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HICPMメールマガジン第569号(2014年7月21日)

掲載日2014 年 7 月 23 日

BM第569号(平成26年7月21日)

皆さんこんにちは

オランダの住宅(その1)
これまで11回にわたってオランダとでルギーの住宅と街並み調査の結果を連載してきたが、その調査の一つの成果として、現代のオランダの住宅に生きているオランダの住宅の歴史文化が°のような形で確かめられるかを2回に分けて、まとめて紹介することにした。この調査旅行の中心となった課題は、中世に生まれた「コモンとコミュニテイ」が、現代の住宅地の中に如何に息づいているかというテーマであった。この調査の結果をもとに日本の具体的な土地の上で、オランダの低層高密度な住宅地の開発技法を設計図として作業してみた。そのときの参考になったのが今回紹介するライデンの豊かなコモンを活かしたアタッチドハウスである。

オランダの「コモン」〈共有地〉のある住宅
インターナショナル様式で建てられた現代のオランダの住宅
オランダのライデン市に娘が25年ほど前に購入したシングルファミリーハウスの連続住宅(アタッチドハウス)として建設された住宅地を数年おきに何度か訪問してきた。そこで何日か生活を繰り返し、オランダの住宅地のベースにある「コモン」の面白さに気付かされた。この住宅のデザインは、インターナショナルスタイルでデザインされたモダーンな住宅団地である。そのために最初はオランダでも現代建築は、機能主義重視の住宅なのかと思い込んでいた。
しかし、昔からのライデンのレンガ造のアタッチドハウスを訪問し、ライデンの街並みを調査しているうちに、私の新しくインターナショナルスタイルで建築された住宅に対する私の認識は間違っているということに気が付いた。その住宅地計画の考え方は、基本的に昔からのバックアレーで結ばれた隣保区を単位としたライデンの一般の住宅地形成と同じ街づくりのシステムを、現代の住宅地に読み替えて、現代のライフスタイルを取り入れた間取りと、インターナショナルスタイルのデザインで実施したものであることが分かった。

コモンとコミュニテイ
住宅販売を考えた住宅の価格を前提にした基本(全体計画と個別の住宅との関係)としての住宅地開発の枠組みは、まず、住宅地の基本的組み立て(マスタープラン)は、住環境計画として先行して決められた。その後、住宅購入者の住宅費支払い能力の範囲で、羊羹を切るように購入者の購入することのできる床面積を垂直に切り分け、心地よい(ディーセント)な独立住宅を隣地境界線に接して建設するアタッチドハウス(連続住宅)の型式で供給する方法である。住宅地計画には計画上のヒエラルキーを考えて、マスタープランとしては住環境の基本が決められ、その後、マスタープランを前提として住宅計画がなされた。

そのような住宅地は、住宅地のどこからでも優れた眺望の得られる景観づくりが重視されることになる。住棟配置としてのマスタープラン段階で、住宅地のどこからでも、視界を妨害する電線や電柱のない広い空を眺めることのできる低層(3階建て)高密度開発を計画している。そのため、購入者が必要な床面積を切り取っても、眺望が確保できる住宅を、1戸当たりの土地費負担を引き下げながら確保できている。住宅地全体としては、マスタープラン段階で確実に、できる限り広く緑豊かな環境をつくる方法である。そのカギを握っているのがコモン〈共有地〉の計画とコモンのコミュニテイによる管理である。

バックアレーで結ばれたアタッチドハウスの計画と消費者の選択
住宅地はその敷地の周辺が運河、鉄道、道路といった公共施設と隣接し、それらの公共施設との間に1メートル程度の緩衝緑地帯を挟んで住宅が建設されている。この住宅地の場合には、前面には側道(サイドウォーク)付きの道路に面して奥行3mのフロントヤードがあり、そこにアタッチドハウス(連続住宅)が立っている。アタッチドハウスの裏側には、奥行10m程度のバックヤードがついた敷地がつくられている。バックヤードは、塀で仕切られた勝手口から自転車やオートバイを出し入れすることができる程度の幅1.5m程度のバックアレーを挟んで背中合わせでアタッチドハウスが建設されている。この住宅地が開発され、住宅地が分譲された当時はバックアレーとバックヤードが区画もない状態で販売されていた。それは当時コーポラティブハウジングやコウハウジングの考えが広く取り組まれ、相隣でアウトドア空間を共同利用する試みが提案されていた。ところが、この25年の歴史の中で、相隣のアウトドア空間利用について、垣根を取ったり、共同の広場として使うなどの試行錯誤の結果、各住戸のバックヤードの独立性を確保し、それぞれの家族のライフスタイルを反映するライデンの伝統的な住宅地に戻る形に形成された。

ミックストハウジング
アタッチドハウスとして全体が計画的に建てられているが、隣接している住宅はそれぞれ床面積が違い、戸建て住宅が隣地境界線に接して建築され、住宅棟全体として一つの建築デザインとなっている。その住宅計画の考え方としてはマスタープランとして住宅棟計画が先にあって、そのアタッチドハウスの基本計画と仕様を受け入れる住宅購入者に、購入者が必要とする床面積を垂直に切り売りし、購入者の希望するインテリアとして仕上げたセミオーダーの住宅である。そのため、ここでのライフスタイルを支持する多様なライフステージの世帯が集まってくることになる。米国のニューアーバニズムにおけるミックストハウジングと同じ考え方である。

それは専門業者が費用対効果を最大にする考え方で明確なライフスタイルを持った全体計画をつくり、住宅購入者の希望を受け入れて、開発業者が用意したオプションの中から各世帯の好きなインテリアをつくる方法である。バックヤードの利用も世帯ごとにライフスタイルに合わせたガーデニングを行い、管理することが各世帯の個性ある生活を営むためにも適当である。両隣との間の生け垣や、庭の樹木に関しても、隣の植栽を相手の敷地部分に関しては、完全に自分の植栽として利用してよいという理解がつくられ、花や果実を自由に収穫している。相隣の生活を共同化することではなく、お互いの違いを尊重しあうことが、相互の生活を豊かにし合うことであると理解したようである。

バックアレーを挟んだ隣保住区による環境管理:ハブ&スポーク
ライデンの伝統的な住宅地とは、バックアレーを挟んで背中合わせに造られる標準的な住宅棟のまとまりを、住棟計画の基本単位としてつくられている。標準化された住宅棟を使って住宅地の中央のコモンとしてつくった公園を取り囲むものである。背中合わせに造られたコモンとしてのバックアレーを利用する人びとの近隣住宅地が、隣保の基本単位となっている。住宅地の中心に住宅地全体としてコモンとしてつくられた公園は子どもの遊具も置かれた近隣公園である。複数のバックアレーを挟んで形成された隣保単位を集約して近隣公園がつくられ、住宅地全体から子供たちが集まってくる。子供の目線で見ると、近隣公園(ハブ)を中心にバックアレーをショートカットとして利用する近隣公園への道路網(スポーク)ができている。近隣公園の周りにバックアレーを軸にした隣保を構成する住棟が並んでいる。すべての住棟の裏側にバックアレーがあり、バックアレーを挟んでアタッチドハウスがペアーで建設されている。その結果、どのアタッチドハウスの表側からは、決して裏側のアタッチドハウスを見ることができない関係になっている。

近隣公園を囲んで側道の付いている道路(ドライブウエー)がつくられている。正確に言うと子供の遊び場のある公園と道路(ドライブウエー)と側道(サイドウォーク)は、住宅地内の中心施設で、すべてコモンである。その道路や側道、子どもの遊具の置かれている公園に対して、ライデン市の管理監督は及んでいるようであるが、土地の所有権が公共機関の管理下にあることと、コモンとして管理されていることと、道路交通の安全という公共施設の公共管理権とは違っているようである。日本における公共施設に対する「公物管理」とは、公物、私物のように管理権を区分しているわけではなく、公権力による公共施設管理と別に、その間に中世時代から社会的に形成されてきたコミュニティによる管理という概念が機能しているようである。

住民の自主管理による道路
今回ここで紹介する住宅地経営管理に関係する調査報告は、行政上の制度の機能調査ではなく人びとの生活の視点から見たものを紹介するようにする。私のこれまでの仕事の関係で、どうしても、日本における公共施設に関する行政の関与という視点で整理して理解しようとする「靴に合せた足」の理解になりがちである。それは、「管理する人に都合の良い施設」である。今回は「オランダの社会制度の靴」は、どのように「オランダ人の住生活という足」をいたわっているか、即ち、「利用者本位の施設管理」がされているかの視点で見ることにした。その結果、オランダでは住環境を守る制度的がどのようになっているかを、日本的な制度で理解できない所が沢山現れてくることになる。
この住宅地の中のバックアレーは、そのアレーに出入りする人たちの隣保地区のコモンである。住宅地内の道路や側道(サイドウォーク)は、バックアレーとは違って、一団の住宅地内の生活道路(敷地内通路:ドライブウエー)であって、住宅地内の全ての人を対象にしているが、通過交通のためのものではない。つまり、住宅地のコモンである。これらのコモンに対する住民の目は、「コモンは、自分たちで管理する」という考え方に立っている。多分、日本的に言えば、道路交通法上の管理は、コモンの道路にも及んでいるが、コモンに道路管理権は及ばない。

お互いの違いを違いとして認め合う地縁共同体の生活
公園に面した住宅の台所には大きな窓がついていて、そこから、公園で遊んでいる子供たちの様子が分かる。うちの子供が遊んでいる様子を見て親たちは安心しているし、そのドライブウエーやサイドウォークに停車している車に、この地区以外からの車が入って来ていないかを住民全体が気を使っている。住民自身がコモンの利用に関し同じ気持ちでいるので、外来者にもその感じから分かるようである。言い換えればコモンを囲む住宅の住民がウォッチャー(監視人)でもある。この住宅地内の居住者の車であるかどうかは、住民にはわかっている。そのため、外来者かどうかは住宅地内の人にはよく分かる。住宅の前には自動車道路と側道(サイドウォーク)がついているが、フロントヤードの幅3m程度の所にあるサイドウォークを歩いている人からは、台所で仕事をしている家族の様子だけではなく、家の中も丸見えで、道を歩きながら家の中を覗き込んで、懐かしそうに笑顔で、「はーい」と声をかけてくる。住宅の中を覗こうとするのではなく、お隣さんが見えたので、「お隣さんは元気かな」という程度の関心でしかない。

この窓から住宅の中を覗かれないようにとカーテンを吊ったり、窓にベルギー人たちがレースを吊ったり,貼ったりすることをオランダ人はしない。相手に見られるという意識を持つ人は、逆に、相手の生活に関心を持とうとする意識があるためであると考えるため、「カーテンを使う人は、秘密主義者」のように見られかねない。同じ地区に生活する人同士が、その生活を知ってもらうことに、恥も衒いもいらない。同じ地縁共同体を組んで生活している人の間に、特段、隠しだてする必要はなく、ありのままを知ってもらうことで、何も困ることはない。それぞれが違った生活をしていることが分かることは、相互理解の上でむしろよいと考えている。

NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)



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