メールマガジン

HICPMメールマガジン第572号

掲載日2014 年 8 月 18 日

1.H&H(ホーム・アンド・ハウジング)
(第3回)MM第573号(2014年8月18日)
みなさんこんにちは
盆休みも終わりました。お休みはいかがお過ごしになりましたか。今回は日本と欧米の住宅比較の第3回目です。今回は住宅不動産の基本的な考え方の違いを説明いたします。

欧米と日本で基本的に違う「住宅不動産」

観念論的な工学(エンジニアリング)教育
性能重視の住宅・建築・都市政策は工学(エンジニアリング)教育としては象徴的な学問教育で、住宅・建築・都市を工学的に理解する基礎を性能(工学)に置いている。物理的な「物」は、経年劣化する。物理的耐用年数という概念がそこには存在し、その背景には、「物」である住宅・建築・都市は経年劣化するから、それらの価値は経年的に低減せざるを得ない。物が経年劣化する環境条件は、地形、気候風土によって異なり、木材であってもその物理的寿命は数年から数百年までの大きな違いがあり、材料や構造によって一律「木造20年」というように決められるものではない。
老朽化という概念には物理的な老朽化と社会的老朽化という2つの老朽化の見方があり、前者は、工学的な見方であるのに対し、後者は社会科学的な見方である。日本では工学な教育の中に社会科学的な視点を不正確に断りなしに持ち込み、工学的な論拠を持たない構造種別償却年数を決定することが行われている。そのような日本の工学教育は、住宅・建築行政が工学教育に不当な干渉した行政を受け入れた工学とっての自殺行為である。

減価する不動産の価値
世界では日本のように構造材料の種類ごとに建築物の耐用年数を決めることはない。建築物の構造材料は適正な維持管理を行っている限り、期待利用期間に対する基本的にや耐用年数半永久的であると考えられている。観念的に決められた耐用年数によって建築物が物理的に減価償却し、その経済価値は残存価値しかないと考えている国は、世界中に日本だけである。会計法上または税法上の減価償却の扱いは、社会経済制度上採用されることがあっても、それが建築物自体の資産価値を左右するものではない。
日本では住宅・建築の資産価値は、観念的に償却理論によって、経年劣化(老朽化)する絶対条件があるとしているため、それを回復する方法は、住宅の建て替え、マンション建て替え、都市再生(都市再開発)というスクラップ・アンド・ビルドのドグマから抜け出せないでいる。そのようなドグマは、日本では、住宅・建築・都市問題は、建築工学と都市工学で扱うことになっているために発生している。

効用の維持を図る「修繕」と適用されない残存価値の償却理論
欧米の社会で住宅・建築・都市という空間は、歴史文化の集積空間と考えられており、住宅・都市の熟成は人びとが空間を利用することでその効用は更新し、住宅・建築・都市の資産価値はその空間を利用したいと考える不動産市場での需給関係を反映して価値は増進する。修繕は住宅・建築構成材料の老朽化に対する対応で、住宅・建築の効用を維持継続以上の耐久性と直接関係するものではない。少なくとも売り手市場である不動産は、不動産学上も実際の不動産取引上も、取引時点の経済社会関係の下で再その不動産を建築した場合の推定再建築費として不動産鑑定評価(アプレイザル)される。その結果、優れた管理運営をされている住宅・建築不動産は、必要な修繕を繰り返しながら、その効用を維持し続ける。建築物自体の経年劣化は建築物が健全管理がなされている限り起こらないと考えている。
修繕に必要な費用は建築物の価値に比較すれば無視することができる小さなもので、その不動産の不動産鑑定評価は、評価時点でその住宅や建築物を建設した場合必要とされる建設費をベースに、市場の需要と供給関係を反映して不動産価格が評価されることになる。その結果、一般的には、建設時点の取引価格に物価上昇率を掛けた以上の価格で取引されることになる。欧米では住宅不動産鑑定評価方法に、理論上、政策上も、また、経験的にも物理的償却理論を取っていない。物価変動に対して安全に資産を守る方法は、住宅地経営が適正になされている住宅地にクラシックなデザインの住宅を持つことだとも言われている。

社会科学理論に矛盾する民法第4章「物」
欧米と日本との住宅不動産を比較するとき、住宅不動産の概念自体が法律上も社会科学上もそれぞれの国によって違うことを指摘しなければならない。日本の基本法は憲法があり、その上に住宅不動産に関する民法の規定がある。民法の中「物」(住宅不動産)を主物(土地)と従物(建築物)に分け、それぞれを独立したもの(不動産)として扱い、不動産登記法がその法律上の登記事務を行っている。欧米では土地と建築物とは一体の土地不動産であり、建築物は土地を加工した土地の一部としてしか扱われない。そこで欧米との違いを如何に検討する。検討に先立って民法の関連条文を掲載することにする。

民法第4章 物
(定義)
第八十五条  この法律において「物」とは、有体物をいう。
(不動産及び動産)
第八十六条  土地及びその定着物は、不動産とする。
(主物及び従物)
第八十七条  物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。従物は、主物の処分に従う。

欧米では住宅不動産(土地と住宅)は一体不可分で、住環境は土地の上に住宅・建築を住環境の一部として、造られ(加工)る。住環境計画の基本が基本計画(マスタープラン)である。その土地の中に建築される住宅・建築物は、基本計画を具体化するための土地の加工方法で、それを建築設計指針(アーキテクチュラルガイドライン)という。建築設計指針通りに土地を加工することで、基本計画通りの住環境が造られる。建築物は土地の加工形態で、土地と独立して住宅が存在することはできない。
日本の場合土地と住宅とは独立した不動産として法律上認められている。そのため、都市計画法では予定建築物を建てる敷地(不動産:主物)の整備を行い、建築物は敷地との関係で、建築基準法に定められている基準の範囲で自由に建築できるもの(不動産:従物)とされている。そこで一旦建築された建築物を法的に保護するために建物保護法があって、不動産登記法上登記された建築物は土地が取引の対象になっても、土地に立っている建物の権利は保護される。

日本の「共同分譲方式」の問題
住宅不動産の不動産評価は、日本の場合土地と建物のそれぞれの価値の合算したものとされ、住宅都市整備公団が始めた「共同分譲方式」はその具体化事例と言われる。しかし、土地の上に建てられる住宅の配置により住宅の効用に変化が生まれ、価値が違ってくる。しかし、共同分譲方式は住宅の配置計画に拘わらず住宅不動産の価値は同じであるとしている。その説明は住宅を所得するときは借地権を別に住宅に付加して購入し、土地を購入する特は、借地権分を控除して購入するとされているが、この扱いは説明の仕方をしただけであって、社会科学的にはそのような理論になっていない。
社会科学的には、土地には素地、造成地、住宅不動産という加工の段階があり、いずれも土地の加工段階である。土地に対してなされた加工は、加工した部分はすべて土地の部分に採り入れられ、土地と独立して加工部分が独立して存在することはない。住宅不動産を考えた場合、土地が確定した段階で、土地に定着した生活が始められ、テント、キャンピングカー、モーバイルホーム、本格的な住宅と土地の加工(利用)の仕方によってさまざまな形態がある。いずれも土地に土地利用を定着するためのバリエイションに過ぎない。一方、テント、キャンピングカー、モーバイルホーム、本格的住宅は、いずれも土地がなくては生活施設の利用を行うことができないので、それらだけでは不動産にはなりえない。
住宅ローンの場合に建物に対してローンが実行されるが、建物だけに不動産の効用はないので、建物保護法の協力を得ることが必要になる。住宅ローンの担保としては、住宅の立っている土地を担保に抑える。それだけでは土地をその他の担保にされることを排除できないので、一体的な担保としての価値がないとされ、一思いに借主の生命保険を担保に取るクレジットローンとされた。実際に住宅ローンの担保に取られている住宅、その土地及び生命保険を合わせた担保総額に対する住宅ローンは、住宅に治し80%程度のローンが与えられているように見えるが、ローン額は担保総額の約40%になっている。

土地所有権の限界
憲法第29条とともに民法第207条では、土地の所有権の限界を規定しているが、土地の所有権はその土地の上下に及びという規定は古代ローマ法時代と基本的に同じ考え方を踏襲している。つまり、「地球の芯から宇宙の果てまで」に土地の所有権は及んでいる規定である。この規定の最初の侵犯事件が航空機の航行と言われる。現在は大深度地下利用法など、憲法第29条第2項の規定により、公共性が認められる土地利用の場合には、所有権は公共事業に土地の上下の空間利用を許されている。地面の上には所有権に基づく敷地境界が存在するが、森羅万象自然現象は所有権に縛られているわけではなく、自然の恵みを享受する権利はすべての人に認められている。よって、土地の所有権と自然現象の行われる都市空間の利用が、社会的ですべての人が享受する権利があるとする考え方との調和を図ることがなければならない。たとえば、太陽光の恵み,雨や風の恵み、眺望や景観、野生生物の移動やその観察などすべての都市空間生活者に保障されなければならない。
「土地の私的所有と都市空間の社会的利用」の矛盾を調和するために造られた法律が都市計画法(日本だけは建築基準法第3章関係規定も一体に含まれる)である。民法第207条及び209条でいう法令とは都市計画法及び建築基準法を指している。以下、参考までに民法に規定を掲載する。

第3章 所有権 第一節 所有権の限界
第一款 所有権の内容及び範囲
(所有権の内容)
第二百六条  所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
(土地所有権の範囲)
第二百七条  土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。
第二款 相隣関係
(隣地の使用請求)
第二百九条  土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。

住宅・建築・都市空間を利用者の立場から見る学問体系
住宅・建築・都市を扱う学問分野に関し、日本では東京大学を筆頭に建築工学や都市工学(エンジニアリング)で扱っているが、都市計画法や建築基準法によって行っている都市空間の社会的利用と土地所有者の私有財産権の主張との調整問題は工学(エンジニアリング)で扱う学問領域には入らない。日本の建築工学や都市工学では、建築基準法や都市計画法の規制を学んでいるが、それは住宅・建築・都市が工学だけの枠組みに収まらないためで、工学という看板と違ったことの必要性を認め、事実上教育している。そして挙句の果てには、このような社会科学分野のことまで工学に含まれる間違った説明まで持ち出されることになる。欧米では、住宅・建築・都市等の学問は基本的に人間の生活文化に関する問題であるから、包括的に人文科学(ヒューマニテイ)で扱っている。しかし、「物づくり」としての住宅・建築・都市問題の生産に関しては工学(シビルエンジニアリング)的技術が、空間利用の権利調整は社会科学分野の法律(ロウ)や建設業経営管理(CM)に関しては、経済経営分野の学問(ソーシャルサイエンス)でサポートすることになる。しかし、住宅・建築・都市の問題を工学(エンジニアリング)の学問として扱うことには無理があり、それが日本の住宅・建築・都市問題の解決を歪めている。

物をつくることを目的にするか、環境を管理することを目的にするか
住宅・建築・都市にとって、その環境をつくり・管理する目的は、人びとに豊かさを感じることのできる空間環境を提供することである。よって、住宅、建築、都市にとって直接的に重要なことは、人びとにとって豊かさを享受できる空間とは何かが問題にされるべきことである。人間不在でも3次元のものをつくればよいとする「物づくり」の考え方と、人びとが豊かに感じられる土地に定着した人間環境をつくり、その空間管理をするとする考え方の違いである。日本と欧米の考え方の違いは行政上にも表れている。英国の住宅・建築・都市は環境省の下に実施される環境行政であるのに対し、日本では国土交通省という「箱モノづくり」の行政機関が行政を行っている違いにも表れている。
日本と欧米との住宅・建築・都市空間に関する考え方の違いは何かが、日本では全く議論されていない。その違いこそ、住宅の資産価値が造られたときの価値が最高で、以降、使い古されて、資産価値も下落し続ける「3次元物づくり」の日本と、現在住んでいる人にとって豊かな生活環境を提供する現在的利用価値が高い人文科学的な価値があるものであるから、その現在環境を現時点で建設した場合の見積額相当の価値、即ち、物価上昇以上に価格が上昇し続けている「4次元空間の経営管理の対象」の欧米の住宅の違いを生んでいる。

住宅不動産の価値の鑑定評価
その解明もこれからのこのシリーズで行う課題である。本検討の結論めいてしまうが、国民は住宅を取得して資産形成を実現し欧米のような不動産の持ち方をしたいと望んでいる。しかし、日本政府や御用学者たちは、世界の常識に反し、住宅不動産鑑定評価が住宅を、基本的に償却資産と扱い、その資産価値を残存価値とする扱いを維持しようとする。そうすれば、国民の住宅不動産の資産価値は経年減価せざるを得ない。そのような扱いをすることを国民は望んでいない。
一方、欧米では住宅不動産は土地と一体的に形成される住宅不動産であるとされ、土地の加工することで形成される4次元空間、つまり、歴史の集積としての時間軸を取り入れた文化を担った3次元(立体)空間である。その空間自体、基本的に土地を加工したものであるから、土地が消滅しない限り、住宅不動産は消滅せず、恒久的に存続し続けるものである。土地に対して加えられた加工作業に関しては、人間による営為によって加工されたものであるから物理的に滅失する可能性はある。それらの人間の営為によってつくられたものは、人間がその空間の存続を必要と認めて維持管理する限り、永久的に維持管理されるものである。その結果、住宅不動産の価値は、その価値を鑑定評価する時点での推定再建築費として計算されるものである。それが、米国の不動産鑑定評価制度(アプレイザル)による「原価積み上げ方式(コストアプローチ)」と言われる方法である。

住宅不動産の価値の決定:需要と供給の市場原理
欧米の場合、持ち家を持つ動機付けは将来に向けてのキャピタルゲイン(資産価値の増殖)である。いずれの国も住宅政策として国民の所得との関係で住居費負担が決められるべきという考え方を採っている。持ち家を持てない人は、賃貸住宅で生活をすればよいと考えている。その場合、家賃は居住者の月額家賃の30%以下で入居できることが必要と考えていて、それができない人には社会住宅という公的補助金を投入した住宅を供給する政策が行われている。如何なる住宅であっても適正な住居費負担の範囲で適正な品質の住宅を供給することが行われている。持ち家を購入している人たちはその住宅の資産価値が高まる方法を過去の経験をもとに工夫している。
いずれの国においても住宅ローンはモーゲージであるため、金融機関にとっては担保価値が高まることは融資自体の安全を高めるために必要なことである。それ以上に、住宅の担保価値が高まり住宅ローン残高を差し引いた残りである純資産(エクイティ)が大きくなれば、エクイティを担保にしたローン(エクイテイローン)を支給して、住宅をリモデリングしたり、車を買い替えたりして、住宅資産価値の増大を、生活を豊かにすることに向けている。もちろん、同じ住宅に生活し続ける生き方もあるが、子育て中の家族にあっては、子供の成長によって家族のライフスタイルも変化するため、7年を一つのインタバルにして住み替える生き方をしている人も多い。そのため、7年ごとの住み替えに住宅自身の資産価値が増大していけば、少ない負担でより大きな住宅に移り住め(ムーブアップ)るので、住宅の資産価値が増大することに対する関心は高い。

住宅の資産価値形成に重要なセキュリティ
住宅は単体としての効用も住宅取引の大きな決定要素になるが、それ以前の条件として犯罪に安全な住宅地で、犯罪に合わない住宅であることが住宅の資産評価にはより基本的に影響すると言われている。その対策としてITを取り入れたスマートハウスや住宅地を塀で囲み入門規制をするゲーテイッドコミュニテイが開発されてきた。しかし、その後の調査の結果、セキュリティの高い住宅地はその住宅地の経営管理をコミュニティのルールに従ってしっかり行っている住宅地であることが判明し、そのような開発が、TND(伝統的近隣住区開発)または、ニューアーバニズムとして実施されてきた。住宅地経営は生活文化を大切にした住環境経営で、土地と建築物を一体的な環境として管理することでなければ実現できない。土地と住宅を不可分一体な環境構成要素多考えて計画し経営管理する方法によらない限り、合理的な環境管理はできない。そのような優れた住環境計画と住環境管理は、住宅不動産市場における住宅資産価値が増殖できる住宅地であるかを巡って住宅市場が流動することで、より良い環境への需給関係がつくられている。人びとにとって豊かな環境を約束できるか、住宅を購入した人にとって期待どおりの資産価値を高める住宅地経営ができているか。その判断がいずれの国でも住宅不動産鑑定評価に反映され、すべての取引で住宅不動産取引をキャピタルゲインが得られ、住宅地全体が熟成し、より所得の高い人たちの住宅地に移行している。

次回からオランダ、米国、日本の住宅に関しその違いを明らかにしていく)
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)



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