戸谷の言いたい放題

都市再生事業の象徴「ラ・トゥアー・ダイカンヤマ」の違法性

掲載日2013 年 12 月 30 日

小泉・竹中内閣が推進した本都市再生事業「ラ・トゥアー・ダイカンヤマ」に関しては、HICPMとして原告である竹居さんを支援してまいりました。本訴状をおまとめになった武内弁護士は、私がこれまでおつきあいした弁護士の中では、もっとを謙虚に都市建築行政を学ばれ、その成果がこの訴状に生かされていると思います。行政実務はもとより都市・建築・住宅の関する行政学会関係者にとっても、この訴状は極めて生き生きした行政問題のテキストになると信じています。

(NPO法人住宅生産性研究会理事長戸谷英世)

訴      状
東京地方裁判所 御中
平成25年12月27日

原   告   竹    居    治    彦,ほか2名
(別紙原告目録記載の通り)
〔送達場所〕
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1丁目12番14号 虎ノ門マスターズ4階
虎ノ門合同法律事務所 
電 話 03-3503-7714 FAX 03-3503-7716
上記原告ら3名訴訟代理人
弁 護 士  武   内   更   一

〒107-0062 東京都港区南青山5丁目4番30号 南青山澁澤ビル8階
野 本 法 律 事 務 所
電 話  03-5464-2560  FAX 03-6427-3011
同上 弁 護 士   野    本    雅    志       

〒150-8010 東京都渋谷区宇田川町1番1号
被   告    渋   谷   区   長
桑   原   敏   武

違法建築物除却命令義務付け請求事件
訴訟物の価額  金4,800,000円
(非財産上の訴の価額1,600,000円×原告3人分)
貼用印紙額     金29,000円
予納郵券額         金6,000円

目      次
請求の趣旨 ………………………………………………………………………………………P03
請求の理由 ………………………………………………………………………………………P03
第1 本件建築物の概要およびその使用状況並びにその敷地と周辺の状況 ……………P03
1 本件建築物の所有者、建築主、設計者、施工者および竣工後の使用態様 ………P03
2 本件建築物の敷地 ………………………………………………………………………P03
3 本件建築物の構造、使用態様及び建築物と敷地との関係 …………………………P04
第2 本件建築物の建築基準法違反性 ………………………………………………………P09
1 本件土地に対する法令上の規制と本件建築物の法令違反 …………………………P09
2 土地と建築物に対する法的規制の概要 ………………………………………………P09
(1) 都市計画法と建築基準法との一体性 ………………………………………………P09
(2) 土地の私的利用と空間の社会的利用の調整 ………………………………………P10
(3) 都市計画法の趣旨と都市計画決定の意義 …………………………………………P10 
(4) 大正8年制定の旧「都市計画法」及び「市街地建築物法」 ……………………P11
(5) 「市街地建築物法」の廃止と現行「建築基準法」の制定…………………………P12
(6) 旧「都市計画法」と現行「建築基準法」との関係 ………………………………P13
(7) 昭和43年(1968年)制定の新「都市計画法」 ……………………………P14
(8) 新「都市計画法」の施行と「開発許可制度」の創設 ……………………………P15
(9) 建築基準法第3章規定の公法規制ができる法的根拠 ……………………………P16
(10) 本件建築物の建築基準関係規定違反性 ……………………………………………P17
3 総合設計制度(建築基準法第59条の2第1項)適用の不法性 …………………P18
(1) 本件建築物についての総合設計許可は存在しない ………………………………P19
(2) 本件総合設計許可は本来適用できない建築物・計画につきなされたもの ……P22
① 一団地認定制度適用の誤り ………………………………………………………P22
② 総合設計制度の誤用 ………………………………………………………………P25
(3) 建築基準法59条の2第1項の趣旨からの逸脱ないし濫用 ……………………P25
第3 本件建築物による原告らの被害・損害並びに訴えの利益及び原告適格 …………P33  
第4 本件建築物の除却を必要とする理由 …………………………………………………P35
第5 被告に対する違法建築物除却命令発令申立て ………………………………………P37
第6  行政事件訴訟法第37条の2に基づく違法建築物除却命令の義務付け …………P38
結語 ………………………………………………………………………………………………P39
別紙 原告目録 …………………………………………………………………………………P40
別紙 物件目録1 ………………………………………………………………………………P41
別紙 物件目録2 ………………………………………………………………………………P42 
別紙 物件目録3 ………………………………………………………………………………P44 
別紙 物件目録4 ………………………………………………………………………………P45 
請 求 の 趣 旨

1 被告は、訴外住友不動産株式会社に対し、建築基準法第9条第1項に基づき、別紙物件目録1記載の建築物全部の除却を命ずる命令を発令せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。

請 求 の 理 由

第1 本件建築物の概要およびその使用状況並びにその敷地と周辺の状況

1 本件建築物の所有者、建築主、設計者、施工者および竣工後の使用態様
訴外住友不動産株式会社(以下「住友不動産」という。)は、一級建築士事務所であり特定建設業者の登録を受け、建築基準法および都市計画法に関し専門的知識及び技術を持つ業者である。
同社は、別紙物件目録1記載の建築物(以下「本件建築物」という。)の建築主として、株式会社日建設計に本件建築物を設計させ、西松建設株式会社に建築工事を行わせ、2010年(平成22年)9月1日に完成したとして、その後本件建築物を所有し、共同住宅として賃貸に供している。

2 本件建築物の敷地
本件建築物の敷地は、渋谷区鶯谷町33番2の土地(別紙物件目録2記載(1)の土地。住居表示:渋谷区鶯谷町13番地。以下「本件土地」という。)で、渋谷駅から徒歩約10分の位置にある第二種低層住居専用地域中の地積15723.11㎡の宅地である。
この地区周辺は、歴史的に、北側がかなりの急傾斜となっている丘の上の低層住宅地として開発されたところで、従前は発生交通量も少なかったことから、建築基準法第42条第2項で指定した幅員4メートル未満の「2項道路」が網目のように張り巡らされた市街地であるが、地価の高騰を反映して敷地の高密度開発が進み、宅地分割による小規模な戸建て住宅が多く存在し、または、低層のマンションが散在する住宅地である。そのため、地区内を走行する自動車量が漸次増加し、交通が渋滞するといった現象を生じている。
本件土地は、別紙「公図の写し」および別紙「付近見取図」のとおり、北側の一部と西側を幅員6メートル未満の道路(建築基準法42条2項道路)に接し、南側は幅員6メートル未満の特別区道463号線に接し、東側は一箇所のみ幅員9メートル未満の特別区道432号線に接しているほかは接道せず、他の宅地に接している。
原告竹居治彦および同竹居博美の居宅は、本件土地の北側で境界を接している土地に建築されており、本件建築物による日影がかかるとともに、自己の敷地内および建物内を本件建築物の北側居室の窓から直接覗かれる位置にある。

3 本件建築物の構造、使用態様及び建築物と敷地との関係

(1)     本件建築物の敷地は、もともと10棟の予定建築物(以下「本件予定建築物」という。)を建築する計画を前提にして、都市計画法第29条の開発許可申請がなされたが、1棟の建物である本件建築物が建築される敷地を築造する開発計画として申請されておらず、かつ、開発許可どおりの工事も完成していない。
実際に行なわれた開発許可申請は、建築基準法に基づき確認申請された10棟の建築物が都市計画法上第29条でいう「予定建築物」であるから、開発許可申請の内容は、都市計画法第8条に対応する建築基準法第3章「一敷地一建築物」の規定に基づき、10棟の予定建築物の10の敷地が、それぞれ幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接する接道義務を満足する開発計画として許可申請がなされなければならない。しかし、本開発許可申請は10棟の共同住宅という「予定建築物」がそれぞれ上記接道義務を満たすような計画にはなっていない。
この開発許可とは別に、建築基準法上は、「10棟」の建築物を建築するという確認申請が出されている。建築確認申請も、単に10棟の建築物に対応する10の敷地があるとする架空の建築物と敷地の関係を示しているに過ぎず、各建築物がすべて「接道義務」を果たした敷地を有していない。
ところが建築確認申請は、突如建築基準法第6章第86条の「一の敷地とみなすこと等による制限の緩和」を持ち出して、開発地全体を「一の敷地である」とする認可を特定行政庁(渋谷区長)が与え、10棟全体の建築物が一の敷地に建築される建築物であるとして、10棟の建築物のそれぞれの敷地につき接道義務を満たさずに建築基準法第3章の規定で定められた高さの制限、建蔽率および容積率の制限を悉く蹂躙している。
しかるところ、完成した本件建築物は、全体が構造耐力上1棟の建築物として設計され、一の敷地に建築されたものであって、建築基準法に定めた接道条件を満たした10の敷地を有する建築物ではない。本件建築物は、「用途」および「機能」に関する「一般構造」(ビルディング・コンストラクション)に関しては、建築物全体に対し一つの玄関をもち、共同のレセプション一箇所で建築物全体が管理され、共同の通路を通ってしか個別の居室にアプローチできない一体の構造として造られている。このような建築物は、建築学上は「一の建築物」と言い、それを10の建築物ということはできない。構造耐力上二以上の構造物をエクスパンションジョイント(伸縮継手)により結び、それを一の建築物にする例は多いが、その逆の構造耐力上一体不可分の構造の建築物全体を「10棟」の建築物であるとする例は過去にない。法律上このような建築物を「10棟」の建築物とすることはありえない。本計画では、都市計画法第11条第1項第8号に定める「都市施設」としての「一団地の住宅施設」に対応する建築規制を緩和する根拠条文である建築基準法第86条を違法に適用することで、架空の10棟の建物を「一団地の建築物」扱いし、実際には1棟の巨大な建物を建築している。建築基準法第86条は、都市施設としての一団地の住宅施設として都市計画決定された敷地に対して適用できる規定であって、都市計画法第8条(地域地区)で定められた区域に対しては、基本的に「一敷地一建築物」の原則により建築基準法第3章規定が適用になる。法律上は、「一団地の建築物」は「1棟の建築物」と同義に扱うことはできない。
10棟の建築物であれば、個々の建築物ごとに幅員4メートル以上の道路に2m以上接する固有の敷地がなければならない。本件建築物の場合、「10棟」の建築物とするのであれば、都市計画法第8条(地域地区)のマスタープランに従って建築される計画であるとされるため、建築基準法上では10の固有の敷地が必要となり、その総てが建築基準法第42条の接道条件を満足していなければならない。ところが都市計画法上、同法第29条の開発許可を要する本開発において、10の敷地がそれぞれ接道条件を満たす開発計画は存在せず、実際にも開発許可どおりの開発の結果は存在せず、開発許可に適合した完了公告も存在しない。よって、本件建築物は、違法な開発許可申請による「違法な敷地」に建築された、違法な確認申請による、実際にも建築基準法等に違反した「1棟の建築物」である。

(2) 本件建築物は、上空から見て、片仮名のロの字形をした地上6階、地下2階の建物で、地下1階から地上6階までの各層に住居部分、中央部は吹き抜けとし、吹き抜け部分の地下1階グランドレベルに共用の廊下と中庭を配置している。また、吹き抜け部分の地下も含め地下2階は全面居住者用の駐車場となっている。その実態は、1棟の建築物を地下に2階分潜らせたものである。建築確認申請では、地階に潜った部分は建築物ではなく、ロの字に囲まれた中庭は、建築学上の「吹き抜け空間」(アトリュウム)であって、各階の床面積に算入はされないが、建築面積には算入されなければならない。そして、建築物の屋上であるものを、その下の部分が地下にあるとして「地盤」であると詭弁を弄している。このような一体の建築物の地下部分を建築面積から除外する法律上の規定はない。この違法な扱いにより、本件建築物は建蔽率及び容積率の定めに違反している。構造耐力上及び一般構造上(用途上および機能上)「1棟」の建築物は、その建築物の一部分を地下に埋め込んだからといって、「10棟」の建築物になるものではない。

(3) 本件建築物の周りには、「空堀り」が掘り巡らされているが、建築計画上、その「空堀り」の底部を敷地の地盤面として本件建築物が建築されているのであるから、「空堀り」の底面が地盤面にほかならない。いかなる理由で「空堀り」を造ったかといえば、居室を地下室にしないためである。建築基準法第29条では、規定自体は改正されているが、基本的に地階に居室を造ってはならないことになっている。都市計画法上は、予定建築物を建築するための敷地を整備することを開発行為と言い、開発許可の内容をなす。この予定建築物は、建築確認上の高さの規定の制限を逃れるための脱法として、建築物の地盤面を法律の規定の趣旨に違反して、本建築物を合法とするために操作した脱法建築物である。言い換えれば、本建築物の開発行為は、基本的にすべての住宅が地上建築物となるように地盤を造り、その下の部分を、申請上は「地階」とする虚偽の申請をしたものである。確認申請上「地階」とされている部分は、その周囲の地盤面が切り下げられており、その底部を地盤面とすれば、形式上の地階部分が実態としては「地上階」となるように区画形質の変更をしているもので、開発許可申請上虚偽の申請をしたものである。
本件建築物は、「空堀り」に面した自然採光を取り入れている階を、建築物の「地下部分」とし、これにより高さ制限を回避し、さらに建蔽率計算上、建築床面積から除外するためにこれらの居室を「地階」としており、明らかに脱法である。
また、この違法な開発により、本件建築物は実態としての地上2階以上の部分が外観上「10棟」の独立した建物の形状を有していると建築基準法上みなせるとしているが、実態としての地上1階部分において全体がロの字形に接続しており、構造上1棟の建物であり、建物の表示登記上も1棟の建物とされている事実は変えられない。この点からも、本件建築物は、1棟の建築物を地盤面操作で「10棟」として虚偽申請を行い、高さ規制を脱法している正に違法建築物である。

(4) さらに、各居室部分に入るには、建物南東地上1階の入口から建物に入り、一度地下1階のエントランスホールに下り、当該ホールを通り抜け、ホール北西部分において接続している内部廊下を経由し、各居室部分の地下1階に入り、エレベーターまたは階段で各居室部分に至ることになっており、機能上も1棟の建物として使用されている。もとより、機能上この地下1階部分は、この建築物にとってのグランドフロアーである地盤面上にある。

(5) 以上のとおり、開発許可上も、建築確認上も、本件建築物は全体として「1棟」の建築物とされるべきであり、「10棟」の建築物としては、それぞれ独立した敷地及び建築物の条件を満たしていない違法建築物である。
以下、本件建築物が建築基準法に定める実体規定にいかに違反しているかを説明する。

第2 本件建築物の建築基準法違反性

1 本件土地に対する法令上の規制と本件建築物の法令違反
本件土地は、東京都の都市計画によって第二種低層住居専用地域に指定されている地域内に存在し、建築基準法および東京都都市計画に基づき、建ぺい率は60%、有効敷地面積に対する法定許容容積率は200%、高さ制限は12メートルと定められている。
本件建築物の最高部の高さは、確認申請上、基準地盤面より「17.95m」と、建築基準法第55条1項による法令上の制限を超えており、確認申請時点で違法建築物である。さらに、前記のとおり、本件建築物の周囲には大きな「空堀り」が造られており、この「空堀り」の底面こそ開発許可でつくられた敷地の地盤面である。この本来の地盤面から高さを計測した場合、最低でも、地下1階部分も高さに含めるため、建築物の高さは、「20メートル以上」になり、その違法性はさらに重大である。

2 土地と建築物に対する法的規制の概要

(1) 都市計画法と建築基準法との一体性
都市計画区域内の都市計画法第8条で定める地域地区の指定された地区に建築される建築物に関しては、建築確認も建築工事完了検査も、「一敷地一建築物の原則」が適用される建築基準法第3章の諸規定に適合していなければならない。そこには10の建築物を「一団地の住宅施設」として扱う都市計画法第11条第1項第8号の都市施設の規定に対応して設けられている建築基準法第6章雑則に属する同法第86条を適用することはできない。都市計画法に基づく地域地区の都市計画(本件の場合は「第二種低層住居専用地域」)を実現する方法は、「一敷地一建築物」の原則のもとで、地域地区ごとに具体的に規定された建築基準法第3章の諸規定に従った建築物を建築することを通して具体化することを最終目的とする法制度となっている。
建築の規制は、その敷地に関しては都市計画法で規制することとされており、建築基準法のみをもって独立・完結している制度ではない。都市計画法は、その敷地に予定されている建築物(予定建築物)に適した開発行為を行い、予定建築物にとって適正な環境を作ることになっている。
すなわち、都市計画法と建築基準法は、有機的な関係を有している実質的に一体の法体系を構成し、いわゆる「姉妹法」の関係にある法令であることが明確に認識される必要があるのである。

(2) 土地の私的利用と空間の社会的利用の調整
憲法29条2項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」と規定し、民法206条は、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」、民法207条は、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」と規定している。土地の所有権は、相隣関係、都市計画規制や航空規制などのように、都市空間の社会的な利用のため、法令により規制され、その上下に対する排他独占的使用が制限されるとする規定である。これは、土地の所有者による土地及びその地下並びに上部空間の私的使用と、都市空間の社会的利用とを調和させるための法律上の根拠である。

(3) 都市計画法の趣旨と都市計画決定の意義
都市計画法は、都市空間の社会的な利用について、都市計画決定により「住民の合意による計画確定」をすることで、都市計画決定の内容に私権を従属させることのできる「公共性」を付与している。この計画決定に強制権を付与した権限を「計画公権」(「計画高権」ともいう)と呼ぶ。
都市計画法では、専門的な知識を駆使して都市空間の社会的利用計画を立案し、それについて国民が利用者の立場から主権者としての意見を述べ、都市計画決定に至る国民の合意形成の民主的な手続きを定めることで、その決定について、場合によっては、私有財産を収用することまでできる高い公共性を付与している。

(4) 大正8年制定の旧「都市計画法」及び「市街地建築物法」
明治時代、わが国は、不平等条約の改正(関税自主権の獲得、領事裁判権の廃止等)をするため、欧米に対して、欧米先進国に遜色ない近代国家であることを示すべく、ソルボンヌ大学の法学部主任教授(ボアソナード)を招聘して、近代法体系の整備と合わせて、外国人が居住し、又は出入りする都市(横浜関内、築地、銀座等)に、洋風の市街地を建設し、その延長線上で、首都東京の都市計画に取り組んだ。当時の都市計画は、農村整備に使われた「農区改正」に対立する概念として、「市区改正」と呼ばれていた。都市計画(市区改正)については、当初、英国やフランスをモデルとして考えていたが、やがて、岩倉具視欧米調査団の海外視察の結果、日本がモデルにするべき西欧は、封建的な色彩の濃いプロシャ(後のドイツ)であることが、明治政府の認めるところとなった。
そこで、ビスマルクの建築顧問(エッケ、ベックマン)が招聘され、首都計画を作成するとともに、内務省を中心に、ドイツの都市計画法(バオゲゼッツ)と、建築法(バオオルドヌング)とを、保健衛生と医療との関係から受け入れることになり、それらを国の指導者階層が駆使できるようにするために、高等教育の中にドイツ語教育が採り入れられた。軍医総監医学博士森鴎外が内務省と一緒にドイツに伝染病対策を学ぶためにバオオルドヌング(建築法)の調査に出かけ、それがその後日本の「市街地建築物法」に反映されている。具体的には、バオゲゼッツは大阪北の火災後に大阪建築取締規則に反映された。また,バオオルドヌングは大正8年都市計画法が制定されたとき、それまでの東京市区改正条例で扱っていた都市の基本計画と都市施設を都市計画法に、ドイツのバオゲゼッツとバオオルドヌングに世界の建築法を寄せ集めたものを市街地建築物法の中で大阪建築取締規則で採用された「建築線」と一般の建築物の単体規制とを法制化した。
大正8年(1919年)、それまで英国やフランスをモデルに検討してきた「東京市区改正条例」の検討成果として、都市基盤となる都市施設と土地利用計画を定めた「都市計画法」と、ドイツの「建築線」行政から都市計画に従った建築規制、防疫対策として欧米で施行され建築法規で規定されていた建築物の安全と衛生とを扱う「市街地建築物法」が、一体不可分の関係にある法律として制定され、その規制は都市計画区域の指定された都市のみに適用された。
このように、「都市計画法」に基づいて計画されたことに対応して、個々の建築物を「市街地建築物法」で規制するという両法一体不可分の法律の施行構造を、大正8年(1919年)の両法の制定当時から、「姉妹法の関係」と呼んでいた。

(5)「市街地建築物法」の廃止と現行「建築基準法」の制定
第二次世界大戦後、我が国で、それまで内務省の警察行政(都道府県警務局建築行政課所管)として施行されてきた「市街地建築物法」に代わる、新しい時代に適合する建築法規の整備が戦災復興を急ぐために建築設計施工関連の建築3法の整備が求められた。建築行政は警察行政から、戦災復興院から新設された建設省の行政に組み込まれた。昭和24年(1949年)、GHQ(連合軍総司令部)は、国内の米軍の兵舎の建設を的確に行うために、米国の建築主事会議(ICBO)が定めたUBC(統一建築法規)を持ち込んで、基地の建築物の建設に使用するとともに、建設省もICBOの会員になり、UBCを新たな建築規制のひな型にするよう指導した。
そして、日本政府の関係者に対しても、米国の建築法規を提示して、日本の山林から製材させ、米国から石膏ボードを輸入し、ツーバイフォー工法(当時は「バルーン工法」と呼んでいた。)によって米軍兵舎を建築させた。その関係から、日本の政府関係者の中にも、米国のUBCを読む機会が生まれ、「市街地建築物法」の改正に取り組む関係者に、新しい考え方が採り入れられることになり、建築基準法の立法作業に反映された。
昭和25年(1950年)に建築士法、建設業法と並んで制定された「建築基準法」は、「市街地建築物法」が県庁所在地など都市計画区域にしか適用されなかったのに対し、全国適用となり、法律の構成も、全国適用になる第2章の諸規定(単体規定)と、都市計画区域にのみ関係する第3章の諸規定(集団規定)の2つの法体系をあわせたものとして作られた。こうして、「建築基準法」が新規に立法され、従来までの「市街地建築物法」は廃止されたが、都市計画区域に関しては、従来までの「都市計画法」と「市街地建築物法」との関係はそのまま「都市計画法」と「建築基準法」第3章の関係として踏襲されることになった。

(6) 旧「都市計画法」と現行「建築基準法」との関係
上記のとおり、現行の「建築基準法」は、昭和25年(1950年)制定当時から、その前身である大正8年(1919年)に制定された「市街地建築物法」と旧「都市計画法」との関係を、そのまま踏襲してきた。
即ち、建築基準法第3章の諸規定(第41条の2~第68条の9。以下「建基法3章規定」という。)は、同章の標題が「都市計画区域等における建築物の敷地、構造、建築設備及び用途」とされていることからも明らかなように、「都市計画法」と一体の関係をもって作られ、「都市計画法」によって都市計画決定された内容を、「建築基準法」で建築物とその敷地についての規制を通して実現する、という法律構成となっている。例えば、都計法8条及び9条に基づく地域地区の都市計画決定等を、建基法第3章48条(用途地域)、52条(容積率)、53条(建ぺい率)、55条(高さ制限)等により建築できる建築物を制限することで実現しようとするという関係にある。

(7) 昭和43年(1968年)制定の新「都市計画法」 
昭和35年(1960年)に日米安全保障条約体制になって以来、池田内閣による所得倍増計画と自由化政策の展開により、経済成長に押された都市集中は急激な速さで進行していった。都市化の発展により、都市の基盤整備が経済成長に追いつかないことが社会問題化した。それを受けて、都市計画法の全面的改正が取り組まれることになった。そのとき、建設省における都市計画法の検討は、ニュータウン開発や都市のスプロール化対策に大きな成果を挙げた大都市ロンドンの都市計画に倣うことが最も有効であると判断された。そこで、計画許可制度により都市の開発規制を円滑に実施していた英国の都市農村計画法(タウン・アンド・ルーラル・プランニング・アクト)に倣うことになった。建設省は、職員を英国に留学させるとともに、英国の都市計画行政研究者を招聘して、英国の都市計画法体系を中心に学ぶことが行われた。そのためもあって、都市計画法改正担当者は、英国での都市学習経験者で纏められた。
中でも英国の計画許可(プランニングパミッション)制度は、日本の都市開発を制御する上で有効な制度と考えられたことから、それまでの都市計画法を廃止し、都市施設の整備と開発を調和させる制度として「開発許可制度」を取り入れた新「都市計画法」を制定することになった。
同法で新たに導入された制度の概要は次の通りである。
① 英国の計画許可制度(プランニングパミッション)に倣った「開発許可制度」を創設した。
② 開発許可に関する不服処理機関として開発審査会制度を新設した。
③ 開発許可の内容の登録制度により、開発内容を維持させることとした。
④ 都市計画区域内の調査を5年ごとに行い、計画内容の見直しを義務付けた。
⑤ 都市計画施設予定地の建築禁止と、計画決定地の買い取りを義務付けた。

(8) 新「都市計画法」の施行と「開発許可制度」の創設
昭和43年(1968年)に制定された新「都市計画法」は、日本の都市化の急激な進展に対して、都市基盤施設、都市開発、建築活動を調和をもって進めるために、既成市街地、市街化を積極的に進める区域、農地として保全する区域、市街化を抑える市街化調整区域とに区分(線引き)することになった。
この都市開発区域の線引きとともに、都計法29条による「開発許可制度」が、英国の計画許可(プランニングパーミッション)制度に倣って創設された。それは、一定規模(1,000㎡)以上の土地につき、主として建築物を建設するための開発行為(区画形質の変更)をしようとするときには、都市計画と既存の都市の開発の実体と調和して行われるように、当該土地の開発行為が、予定建築物の敷地として求められる機能を有するものとして整備されるような開発計画となっていることを審査し、許可する制度として整備された。
すなわち、都市計画法第33条に定める「開発許可の基準」に適合すると認められる開発行為のみ許可するというこの制度により、その開発が既存の都市に矛盾を発生することがないようにすることが図られ、都市施設が未整備なところでは、開発業者が、その負担により、自己完結的な開発にするか、または、その開発を受け入れられるような都市施設の負担をすべきことが求められることになった。
新都市計画制度は、建設省内で大問題になった。新都市計画法は英国の都市農村計画法の通り、都市計画によるマスタープランを確実に実現するため、日本の建築基準法第3章の規定を一元的に実施できるものであった。そのようになれば、建築基準法第3章の行政事務が同省住宅局から消滅するということになるので、住宅局は同省都市局に新都市計画法反対の意向を示した。しかし、都市化により都市のスプロール化が急速に進み都市のインフラストラクチャーの未整備な土地に建築物が建てられていくことは阻止しなければならなかった。
そこで都市局と住宅局の妥協の産物として、都市計画法では予定建築物という言葉を使って、「予定建築物」のインフラストラクチャーの整備までを都市局が行い、個別の建築物に対する具体的な規制はこれまで通り、住宅局が建築基準法行政として行うことに整理された。それが、都市計画法と建築基準法の姉妹法の関係として整備された都市計画法第37条と建築基準法第6条(建築基準法施行令第9条第12号)の規定である。
その結果、都市計画法36条に定められた「完了公告」が出されるまでは、同法29条に係る開発許可による計画の実体は形成されていないものとし、それまでの間は建築物の建築を禁止し(同法37条)、従って、建築基準法による確認申請も確認要件である予定建築物の敷地条件が整わない限り、受けつけてはならないことになった。

(9) 建築基準法第3章規定の公法規制ができる法的根拠
以上の経過が示しているように、新「都市計画法」が制定されても、「都市計画法」と「建築基準法」との関係は、そのまま踏襲されることになった。つまり、都市計画で決定したことを建基法第3章の規定による建築行政により実現するという関係は、基本的に維持されたのである。
その関係は、昭和25年の「建築基準法」の制定に伴い、旧「都市計画法」と「建基法第3章規定」の関係として引き継がれ、さらに昭和43年の新「都市計画法」の制定にともない、新「都市計画法」と「建基法第3章規定」の関係として、現行法にまで引き継がれている。
都市計画法は、都市計画区域内の住民のコンセンサス(共通理解)の下で、都市計画決定がなされた都市空間の利用内容自体が、社会的に住民に高い利益を提供する「公共性、公益性」のある土地の都市空間の利用として、国民の私的権利に優先すると位置づけている。この都市計画決定による計画内容に対する建基法第3章規定の強制権を裏付けている公共性が、「計画公権」と呼ばれているものである。「市街地建築物法」時代は、「都市計画法」の施行区域と「市街地建築物法」の施行区域は同じで、建築規制の強制権は、「都市計画法」による公共性に根拠を置くと考えられていた。
他方、「建基法第2章」に対する行政法としての強制権の根拠は、憲法第25条及び第29条で、国家が国民に約束した「安全で、衛生的で、文化的な生活環境と財産権」の保障をするとしたことに求めることになった。
都市計画決定した都市計画法第8条(地域地区)の内容に関しては、「建基法第3章規定」によって、「一敷地一建築物」の原則に基づき建築物を強制的に建築規制することを通じて実現するという法律構成を取っている。

(10) 本件建築物の建築基準関係規定違反性
① 建築基準法上の「敷地」は、都市計画法上の開発許可が行われる場合、開発許可の基準に従って造られる敷地であり、その敷地は「一敷地一建築物」の原則に基づき、もし10棟の建築物を建築する場合は、10の敷地が造られ、そのいずれの敷地も建築基準法第42条の敷地の接道条件を満足していなければならない。しかし、本件建築物を建築するために建築確認申請された「10棟」の建物それぞれの敷地とされる10の土地は、前術のとおり地域地区内の敷地に要求されている接道条件を満たしていない。それだけではなく都市計画法第33条の開発許可の基準も満足しておらず、この開発自体が法律に照らして不適切であるということを意味している。
② また、本件予定建築物である「賃貸マンション」自体、豊かな自然環境を採り入れ、高額な家賃を徴収できるよう計画されており、前述のとおり、建築確認申請上「地階」としている部分は、すべて実態としての地盤面より上に造られており、いわゆる地下建築物ではない。それは区画形質の変更により、実態としての1階分の高さを高さ制限上算入させないようにごまかして、本件地域に法律上許された高さ制限を大きく逸脱した本件建築物を建設したのである。
③ さらに、本件の場合、まさに、立法当時禁止していた開発許可と、確認申請との段階を踏んだ法令審査に違反して事業が進められた。即ち、開発許可による工事自体が完了しないうちに本件建築物の建築行為が行われたため、開発工事の完了公告が出されるどころか、開発許可申請が出されたと同時に建築確認申請を受け付け、開発工事の完了公告以前に建築物の完了検査が終わるという都市計画法第37条と建築基準法第6条の違反が行われたのである。

本来違反建築を取り締まるべき立場にある被告は、虚偽の開発許可申請を許可し、上記のとおり建築基準関係規定に違反する違法建築物である本件建築物の建築を幇助していると言わざるを得ない。

3 総合設計制度(建築基準法第59条の2第1項)適用の不法性
総合設計制度は建築基準法第59条の2、つまり、都市計画法第8条(地域地区)に定めるマスタープランに対応する建築基準法第3章の規定であるから、「一敷地一建築物」の原則に立って行われなければならない制度である。よって総合設計制度は、1棟の建築物にしか適用できない。本事業では10棟の建築物を建築する計画に「総合設計制度」を適用したが、そもそも一棟の建築物にしか適用できない制度を10棟の建築物に適用することはできない。本事業では建築基準法第6章第86条(一団地認定制度)を適用しようとしているが、第86条は、都市計画法法第11条第1項第8号に定める「一団地の住宅」に対する姉妹法としての建築基準法の受け皿条文である。都市計画法第8条の規定の適用を受けるもの(「一敷地一建築物」)は、都市施設ではないから、都市計画法の姉妹法としての対応として、「1団地の住宅施設」という都市施設について定めた第86条の適用を受けることはできない。
住友不動産および渋谷区長は、本件建築物は渋谷区長より建築基準法第59条の2第1項の「総合設計制度」により高さ規制を超えることの許可(以下「本件総合設計許可」という。)を得ていると主張しても、以下に述べるとおり、第1に、本件総合設計許可は別紙物件目録4記載(1)ないし(10)のそれぞれ独立した10棟の建物についてなされたものであって、1棟の建築物である本件建築物についてなされたものではないから、本件建築物についての総合設計許可は存在せず、第2に、本件総合設計許可は、本来適用できない建築物・計画に対してなされたものであって無効であり、第3に、本件総合設計許可自体が建築基準法第59条の2第1項の趣旨を逸脱してなされたものであり、総合設計制度を濫用したもので無効である。
以下、上記第1ないし第3について、順次論じる。

(1) 本件建築物についての総合設計許可は存在しない

① 住友不動産は、本件土地上に別紙物件目録4記載(1)ないし(10)記載の10棟の本件予定建築物を建築するために、平成20年3月24日株式会社都市居住評価センター(本店:東京都港区虎ノ門1丁目1番21号新虎ノ門実業会館6階、代表取締役安藤武彦。以下「処分庁」という。)に対し本件予定建築物の建築確認申請書を提出し、これに対し処分庁は、各予定建築物10棟それぞれにつき、平成20年4月10日付第UHEC建確19561号、同19562号、同19563号、同19564号、同19565号、同19566号、同19567号、同19568号、同19569号および同19570号をもって、建築主に対して建築確認処分(以下「本件各建築確認処分」という。)をした。
② ところで、本件予定建築物は、別紙物件目録4の(1)ないし(10)記載のとおり、いずれも最高高さ17.95mの建物であり、本件土地に対する建築基準法第55条第1項および東京都都市計画に基づく建築物の高さ規制である12メートルをはるかに超えている。しかるところ、住友不動産は、本件予定建築物10棟につき、平成20年1月21日付けで、渋谷区長より建築基準法第59条の2のいわゆる総合設計制度に基づく高さ制限の緩和の許可(以下「本件総合設計許可」という。)を受けたとしている。
しかしながら、本件総合設計許可は、本件予定建築物10棟に対してなされたものであって、1棟の建物である本件建築物に対するものではない。
③ また、実質的に見ても、本件総合設計許可は、地表に現れている部分、すなわち地下1階ないし地上6階までの部分がそれぞれ独立した10棟の建物としての形状を有する別紙物件目録4の(1)ないし(10)記載の建物を、本件土地上に片仮名のロの字形に、各棟の間に空隙を設けて配置し建築する計画につき、建築基準法第59条の2および同法施行令第136条第2項に定める基準に適合するものとしてなされたものである。しかるに、本件建築物は、前記のとおり地上1階部分で全体が結合しており、構造上も用途上も1棟の建物であり、本件総合設計許可に際して審査された建築計画と異なる。
建築基準法第59条の2第1項は、次のとおり規定している。
「その敷地内に政令で定める空地を有し、かつ、その敷地面積が政令で定める規模以上である建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がなく、かつ、その建ぺい率、容積率及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したものの容積率又は各部分の高さは、その許可の範囲内において、第52条第1項から第9項まで、第55条第1項、第56条又は第57条の2第6項の規定による限度を超えるものとすることができる。」
また、同法施行令第136条第1項および第2項は、次のとおり規定している。
第1項「法第59条の2第1項の規定により政令で定める空地は、法第53条の規定により建ぺい率の最高限度が定められている場合においては、当該最高限度に応じて、当該空地の面積の敷地面積に対する割合が次の表に定める数値以上であるものとし、同条の規定により建ぺい率の最高限度が定められていない場合においては、当該空地の面積の敷地面積に対する割合が十分の二以上であるものとする。
法第53条の規定による建ぺい率の最高限度    空地の面積の敷地面積に対する割合
(一)    十分の五以下の場合    一から法第53条の規定による建ぺい率の最高限度を減じた数値に十分の一・五を加えた数値
(二)    十分の五を超え、十分の五・五以下の場合    十分の六・五
(三)    十分の五・五を超える場合    一から法第53条の規定による建ぺい率の最高限度を減じた数値に十分の二を加えた数値
第2項「法第59条の2第1項の規定によりその各部分の高さのみを法第55条第1項又は法第56条の規定による限度を超えるものとする建築物に対する前項の規定の適用については、同項中「十分の二」とあるのは「十分の一・五」と、「十分の一・五」とあるのは「十分の一」と、「十分の六・五」とあるのは「十分の六」とする。」
④ したがって、本件建築物は、建築基準法第59条の2の総合設計制度の適用の可否の審査も、その審査に基づく総合設計許可も受けていない。すなわち、本件建築物については建築基準法第59条の2の総合設計制度に基づく許可は存在しない。

(2) 本件総合設計許可は本来適用できない建築物・計画につきなされたもの

① 一団地認定制度適用の誤り
ア 都市計画法と建築基準法の関係は一体として都市計画決定の内容を実現するという法律構成となっていることは、既に詳細に論じたとおりである。そして、本件建築確認で前提にしている「一団地認定制度」は、建築基準法第6章雑則の第86条が根拠となるものであり、これは、都市計画法第11条1項8号に定める「一団地の住宅施設」として「都市計画決定」をした場合にのみ、「一敷地一建物の原則」を排除することを認めた規定である。法は、まず都市計画法第11条1項8号で「都市計画決定」の一内容として「一団地の住宅施設」という定めが可能なことを示した。これは、国民の代表者によって、幅広い観点から、既存環境、周辺環境への影響を総合的に判断して、一定の区域内のインフラを害することがないことを審査して「都市施設」として「一団地の住宅施設」が都市計画決定された場合については、一つの敷地ごとに建築物の規制を定めた規定の適用を排除し、複数の土地について例外的に合一的取扱い(「都市施設」としての扱い)を認めても都市計画に問題が生じないことから例外的にこれを可能とすることとした規定である。
イ したがって、建築基準法第86条の規定は、当然「(都市計画法第11条1項8号により都市計画決定された)一団地の住宅施設」について、建築基準法第3章の取扱いに対する例外的規制を定めたものに過ぎないのである。
このように、姉妹法関係にある都市計画法と建築基準法との相互の関係上も、相互の条文構造上も、同条項の「一団地」という文言には、当然「都市計画法第11条1項8号により都市計画決定された」、という文言が不文、暗黙裡の前提として付加して読み込まれるべきなのである。それは建築基準法第3章規程の適用に関して、都市計画法第8条(地域地区の定め)に対応する規定であると記載しないことと同様、「姉妹法」の暗黙裡の法律上の理解で文理解釈するべきことである。
法解釈は、あくまで、条文の文言から示される立法者、ひいてはその背景となりこれを支える法の目的、立法趣旨として示される国民・国家の意思の合理的、実質的な意味の探求であり、その文言の空虚な形式的操作だけで正しく解釈することは不可能である。法の文言の解釈に当たっても、単なる末梢的、断片的な文言を切り離して解するのでなく、条文相互の関係、引いては、各法令の条文全体の構造との関係、他の有機的関係を持つ法令との関係、その相互の関連性も踏まえて、体系的、有機的になされる必要がある。そして、法令間の体系的・有機的相互関係を考慮する上では、当然、その法令自体の文言から合理的に推察できる当該法令全体の根本法理、目的はもちろん、実際の立法者の立法当時の立法趣旨、各法令の生成過程での歴史的沿革上の解釈などを十分に踏まえて、相互に矛盾無く、且つ、複数の法令全体としての実質的目的を有機的・実効的に実現することに資するように解釈することが極めて重要である。
ウ そのような観点からすれば、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと(都市全体の環境の保全)を法の趣旨とする都市計画法(第2条)の段階で、幅広い観点から、当該都市空間での環境のミニマムを定めるマグナカルタとして都市計画を決定することを予定し、そのような計画を立案できる資格・能力・情報収集の場を持つ組織が決定する都市計画によってのみ「一団地の都市施設」という「一敷地一建物の原則」の例外を辛うじて許容できる、と定めているものを、単なるその下位組織のレベルで安易に同じような例外を定めることを是認することなど、およそ考えられないことである。
エ したがって、この建築基準法第6章雑則の第86条の規定を、一団地としての都市計画決定が何らなされていない複数の敷地に対して適用することは、都市計画との整合性を全く欠く建物の建築を許し、その結果都市計画決定が無意味に帰せしめられかねないものであり、到底許容し得るものではなく、そもそも予想もされていないことと解すべきなのである。
本件建築物も、「一団地の住宅施設」の都市計画決定を受けていない土地を敷地として建築されているのであるから、建築基準法第86条の「一団地認定」規定を適用することはそもそも許されない。
オ また、そもそも本件建築物には一団地規定は適用されないことを別にしても、本件土地のようないわゆる「旗ざお」状態の一群の土地は、「一敷地一建物の原則」を排除することが認められるような「一団地」に該当するものとは到底解し得ない。そのような運用を認めれば、原判決自ら判示している「本来、建築密度、建築物の規模等を規制することにより、建築物の敷地上に適度な空間を確保し、もって、当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照、通風、採光等を良好に保つことを目的とする」という建築基準法第52条、55条、56条の立法趣旨そのものに反する事態をもたらすことになるからである。原判決は、それ自体において明白に「理由齟齬」を犯している。

② 総合設計制度の誤用
都市計画法で都市計画決定された計画に対応した建築規制の制限を、行政組織上下位に位置するに過ぎない特定行政庁が、「総合設計制度」により無視できるという法律上の根拠はない。
「総合設計制度」は、建築基準法上の原則である「一敷地一建築物」を前提にした規制を定める建築基準法第3章の規定(同法59条の2)の認めるものに過ぎないのであり、「一敷地一建物の原則」の適用を前提とする狭い範囲での例外的運用を一定の条件・一定の限度内で認めるに過ぎない規定である。しかも、「一団地認定制度」は、建築基準法第6章「雑則」に規定されており、第3章規定とは無関係な規定である。したがって、法令上は、この開発においては、各住宅棟に関しそれぞれ固有の敷地を定め、そこに第59条の2の規定をそれぞれ適用するべきことになる。したがって、そもそも本件開発に含まれる複数の敷地全体について、それを一体として「総合設計制度」の適用をすること自体、法令上出来ないのである。
にも拘らず、本件建築確認処分では、本来適用出来ないはずの「一団地認定」規定を適用した上で、さらに「総合設計制度」を重疊的に適用するという法律違反の解釈を重ねて本件建築確認申請を正当化しており、不当というほかない。

(3) 建築基準法59条の2第1項の趣旨からの逸脱ないし濫用

① 建築基準法59条の2第1項は、「敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例」として、前記(1)③に記載したとおり定め、同条項中の、「政令で定める空地」と「敷地面積」に関しては、建築基準法施行令第136条で定めており、その内容は前記(1)③に記載したとおりである。
これらの規定によれば、仮に本件土地が「一団地」との認定を受けることができたとしても、本件建築物が総合設計による許可を受けて高さ規制の緩和が認められる要件は、「その敷地内に政令で定める空地を有し、かつ、その敷地面積が政令で定める規模以上である建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がなく、かつ、その建ぺい率、容積率及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認め」られなければならない。
しかるに、本件建築物は、以下に述べるように、明らかに、その周辺を含む「市街地の環境の整備改善」に逆行するものであって、同条が定める総合設計の許可の要件を欠いており、本件総合設計許可は無効である。

② 建基法59条の2の総合設計制度は、都市計画としての整備が遅れている地域において行われる一定規模以上の建築の場合で、将来の都市計画の発展を見越して出来るだけ計画的に優れた建築を進めることが望まれるが、現状の周辺環境との関係で、将来の都市計画の整備に向けて、より合理的に建築をするための手段を提供しようとするものである。
そのための条件として、建築計画において、交通上、安全上及び衛生上支障なく、かつ、その建ぺい率、容積率及びその建築物の「各部分の高さ」について、その周辺を含む「市街地の環境の整備改善に資する」内容のものであると特定行政庁が認めて許可した場合には、整備改善に貢献した反射的恩典として、例外として「その許可の範囲内において(容積率又は建築物の高さの規定による)限度を越えるものとすることができる」ことが規定されている。
この「限度を超えるものとすることができる」との規定の都市計画法及び建築基準法上の考えは、次の通りである。
予定建築物の周辺の環境整備は、当面その内部の力では改善できそうにはない状態であるので、この新しい建築に当たって、周辺地域の環境の整備に資する内容の開発をするならば、当面周辺の市街地で、まだ利用されていない容積部分の一部を、周辺地域が享受することになる環境整備の見返りとして、この開発で使うことを認めると共に、その容積利用の関連で建築物の高さについても一定の譲歩を周辺地区が与えることができる、とするものである。
この規定の考え方は、建基法52条に対する平成16年改正前の旧建基法52条の2の規定と同一のものである。

③ ちなみに、改正前建基法52条の2は、次のとおり規定していた。
(特例容積率適用区域内の容積率の特例)
商業地域に関する都市計画において、この条の定めるところにより特別の容積率を適用することができる区域(以下この項において「特例容積率適用区域」という。)が定められたときは、当該特例容積率適用区域内の2以上の敷地(建築物の敷地となるべき土地及び当該特例容積率適用区域の内外にわたる敷地であってその過半が特例容積率適用区域に属するものを含む。以下この項において同じ。)に係る土地について所有権若しくは建築物の所有を目的とする地上権若しくは賃借権(臨時設備その他一時使用のため設定されたことが明らかなものを除く。以下「借地権」という。)を有する者又はこれらの者の同意を得た者は、一人で、又は数人共同して、特定行政庁に対し、国土交通省令で定めるところにより、当該2以上の敷地(以下この条及び次条において「特例敷地」という。)のそれぞれに適用される特別の容積率(以下この条において「特例容積率」という。)の限度の指定を申請することができる。
2(省略)
3 特定行政庁は第1項の規定による申請が次に掲げる要件に該当すると認めるときは、当該申請に基づき、特例敷地のそれぞれに適用される特例容積率の限度を指定するものとする。
一(省略)
二(省略)
三 申請に係るそれぞれの特例容積率の限度が、申請にかかるそれぞれの特例敷地における建築物の利用上の必要性、周囲の状況等を考慮して、当該それぞれの特例敷地にふさわしい容積を備えた建築物が建築されることにより当該それぞれの特例敷地の土地が適正かつ合理的な利用形態となるよう定められていること。この場合において、申請に係る特例容積率の限度のうち前条第1項及び第3項から第7項までの限度を超えるものにあっては、当該特例容積率の限度に適合して建築される建築物が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないものとなるように定められていること。

④ すなわち、建基法59条の2の解釈は、旧建基法52条の2の解釈を援用して行わなければならず、その前提として、「一敷地一建築物」の原則を基本的に守り、かつ、「法定容積率の決定」が都市計画決定という行為を経て、公益があるとする「計画公権」(公共性の付与)に裏付けられるものとする譲れない法律に根拠を置いて理解されていた。
この建基法59条の2に根拠を置くいわゆる「総合設計制度」は、基本的に特定行政庁が都市計画決定を尊重して、個別の敷地の条件に合わせて調整する範囲で都市計画の限度を緩和することができるという制度であって、都市計画と切り離して、「一敷地一建築物」の原則を前提に定められた建基法3章規定による各敷地の守るべき都市空間利用を特定行政庁が自由裁量で決めることができるというものではない。

⑤ 建基法59条の2は、改正前第52条の2を吸収する形で昭和51年に新設(昭和62年に改正)された規定である。この規定は、「一敷地一建築物」の適用の応用として、当初は隣接地を含んで、やがて、近隣地を含んでマクロに見た場合の敷地として都市計画法第8条(地域地区)の定める都市計画のマスタープランに適合しているならば、個別の敷地建物の関係で、「敷地対建築物」の関係が崩れていてもよい、つまり、容積の授受が行われてもよいとする考え(改正前第52条の2)である。第59条の2は、近隣敷地が容積一杯の開発ができないが適正な空地や避難路がないというような場合、近隣地の環境改善に資するならば利用していない容積利用を認めてもよいという条文である。総合設計制度で認められるべき容積の総合計は、都市計画法第8条で定められた地域地区の容積の限度においてである。都市計画法で定めた地域地区の規制は、個別の建築物とその敷地単位で適用されているが、建築基準法第59条の2で認めている総合設計は、その隣接地を含んだ一定の範囲に関し、それを一つの建築物と敷地の規模として扱ってよい土地と考えられることのできる範囲の敷地を対象に一体的に建築計画することを認めるという考え方が基礎にある。その中で、当該敷地で近隣の土地利用に貢献した分だけ容積移転を行ってもよいと言っているだけで、一体的に扱う敷地に対して、その敷地に与えられている規制の範囲を上回る緩和をしようとしている以下の総合設計制度(準則)は、都市計画法第8条及び建築基準法第3章の姉妹法の関係に照らして違法である。

⑥ 『総合設計許可準則』(建設省住宅局長通達)の趣旨
建設省(現国土交通省)は、総合設計制度に関する『総合設計許可準則』(甲25)を定めて、次のように「許可方針」を定めている。
「総合設計制度は、適切な規模の敷地における土地の有効利用を推進し、併せて敷地内に日常一般に開放された空地(以下「公開空地」という。)を確保させるとともに、良好な市街地住宅の供給の促進等良好な建築物の誘導を図り、もって市街地環境の整備改善に資することを目的とするものである。」
また、同準則は、建物の高さ制限の緩和については、次のとおり定めている。
「法第55条第1項の規定に係る許可(絶対高さ制限の緩和)を受けることのできる建築物は、同項の規定の適用により確保される天空光と同量以上の天空光を確保しうるものであること。」
すなわち、同準則は、建基法59条の2による許可を、あくまでも建基法55条の枠組みの中で(同条が維持・実現しようとしている都市環境を確保し得る限度内で)行うべきことを規定している。

⑦ 『東京都総合設計許可要綱』の制度上の基本問題
ところが、東京都が自らの「総合設計許可の取扱方針」として昭和63年に定め、その後改正を重ねてきた『東京都総合設計許可要綱』は、建基法59条の2を根拠にして、特定行政庁の許可の範囲を定めるもの、という構成をとっている。特定行政庁の取扱いにつき、同要綱の「1  趣旨」の「統一的な基準を設ける」(1頁)という意味では、その要綱の内容は別として、行政上の扱いとしては、それなりの意味はある。
平成13年8月10日に「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」が施行された際、国土交通省は、従前の関係通達については、行き過ぎた行政指導があることを認めて、一切の通達を反故にすることを明らかにしている。しかるに東京都は、その趣旨を謙虚に受け止めず、「自治事務化に伴い、通達による拘束は受けないが、従来どおり建築行政の参考として位置づける」(1頁)とした上で、都市計画の法律上の計画公権の意味を無視し、恣意的に都市計画法や都市計画決定と矛盾することを決められるとの牽強付会な解釈をして、更なる緩和措置を行い、法定容積率や建築物の法定高さの限度を無視した改正を行なった。
ところが、東京都は、その内容が建基法59条の2に照らして余りにも行過ぎた法律違反を犯している緩和であることに気付いてか、同要綱の「3 運用方針」では、「この基準は、技術基準として、許可の申請に当たっての必要条件としての性格を持つものであり、許可の条件を十分に充たすものであるか否かは、具体的な計画に即し、総合設計制度の趣旨等を勘案して判断する必要がある。したがって、本制度の運用に当たっては、常に趣旨及び基本目標に照らして総合的見地から行うものとする。」(2頁)と、「1 趣旨」の「統一的な基準」を設けるという趣旨と矛盾して、個別判断の参考であると規定している。

⑧ 『東京都総合設計許可要綱』の運用実態の問題
そして建基法59条の2を根拠にするこの『要綱』の実際の運用にあたっては、同要綱の内容が同条の規定そのものを具体化した内容として、特定行政庁の指示に従い、建築主事や指定確認検査機関はもとより、開発業者も、設計者も、建築業者も、許可基準要綱で定めた制限が、法律で定めている権利義務を規定している最低基準であるかのように扱ってきた。つまり、開発業者は、この『総合設計許可要綱』で定められている建築規制の緩和は、開発者の権利であると主張し、行政庁もその主張を全面的に容認している。
この『総合設計許可要綱』によって、都市計画決定された法定容積率の2倍もの容積率の緩和が行われたり(東京都渋谷区富ヶ谷、渋谷区鶯谷、目黒区青葉台など)、法定絶対高さ10メートル又は12メートル以下とすべき第2種低層住居専用地域の高さとして、地盤面の違法な操作も認めて、本件のような6階建て高さ20メートルのマンションを許容する許可が特定行政庁東京都知事から交付されている。
これらの『総合設計許可要綱』を根拠にした容積率の緩和及び建築物の高さの緩和は、いずれも都市計画法によってしか与えることのできない計画公権を、その権限のない建築行政において、法律によって与えられた権利を越えて不当に濫用しているものである。それだけではなく、建築基準法を根拠にする形式をとっていながら、その実体は、建築基準法の文理上からはあり得ない解釈を既成事実化するものである。当該許可の根拠を、東京都という特定行政庁が定めた『要綱』という体裁に依って、あたかも法律の内容であるかのような誤解を与えるものというべきである。
建築基準法で定めている低層住居という法律概念の中に20メートル6階建ての建築物が建てられることを認めたら、法律はあっても無いのと同じである。

⑨ 建基法59条の2の濫用
以上述べてきたように、建基法59条の2は、当該建築計画が、交通上、安全上及び衛生上支障なく、かつ、その建ぺい率、容積率及びその建築物の各部分の高さについて、その周辺を含む市街地の環境の整備改善に資する内容のものであると認められる場合に、建基法52条の容積率制限、同法55条等の高さ制限を、地域地区の都市計画決定の範囲内で緩和できることとする制度である。しかるに、本件建築物は、明らかに、その周辺を含む「市街地の環境の整備改善」に逆行するものであって(甲24P4の写真参照)、同条の趣旨に反する。
よって、本件建築物に対する「建基法第59条の2に基づく許可」は建基法59条の2の趣旨を逸脱、濫用してなされたものであって無効であり、本件建築物は、建築物の高さ制限を定めた建基法55条1項に違反する。

第3 本件建築物による原告らの被害・損害並びに訴えの利益及び原告適格  

本件建築物の存在により原告らが被っている被害・損害は、以下のとおり甚大なものである。

1 第1は、都市計画法第29条に規定する開発許可によって予定建築物に適した敷地の開発がされていないために損失を被ることである。
その主たるものは予定建築物に都市計画上必要であるとされた都市計画法第33条で定められた開発許可の基準に適合する開発地の整備がなされていない状態で、予定建築物ではなく違反の建築物が建てられることにより、道路をはじめとする地域環境が悪化し、安全な避難方法が確保できず、その結果、原告らの住居につき、東京直下型地震などの大地震や火災などによる延焼被害が危惧される。
都市計画は将来の都市の形を計画し、その計画実現に向けて個別の建築行為を規制するものであって、都市計画で計画されているものは長い年月を掛けてつくられるもので、それは100年以上の期間にわたって発生することが予想される大震火災に対し、人々の生命財産を守ることが出来る都市防災計画でもある。現在の都市計画に違反して建築された建築物は、公害の排出基準に違反して公害を垂れ流す違反者と同じである。それらの違反者が登場しても都市環境が一挙に悪くなるわけではない。しかし、そのような違反を容認または放置すると都市環境は限りなく悪化する。今回の事件のような違反建築が容認されると、2項道路で構成された街は、大震火災に遭遇すると消防車も救急車も進入できず、阪神大震災のように火災が拡大し人身事故や物損が拡大しても、焼失するまで手を拱いて見ているだけになる。
裁判所は本来都市計画区域内の居住者に認めるべき原告適格を開発地の隣接地に限定したが、都市計画理論に照らしてそのようなことは理論的にありえない。原告適格は、都市計画区域居住者全員に認められるべきである。

2 第2は、本件建築物によって原告らが日常的に以下の被害を受けることである。
(1) 原告竹居治彦は、本件建築物の敷地の北側に隣接する土地(別紙原告目録1記載の住所所在の土地。甲9別紙1「等時間日影図」中の桃色で着色した部分)を所有し、同土地上に所有する建物に居住しているため、本件建築物の日影によって日常的に日照被害を蒙り、本件建築物によるビル風によってその生活環境が害される等の被害を被っているほか、「地域の環境に調和した良好な生活環境」を享受する権利及び「良好な住生活を営むことができる権利」が日常的に侵害されている。
(2) 原告竹居博美は、本件建築物の敷地の北側に隣接する土地(別紙原告目録1記載の住所所在の土地。上記(1)と同じ)上の建物を所有する原告竹居治彦の妻で、同建物に居住しているため、本件建築物の日影によって日常的に日照被害を蒙り、本件建築物によるビル風によってその生活環境が害されているほか、「地域の環境に調和した良好な生活環境」を享受する権利及び「良好な住生活を営むことができる権利」が日常的に侵害されている。
(3) 原告三村隆彦は、本件建築物の敷地の西側の道路を挟み隣接する土地(別紙原告目録3記載の住所所在の土地。甲9別紙1「等時間日影図」中の緑色で着色した部分)上の建物に居住しているため、本件建築物の日影によって日常的に日照被害を蒙り、本件建築物によるビル風によってその生活環境が害される等の被害を被っているほか、「地域の環境に調和した良好な生活環境」を享受する権利及び「良好な住生活を営むことができる権利」が日常的に侵害されている。

第4 本件建築物の除却を必要とする理由

1 日本では、民法により土地と建築物は独立した不動産と法律上扱われている。しかし、土地とその上の建築物は、社会科学的には一体のものとしてみなされ、都市計画法および建築基準法では、土地と建築物は一体不可分の関係にあるものとして規定している。敷地は予定建築物を建築するためのものである。よって、開発許可を受けるべき敷地では、予定建築物以外は建ててはならないと規定されている。しかし、本件は、予定建築物が違反建築物であり、その敷地も違反であるからその建築物全体を取り壊さない限り、適法な環境を造ることはできない。

2 建築基準法第9条第1項は、次のとおり規定している。
「特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。」
すなわち、同規定によれば、建築基準法令の規定に違反した建築物について、特定行政庁は、当該建築物の「建築主」ないし「所有者」に対し、当該規程に対する違反を是正するために必要な措置を執ることができるとされ、その措置として、「除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他」と規定されている。
本件建築物は、その建築物の敷地が都市計画法第29条に定める開発許可の要件を定めた第33条を蹂躙して、都市計画法第8条で定めた都市のマスタープランと言われる「地域地区」の規定に適合する「一敷地一建築物」の敷地の整備ができていないところに建築物を建築し、都市計画上遵守すべき環境を破壊しているため、その存在自体が都市環境を破壊するものとして違法である。

3 本件建築物は、敷地が都市環境を破壊するものであることを別にしても、建築基準法第59条の2の適用において、同条適用の要件に違反し、緩和してはならない緩和を実施したことにより、本件地域の近隣環境はもとよりその周辺に広がる都市環境を破壊するものとなっている。都市計画法第33条で定めている開発許可の基準に違反して都市環境を破壊している建築物は、環境破壊の原因となっている違反建築物自体を除却しない限り、回復することはできない。

4.本件建築物は、敷地自体が開発許可の基準に違反していることに加えて、前記のとおり、建築基準法第55条第1項および東京都都市計画に基づき、高さ制限を12メートルとされているところ、地盤面を脱法により操作してもなお、全体的に高さが17.95メートルあり、全体として5.95メートルも高さ制限を超えている。建築物の高さを法律どおりに作った場合、この敷地に現在の建築物が実現している大きさ(容積)の住居を設けることはできない。要するに高さとの関係で制限されている容積率に違反し、言い換えれば、都市の社会的空間として土地所有者が排他独占的に利用することを法律によって禁じている空間を不法に専用利用することでこれを実現している建築物である。よって、都市空間を不法専用している建築物は除却されなければならない。
しかるところ、本件建築物は、別紙物件目録1記載のとおり、鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階付き6階建の堅固な建物であり、その床面積は1階6685.84㎡、2階6496.57㎡、3階6496.48㎡、4階6060.32㎡、5階5458.43㎡、6階4111.63㎡であり、到底上層部から全体的に5.95メートルだけ除却することはできない構造である。
したがって、本件建築物につき、上記高さ制限に対する違反を是正するためには、建物全体を除却する以外に方法がない。

第5 被告に対する違法建築物除却命令発令申立て

そこで、原告らは、平成25年6月3日、被告に対し、訴外住友不動産株式会社に対して建築基準法第9条第1項に基づき、その所有する別紙物件目録1記載の建物全部の除却を命ずる命令(以下「本件措置」という。)をするよう求める申立てを行った。
しかるに、被告は、被告建築課審査係係長をして、同年月19日、上記申立人ら代理人弁護士武内更一に対し、電話により、上記申立てにつき被告としては訴外住友不動産株式会社に対して建築基準法第9条第1項に基づく措置を執らない旨告知した。その理由は、本件建築物につき建築基準関係法令違反は認められないとのことであったが、原告らが上記申立てにおいて主張した本訴請求の原因で指摘した違法事由についての被告としての判断および理由は何ら示されなかった。
そして被告は、現在まで、訴外住友不動産株式会社に対して建築基準法第9条第1項に基づく本件措置を執っていない。

第6  行政事件訴訟法第37条の2に基づく違法建築物除却命令の義務付け

(1) 行政事件訴訟法第第37条の2は以下のように定めている。
(第1項)第3条第6項第1号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。
(第2項)裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
(第3項)第1項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。
(第4項)前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第9条第2項の規定を準用する。
(第5項)義務付けの訴えが第1項及び第3項に規定する要件に該当する場合において、その義務付けの訴えに係る処分につき、行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分をすべき旨を命ずる判決をする。

(2) 本件建築物の存在により原告らが被る被害・損害は、前記第3で述べたように重大であり、かつその損害を避けるためには、前記第5で述べたように本件建築物を除却する以外に他に適当な方法はない。

(3) 本件建築物は、前記第1及び第2のとおり、建築基準法令に違反していることが明白かつ重大であるから、被告が本件建築物の所有者である住友不動産に対して建築基準法第9条第1項に基づきその除却命令をすべきであることがその法令の規定から明らかであると認められ、かつ、被告がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる。

結語
よって、原告らは、行政事件訴訟法第37条の2に基づき、被告に対し、訴外住友不動産に建築基準法第9条第1項により本件建築物の除却を命ずることを義務付ける判決をするよう求めるものである。

添   付   書   類

1  委任状                          3通

別紙
原  告  目  録

1.〒150-0032 東京都渋谷区鶯谷町17-1
原   告    竹   居   治   彦

2.〒150-0032 東京都渋谷区鶯谷町17-1
原   告    竹   居   博   美

3.〒150-0035 東京都渋谷区鉢山町5-3
原   告    三   村   隆   彦

別紙
物  件  目  録  1 

建物
所  在  渋谷区鶯谷町33番地2 
家屋番号  33番2の2
種  類  共同住宅
構  造  鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階付き6階建
床 面 積  1階   6685.84㎡
2階   6496.57㎡
3階   6496.48㎡
4階   6060.32㎡
5階   5458.43㎡
6階   4111.63㎡
地上1階 6775.32㎡
地下2階 8415.17㎡

別紙
物  件  目  録  2 

(1)土地 
所  在   渋谷区鶯谷町
地  番   33番2
地  目   宅地
地  積   15723.11㎡

(2)土地 
所  在   渋谷区鶯谷町
地  番   33番4
地  目   宅地

(3)土地 
所  在   渋谷区鶯谷町
地  番   33番5
地  目   宅地

(4)土地 
所  在   渋谷区鶯谷町
地  番   33番6
地  目   宅地

(5)土地 
所  在   渋谷区鶯谷町
地  番   33番7
地  目   宅地

別紙
物  件  目  録  3 

(1)土地 
所  在  渋谷区鶯谷町
地  番  33番3
地  目  宅地
地  積  10276.94㎡

(2)土地 
所  在  渋谷区鶯谷町
地  番  33番2
地  目  宅地
地  積  933.15㎡

(3)土地 
所  在  渋谷区鶯谷町
地  番  34番
地  目  宅地
地  積  5114.04㎡

(4)土地 
所  在  渋谷区鶯谷町
地  番  38番1
地  目  宅地
地  積  1031.40㎡
別紙
物  件  目  録  4 

(1)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積 1513.74㎡
建築面積  674.35㎡
延べ面積 4404.76㎡
最高高さ   17.95m

(2)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積 1558.54㎡
建築面積  678.47㎡
延べ面積 4219.15㎡
最高高さ   17.95m

(3)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積  944.14㎡
建築面積  487.21㎡
延べ面積 3626.48㎡
最高高さ   17.95m

(4)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積 1024.06㎡
建築面積  518.21㎡
延べ面積 3854.18㎡
最高高さ   17.95m

(5)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積 2246.43㎡
建築面積  710.62㎡
延べ面積 5232.35㎡
最高高さ   17.95m

(6)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積 3607.53㎡
建築面積 1269.06㎡
延べ面積 8794.61㎡
最高高さ   17.95m

(7)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積 1444.01㎡
建築面積  820.27㎡
延べ面積 6081.12㎡
最高高さ   17.95m

(8)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積 1390.54㎡
建築面積  810.92㎡
延べ面積 6025.40㎡
最高高さ   17.95m

(9)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積 1047.46㎡
建築面積  581.63㎡
延べ面積 4140.46㎡
最高高さ   17.95m

(10)建物(建築計画概要書の記載による表示)
地名・地番  渋谷区鶯谷町33番3の一部ほか3筆 
(住居表示 渋谷区鶯谷町13番地)
用   途  共同住宅
構   造  鉄筋コンクリート造
規   模  地上6階、地下2階
敷地面積  946.66㎡
建築面積  514.70㎡
延べ面積 3633.64㎡
最高高さ   17.95m




コメント投稿




powerd by デジコム