戸谷の言いたい放題

都市再生とマンション建て替え円滑化法

掲載日2013 年 10 月 31 日

都市再生とマンション建て替え事業の要約

小泉竹中内閣がバブル経済崩壊後、企業が抱える「不良債権」を「良債権」に転換させる方法として都市再生事業という土地利用計画の「贋金づくり」が取り組まれた。

その基本となる事業法の一つマンション建て替え円滑化法(以下「円滑化法」という。)である。同法及び円滑化法制定に伴い関連改正された平成14年建物区分所有法に基づき実施された多摩ニュータウン諏訪2丁目住宅管理組合(以下「諏訪組合」という。)が行った640戸のマンション建て替え事業は、そこに住み続けたいというマンション所有者を、立川地方裁判所の執行吏が平成22年8月の真夏日に暴力的に自宅マンションから叩き出し、10日間の野宿を余儀なくされた。

しかし、法務局も多摩市も裁判所の行った行為に救済はできないと放置した。諏訪組合の違法な建て替え事業は、東京都及び多摩市が円滑化法を監督している下で行われた事業である。そこで本事業の被害者が、憲法及び円滑化法違反のマンション建て替え事業に対し提起した行政事件訴訟の中で、東京高等裁判所が控訴審判決で示した法律解釈は、憲法第29条第2項違反にしたものになる。

本論文は、被害を受けたマンションの区分所有者の立場から、違法になされた建て替え事業と不正を幇助してきた行政庁(東京都及び多摩市)、並びに違法な事業を教唆してきた国土交通省とその違法性を容認した裁判所の政治に迎合してきた実態の分析を通して、経済主義に偏重したわが国の護送船団の問題を明らかにした。

1.円滑化法と「マニュアル」との関係
平成14年までの、マンション建て替えを強制事業として実施できた法律上の根拠は、昭和58年建物区分所有法である。同法は、構造耐力的に危険である緊急性に対する公共性を根拠に、区分所有者の絶対過半数(5分の4以上)の賛成を条件に強制建て替え事業が認められていた。

一方、円滑化法はそれまでの憲法第29条の解釈、即ち、「経済的利益追求のために私有財産権の侵害はできない。」を変更し、小泉内閣の経済主義優先の都市再生事業の一環として、専ら経済的利益を求める建て替え事業であれば、その事業自体に社会性があり、公共性が認められるとし、円滑化法第4条基本方針で定める「区分所有者の建て替えに向けての合意形成」の手続きを経た場合には、公共性が認められ、強制建て替え事業を実施できる法律とした。

同法の国会審議において、公共性を付与する根拠となる円滑化法第4条基本方針の内容を具体的な手続(羈束行為)として定めなければ、「私有財産権の保障」を定めた憲法第29条第2項に抵触することが指摘され、円滑化法を施行する国土交通省に対し、円滑化法第4条の法律内容を「マンションの建て替えに向けての合意形成のためのマニュアル」(以下「マニュアル」という。)を作成し、具体的手順を解説することになった。この「マニュアル」は、制定当時から、内閣法制局の有権解釈や判例同様、「円滑化法そのもの」で、法律と同じ効力があると説明してきた。

2.「マニュアル」で定めた二つの決議
円滑化法では、強制権を付与された事業が十分の準備がされないため、中途で事業が中止や変更がないように、「マニュアル」で定めた強制事業とする以下の「2つの節目の決議」を絶対過半数(5分の4以上)で行うことを羈束条件に、区分所有者の合意形成を積み上げることを定めた。

(1)    マンション建て替え事業を実施しようとする区分所有者が建て替えを発意し、受託管理組合が自らの費用で「マニュアル」で定める検討を行い、それを基に、区分所有者全員を強制して、建て替え事業に絞って調査設計を実施する決議:「建て替え推進決議」をおこなう。この決議を根拠に、「優良建築物等整備事業補助金(国庫補助率3分の2)」による国庫補助金が交付され、建て替え事業の調査設計を行う。

(2)    区分所有者の合意を反映した(1)で取りまとめた建て替え事業の調査設計をもとに建て替え事業を、区分所有者全員を強制して実施する意思決定をする「建て替え決議」を行なう。「建て替え決議」を根拠に、東京都知事は強制事業権を持つ建て替え事業組合を認可する。「マニュアル」で定められた「建て替え決議」は、円滑化法関連改正された昭和14年建物区分所有法第62条で定める「建て替え決議」の定義を関連改正したものである。

3.本事件の発端・推移・結果
(1)上記2(1)の優良権築物等整備事業補助金を交付した国土交通省住宅局井上俊之市街地住宅整備室長が、マンション建て替え事業を拡大する目的で、「諏訪組合」及び多摩市に対し、「マニュアル」に定めた手続きを実施しないでも、諏訪組合が「建て替え推進決議」という名称の総会決議をすれば、国庫補助金を交付するという違法な行政指示を与えた。その指示を受けて諏訪組合は多摩市と共謀して国庫補助金等適正化法に違反して国庫補助金を不正に申請し、諏訪組合は補助金を建て替え反対者の切り崩しなどに不正使用した。

(2)諏訪組合が国庫補助金を受けて、コンサルタンと旭化成ホームズ㈱により取りまとめられた建て替え事業計画は、80%以上の賛成がなければ、強制事業としての建て替え事業はできない。しかし、区分所有者の30%以上が不支持の意向を示した。諏訪組合ではその建て替え事業計画では「建て替え決議」は不可能であると判断した。しかも国庫補助金の不正申請、不正使用をしたことが明らかになると国庫補助金返還をしなければならないため、補助金を受けた調査設計事業そのものを反故にした。

(3)    諏訪組合は建て替え事業を実施するために、建て替え事業計画が存在しないのに建て替え事業者を選考する「事業者選考コンペ」により選ばれた事業者が建て替え事業ができるという円滑化法に存在しない方法で、事業者選考を実施し、予定した東京建物㈱に「500万円の移転補償費の支給」という条件を提示させ選考させた。その業者選考完了後、東京建物㈱は諏訪組合と謀議していたとおり、経営不良を口実に「500万円の移転補償金」の支給を行わない旨、組合員に通知した。

(4)組合員が怯んだ隙を見て、諏訪組合は昭和58年建物区分所有法第62条に基づく「建て替え決議」を実施し、それが平成14年改正建物区分所有法第62条の改正「建て替え決議」と条文の文言と同じであるから、有効であるとして、円滑化法第9条に基づく強制事業権を持つ建て替え組合の認可を東京都知事に申請し、東京都知事は組合認可をした。

(5)建て替え事業の被害者・組合員は、この一連の法律違反を無効であると訴えた。諏訪組合は国庫補助金の不正申請の指摘に対し、その犯罪を教唆した共同正犯である国土交通省住宅局市街地住宅整備室長が「マヌュアルは、指針であって、法律ではないから拘束されない」と違法な指導をした。それを受け東京都知事、多摩市長も、諏訪組合同様の違法な主張を繰り返してきた。

(6)本事件控訴審(東京高等裁判所)判決は、ダーティハンドの官僚が苦し紛れに口にした法律違反の言い訳(上記(5))に迎合することであった。控訴審判決は政治に迎合し、行政を敵に回して、行政処分を違法と裁けない司法の行政法知識の欠如を覆い隠そうとしたものである。しかし、控訴審判決を適法であるとしたら、円滑化法の強制権の根拠は消滅し、円滑化法及び平成14年建物区分所有法はいずれも憲法違反にならざるを得ない。

(7)仮に控訴審判決が正しくて、「マニュアル」が指針であったとしても、諏訪組合が二つの決議で、「マニュアル」に定めた実体が存在しないにもかかわらず、「マニュアル」に適合したとして、国庫補助金を不正に申請し、及び、建て替え組合の認可申請を不正に申請した詐欺を行った事実に変わりはなく、詐欺の事業による処分は無効にされなければならない。

4.本論文の構成と結論
本論文は、基本的に、マンション建て替え事業が法律に違反して進められた事件の推移を追跡したものである。諏訪組合が、小泉・竹中政権が目指した「土地の錬金術」で「不良債権」を「良債権」に転換する都市再生事業を実施してきたことに対し、国を挙げて、公共性を認めてきた筋書きの中で、行政権が違法な財政支出をし、違法な事業を幇助し容認し、行政の違法性を問うた国民に対し、司法は行政の言いなりの判決しか書けなかった。この行政事件となった事例を分析し、法律の理論に照らして問題点を明らかにしたものである。

日本国憲法はすべての実体法の根拠になるものであるが、本論文で取り扱った諏訪組合のマンション建て替え事件は、その憲法解釈が「不動産による贋金づくり」をさらに逸脱して実施されているが、このように行き過ぎた法律を、さらに逸脱した法律施行(行政)と、それに制御を掛けられない司法により、国民の基本的人権が歪められている実態を国民が容認してもよいのかということを問題にするものである。
以上。


小泉・竹中内閣の規制緩和策の要(かなめ)
「都市再生とマンション建て替え事業」

はじめに

(1)「都市再生」・「規制緩和」という現代の「贋金づくり」
1985年9月「プラザ合意」にはじまった日本のバブル経済が1989年に最高株価(日経平均株価38、915円)を記録してから、日銀の金融引き締めによりバブル経済は崩壊し、その後、20年以上景気が低迷し「不毛の20年」と言われてきた。バブル崩壊で資金が不足した企業はハード・ランディングを余儀なくされたが、資金的に余裕のある企業は、帳簿上の高い地価を前提に、金融機関に借入金の金利だけを支払い、形式上の担保金融を維持してきた。それらの優良企業では土地担保借入金の返済凍結と金利払いが企業経営を圧迫してきた。高地価を顕在化できない土地は市場に供給できず、凍結を余儀なくされてきた。それが企業経営を悪化させ、「不毛の20年」の原因をつくってきた。

利用できない土地を利用できるようにするため、バブル経済崩壊後の支払い能力の縮小した不動産購買力に見合った不動産価格で不動産販売を行い、その不動産販売額の合計がバブル時代の高額な不動産価格にならないようにする政策が、小泉・竹中の経済政策・「規制緩和」であった。その解決方法は不動産販売価格を市場価格まで下げるが、土地の販売総額は高地価時の地価総額を維持する。その矛盾を解決する方法は、高層高密度開発により販売不動産量を法定建築床面積の何倍にも拡大する方法しかない。小泉・竹中内閣が取り組んだ規制緩和がその不可能を可能にした「贋金づくり」の錬金術であった。

都市計画は「100年の計」とも言われているように、将来永久に変えることのない人々にとって住みやすい美しい都市空間利用を計画し、マスタープランと呼ばれる都市計画(「法定都市計画」という。)とおりに都市基盤を整備するとともに、マスタープランを実現するアーキテクチュラルガイドライン(建築設計指針:建築基準法第3章規定)により建築物を建築し、維持管理する都市経営により都市を計画とおりに熟成させる。人びとは都市計画が計画とおりつくられていくから、都市計画決定は公共性が高い計画規制として、法定都市計画は公共性があり、強制的に遵守することが義務付けられている。

道路、公園、下水道等の都市施設、学校等教育施設、医療福祉施設、商業・娯楽・利便施設等のすべてが都市のマスタープランの中で調和するように計画され法定都市計画(マスタープラン)として都市計画決定され、都市施設の整備は強制事業として行われる。憲法第29条で私有財産権の保障が定められ、資本主義による自由主義経済の国では民法の規定のとおり、「土地の権利はその上下に及ぶ」と古代ローマの法律と同じ文言で保障されているが、公共性実現の事業には従うべきことが定められている。

私敵に所有される土地の上下の空間では、太陽光、風、水(雨)、光、音、自然の鳥、虫、含む動植物のすべて森羅万象が敷地境界線に縛られることなく自由に移動し、都市空間はまさに社会的・公共的に土地に縛られていない。土地の私的所有にもかかわらず、土地の利用は社会的であるため、その矛盾を調整するために、都市では都市計画区域に関し土地所有者の排他独占的な土地利用内容を都市計画として決めることが、近代都市計画として実施されることになった。土地利用規制の中には形態規制もあれば、建ぺい率や容積率のような空間利用比率や建築物用途のような利用内容も含まれる。
法定都市計画(マスタープラン)は都市計画法で定められた法手続きに従って市民の合意により決められるものであるから、一旦決められた法定都市計画は都市住民の合意なしに勝手に変更することは許されない。金本位制による通貨は金の含有量を厳密に決めないといけないことに例えることができる。決められた金の含有量が支配者の手で勝手に変えられると経済活動が変調をきたす。法定都市計画とは都市施設とバランスした土地利用計画(金の含有量)を都市計画区域住民の総意で決めることである。

(2)小泉・竹中内閣により「規制緩和」の本質
都市計画の場合も同じである。第1種低層住居専用地域には人口密度が低いので、発生交通量が少ないから幅員4メートル以下の道路でよくても、そこに高層建築物が建てられると道路に渋滞が発生するだけではなく緊急車両の通行ができなくなる。小泉・竹中内閣が実施した規制緩和は、都市施設や学校教育施設、医療厚生施設に見合わない巨大なマンションの建設を規制緩和の下に実施したため、道路交通量が道路幅員を逸脱し交通渋滞を生み、下水道があふれ、学校や医療・福祉施設が不足し、新しく生活した人だけではなく、それまで住んでいた人たちの生活も大きなしわ寄せを受けることになった。

1968年に英国の都市農村計画法に倣って新規立法された都市計画法では、「都市施設整備が対応できない開発行為は行ってはならない。」と開発許可制度が設けられた。しかし、小泉・竹中内閣は開発許可制度を一挙に骨抜きにし、都市計画法と建築基準法とが「姉妹法の関係」によりマスタープランと建築規制という一対の役割を果たしていた関係を切り離し、それぞれの規制緩和を法律改正や行政運用で緩和させてきた。その総てが矛盾した状態で都市再生と呼ばれる小泉竹中内閣のもとで行われた。

先進工業国の都市計画では土地利用の詳細な計画を定め、土地所有者の排他独占的に利用できる空間利用を3次元的に制限している。日本もドイツの例に倣い地区計画制度を導入したが、「規制緩和」はその趣旨に逆行したものである。都市計画区域の中の土地を最高高さの制限を取っ払って利用する横暴や、既存の法定都市計画で決められた法定容積率を用途地域と一体の規制として、何倍にも高く定めることが当然のように行われた。その結果、それまで建築物の高さや容積制限を受けてきた法定都市計画を遵守してきた人びとの都市空間が、突然、道路への採光通風を配慮して高さと容積が制限撤廃されることになり、狭い道路には大気汚染と自動車交通の渋滞が始まり、日陰が街を覆い、日射は失われ、眺望はさえぎられ、ヒューマンな都市空間が破壊されることになった。

当然、それまでの法定都市計画に従って建築し生活してきた人たちの既得権は侵害され、日照・日射、空気や風、眺望や景観、都市施設、医療福祉施設、教育文化施設等の利用に大きな支障を受けることになった。つまり、土地利用に関し当初決定された法定都市計画を信じてきた市民に規制緩和により、当初都市計画決定をした都市施設と対応した法定都市計画ではない「贋の土地利用計画」をお仕着せられたことになる。まさに、過去の都市計画環境を持たない「贋金づくり」である。

第一章「諏訪組合」によるマンション建て替え事業の概要

(1)高度成長化の住宅政策の残照
多摩ニュウータウンに日本住宅公団が1970年代に建設した諏訪2丁目住宅団地は、法定都市計画は、建ぺい率50%、容積率100%、高さ制限20mで、都市計画法による「一団地の住宅施設」が定められていた。そこに建てられた分譲マンションは建ぺい率10%、実容積率100%の鉄筋コンクリート造5階建、総戸数640戸(1戸当たり床面積45㎡)の大規模住宅団地であった。建設後団地内の樹木は大きく育ち鬱蒼とした森・歴史を感じる環境を形成してきた。
1970年当時、働き盛りの勤労者のために建設した住宅団地は子育て中の人たちが対象で、団地は子どもたちが一杯で賑わっていた。その子供たちが巣立った後には老親だけが残され、又は、成人した子供たちと同居するため引っ越し、空家は単身世帯や賃貸住宅に利用され、建設当時の勤労者階層の住宅地とは様変わりしていった。多くの小中学校は廃校となり、近隣商店街はシャッター街になった。遊園地からは子供の姿が消え、老人たちが静かに生活をしている住宅地になった。

この住宅団地には入居当初から終の棲家として住宅を購入した人や、子どもたちが巣立った後、マンションのローンを支払い終え、月額7、000円程度の住宅団地管理費と年間2万円程度の固定資産税、都市計画税だけの住居費負担で足りる住宅費の安さで定住している人が多かった。この団地は交通の便もよく、店舗や文化施設が利用しやすい緑豊かな公園のような住宅地であったので、特に所得の増大を見込めない年金生活者にとって、少ない家計費負担で誰にも依存せず、自立して住みなれた人たちと安心して住める「終の棲家」として、安心して生活をしていた。

(2)狙われた再開発利益
この団地は駅に一番近く、相模原線〈京王線〉永山の駅から5分から15分以内の位置にある。そのため、1985年頃からマンション建て替え対象地として多くのマンション業者やデベロッパーが建て替えの話を持ち込んできた。この住宅団地の居住者の一部も建て替え事業を実施することで期待される再開発利益を求めてマンション建て替えを実施しようと組合員に働きかけ、何度も組合員の意識を高めるための任意の「建て替え決議」を実施してきたが、具体的事業に進むことがなかった。

ところがマンション建て替え事業は、全国的に公共住宅経営が終始アンバランスで事業主体の経営を悪化させていることから、財務省や総務省の財政上の視点から建て替え事業が強く求められていた。しかし、憲法第29条(私有財産権の保障)の関係で、私的利益のために他人を犠牲にすることはできないので、「マンション建て替えは、マンション所有者全員の合意が必要」という大きな障壁に突き当たっていた。その後、十勝沖地震の鉄筋コンクリート短柱の座屈や、耐震技術(新耐震設計法)の発展と、既存鉄筋コンクリート造でアルカリ骨材、海砂、海砂利使用コンクリートの問題から、鉄筋コンクリート造の安全性に問題が指摘されることになった。そして昭和58年には構造耐力的に危険性が認められるマンションに対する緊急的対応として、修繕か、建て替えかの2者択一の選択に当たり、区分所有者の絶対過半数(5分の4以上)の賛成があった場合には、強制権をもって建て替え事業を実施できるように建物区分所有法の改正が行われた。

区分所有法のマンション建て替え条項の改正は、マンション自体が構造耐力的に危険で、安全が脅かされている状態にはないマンションに対して、建て替えの口実を与えるように運用された。実際の取り組事例はほとんどがマンション建て替えにより高騰した地価を顕在化させ、経済的利益を手にしようとするものであった。昭和58年の区分所有法の改正後、建て替えの口実を得るために、マンションの劣化診断や耐震診断が多数実施されてきたが、少なくとも建築基準法第9条を根拠に、特定行政庁が危険性を理由にして強制的に除却又は改修を命じなければならない事態にあるものはなかった。

(3)経済的利益追求の隠れ蓑
マンションの劣化・耐震診断は建て替え事業推進を前提に、専ら、マンション所有者や建設業者の経済的利益追求を実現する環境条件づくりとして耐震・劣化診断等の結果が使われてきた。そのため、裁判で診断自体の適正が争われることになった。耐震・劣化診断自体に明確な判断基準がなく、行政が進める耐震安全性の向上という枠組みの中で建て替えを支持するものであった。その建て替えに向けての診断に裁判官が迎合し、安全性を高めるという大義名分の下で、建て替え反対者の訴えは否定されてきた。耐震・劣化診断を口実に建築後30年程度のものにまで「構造安全性」を理由に建て替えさせることを容認する国の異常なマンション建て替え政策が進み、危険でもないマンションを危険と判断して建て替えるマンション行政の異常さを司法が追認する裁判の異常さが限界に来ていた。

特に阪神大震災で構造的に危険なマンションや経済的に不良なマンションが生まれ、これらの不良な不動産を担保とした不良債権問題を解決するためにも、潜在地価を顕在化させるマンション建て替えを一般的に可能とする法律の整備が求められた。そこで取り上げられた法律がマンション建て替え円滑化法(以下「円滑化法」という。)である。円滑化法はマンションの物理的な危険性やその危険性を排除する必要性に、緊急性があると判断されなくても、経済的利益を追求するマンション所有者の絶対過半数(5分の4)以上の区分所有者が賛成があれば、経済再建・社会的な利益のために大多数の区分所有者の合意により少数の反対を従わせてよい、という非常に単純明快な結論が、円滑化法を制定させた。

(3)マンション建て替え円滑化法
そこで新規に立法された円滑化法では、マンションの老朽化、構造安全診断条件を一切外し、経済的利益追求のためにマンション建て替え事業が実施できることにした。その代り、円滑化法第4条に基本方針を定め、区分所有者の合意形成の手続きを「マンションの建て替えに向けた合意形成に関するマニュアル」(以下「マニュアル」という。)を国土交通省が法律条文の解説として定めた。

マニュアルでは、建て替え事業の取り組の始まりから建て替え工事に着手するまでを14段階の手順として分解し、建て替え事業計画として設計段階に入る段階と、設計段階から工事段階に入る段階の2つの節目で、マニュアルで定める作業結果を基に絶対過半数の賛成という決議(「建て替え推進決議」及び「建て替え決議」)を定め、その決議を前提に都知事が建て替え組合に強制事業権を付与する制度としてつくられた。

円滑化法の施行と並行して小泉・竹中内閣により、都市計画法及び建築基準法の「規制緩和」が行われ、それに対応する形で、この団地に定められている法定都市計画用途地域は第2種中高層住居専用地域(建蔽率60%、容積率200%)、建築物の高さ制限なしに緩和され、一団地住宅施設が取り消された。敷地の上空空間は無限大に利用できるため、容積率を法定制限一杯使っても十分な隣棟間隔が維持でき、超高層住宅として優れた環境の住宅を提供できることになった。

諏訪団地の場合、既存の住宅所有者にそれまでのマンションと同様な容積空間のマンションを提供するとすれば、4倍もの空間をつくることができる。そのため、既存のマンションにとって必要とされた土地の3倍分が建て替え事業者の建て替え利益になった。既存のマンション所有者の土地建物の市場評価は、マンションを取り壊した更地の評価額と同じとされ、それが一戸当たり、1、500万円とされた。区分所有者には従前の床面積と同じ面積のマンションを代償として与えたことから、既存の9億6千万円の資産が、建て替えにより、4倍とすれば全体で38億4千万円の資産に増大したことになる。

日本の土地価格は欧米の土地価格と違って市場価格を反映しないだけではなく、固定資産税及び都市計画税とも直接対応していない。それ以前に土地と建築物とは独立した不動産であると社会科学的にはありえない扱いを民法で定め、不動産鑑定制度は日本以外から見れば出鱈目な評価を行ってきた。金融機関の土地担保評価は融資判断が先にあって、それに見合った担保評価をするかなり恣意的なものである。

建築物の評価を償却資産扱いにし、残存価値評価であると扱った。償却資産の扱いは税法または会計法上の扱いに過ぎず、不動産の価値を償却資産扱いすることに科学的根拠はないし、そのようなべら棒な評価をしている国は世界中に日本しかない。バブル経済が崩壊したときも資金的余裕があり利息の支払いがあれば、帳簿上の担保価値のある融資と見なし、実質的な不良債権が良債権として会計処理してきたが、それが企業経営を苦しくしていた。

米国の住宅バブル時代に日本に外資が導入され、小泉・竹中内閣の規制緩和を利用し大きな利益を上げた。わが国経済は過去に経験したことがない経済成長を遂げたことに統計上はなっている。しかし、その多くの利益は実質上の不良債権処理に充当された結果、規制緩和を利用したURや不動産会社は大きな利益を手にしたが、国民が広く好景気を享受できなかった。不良資産を保有していた企業は、評価額面以上に土地を高層高密度に利用し、バブル経済の崩壊で実質上不良資産となった損失を発生させないで処理し、追加の利益を手にできた。国民の生活レベルでは経済成長の利益を享受することはなかった。

本論文で取り上げるマンション建て替え事業は、まさに小泉・竹中内閣による「贋金づくり」を梃子にした経済再建の象徴的な事業である。ここで問題にする事件は、経済再建に向けての取り組みであるならば、法律が国会の議決を経て決められ、形式としての民主的手続き条件を満足していれば、それを政治目的実現の事業として強制権を付与されても容認できた。しかし、この事業のように法律に違反し不正な利益を追求することまで認める行政及び司法が容認してよいわけではない。

第2章    2つの法律を憲法違反にした控訴審判決

(1).「マニュアル」を「法律ではない」とした控訴審判決は、憲法違反
日本国憲法第29条は私有財産権の保障を定めている。私有財産権は公共性がある事業の前には犠牲とされることがある。「円滑化法」及び平成14年建物区分所有法(以下「平成14年区分法」という。)の2つの行政法は、「公共性を実現する規定」を円滑化法第4条で定め、円滑化法の施行者・国土交通省が国会の審議を受け、第4条の具体的内容を国土交通省が「マニュアル」を定めた。

東京高等裁判所の本事件の控訴審で、「マニュアルは単なる指針に過ぎないので、それには拘束されない」という憲法違反を容認する判決を出した。諏訪組合の建て替え事業は「マニュアル」には縛られないでよいとする控訴審判決は、以下のとおり、円滑化法に照らし、次のとおり2重に「間違った判断」である。

第1は、円滑化法による強制建て替え事業は「マニュアル」で定めた「2つの決議」に従うべきことを条件にしており、その「マニュアル」で定めた実体を具備しない手続きは、区分所有者の建て替えに向けての合意形成の実体を有しない名称だけの決議は、詐欺の手続きになり、円滑化法第4条違反である。

第2は、「マニュアル」を「指針」であると主張して、円滑化法及び「平成14年区分法」の施行に関し、「マニュアル」自体に拘束されないとする主張は、「マニュアル」自体の否定となる。「マニュアル」が否定されれば、円滑化法第4条の強制権の根拠が否定され、円滑化法自体が憲法違反になる。

本行政事件は、法律として遵守すべき範囲を誤った控訴審判決の錯誤によって発生した。控訴審判決は、法律を解説した遵守すべきマニュアルを、行政指針と錯誤し、強制権の背景となる公共性の内容(羈束行為)が、円滑化法の法律構成上の憲法第29条第2項(公共性の例外)の文理を理解できなかったため発生した。以下に挙げる内容、即ち、「マニュアル」が、法律同様の拘束力を有することが、円滑化法及び「平成14年区分法」を憲法違反とする判断の根拠になる。

円滑化法制定当時には国土交通省から、円滑化法第4条基本方針は、区分所有者の合意形成により強制事業と認められる公共性を付与する根拠である。よって、第4条基本方針の法律内容を「マニュアル」として国土交通省が解説し、そこで定めた具体的な合意形成の手続きが、円滑化法による強制権を付与する事業を担保する羈束事項とされた。円滑化法による公共性を付与するためには、それを担保する具体的で明確な根拠となる手続きを必要とする。マニュアルなしでは、円滑化法は機能出来ない。

もし、「マニュアル」で定められた内容が第4条の法律解説ではなく、それが「単なる指針」で遵守を義務付けられないとすれば、「マニュアル」自体は必要でなくなる。同時に、第4条自体も遵守義務を失う。そうなれば、第4条を根拠とした円滑化法の強制事業法としての根拠が失われ、「平成14年区分法」第62条の「建て替え決議」に付与された強制権も失われる。そうすれば、円滑化法第9条の根拠となる第12条の強制建て替え事業組合認可の基準も公共性は認められない。よって、円滑化法及び「平成14年区分法」は憲法違反の法律であることになる。

(2).円滑化法を憲法違反にする控訴審判決
諏訪組合によるマンション建て替え事業に適用された円滑化法及び「平成14年区分法」の、控訴審判決で容認された東京都知事による円滑化法施行の実体は、円滑化法第4条基本方針を解説した「マニュアル」を蹂躙してよいとした判決により、両法律は憲法に違反した法律になった。その原因は、両法律自体は、「マニュアル」を円滑化法第4条の法解釈であるとしたことで憲法違反ではなく制定された。しかし、控訴審判決による円滑化法第4条に対する法律解釈として、「マニュアル」には拘束力がないとする控訴審判決に従えば、両法律とも憲法違反になるからである。

強制権を建て替え組合に付与した円滑化法第9条の組合認可条件(12条)の鍵が、第4条の基本方針を解説した「マニュアル」で定めた「建て替え決議」である。この「建て替え決議」が、「平成14年区分法」第62条で規定されている「建て替え決議」である。第4条基本事項の法律内容が、羈束行為として決める具体的手続きを確定できなければ、円滑化法は憲法第29条第2項との関係で、強制法としての安定性を失う。円滑化法及び「平成14年区分法」は、いずれも両法律は円滑化法第4条により建て替え組合に強制権を付与する「公共性」の上に成り立っている。

国土交通省は、「マニュアル」に定める手続きとして、組合が自らの組合費を使い専門のコンサルタントを雇い、組合員それぞれの権利が建て替えによりどのようになるかを調査検討し、その結果を、「建て替えに絞り、事業計画作成に踏み切る」建て替え推進決議(以下「推進決議」という。)を組合員の絶対過半数(5分の4以上)がした場合、その決議を条件に建て替え事業計画作成費等に、「優良建築物等整備事業補助金制度」(以下「優良補助金」という。)により、国庫補助金を交付することにした。

(3)国庫補助金の詐取と幇助
国庫補助金を交付担当室長が井上俊之住宅整備室長(以下、「井上室長」という。)である。住宅整備室は円滑化法担当ではなく、円滑化法上の「推進決議」がなされたものに国庫補助金の交付部署である。しかし、井上室長は担当事業予算の無理な拡大を狙い、諏訪組合に国庫補助金を不正に交付する目的で、「マニュアル」に違反して名称だけの「推進決議」を行わせ、国庫補助金を不正に申請させた。井上室長は建て替え事業の拡大で政界、業界との癒着を強め、住宅局長に上り詰めた官僚である。

「マニュアル」上、諏訪組合が「推進決議」をするためには、組合自身の予算を使って1年以上の内部検討作業をしてからでなければ、組合の「推進決議」できない。しかし、事業予算拡大を狙った井上室長は、名称だけの「推進決議」を行わせ国庫補助金を不正に交付し、建て替え事業を実施させた。このときの井上室長の「マニュアル」を蹂躙し補助金を交付させた、円滑化法の施行に越権して口出しした「違法な行政指導」が、その後の諏訪組合を違法に走らせることになった。

諏訪組合は、井上室長の指導を受けた旭化成ホームズ㈱のコンサルタントで、諏訪組合の円滑化法による建て替え事業の指導に当たった。井上室長の旭化成ホームズ㈱を介した諏訪組合の指導により、「マニュアル」の実体を有しない名称だけの「推進決議」及び「建て替え決議」を、「マニュアル」どおりの実体を有する「推進決議」及び「建て替え決議」のように欺瞞し、諏訪組合総会で議決させた。「推進決議」に当たり諏訪組合は旭化成ホームズ㈱の指導に従い、組合員には「マニュアル」とは無関係の高率な建て替え調査事業費の得られる国庫補助金制度が新たに創設され、補助条件として「建て替え推進決議」という名称の決議が必要であると諏訪組合員を騙し、諏訪組合総会で決議した。

「マニュアル」違反の名称だけの「推進決議」を総会決議後、建て替え推進諏訪組合理事らは、総会決議なしに諏訪組合理事長名で、優良補助金申請を多摩市長に申請した。多摩市長は諏訪組合が詐欺によって得た「推進決議」の詐欺文書を「マニュアル」に違反したものであり、かつ、国土交通大臣に対する国庫補助申請書が諏訪組合総会決議なしに申請されたことを承知し、多摩市は国土交通大臣に優良補助金申請を行い、優良補助金を国から詐取した。多摩市長は国庫補助金を諏訪組合に不正に交付し、諏訪組合は詐取した優良補助金を旭化成ホームズ㈱供与した。その優良補助金はマンション建て替え事業反対者の切り崩しと、旭化成ホームズ㈱の利益本位の建て替え事業計画作成費に使われた。

さらに、諏訪組合は円滑化法第9条に基づく建て替え組合認可を行うため、「マニュアル」に定めた手続きを有しない「平成14年区分法」第62条に規定する「建て替え決議」を行った。その実施した「建て替え決議」は、「昭和58年建物区分所有法」(以下、「昭和58年区分法」という。)に依るもので、平成14年「円滑化法」関連改正で改正された「平成14年区分法」の規定ではない。つまり、諏訪組合が行った「建て替え決議」は、「平成14年区分法」に定める「建て替え決議」(「マニュアル」に定める「建て替え決議」)の実体のない「建て替え決議」を総会で詐欺決議した。

諏訪組合は、無効とされるべき「建て替え決議」を根拠に、円滑化法第9条にもとづく強制事業権を有する建て替え組合認可申請を東京都知事(現在、「多摩市長」に移管。)に組合認可を行った。東京都知事は、認可申請の要件である「平成14年区分法」の「建て替え決議」は、「マニュアル」に定めた「建て替え決議」でなければならないことを承知の上で、「14年区分法」に違反した「昭和58年区分法」に基づくもので承知し、違法な「建て替え決議」を適法と見なした。

(4)官僚による法律の蹂躙
東京都知事が組合認可申請を実施できるとした理由は、諏訪組合は前段階の優良補助金の交付を受ける条件の「推進決議」のときに、同じく詐欺により「推進決議」を井上室長の所管外の行政手続きを、あたかも円滑化法施行の権限を有する欺瞞した判断を示し、違法な教唆を行い、諏訪組合が詐欺の「推進決議」を行い、それを添付し優良補助金を詐欺の方法で得た実績を東京都知事が幇助したためである。

行政の先輩である著者ら諏訪組合員が井上室長に面談し、「推進決議」の詐欺行為を容認し、不正な優良補助金交付を追及したとき、井上室長は刑事訴追の危険性を感じ、次のような言い訳をした。優良補助金申請書は適正に作成されていて、かつ、国に申請書が到達するまでに、多摩市、東京都、国土交通省関東整備局の審査を経ている。国はそこでの審査に嫌疑を挟むことはできないし、しない。

そして、「推進決議」に関し、諏訪組合総会で「推進決議」をした書類が添付されているだけで、補助金審査の経由庁で「推進決議」自体の不正を審査することになっていない。その上で、「先輩も補助事業のことはご存じのとおり、行政内部の不正の立証は、私が真相究明に協力しない限り不可能である。私は先輩からの要求があっても、真相究明を妨害をしても、絶対に協力はしない」と敵愾心をぶつけてきた。

諏訪組合によるマンション建て替え事業に先立ち、井上室長は東京都及び多摩市に出向き、諏訪組合理事を臨席させ「マニュアル」に定める「推進決議」の実体がなくても、「推進決議」という名称の総会決議を実施したという文書が添付されていれば、優良補助金は交付すると違法な行政指導を約束し、事業の促進方を要請した。「マニュアル」で定めた建て替えに向けての手続きが全くやられていない諏訪組合に対し、詐欺による優良補助金申請を教唆し、補助金交付を確実に行うことの念押しをした。

第3章    控訴状の内容を審理しない粗雑な控訴審判決

(1)円滑化法第4条の解説「マニュアル」
諏訪組合が行った「マニュアル」違反の「推進決議」は、井上室長の詐欺教唆による違法な行政指導により、本事業の最初の段階から、旭化成ホームズ㈱のコンサルテイションを受けた諏訪組合が中心になって行った。井上室長からの行政指導があったとはいえ、多摩市長及び東京都知事が優良補助金の不正な交付をおこなったという意味で、円滑化法および適化法違反の諏訪組合とは共同正犯の関係にある。そのため、その後も多摩市及び東京都知事の両者の行政は、一貫して、「マニュアル」の規定に抵触する詐欺行為を容認するダーティハンドな行政を踏襲してきた。

控訴審は、諏訪組合の行った「マニュアル」に定めた実体のない詐欺による「推進決議」も、詐欺による「建て替え決議」も、「マニュアル」自体が法律ではないから、適法、又は、違法の判断は法律上存在しないといい、「2つの決議とも合法」とした。そのため、控訴審判事は行政機関の言いなりに違法な「推進決議」及び「建て替え決議」を合法とした結果、強制権を付与した第4条が骨抜きとなり、円滑化法および建物区分所有法は、憲法第29条違反の法律として施行されていることになった。

2つの決議は「マニュアル」に対する詐欺であるから、仮に「マニュアル」が法律ではないとしても、刑法上の詐欺に該当する違法な決議であることには変わりない。「マニュアル」の定めに対し、詐欺による決議を根拠に進められた円滑化法手続きは無効とされなければならない。井上室長が諏訪組合及び東京都知事に行った違法な「マニュアル」の法律解釈を、「毒食わば、皿まで」の解釈として繰り返したもので、控訴審の判決は、凡そ、法律論理としての文理的な合理性は存在しない。

「マニュアル」で決められた手続きに従うことで、円滑化法及び平成「14年区分法」の「公共性」が認められている。しかし、「マニュアル」違反を、控訴審判決は、「マニュアル」は法律ではないとすることで、「マニュアル」に書かれた手続きのすべてを、法律上の違反は問えない手続きと判決してしまった。「マニュアル」の法的資格の否定判決の結果、円滑化法及び「平成14年区分法」の立法当時の法律論理として、強制権を付与する「公共性」の根拠、即ち、強制権を付与する根拠も失われた。

(2).東京高等裁判所以外が認めている法律としての「マニュアル」の性格
「マニュアル」には拘束されないでよいと言いながら、諏訪組合が詐欺を犯してまで決議した「推進決議」及び「建て替え決議」をしなければならなかった理由は、円滑化法第4条基本方針を遵守することに建て替え事業で強制権を行使できる根拠(公共性)があるからである。「マニュアル」で定めた「推進決議」と「建て替え決議」は羈束行為で、この2つの決議は強制事業として建て替え事業を進めるためには不可避の条件(円滑化法の解説)であることをすべての違反関係者が判っていた。

東京都知事(国土交通省及び多摩市)は、既に、国庫補助金の不正交付等過去行政の処分で違反を犯したダーティハンドで不正が暴かれることを恐れていた。諏訪組合や東京都知事、多摩市長は、「マニュアル」は、単に指針に過ぎない。それに違反した「推進決議」や「建て替え決議」が適法か、違法か、は拘泥すべきことではないとその場限りの苦し紛れの言い訳を繰り返した。

一方では、諏訪組合は建て替え事業を強制事業として進めるためには、何が何でも円滑化法に定める強制事業権を入手しなければならなかった。しかし、詐欺による刑事訴追を受ければ事業自体を放棄させられる危険があった。「前門の虎、後門の狼」に挟まれた抜き差しならない状態に置かれた。そのため、円滑化法の手続きを踏んでいるが、「マニュアル」には従わないという矛盾を犯すことになった。

控訴審判事らは、行政庁が苦し紛れの「目先の刑事罰を逃れるための目先の言い逃れ答弁」に迎合して、「マニュアル」は法律ではないとすることで事件は収まると考えたのかもしれない。控訴審判決の通りであれば、「推進決議」や「建て替え決議」には法的な意味も効力もなくなる。そうなれば、円滑化法と「平成14年区分法」が憲法違反になる。そのことまでは控訴審判事は考えが及ばなかったのかもしれない。

「推進決議」と「建て替え決議」が効力を失えば、円滑化法及び「平成14年法」自体が強制権を行使できる法律上の効力を失うからである。犯罪者たちは、裁判所がこれまで行政追従であったことを見て、司法軽視し、司法は行政のわがままを必ず追認すると過信していたのかもしれない。

これまでの判決は、多摩市長の法律論理上の拙劣な言い訳に、東京地方裁判所裁判官も、東京高等裁判所裁判官も迎合してきた。それは、行政追従をすれば、司法の行政法能力の未熟さを暴露されないで済むと考えたに違いない。行政法は官僚が立法作業をし、施行してきた。著者は官僚として、行政法の立法、施行に関係してきたが、その経験に照らすと、本事件の司法関係者は行政法にあまりにも未熟である。裁判官は行政法に関し官僚に対し劣等感をもち、行政追従の判決を繰り返すことしか出来なかった。

第3章.「マニュアル」との関係で諏訪組合での実際に実施された事務

(1)「マニュアル」違反の「建て替え推進決議」と国庫補助金の不正申請
諏訪組合において実際に実施さられたことは、「マニュアル」で定めた準備の段階(建て替え提起の検討)及び検討の段階(建て替え構想検討)も存在しない。「マニュアル」に従えば、諏訪組合自身の費用で「マニュアル」に定められた検討を行い、その最終結論として、組合員全員を強制して建て替え事業計画を作成させるための決議「推進決議」を締結することになる。しかし、諏訪組合の場合にはいずれの段階が存在しないので「マニュアル」に照らせば、強制的建て替え事業を実施することはできない。

井上室長からの法律違反の教唆を受け、組合員の合意をとる作業をしないで、組合員には「国からマンション建て替えを推進する新しい補助制度が造られた。」と虚偽の説明をした。補助金の交付条件は、「推進決議」という名の総会決議を行えば、使途には紐のつかない国庫補助金場3分の2の補助率で交付されるという説明であった。国の違法な指導もあり、諏訪組合は国庫補助金を不正に申請した。

そこで諏訪組合が得た国庫補助金は、補助金の交付目的どおりには使われず、建て替え事業反対者の切り崩しに使われえた。垢費化成ホームズは江戸川アパートの建て替え事業を実施し、それがNHKTVで放映されたこともあって、建て替え事業の専門業者として諏訪組合に売り込み、実際は、旭化成ホームズ㈱を建て替え事業者として内定していた。国庫補助金は専ら建て替え反対派の切り崩しと旭化成ホームズ㈱にとって好都合な建て替え計画の作成が行われた。

(2)国庫補助金適正化法違反の不正申請
その後、円滑化法第4条に定めた基本方針の内容を定めた二つの「マニュアル」を根拠にした優良補助金として、「マニュアル」に定めた「推進決議」を条件にして交付されることが諏訪組合員にも分かった。そのため、「マニュアル」の手続きを経ていない「推進決議」を根拠にした補助金申請は違法であることを、組合員が知り、多摩市の会計監査上の問題にした。調査を進めた結果、不正が明確になった。

国庫補助金申請に当たって、諏訪組合の総会も理事会も承認していない状態で、一部の建て替え推進理事だけの「意思決定原議」なる共同謀議を前提にして、諏訪組合理事長の代表執行権を根拠にしていると説明し、優良補助金を申請した。諏訪組合理事長に総会決議や理事会決議に代替できる理事長の代表執行権は、建物区分所有法上存在しない。

当初、多摩市は、優良補助金申請書に諏訪組合理事会の決議も総会の決議もないことを知って驚き、それに相当する資料の提出を要求したが、それがないことを知り、諏訪組合理事長の代表執行権の行使を支持することになる理事及び組合員で構成される私的意思決定を行うものとして「意思決定原義」で組合としての決定がなされた扱いの代行をする違法を認めた。その背景には、国の違法な補助金申請を容認する建て替え事業推進の指導があったからである。

この件に関し、多摩市会計監査委員会に地方自治法に基づく監査請求をする一方、行政事件訴訟法により東京高等裁判所まで控訴したが、多摩市長は法廷で、「優良補助金は政府が推進している建て替え事業に使用する目的で交付されたもので、補助目的に違反していない」と主張し、高等裁判所は控訴内容に関し、事実関係を全く調べず、東京地方裁判所の判断を支持したため、組合員原告敗訴になった。

しかし、東京地方裁判所では、原告の訴えた事実を裁判での審理の対象にせず、不正が判明せず、裁判官は多摩市長に騙され、原告敗訴の判決を下した。東京高等裁判所は控訴審に当たって、東京地方裁判所の判決を、事実調べの要求を退け、多摩市長の陳述をそのまま支持し、控訴人の敗訴となった。

(3)裁判所による事実審理をしない判決
多摩市長を相手に行われた地方自治法に基づく裁判でも、実体のない「推進決議」に関しての事実調べは、一切せず、多摩市長の陳述を信じた判決であった。また、交付された5億1,270万円の優良補助事業の成果物は、組合員の「建て替え決議」の共通の判断資料として使われず、単に建て替え反対者の切り崩し工作費と旭化成ホームズ㈱に事業を請け負わせるという暗黙裡の了解の下で作成された建て替え事業計画に消耗され、優良補助金の目的として定められた諏訪組合員の要求を反映した建て替え事業計画作成には使われなかった。

この判決後、旭化成ホームズ㈱が国庫補助金を受けて取りまとめた建て替え事業計画は、住民の30%以上の賛成が得られないことが判明し、強制事業に必要な「建て替え決議」の要件を満足しないことが判明した。その国庫補助金を受けて取りまとめた建て替え事業計画の成果は、日の目を見ることなく廃棄にされた。「マニュアル」の定めに従えば、優良補助金を受けて作成された建て替え事業計画に基づき区分所有者の絶対過半数による「建て替え決議」を行うことになっている。

諏訪組合は、国庫補助金を受けて作成した建て替え事業計画をもとに組合員の5分の4(80%)の賛成による「建て替え決議」を締結することは不可能と判断し、「建て替え決議」を行わないことにした。国庫補助金の補助目的外の建て替え反対者の切り崩しや、諏訪組合員の意向を尊重せず、旭化成ホームズ㈱本位の事業計画作成費支出は適正化法に違反し、国庫補助金返還を義務付けられることになる。それを避けるために諏訪組合は、国庫補助金を受けて策定した建て替え事業計画を存在しないものにした。

(4)建て替え業者提案競技
多摩市長、旭化成ホームズ㈱、諏訪組合理事を相手に、適正化法違反による刑事告発がなされた。その訴えに対し、行政事件訴訟の係争中、多摩中央警察署は捜査を一切しようとしなかった。しかし、優良補助金を使った建て替え事業計画が「建て替え決議」に使われなくなったことが確定したため、多摩中央警察署は刑事事件の事実を確認し、東京地方検察庁立川支部に書類送検した。

訴追を恐れた多摩市長および旭化成ホームズ㈱は本建て替え事業から撤退するに当たり、対外的なスキャンダルとならないよう、建て替え事業を㈱旭化成ホームズ以外の建設業者東京建物㈱に禅譲することを謀議した。「マニュアル」に定めた「建て替え決議」をしないで、先に業者を「業者選考競技(コンペ)」で決定する「円滑化法上ありえない」ことであった。円滑化法には建て替え事業の実施決定前に、「業者提案競技」という方法で建て替え業者を定める方法はない。

円滑化法の手続きは以下のとおりである。諏訪組合として組合員が納得のいく建て替え事業計画を立案し、その計画に基づく「建て替え決議」を行う。そのご「建て替え決議」を行った事業計画の内容に沿って建て替え事業をする業者を決定する。国は、諏訪組合員が納得する建て替え事業計画作成のために巨額の優良補助金が交付されたのである。

しかし、優良補助金を目的外に使用した結果、諏訪組合員が建て替え計画を強制事業として実施することに賛同できない意向が示された。即ち、「マニュアル」上では強制事業としては実施できないこととなった。建て替え推進者に牛耳られた諏訪組合理事会は、「事業計画を無視し、業者を先行して選ぶ」という「マニュアル」には存在しない違法な方法を持ち出した。

そこで諏訪組合が考案した方法は、事業計画がなく業者を選考する方法(事業者選考コンペ)」である。組合員の納得する建て替え事業計画という円滑化法で定めた方法は蹂躙され、建て替え事業者を先に決定し、強引に建て替えをやらせるものになった。事業者として採択された東京建物㈱が策定した建て替え事業計画には、もちろん住民の意向が反映された計画ではない。ただ、「従前の住宅と同じ面積のマンションに1世帯あたり500万円の引越し補償金を支給する」条件を付けただけのものであった。

諏訪組合員は、東京建物㈱が提案した「よい条件」に賛成し、「東京建物㈱を建て替え業者にする」組合決定がなされた。その決定を受け、旭化成ホームズ㈱は国庫補助金の不正使用を暴かれず、優良補助金を不正着服したままで事業から退場し、多摩市長は傷を負わず再選に出馬しないことで検察庁の不起訴の扱いを受け、政治家として無傷のまま撤退を表明できた。

建て替え事業を担う業者が東京建物㈱一社になったことから、東京建物㈱は、「リーマンショックの影響で500万円の補償金の提供は不可能になった。もし、組合員から補償金を要求するならば、事業から撤退せざるを得ない」と一方的な約束の破棄を通告した。事業計画が確定しないで、「補償金」を条件に業者選定した。その条件諏訪組合の総会決議なしで反故にし、強制事業の業者選定の正当性はない。

建て替え推進の組合理事が中心となって、組合員に働きかけ、事実上、諏訪組合が東京建物㈱に「500万円の補償金がなくても建て替え事業をやってくれ」と東京建物㈱を「拝み倒す形」で建て替え事業者として留まることを申し入れた。明らかに謀議に基づく猿芝居である。そのことに関し諏訪組合としての総会決議はなかった。建て替え事業計画はその後も東京建物㈱の意図に沿って変更されている。そこには、強制権を建て替え組合に与える円滑化法の法律の論理は、完全に蹂躙されてしまった。

第4章    憲法第29条で認める公共性の根拠「建て替え決議」

(1)建て替え事業の合意形成「建て替え決議」は、「マニュアル」で定めた事業計画が前提
諏訪組合員が「500万円の補償金」問題で怯んだ時期を見て、「昭和58年区分法」に基づく「建て替え決議」が実行された。しかし、「建て替え決議」は「マニュアル」に定めた実体規定に違反した「名称だけ」の「建て替え決議」であった。円滑化法関連改正による「平成14年区分法」に規定された「建て替え決議」は、「マニュアル」で定めている「建て替え決議」でなければならない。

しかし、実際になされた「建て替え決議」は、円滑化法第4条に違反したマニュアルの規定を全く無視した「昭和58年区分法」による「建て替え決議」で、円滑化法第4条合意形成を反映した建て替え事業計画を前提にしたものではない。国会において憲法第29条との関係で、「組合員が実施する建て替え事業計画を共通理解として認めたもの」に対し、「民主的な手続き」(第4条)をすることを条件に、5分の4(80%)以上の賛成でも、強制できるとした制度の前提が尊重されなければならない。

諏訪組合はその前提を崩して、組合員の意向を無視し、作成された建て替え事業計画を作成し、その成果である建て替え事業計画では「建て替え決議」ができないことがわかった段階で、巨額な国庫補助金を使った成果物を反故にしてしまった。そして、建て替え事業を強行するため、全く法律に予想していない方法で名称だけの「建て替え決議」で建て替え組合に強制権を行使させようとした。

諏訪組合の「建て替え決議」自体の内容が、「マニュアル」に定めた建て替え事業計画を前提にした「建て替え決議」ではない。実施する建て替え事業の計画内容に組合員の合意形成のされた事業計画が存在しないのに、建て替え事業者・東京建物㈱が先に決定された。そして、東京建物㈱の利益本位の計画に付合契約的に便乗する事業が実施された。この事業は円滑化法で想定した組合員の利益本位の建て替え事業とは全く無関係の事業である。このような事業に円滑化法は公共性を認めてはいないのである。

(2)「マニュアル」上実行出来ない建て替え事業の強行策に認められない強制権
第1に、多摩市長が先の東京高等裁判所で陳述したとおり、補助金は補助目的どおり使うのであれば、旭化成ホームズ㈱が取りまとめた建て替え事業計画を下に「建て替え決議」の採決し、その結果、5分の4(80%)以上の賛成が得られないときは、「マニュアル」の定めに従えば、建て替え組合自体が認可されず、強制事業としての建て替え事業は実施してはならない。

多摩市が国庫補助金適正化法違反で行政事件訴訟の被告の立場に置かれたときに、補助金の成果品は「建て替え決議」の基礎資料として利用されると法廷で答弁した。国庫補助金を受けた優良補助金5億1,270万円の成果を「建て替え決議」のベースにしなかった「建て替え決議」の違法性を法律上追及することは、当然である。「建て替え決議」を円滑化法に照らし文理解釈をしても、「実態のない名称だけの紙ペラの建て替え決議でよい」という論理的結論はでない。国庫補助金の申請目的外に違反して使用された費用は、国庫補助金等適正化法に照らして返還させなければならない。

第2に、仮に「業者選定競技」が、容認されることであっても、「500万円の補償金」が東京建物㈱の建て替え事業者選考の決め手になったことは自明である。そのことから、決定的となった選考の重要条件変更は、諏訪総会で議決事項でなければならない。さらに、500万円の内容を調べてみると、そのうち150万円は、実質上の引越しや仮住居補償金であるが、残りの350万円は、組合員の保有する土地の評価に、実質上法定容積率一杯の開発している土地であるにも拘らず、不当な「形状を理由にした削減率78%」を乗ずることで組合員の資産を騙し取ったものである。

500万円の補償金をゼロにしたときに、諏訪組合及び東京建物㈱は、組合員の土地を騙し取ったということになる。開発計画は、都市計画で定められた容積率を100%利用しており、地形が悪くて利用できないから削減率を掛ける正当な理由はない。つまり、500万円の補償金のうち350万円は、本来組合員の土地資産で、そのまま建て替え事業が行われた場合、組合員に還元される費用であった。しかし、「リーマンショック」を理由に500万円の補償金の支払いをしない結果、1戸当たり350万円分は「東京建物㈱が不当利益として組合員の財産を奪った」刑事事件となる犯罪が仕組まれていた。

多分、東京建物㈱に旭化成ホームズ㈱が裏で約束していた建て替え事業者となる権利を禅譲したとき、つまり、東京建物㈱に不正まみれの建て替え事業の尻を拭く見返りに、業者選定競技(コンペ)を実施する違法な方法を決定した。このときに、あらかじめ用意されていた謀議であろうと推察できる。

つまり、多摩市長、建て替え推進理事、旭化成ホームズ㈱の3者は、当時、刑事告発を受け、東京地方検察庁の調査を受け、刑事訴追の危険性があったため、「毒食えば皿まで」といった「破れかぶれな芝居」を挑んだのではないか。その危ない橋を渡る危険に対する見返りとして東京建物㈱に、結果的に「32億円の補償費を支払わなくてもよい」という「補償費の詐欺事件」の犯罪の嫌疑の掛けられる芝居を打った「裏の筋書き」があったと考えられる。

結語
「不毛の20年」といわれたバブル経済崩壊後の不良債権処理は、小泉・竹中内閣による規制緩和・都市再生事業により、独立行政法人URの資産内容の改善になっただけではなく、実質不良債権の改善に大きく利用された。しかし、いまだ巨額な不良債権の担保資産(不動産)が存在している。地方公共団体の抱えている公共住宅は、地方財政を縛っている不良資産である。最近のアベノミックスの中でマンション建て替え円滑化法の「マニュアル」で定めている絶対過半数を単純過半数で実施できるようにせよという意見が5大紙を賑わしている。

護送船団方式で実際に政府が実施していることは、本論分に記述したとおりの法律を蹂躙した政・官・業一体となった経済一辺倒の事業が法律を蹂躙して行われ、それを司法が容認しているという構図である。法治国がその基本となっている法律を行政が蹂躙し、司法が行政従属していたら、国家は経済的に豊かになっても、国の秩序は、破壊していく。



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