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HICPMメールマガジン第570号(2014年7月28日)

掲載日2014 年 7 月 28 日

HICPMメールマガジン第570号(平成26年7月28日)
皆様こんにちは
前回に続きオランダの住宅について調査結果について報告します。

オランダの住宅(その2)

住宅の資産価値が落ちないようにするために最も基本的なことは、セキュリティがしっかり守られるということである。住宅を販売しようとしたとき、セキュリティに不安がある住宅は、それだけで、買い手の腰が引けることになる。そのため欧米では例外なく、住宅の資産価値を高めるためには、「セキュリテイの高い住宅地管理をする」ことになる。セキュリテイの高い住宅地として米国では、ゲ―ティッドコミュニティやITを駆使した「スマートハウス」が採用されてきたが、調査の結果、これらの住宅地のセキュリティ対策は、してもしなくても一般住宅地と比較して統計上差異は生まれないことが分かった。その結果、米国では実際にセキュリティの高い住宅地を調査し、そこからセキュリテイの高い理由を調べることが行われた。
その結果分かったことは、「居住者が相互に理解し合っているコミュニテイがセキュリティの高い住宅地である」ことが判明した。それは居住者相互外互いを意識し合うコミュニティに対しては部外者の侵入に対して高い警戒感を持続しているからである。セキュリテイそのものを高めるのではなく、伝統的な近隣住区そのものの存在が、結果的にセキュリティの高いコミュニテイをつくっていた。それを米国ではTND(トラディショナル・ネイバーフッド・デベロップメント:伝統的近隣住区開発)と言う。そのモデルがオランダにある。中世の市民社会から現代につながっているコミュニテイである。

ウオッチャーとコミュニテイの帰属意識
かつて、私が書いた『アメリカの家、日本の家』(井上書院)に紹介した英国のウォッチャーの話が、行政学会でのコミュニティ研究材料にされ、説明を求められたことがあった。人っ子一人姿の見えない住宅地に入ったある日本人が、車を溝に脱輪して困っていたところ、それまでその自動車の行動を観察していたのではないかと思われるほど多数の住民が現れて、救出に力を貸してくれた実話である。欧米では住民全体が外部から来た人に対してウォッチャー(監視人)になると言われる。住民の住宅地に対する帰属意識は、家族にとっては「わが家」(アワーハウス)であるが、通り(街並み)に対しては「わが街」(アワーストリート)であり、街に対しては「わが街」(アワーヴィレッジ)である。「わが家」の概念が地縁共同体に向けて広がって、共同体として環境を守っている。居住者の街に対する帰属意識が、住宅地のセキュリティを守る絆となる。米国のニューアーバニズムの考え方は、住宅の資産を守るために最も重要なカギは、犯罪の起きない住宅地である。資産価値を守る鍵はセキュリティであるが、そのセキュリティは地縁共同体による人のつながりであるという結論を裏書きするものである。

お互いを知ることがお互いを尊重するきっかけ
人びとがそれぞれ思い思いに生活することは当然のことで、自宅のインテリアが相違することは当たり前のことで、オランダ人はその違いを生活の質の優劣で見るような差別観を持たない。各世帯がどのような生活をするかの違いは各世帯内部のことで、それを他人が云々言うことではない。その違いは違いとして尊重し合うことが重要である。他人の生活に影響をしない限り、インテリアの違いを優劣と扱い差別し、社会的に問題にする必要はない。ライフステージの違いにより、またライフスタイルの違いは生まれる。その違いを尊重し合うことで近隣関係はうまく機能し合うものである。

オランダの人々はその他のヨーロッパの都市住民と同じように、中世の時代から外敵の侵略に対し、自己防衛をするために安全を心掛けてきた。16世紀にスペインがライデンを陥落させようとしたとき、ライデン市民はダムを決壊させ、自分自身の命と財産とを犠牲にして、ライデン市がスペインに支配させないように守った歴史を持っている。自分自身の財産を守るために、自分ら自身で命を賭けて守らなければならないとする考え方が、中世の市民社会の地縁共同体の考え方である。中世においても、王侯貴族が力によって人びとを支配し、領地の安全を守らせることもある。

地縁共同体が一体となって行動するためには、共同体を構成する人たちが、主体性を持って地域を守ることが必要であると理解することが重要である。人びとの間に上下を認め、優劣の差別をする考え方では皆の力を結集することはできない。重要なことは、お互いを尊重し合うために必要な情報、つまり、「相手の嫌なことはしないが、相手が喜ぶことはする」考えを社会的にお互いが共有することが、近隣関係の結び付きが必要である。隣人との違いを自分の優秀性と考える差別意識は、オランダ社会では排斥される。

駐車位置が特定しないパーキングの効用
自動車道は道路に面している住宅の人が乗降に際し車を停車するが、通常は、路上駐車を容認している場所にしか駐車をすることはできない。住宅地の中で駐車場所は世帯数に見合った数だけ決められているが、駐車する位置は特定されていない。そのため、駐車する場所が特定されていないことが、駐車場探しに無駄な時間が使われているように思われた。しかし、駐車場の総量は足りている安心感があるため、空き駐車場所を取るときに余裕を持って探せる。そのため、駐車場が特定されていなければならないと住民たちは感じない。むしろ、毎回駐車する場所が違うため隣の車の所有者が変わり、より多くの人と挨拶をする機会は多くなる。挨拶と併せて一言、二言の会話を通して、家族について知ることになり、ペットの扱いや、子どものバカンスの話がきっかけで、離れて暮らす家族の話にまで話が進み、思わず話が盛り上がることもある。結構、駐車場での挨拶が、その後で家族の中の話題になり、日常の生活を通してお互いの関心事が理解でき、近隣に生活する人の情報を知る一つの手段になっている。娘の生活を見ていてライデンの個のパーキングの利用は米国のニューアーバニズムによる住宅地経営にも輸出できるのではないかと思った。

オランダの生活を観察し、現在、アメリカ社会で指導的になってきたニューアーバニズムの原点を見ることができた。実際にこの駐車場の利用を観察していると、この住宅地のコミュニケイションに大きな部分が、駐車施設の場所が毎回変わることで、少し不便ではあっても、住宅地の居住者相互の接点が多くなり、地縁共同体のつながりを高めている。パーキングできる車の数が、留める車の数以上にあることがこのような運営を可能にするのである。米国のニューアーバニズムでは、郵便物はできるだけ早く開封したい人びとのニーズを活かし、人びとの出会いの機会に共同郵便受け箱が使われている。

25年の生活経験が見つけた伝統の知恵
ライデンの住宅地は、開発当時こーハウジングなどの理論も丁抹を中心に発展し、米国にも拡大していた時代である。この住宅地開発も、世界的にも最も新しい住宅地開発の計画理論によって開発され、隣同士や複数の住宅でバックヤードとバックアレーを共同利用するコーポラティブの屋外空間利用が提案され、共同で大きなバックヤードを広く使う試みもされた。
しかし、25年経過してみると各世帯の生活空間の独立性は尊重し、敷地ごとの利用方法は個性化が強まり、塀や生け垣の植栽を含め境界意識は強くなっている。この住宅地が現在時点で落ち着いた土地利用は、ライデン市のこれまでの中産階級の住宅地で行われた世帯ごとの独立したバックヤードの活用であった。各世帯相互は生活を尊重し、塀や生垣で区分し、それでいてお互いができる境界の樹木を利用し合うことである。

お互いの敷地の個性的利用を尊重する生き方が、隣戸との違いを認め合って、返って相隣の協力関係を高め、住宅のリモデリングや修繕などでは相互に有償、無償で支援し合うといった関係が強化されている。コモン空間に対しては、その清掃や維持管理に関しそれぞれの役割を自覚し、コモンは、バックアレー、サイドウォ-ク、児童の遊具の置かれている公園は、いずれも極めて良好な状態で管理されている。これらのコモンの全体の面積に占める面積割合は、一見してかなりの面積になるように思える。このコモン用の敷地をどこから捻出したのであろうかと考えた。住宅地を子細に検討して分かったことは、オランダの住宅地の計画では、土地利用の目的の曖昧で、管理不行き届きの土地を見つけられないことである。つまり、管理の不行き届きの土地が集約利用されるコモンになっている。

限られた土地の再有効利用を実施しているオランダ
日本の土地利用と比較してはっきりわかることは、住宅の隣棟間空地、隙間に存在する管理のされていない空地を、オランダの一般市街地はもちろん、新興住宅地においても見ることはできなかった。このような細心の注意を払って土地の有効利用を行っているオランダには、国土の持つ土地不足という大きな制約があるからである。オランダは国土の4分の1が海水面以下の国である。運河を築造し、干拓を繰り返して生活することのできる土地を開発してきた国である。風車を造り、排水をし続けることで、生活することのできる地盤を手にすることができた国である。現在は電力を使って排水を行っているが、歴史的には風車によって水をくみ上げて、海水面下の土地を生活できる土地にして国である。

土地が不足しているというならば、日本が東日本大震災で多くの土地が水面下に沈んだとき、何故、「オランダの経験を活用しよう」とする意見が提起されなかったのだろうか。それは日本の住宅地経営管理に関する関心が、人間の環境(ヒューマニテイ:人文)管理としての関心が非常に低いためである。それはオランダの住宅、建築、都市を考える基本が、人文科学(ヒューマニテイ)として豊かな生活空間をつくり、管理することを考えたことにある。限られた利用可能な土地を豊かな生活空間と利用しようとしているとき、管理されないで放置されている隣棟間空地を容認する理屈はない。
日本では住宅・建築・都市空間を工学(エンジニアリング)の問題として扱い、人文科学(ヒューマニティ)の問題として取り扱おうとしなかった。そのため人びとにとって豊かな空間をつくろうとはせず、物理的に安全な空間としてつくろうとした。限られた土地を豊かに使う「コモン」の知恵、これがオランダの持っている国土利用技術を理解する鍵をにぎっている。日本には住宅・都市空間を人文科学の問題として理解する基礎知識に欠如していた。

住宅、建築、都市問題は人文科学の問題
人間生活にとって豊かな住宅、建築、都市空間をつくり管理するためには、それらを「物づくり」という3次元の空間の問題ではなく、そこには住宅、建築、都市で生活する人々の歴史文化を育てる空間の問題と理解してオランダ人が取り組んだことにある。その理解は欧米に共通することであるが、住宅、建築、都市という3次元の空間をつくることが目的ではなく、その空間で人々が如何に豊かな歴史を担った文化的生活を営めるようにするかという人文科学の問題として扱ったことにある。海水面下の土地であっても、土地を干拓と風車の技術(エンジニアリング)を駆使することにより、恒久的に利用できる住宅、建築、都市をつくり、経営管理する人文科学(ヒューマニテイ)の考え方がその背後には存在する。

オランダで住宅、建築、都市を学ぼうとすれば、ヒューマニティデパートメント(人文科学学部)で学ばなければならない。エンジニアリング(工学部)で人間生活にとって重要な住宅、建築、都市空間をつくり、維持管理、経営する上で必要な知識を学ぶことはできない。住宅、建築、都市で実現されるべきことは、人間の生活にとって大切な空間をつくり管理することである。そこでつくられる空間が、美しく、安全で衛生的で、高い利便性を維持することは、いずれも重要なことである。しかし、これ等の住宅、建築、都市が提供する効用(使用価値:デザイン、機能、性能)は、いずれもそれを利用する人間との関係(人文)において、適正にその効用を発揮することが重要なのである。

人間の生活文化を豊かにする人文空間
オランダでは、そのように人間の生活文化との関係で住宅、建築、都市空間に取り組まなければならない理解に立ち、住宅、建築、都市の学問は人文科学(ヒューマニテイ)として取り組まれている。当然、住宅、建築、都市は物理的な形でつくられ、構造的に安全で衛生的に、活機能的に高い利便性を持つ施設としてつくられなければならない。そのため、住宅、建築、都市問題の解決には、工学(シビルエンジニアリング)や地理学(ジオグラフィフィー)等の土地に関係する自然科学(ナチュラルサイエンス)や、その経済社会的関係を、経済学(エコノミー)、経営学(マネジメント)、社会学(ソシオロジー)、法学(ロウ)などの社会科学(ソーシャルサイエンス)などの広い学問体系の支持を受け、初めて優れた解決が導かれるものである。
しかし、その中心になる学問は、住宅、建築、都市空間が人類の歴史文化の集積として計画され、建設され、維持管理され経営されるためには、これ等の空間が人文空間として取り扱われなければならない。そこで、オランダをはじめヨーロッパやアメリカでは、住宅、建築、都市の空間は人間との生活空間として、人文科学(ヒューマニテイ)として扱われている。

限られた空間利用の知恵としてのコモンの活用
運河・城郭都市として外敵から自らを守り、人びとの人間空間をつくり育ててきたオランダでは、その軍事防衛的にも、経済的にも限られた都市空間を有効に使うことに、歴史的に大きなエネルギーが割かれてきた。限られた土地を有効に使う方法として、まず、考えられたことは、「適正な管理のされない土地利用を社会的土地利用から排除する」ことである。その次に考えられたことは、土地利用の時間空間的利用として、共有利用を図るとともに、土地の共有利用を、時間を考えた棲み分け利用する方法である。子どもの利用する空間を、子どものいないときには大人が利用し、商業用や工業用のために、店舗や貨物の取り扱いに利用させる方法である。

市民の土地は国家が公物管理権を許認可の事務処理を通して行うものではない。市民の自治による管理である。国王がその誕生日に国民が喜んでくれることこそ国王の喜びであると言って、国民に自由にフリーマーケットを開いてよい所を広く公開し、国民が自主的にそれを管理している。オランダの多くの中世都市にみられるマルクト広場はその代表的なもので、その利用方法はフリーマーケットや多くの路上商店などの現代の都市空間の利用方法に応用されている。運河の上にステージを作ってそこで音楽演奏をし、その観客席をつくり、レストランを営業させて都市生活を楽しむ景色は、オランダの国王の誕生日を祝うフリーマーケットで満ち溢れたオランダ中の街で見られた。都市空間の自治管理のされているとことがコモンである。

エラスムスの国
「オランダ人はケチだ」と言い、ダッチアカウント(割り勘)の語源を講釈する人がいる。オランダ人は合理主義であってもケチではない。限られた土地を驚くほど豊かに使っていることを知れば、日本人はオランダに学ばないといけないことに気付くはずである。オランダは近世の人文学者として最も優れたエラスムスを生んだ国である。人間を大切にする国から学ぶことが沢山ある。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷英世)



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