メールマガジン

HICPMメールマガジン第544号(平成26年1月20日)

掲載日2014 年 1 月 27 日

みなさんこんにちは、連載の3回目です。

アベノミックスで再登場の
マンション建て替え円滑化法の法理(その3)
―私有財産権の保障と公共性(法定都市計画)―MM544

マンション建て替え円滑化法に期待されている「都市再生」利益
マンション建て替え円滑化法に期待していた都市再生の利益は何かを、まず、明らかにしなければなりません。対象とされたマンションは中低層マンション団地で昭和70年代以前の公営、公団、公社等の公共機関によって建設されたマンションで、賃貸住宅もあれば分譲住宅もあります。これらの公共共同住宅は、冬至4時間日照を計画条件として建設されたものが殆どで、階数5階建てで、実質容積率が50%、隣棟間隔25メートル程度の並行配置の住宅団地です。通常、都市計画法第11条第1項第8号に定める一団地住宅施設の都市計画決定が成され、建築基準法第6章第86条の規定が適用されていました。この一団地の住宅施設は、その開発全体を一つの都市施設として開発するため、建築基準法第3章の「一敷地一建築物」の規制を受けません。そのため、団地内の道路は基本的に敷地内の通路と言う扱いを受けます。

都市再生事業は、この敷地全体に対する容積率を、基本的に、法定都市計画としては、200%程度に引き揚げることを行ってきました。すると、実質の容積率は4倍程度に引き揚げられることになります。例えば、日本最大のマンション建て替え事業として実施された多摩ニュータウン永山にある諏訪2丁目住宅管理組合の建て替え事業を見ると以下のようになります。全住宅戸数640戸(1戸当り45㎡)で、その敷地面積64,000㎡(1戸当り100㎡)です。この住宅地に新たに設定された法定都市計画による容積率は、200%です。つまり、既存住宅地の実利用容積の4倍の容積を同じ土地に入れることが出来ます。住宅の地価は、容積が4倍になることで、4倍に引き揚げられることになります。小泉竹中内閣の規制緩和は、個人資産を努力しないで拡大することで経済成長を実現しようとしました。

阪神大震災で大きな被害を被ったマンションはマンション建て替えを実施することができましたが、住宅団地ではなく、法定都市計画が厳しく定められていたため、建て替えてもその費用負担分が、逆に、建て替えをする人の負担になるということが問題になりました。自身によって大きな負債ができたわけですから、その負債を解消するために、ここで既存マンションの何倍もの容積を認められ、売却できる床面積を拡大することができれば、「過を転じて福とする」ことができることが産業界、金融界で大きく取りざたされました。高地価の都市所有者が、その土地の上に建設することのできる床面積を大きくすることは、結果的にその土地を容積分だけ有効に使えることになり、何の対価を払うことなしに利益を売ることになります。

規制緩和の最初の動機づけは、阪神大震災の被災者救済のために既存の法定都市計画で定められている容積率の緩和によって、政府による土地担保経済と言われる日本で「贋金づくり」を行うことで、経済復興を考えたのです。そのマンションの建て替えによる利益はマンション所有者に帰属することは明らかですが、その贋金発行の利益はどのように支払われるかと言えば、法定都市計画への過剰な詰め込み、即ち、マンション居住者が増大することで既存の都市環境、道路、公園都市下水道等の都市施設、社会福祉施設、教育文化施設等に重い負荷を掛けつめこみにより利益を上げるため、都市での開発及び再開発が進行するにつれ、都市環境が悪化することになります。

都市再生利益の帰属
小泉・竹中内閣が考えていた都市再生事業は、当初は、バブル崩壊により地価が下落し、ところによっては100分の一以下に下落したところもありますが、そのような極端に地価下落が起きたリゾート開発など、再生の可能性のない事業は破産しましたが、住宅団地のような既に居住者が入居しているような住宅地では土地利用は確定しているため、バブルが膨張しているときでも、地価は上昇しても更地とは違い、収益還元評価に縛られて上昇出来ないでいました。そのため、公営、公団、公社による公共住宅団地の経営主体は建て替えを実施することで潜在地価(更地価格)を顕在化したいと考えていました。潜在地価を顕在化するためには、どうしても既存マンション建て替えを実施することが必要となっていました。しかし、憲法第29条(私有財産権の保障)により、反対者がいる場合には強制的にマンション建て替えをすることはできませんでした。そのため、マンションを強制的に建て替えることの出来る条件を探していました。

その格好の理由となるものとして、豊島産のアルカリ骨材の登場や海砂や海砂利の混錬で、海水をコンクリートに混入した場合、コンクリートが中性化し、または、電蝕現象で鉄筋が錆び、それが鉄筋コンクリートの耐久性の劣化をもたらすことが指摘され、鉄筋コンクリートの劣化診断が広く取り組まれることになりました。政府の鉄筋コンクリート構造の危険性に対する指摘の多くは、鉄筋コンクリート造マンションを強制的に建て替える環境条件の整備のためでした。宮城県沖地震で短柱がせん断破壊を起こした事故以来、これまでの耐震設計に対する考え方の見直しが始まり、短柱の破壊を取り入れた新耐震設計法が開発されました。

NHKが新耐震設計法を鉄筋コンクリートマンションの安全性判定の切札のように言いますが、その基礎理論と実際の決形や安全性の判定など複雑にからんでいて、新耐震設計法で設計したものは安全であるということにはなりません。阪神大震災で多くの新耐震設計法で建設されたマンションが壊れ、旧耐震設計法時代の建築物で安全なものが沢山あり、既存建築物との比較ではむしろ旧耐震設計法時代の建築物の方が高いのです。
既存の鉄筋コンクリート造の中に危険なものがあるとする判断が生まれてから、建て替えをしたいとされたマンションは、耐震判断によって危険とされ、緊急性を持って修繕または建て替えをする必要があるとされました。

劣化診断と大震評価の本質
実際に危険であるのではなく、建て替え利益を手に入れる方便として耐診断が持ち出されたことです。昭和58年には建物区分所有法が改正され、マンション区分所有者の5分の4の賛成で建て替えを選んだ場合、強制権を持ってマンション建て替えができるようにました。この改正により、耐震診断を根拠に鉄筋コンクリート造マンションの危険性を主張し、昭和58年建物区分所有法を根拠にマンションに危険性を主張し、強制的に建て替えを実施するようになって来ました。
劣化診断の殆どすべては鉄筋コンクリート構造の建築物を建て替える意図の下に実施されたものです。診断方法で危険性とされたものの中で、建築基準法第9条で構造耐力的に危険であるから取り壊さなければならない判断が出されたものは皆無でした。

耐震・コンクリート劣化診断は、それほど厳密性を持って建築物の安全性を評価できる診断方法ではありません。そのため、マンション建て替えを実施したい人達は耐震・劣化診断を行い、依頼者の意向を診断結果に取り入れた診断を巡って、住宅管理組合における対立が生まれました。その対立は耐震・劣化診断の適否をめぐって法廷で争いましたが、殆どの裁判で多数を占める者が勝訴し、耐震診断自体の正当性に踏み込んで判断をすることはありませんでした。昭和58年建物区分所有法により強制的に建て替えができる条件として、対象にすることができるマンションの耐震的に危険である必要があるため、建て替えを行う場合には、耐震診断により危険である法律上の体裁が必要になっていました。

耐震診断自体がマンション建て替えを実施するために、あまりにも形骸化した手続きになっており、その実態は建築の構造安全性が問題ではなく、区分所有者の5分の4以上の賛成が得られるどうかが問題にされていました。しかし、憲法第29条で定める私有財産の保障の規定の手前、私有財産を強制的に制限するためには、同条第2項に定める公共性を満足することが求められ、危険性の排除という理由として耐震診断の結果が、法的形式条件上、重要視されたのです。

円滑化法による公共性の根拠:合意形成の手続き
平成14年に制定されたマンション建て替え円滑化法(以下「円滑化法」という)は、新しく都市再生という経済活性化を図るという論理を取り入れて制定されました。その法律の論理は、区分所有者全員が円滑化法第4条で定めるマンション建て替えに向けて法で定める手続きを踏んで合意形成を行った場合には、その建て替え事業には、大多数の利益を実現するという公共性があるとみなし強制権を与えるものでした。昭和58年建物区分所有法では、マンション自体が猶予できない危険性がある場合には、修繕でも対応できるが、負担も大きいが利益も大きい建て替えをするときには、区分所有者の5分の4の賛成が必要であるとされました。

しかし、平成14年の円滑化法の場合には、マンション自体の危険性が建て替えを強制的に実施できる条件から外されました。そして、単に区分所有者の5分の4以上の賛成という経済的利益の追求によって、区分所有者の合意形成が出来た場合には建て替え事業に公共性が生まれるとされました。しかし、それではあまりにも個人の財産権を軽くあしらうことになるため、経済的利益を求めるための弱者の犠牲ではないとするため、円滑化法第4条で定めた基本方針の法律上の手続きを定め、その具体的な手続きを、国土交通省は法律の解釈として区分所有者の「マンション建て替えに向けての合意形成に向けてのマニュアル」(以下「マニュアル」という。)を定めました。

マニュアルでは、区分所有者がマンション建て替えを発意してからマンション建て替え事業に着工するまでを14の工程に分け、区分所有者の合意形成を図る手続きを定めました。その手続きの中の二つの大きな節目に、区分所有者の5分の4以上の絶対過半数で決議を行うことにした。
第一の決議は、組合員全員を強制して建て替え事業計画に参加させる意思決定です。組合自身の費用で専門のコンサルタントを雇い作成した建て替え計画に基づき、区分所有者全員を縛って建て替え事業計画を作成する「建て替え推進決議」です。第二の決議は、「建て替え推進決議」後、国が優良住宅と整備事業補助金(補助率3分の2)を受けて、区分所有者の意向を反映した建て替え計画を作成し、その計画に基づいて区分所有者全員を拘束して建て替え事業を実施する「建て替え決議」です。

この二つの決議をすることが円滑化法第4条による公共性を付与することの出来る合意形成とされました。円滑化法では、「建て替え決議」を根拠に、同法第9条にマンション建て替え事業が強制権を持って実施できる権限を有する建て替え組合を東京都知事が認可します。組合認可の基準として諏訪組合が「マニュアル」に定めた「建て替え決議」をすることが条件です。この「建て替え決議」は、平成14年円滑化法の制定に伴い関連改正された昭和14年建物区分所有法第62条に定める「建て替え決議」です。法律改正で「建て替え決議」の用語の定義が改正されていました。

諏訪2丁目住宅管理組合の事例
優良建築物等整備事業補助金を交付する担当が円滑化法担当外の井上俊之住宅整備室長でした。井上室長は諏訪組合の建て替え事業を「マニュアル」に定める「建て替え推進決議」をしなくても名称だけの「建て替え推進決議」があれば国庫補助金を交付すると東京都、多摩市長に違法な事業を教唆しました。井上室長は国庫補助金適正化法に違反して補助金を交付し、予め建て替え業者として内諾を与えてきた旭化成ホームズ㈱に補助金を供与し、違法な建て替え事業を推進しました。その後、補助金を得て作成されたた建て替え事業は組合員の30%以上の賛成が得られず、その計画による「建て替え決議」が出来ないと分かりました。

そこで諏訪組合に国庫補助金返還をさせず建て替え事業計画を不存在にしました。円滑化法に定めのない建て替え事業者選考協議(コンペ)を実施させ、旭化成に代わって建て替え業者の地位を東京建物㈱に与えました。その際の選考提案に、諏訪組合、多摩市、旭化成ホームズ㈱、東京建物㈱が共謀し、1世帯当り500万円の引越し補償金として支給する提案を作り建て替え業者に選考されました。その補償金の原資は区分所有者の土地を不正に減額評価させ捻出した費用でした。選考後、東京建物㈱はリーマンショックを理由に引越し補償金を支給できないと言い、業者選考の際約束した32億円を支払わず横領し、引き続き国庫補助金の交付を受けて建て替え事業を継続しました。

諏訪組合は国庫補助金を受けて作成した建て替え事業計画を反故にし、円滑化法上の「建て替え決議」はできません。そこで井上室長の指導、「円滑化法第4条を解説したマニュアルは単なる指針に過ぎず、従わなくてもよい」に従い、マニュアルに依らないで円滑化法が施行できると違法な指導を行いました。前述の取り、円滑化法の制定に伴い建物区分所有法が改正され、第62条の「建て替え決議」の用語自体は、昭和58年建物区分所有法と同じですが、「建て替え決議」の用語の定義は改正され、区分所有者の意向を反映した建て替え事業計画に対し5分の4以上の賛成の決議とされました。

諏訪組合は井上室長の違法な指導に従い、昭和58年建物区分所有法に基づく区分所有者の意向だけの「建て替え決議」を行いました。諏訪組合はその「建て替え決議」を平成14年区分所有法による決議であると偽り、東京都知事による強制権を有する建て替え組合申請を行い、認可を得ました。諏訪組合が円滑化法第9条により手に入れた強制権を有する建て替え組合の東京都知事認可は、円滑化法第4条の内容を解説したマニュアルに二つの決議を詐欺により得たものです。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長  戸谷 英世)



コメント投稿




powerd by デジコム