこの原則を、社会のニーズと住宅地の立地にあわせて計画します。

現代の最大の関心事:高い住居費負担の軽減
現代の先進工業国は、失業者が増大し、賃金が下落していく社会です。その社会において、人びとの将来の生活に基盤として、資産形成が実現できる住宅を造るための住宅地を実現しようと、㈱大建が、糸島市でニューアーバニズムの理論で開発している住宅地が、「荻浦ガーデンサバーブ」です。そこではリースホールドにより、先ず住宅購入者の地価負担をなくし、さらに、借地・地代負担を軽減するため、低層高密度の独立住宅を専用宅地の上に隣地境界線に接して建築しました。
ニューアーバニズムの住宅地計画は、太陽と緑と水を取り入れたエコロジカルで高気密、高断熱な住宅地で、耐震や防耐火や犯罪(セキュリティ)に対して安全な住宅地全体として計画したもので、イニシアルコストもランニングコストも最小にするように計画されました。そのため、TVや雑誌から多数の関心を寄せられ、正に「現在の社会が実現してもらいたい」というテーマに真正面からとき組んだ話題性(トピカル)に富んだ事業として、多数の人たちが見学にやってこられました。
それでも150㎡程度の床面積の高品質な住宅(1800万円)を、年収の3倍以内の住宅価格で供給するためには、所得としても年収600万円以上であることが必要でした。現在年収600万円以上を将来的にも確実に得られる世帯はそんなに沢山はいません。そこでこれらの住宅では、ニューアーバニズムの計画論に従ってミックスドハウジングとミックスドユースを持ち込んで、ダブルインカムを実現する方法として自由に利用できる空間を各住宅の中、に約50㎡を準備しました。

成約を妨害する悪循環
この住宅を購入したいと考えて来られた人も延べ人数で、約1、200世帯にもなりました。しかし、18戸の募集に対して、成約に至った世帯は現段階で4世帯、成約直前の世帯が4世帯ありますが、成約は期待したとおりに早く進んではいません。商談中の世帯は60世帯以上あります。何故成約にいたらないかということを分析してみるとダブルインカムを得るために用意した50㎡の空間を利用して収入を得る方法が具体性を持って想像できないためです。
将来的にはホームオフイス、塾、習い事教室、日洋雑貨店、食品店、パソコン教室、音楽教室、英語教室、踊りやフィットネス教室、画廊、コンサート室などいろいろ計画できますが、現在の住宅を探している方々が、入居時点からダブルインカムの空間として住宅を使うほど計画が具体的にはありません。
そこでとりあえずの利用方法の決まっていない空間の活用として、メディアルーム、書斎、子どもの遊び部屋、ホームシアター、音楽室など娯楽や、ゆとりを拡大する空間として使おうとしますと、その整備程度によりますが、50㎡もありますから、内装工事で200万円から、トイレやキッチンといった水回りも整備すれば、400万円くらいの費用が加算されます。
もともと年収の3倍で購入しようとする住宅が、収入がない空間に使うために、内装や設備工事をすれば、逆に、ローン支払い価格が増えてしまいます。収入が増えないのに工事費が加算される訳ですから、ローン負担ができなくなって、それが成約を遅らせる結果になっていたと考えられます。

住宅環境
米国のワシントンDCのジョージタウンに相当する隣接するメリーランドの高級郊外住宅地ケントランドは、ニューアーバニズムによる住宅地開発です。そこの住宅も全体の45%程度にはスタジオと呼ばれるワンルームアパートを併設しています。その理由は住宅購入者のローン返済を楽にするためです。
シアトルでは単身者は社会全体の70%以上になっています。以前は戸建て住宅には1戸しかアパートは許されていませんでした。しかし、現在は時代の要請を反映して、4戸程度までのアパートを併設できるようになってます。いずれもニューアーバニズムによる住宅地開発として、多様な人たちが戸建て住宅地のアパートで生活することにより、アパート居住者は所得が低くても豊かな住宅地に安い家賃で生活でき、住宅を購入して住宅ローン負担が重い人はアパート経営をし、軽い負担で住宅を所有することができます。店子のアパート居住者にも、家主にも経済的に豊かな生活を実現しています。
この傾向は日本でも基本的に米国と同じ環境にあり、「アパート付き持家建設」が、最近の住宅建設の一つの傾向になっています。そこで荻浦ガーデンサバーブでは、開発の最初から、その住宅購入者がアパート経営できるよう、住宅購入者の所得を生み出す空間を供給できる住宅として建設してきました。特に九州大学が糸島市に移転してきているので、学生や教職員を相手に計画を進めることにしました。
しかし、大学関係者と接触すれば大学関係者のニーズが上がってくると思っていたのですが、具体的ニーズには今までのところ結びついていません。それは大学生や関係者には、アパートを利用者として選択する関心はあっても、自らアパートを計画することにたいする関心はありませんでした。

具体的な取り組み:アパート付き持家
これまで住宅を供給する側の立場では、アパート需要があれば、ダブルインカムの方便としてアパート経営も考えますという受け身な立場で臨んできました。そこにはアパート経営をするという積極的な姿勢は、住宅購入しようとする者にも、住宅供給業者㈱大建にもありません。そこでアパート経営という可能性は、可能性以上には具体的には進みませんでした。アパート経営の取り組みは、そこに入居する学生の立場で計画する必要があることに気が付いたわけです。
ニーズがあるところにはビジネスが生まれます。ニーズは実現可能性が高くならないと希望でとどまり、ニーズにはなりません。ビジネスは実現可能性に支えられて事業ニーズになります。需要者が既存のマーケットでは得られない好条件でモノやサービスを提供するとき、社会的ニーズとして顕在化し、事業として確実に受け止めることができます。
米国では、新事業は既存マーケットの価格の80%以上安い条件を提供できれば、事業として顧客満足を得ることができるといわれてきました。1999年当時、HICPMが取り組んだサステイナブルハウスでは、「130㎡以上の住宅は、1、300万円以上でしか供給できない社会環境でしたので、サステイナブルハウスの販売価格を、1、000万円を切って供給するシステムを開発しました。その工法が『日経アーキテクチュアー』読者の投票で第6位の評価を得たことで、全国で約1000戸程度建設されました。それを「荻浦ガーデンサバーブ」でも展開してみようと考えました。

最終需要者に目を当てる取り組み
アパート経営をまず成功させるために、居住者のニーズを的確に把握する必要があります。この場合にも、市場の価格の80%以下でアパートを供給することが事業を成功に導くことになります。学生を入居者とする場合、現在の学生の置かれた環境を考える必要があります。親の世代の所得が厳しくなっているうえに、学生自身のアルバイト環境が厳しくなっています。所得が少なければ、食事を抜き、お金を掛けない食事になり、健康を害します。学生の立場で考えるとき、寝泊りができ、一日に一食は確実に得られる「B&B下宿」も、これからの選択肢になると思いました。
わたくし自身、国家公務員上級職甲というキャリアー官僚として採用された上京したときの給与は、1カ月1万4、200円に初任給調整手当2,500円を加算して1万6、700円でした。住宅以上の悪い東京で、1カ月、「朝食込み6,500円の下宿」を見つけてほっとしたことを覚えています。残りの1万円で交通費、昼夜の食事を役所の食堂で賄うと、後は、数冊の本と雑誌と新聞を買うだけで、余裕はありませんでしたが、衣食住の生活は確保され、仕事に邁進できました。
学生に荻浦ガーデンサバーブのような優れた環境に住宅を、親からの仕送りの範囲で供給することは、糸島市の住宅産業に関係する業者として取り組むべき課題と思っています。学生たちはこの周辺の子供たちの家庭教師やコモンハウスで安い授業料で塾をやれば、地域の教育にも寄与し、その所得が下宿代になり、その下宿代が住宅所有者のローン返済になるという「御あしの循環効用」が生まれることになるのです。シェアーリビングで1カ月3万円以下で供給する下宿は、学生にとって福音です
実はこの効用こそ、ニューアーバニズムによる街づくりの経営効果なのです。ローカルマネーの働きと同じことです。この考え方は、㈱大建の当初からのニューアーバニズムの考えで、ハードな計画と一貫しているソフトな経営で、うまく実行されると思っています。この方式は、㈱大建の試行錯誤を経て展開されることになります。「アパート付き持家取得」という荻浦ガーデンサバ-ブの新しい住宅供給のシステムは、地場の宅地建物協会の協力を得て、新しい住宅供給の途を拓いてくれるものと思います。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)



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