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HICPMメールマガジン第542号(平成26年1月20日)

掲載日2014 年 1 月 20 日

HICPMメールマガジン第542号

みなさんこんにちは

10回シリーズで送信しています「規制緩和による贋金づくり」第2回目をお送りいたします。このシリーズは都市計画法制度の正しい理解を助けるための教科書として送信しています。

アベノミックスで再登場の
法定都市計画の改正による贋金造り(その2)
―私有財産権の保障と公共性(法定都市計画)―MM543号

法定都市計画と公共性
近代都市計画制度が日本にはまだ定着していません。都市計画の用語は広く使われてきました。しかし、都市計画制度とは何を実現するために作られ、それがどのように機能しているかを知っている人は、国内でも極めて少ないと思います。それは都市計画法を立法した政治家や法律案を取りまとめた中央官庁の官僚、施行を担当している地方公共団体の職員、大学や高等教育機関で都市計画法や行政法学を研究・教育者、さらには、裁判所で都市計画法関連の行政事件訴訟を扱っている裁判官たち、社会常識で考えたら、当然、都市計画法についての専門知識をもっている筈の人たちの専門知識の低さによって生まれている現象です。小泉・竹中内閣によって行われた規制緩和は、都市計画制度の破壊であることは明白で、近代都市計画制度を知っている人であれば、当然、反対しなければならないにも拘わらず、これらの日本の立法、行政、司法及び学問分野の専門家から、小泉・竹中内閣による都市再生・規制緩和に対するまともな批判すら全く行われませんでした。そこに、日本には近代都市計画法を「宝の持ち腐れ」としてしか持っていないことが暴露されています。
欧米では、「都市は歴史文化の集積の文化空間」と考えており、建築空間同様、人文科学で教育しています。都市工学や建築工学といった工学の問題として都市を扱っている国は日本だけです。欧米では人間に豊かな歴史文化空間を提供するために都市計画を学び、工学的に安全で衛生的な空間造りをすることはシビルエンジニアリング(平和工学)で行い、そこでの社会経済活動を研究対象とする都市社会科学や都市経営学、建築社会学や建設業経営学もあります。しかし、都市工学や建築工学で都市や建築を扱うことが出来るとは考えていません。都市は一朝一夕に出来るものではなく、過去の歴史文化を担うとともに、未来に向けて人々の合意形成を下に作成した都市計画を尊重して、道路、公園、都市下水などの都市施設と、社会・公共施設、住宅、建築物を造りながら豊かな文化空間として都市計画を実現していくものです。欧米の都市計画の教育では、それを「モザイク画」の下絵(都市計画)に例え、個々の「モザイクの石」(建築物)を計画されたモザイク画になるように埋めていく仕事を、建築設計指針による都市計画法の施行(建築物規制)と説明しています。都市計画は都市計画法により市民の合意形成の結果として法手続きが定められ、その手続きを経て決定されたものを「法定都市計画」と言います。そのため、法定都市計画には公共性が高い決定とされ、その計画を根拠に都市計各行政は強制権を行使できることになっています。この強制権を「計画公権」(「計画高権」と書くときもあります。)と呼んでいます。

環境規制の「排出規制」と「環境規制」

資本主義社会では、私有財産制をその土地利用の基本に定めていますから、私有財産の保障との調和(憲法第29条第2項)がその基本に置かれています。都市全体がそこに生活し、活動する人たちの多様な要求を満足するように、「私的に所有する2次元(平面)の土地」の上で行う「社会的に利用する3次元(立体)空間に、歴史軸を加えた4次元の都市空間」のあり方を決めているのが都市計画です。土地利用は空間の大きさと建築物の用途など土地利用の内容により決められます。都市空間を占用する個別の建築により都市の景観や眺望や、その建築物の利用に伴う発生交通量や都市施設、社会施設、学校教育文化施設、スポーツ・レクリエーション施設、商業・業務施設、官公庁施設などにより都市の提供する特性やアメニティは違います。都市生活者が自分たちの生活空間を主体的に造る民主的な都市計画が、近代都市計画です。ですから、住民が主体性を持って合意形成により都市計画を決定することが重要です。日本の現行の都市計画法は1968年、近代都市計画の発祥地である英国の都市計画法に倣って作られ、その法律構成はそのようにできています。
一旦作られた法定都市計画を変更する場合には、既存の法定都市計画を守って生活している人がいますので、法定都市計画の安易な変更は、「既得権の侵害になる危険性が高い」と言わざるを得ません。都市計画で決めている安全基準は、環境規制に置き換えてみると「排出規制」に相当し、その排出規制だけでは、個別の建築物の出現では、その環境への影響は、都市環境全体の中で希釈され直接の影響は少ないかもしれません。しかし、個別の排出規制の範囲で広く環境汚染が進むと環境全体が悪化します。そこで都市計画規制でもその考え方に倣って、個別の建築規制の影響は小さくても、その集積の結果、都市環境を悪化させないように個別の建築規制は、広く排出規制通りの建築物が建てられたときの環境として許容できる「環境規制」を前提に、排出規制をします。建築規制は都市計画全体としての環境規制を想定した上で、公害対策と同じ考え方で建築規制を規制しています。小泉・竹中内閣が行った規制緩和には、その考え方は基本的に存在しません。逆に、個別の建築には法定都市計画を蹂躙するような規制緩和を、景気刺激を実現する都市生成事業の場合には、開発許可権者や特定行政庁の権限で例外許可をし、または、許可の対象から外してよいとするものでした。

「姉妹法」の関係と実際に行われた規制緩和の内容
世界の都市計画法は、将来的に作り上げる都市(モザイク画)と、それを実現するための法定都市計画(モザイク画の下絵)と、その法定都市計画どおりの建築を規制する建築規制(日本の場合は建築基準法第3章:集団規定)で構成されています。
欧米では一つの都市計画法で行われていることが、日本では都市計画法と建築基準法の二つの法律で行われているため、両方の関係を「姉妹法」と読んでいます。姉妹法とした二つの法律の関係は、近代都市計画法として欧米で実施されている関係と同様なものである暗黙裡の了解の上で施行されてきました。例えば、都市計画法第8条の規定は「一敷地一建築物」(サブディビジョン)が建築基準法第3章の規定で対応し、都市計画法第11条第1項第8号の規定は「PUD:一dファン地住宅施設」が建築基準法第6章第86条の規定が対応することは、都市計画法や建築基準法上どこにも書いてありません。しかし、それは英語ではインプライド・クローズ(暗黙裡の了解条文)といい、法定都市計画として地域地区の決定された法定都市計画に対応して建築基準法第3章の規定が適用されることになります。第3章の規定は、「一敷地一建築物」の規定として定められていますから、複数建築物を対象に建築基準法の規定を適用することはできません。
1963年に現在の都市計画法が制定されました。そのモデルとなった英国の都市計画法は都市計画法によって建築規制を行えたため、新都市計画法が制定されると建築基準法が不要になるという問題が発生していました。当時の建設省住宅局は建築基準法の存否が問われる「死活問題である」と新都市計画法に反対しました。当時、私は住宅局市街地建築指導室と言う都市計画法制定の交渉窓口室にいました。住宅局の建築行政(建築基準法第3章部分)を都市局が吸収することも可能性としてはありました。都市局には住宅局で行っていた建築行政を実施する能力がなかったこともあります。しかし、建築基準法は住宅局にとって柱となる法律でした。当時の住宅局は住宅難世帯が解消され、次の住宅政策目標が定まらず、やっと「居住水準」という政策目標を取り入れた住宅建設計画法を制定させ住宅行政を軌道に乗せたばかりでした。都市局はどうしても新都市計画法を施行させ、都市のスプロールを抑えなければならない政治的必要性に迫られていたため、住宅局との折衝は、住宅局の既得権は前面的に尊重することで決着がつきました。即ち、新都市計画法に記載された「建築物」という用語は、「予定建築物」という用語に書き換えられ、都市計画法では予定建築物の敷地を整備するまでの行政を行ない、敷地が都市計画法で整備された以降の建築物の行政は建築基準法で実施することになりました。
都市計画法と建築基準法との関係は、土地整備(開発行為)と建築(建築行為)を基本的に時系列で分離することになりました。その間の手続きは、開発許可による敷地の整備の完了公告が成されてからでないと建築行為は行わない。その代わりに、建築するべき土地は都市計画行政により開発許可の基準に適合するように厳しく都市計画行政を行い、建築行政は専ら「一敷地一建築物」と言う関係の上で、開発行為が完了するまでは、建築行為は禁止することになり、これまでどおりの建築行政を行うことになりました。しかし、実際の都市開発と建築工事との関係は、できるだけ工期を短縮したい要求がありましたが、都市基盤整備のない所での建築行為はさせないとされました。そのため、開発許可による工事中に建築工事に取り掛かりたい要求が経済界から何度も提起され、さらに、開発許可の基準が厳しいので開発許可を受けないで建築工事を実施できるようにする要望が繰り返し提起されていました。それを受けて東京都は都市計画法で定義している用語の定義「開発行為」(都市計画法第12条)を、行政指導を口実に、「開発許可の手引き」で都市計画法と矛盾した解説書を作成し、事実上、「区画形質の変更」に関する定義を作成し、開発許可を受けなくてもよいとする脱法を認めてきました。
さらに、都市計画法第37条では、都市計画法による開発許可による工事が完了するまでは建築行為をしてはならない規定の中に、開発許可に関する工事をするために不可欠な工事事務所や材料置き場と言った建築物に関しては例外許可をしてもよい規程を設けました。この規定は念のための規定ともいうべきもので、開発工事のために必要な建築物はその建築を認めるとしたものです。しかし、東京都はその条文を業界の要求に沿うよう違法解釈をして、予定建築物自体を開発許可権者の例外許可を受ければ着工してもよいと言い、それを「制限解除」と称して、開発許可権者の許可を得て実施することが規制緩和後に成り、堂々と行われてきました。法律の読み方に「反対解釈」があり、37条で例外的が建築物は開発行為関連だけとしたことはそれ以外は禁止です。さらに、青島幸男都知事の時代から都市計画法第29条で限定列挙されている都市計画法上の都知事でなければならない開発許可権者が、特別区長や都下の市長に違法に権限移譲がされました。東京都特別区長が特定行政庁の権限と開発許可権限の両方を握り、都市計画法と建築基準法を姉妹法の関係を守らず、恣意的にそれぞれの行政を実施すべきことを、開発業者の利益を優先して行う違法な行政として実施されてきました。これらの違法な行政に関し、国土交通省は「地方分権法が制定されたことにより、都市計画法の施行権限は都道府県に移行し、国土交通省は都道府県に対する監督権限を行使できなくなった。」と国土交通省設置法違反の無責任を公言しています。

都市再生と規制緩和の問題
法定都市計画は、都市の未来の「環境規制」に相当するものの実現を目指して、都市計画法による開発許可の基準や、建築基準法の基準は、「排出規制」としての基準を定めています。今回の小泉竹中内閣による都市再生は、日本の「不毛の20年」の原因になっている不良債権処理を都市計画及び建築規制を撤廃して実現しようと言う正に経済政策のための法定都市計画の蹂躙であって、市民が合意した都市の将来の都市計画を、現在不良債権処理で経済的に窒息されている企業を蘇らそうとする政策です。その目的は違っています。分かり易くいえば、都市再生は法定都市計画を破壊することで不良債権で苦しんでいる企業の不動産を再生する政策であって、法定都市計画を計画どおり実現する市民の努力をぶち壊す法律違反です。一見、法定都市計画としては同じ形式をとりながら、法定都市計画の内容であるとして空間利用の形態規制を変更するわけですから、政策の依っていることは贋金造りと同じです。一般の法定都市計画を遵守して来た人たちに混じって、法定都市計画の内容自体にこれまでの法定都市計画と比較して規制内容が全く緩和された規制として適用されるわけですから、これらの都市空間利用に当って大きな差異が生まれることになります。それは金の混合比率の違った混ぜ物の大きい通貨が、金の純良の大きい貨幣の中に混じって流通するのと同じ「贋金問題」を発生することになります。
小泉・竹中の都市再生と規制緩和政策が、都市計画法の改正、建築基準法の改正と言う形で実施されました。その結果、贋金を使った都市再生事業は、大都市のスカイラインを短期に大きく変えるような開発及び建設事業を惹き起こしました。当然、贋金の流通の結果、開発地の周辺には都市計画法及び建築基準法違反を原因とする摩擦、軋轢が発生しました。それらは行政不服申請や行政事件訴訟と言う形式を取って争われることになりました。しかし、私が関係した約50件近い行政事件だけではなく、その何十倍と思われる行政事件に対し、裁判所は行政処分を是認する判決を下し、法定都市計画の破壊に与してきました。例えば、現行都市計画法が制定されるとき、学校教育施設が不足する都市開発は認めないという開発許可基準の下で施行された都市計画法により開発許可を受けたマンション開発で、義務教育施設が不足し、急遽仮設の小中学校が自治体の予算で建設されたといった緊急応急対策が採られました。また、もし、阪神大震災旧の大震火災が起きたら、救急消防施設が機能できなくなるような開発許可が多数許可されています。裁判所は、法律に違反して危険な許可を訴えた危険に隣り合わせた土地に生活している市民に対し、開発敷地に隣接していなければ、原告適格(被害を受ける危険性のある者)と認めず、その開発によって直接被害を受けていないとして訴えを却下してきた。都市計画関係規定は許可による直接の被害ではなく、100年に1度の大震火災に安全であるべき規定であるにも拘わらずです。

(NPO法人 住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)



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