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HICPMメールマガジン第575号(平成26年9月1日)

掲載日2014 年 9 月 1 日

MM第575号(平成26年9月1日)

皆さんこんにちは、「日本、オランダ(西欧)、アメリカ(米国)の住宅比較文化論的な視点でをすることにしました。目下、オランダの第2回目です。作業している私自身、日本の住宅が世界の孤児になってしまっていることを驚いています。

オランダの現代住宅のデザイン
「コモン」〈共有地〉のあるインターナショナル様式で建てられた現代住宅

25年ほど前、ライデンに娘が購入したシングルファミリーハウスの連続住宅(アタッチドハウス)を建設後、数年おきに訪問しそこで何日か生活を繰り返し20年経過化し、オランダの住宅地のベースにある「コモン」の面白さに気付かされた。この住宅のデザインはインターナショナル様式デザインのモダーンな住宅団地である。そのために最初はその住宅は、オランダの現代建築で機能主義重視の住宅なのかと思い込んでいた。しかし、ライデンの街並みを調査し、昔からライデンに建てられてきたレンガ造のアタッチドハウスをいくつか訪問し、娘の住宅に対する私の認識が間違っていることに気付いた。前面道路から眺めるファサードのデザインは、インターナショナル様式で、事務所建築と間違われるかもしれない。しかし、もしファサードに目をつむって住宅地を案内されたら、その住宅地計画の考え方は、基本的に昔からのバックアレーで結ばれた隣保区を単位としたライデンの一般の住宅地形成と同じ街づくりで造られていて、伝統的な住宅地の生活システムを、現代の住宅ファサードに変えたものであることに気づくはずである。オランダの住宅は戦前から65年経過し、急激な都市化が進行し、新しい産業構造に見合った社会にあった住宅が供給されてきたわけであるが、そこで供給された住宅はオランダの住宅市で育てられて生活の仕方で経験した伝統を基本的に伝承し続けている。

コモンとコミュニテイ
この住宅地経営は、基本計画としての全体計画を先行させ、その後、住宅購入者の住宅費支払い能力の範囲で、購入者が必要とする床面積を、羊羹を切るように購入者の購入できる床面積を垂直に切り分ける方法がとられている。切り分けられた隣地境界線部分にそれぞれの住宅の外壁を建設し、すべての住宅にとって心地よい適正な(ディーセント)な独立住宅を、隣地境界線に接して建設するアタッチドハウス(連続住宅)の型式で供給する方法である。でき上がった住宅を見ると、全体のマスタープランとしては計画上のヒエラルキーを考えて住環境の基本が決められ、住宅地のどこからでも優れた眺望の得られる景観づくりを重視したインターナショナル様式のデザインでまとめらた。連続して建てられている住宅の規模はすべて違っているが、住宅地全体が一体的なデザインでつくられているため、その住宅の境界も規模の違いも感じさせない。マスタープラン段階で、住棟配置として住宅地のどこからでも視界を妨害する電線や電柱のない広い空を眺められる低層(3階建て)高密度開発を計画している。そのため、購入者がそれぞれ必要な床面積を切り取っても、すべての人が眺望が確保できる住宅を、1戸当たりの土地費負担を引き下げながら確保できている。マスタープラン段階で住宅地全体としても各住宅にとってもできる限り広く緑豊かな環境をつくる方法である。そのカギを握っているのがコモン〈共有地〉とコミュニテイによる管理である。すべての住宅のファサードが前面道理境界に接して建てられ、住宅の大きさによって玄関位置は違うが、前面道路が曲線であることもあって、基本デザインが同じ外観のファサードが連続しているため、玄関の位置が違うことも街並み景観の違和感にならない。

バックアレーで結ばれたアタッチドハウスの計画と消費者の選択
住宅地はその敷地の周辺が運河、鉄道、道路といった公共施設と隣接し、その間に1m程度の緩衝緑地帯を挟んで住宅が建設されている。この住宅地の住宅は、前面には側道(サイドウォーク)付きの道路に面して奥行3mのフロントヤードがある。フロントヤードには住宅ごとに居住者の個性を生かして、ベンチが置かれ、藤棚がつくられ、プランターが置かれ、住宅ごとのファサードの特色がつくられている。その3階建てのタッチドハウス(連続住宅)は、玄関周りの装飾により個性的になっている。
奥行12メートルのアタッチドハウスの裏側には奥行10m程度のバックヤードがあり、そこにはテラスと小さな庭があり、庭仕事や自転車等を収容できる物置がつくられている。バックヤードは塀で仕切られた勝手口から自転車やオートバイを出し入れすることができる程度の幅1.5m程度のバックアレーに面している。そのバックアレーを挟んで背中合わせでアタッチドハウスが建設されている。この住宅地が開発された当時は、バックアレーとバックヤードは、区画のない状態で販売されていた。販売当時はコーポラティブハウジングやコウハウジングの考えが流行っていて、相隣でアウトドア空間を共同利用する試みが提案され、相隣のアウトドア空間利用については、垣根を取り払って一体化して共同の庭として使うなどの試行錯誤が行われた。しかし、その後の25年の歴史の中で、各住戸のバックヤードは、独立性を確保したそれぞれの家族のライフスタイルを反映する個性的なライデンの住宅地に戻る形のガーデニングを行い、相隣でガーデニングを行き来し交流するに伝統的な庭に回帰した。

ミックストハウジング(多種多様な住宅の混合
アタッチドハウスとして全体が計画的に建てられているが、隣接している住宅はそれぞれの床面積が違う戸建て住宅が隣地境界線に接して建築され、住宅棟全体としては一つの建築デザインとなっている。その住宅計画はマスタープランとして住宅棟計画が先にあり、そのアタッチドハウスの建築設計指針を受け入れる住宅購入者が必要とする床面積を垂直に切り分けて買い取り、住宅開発業者が用意した材料オプションを購入者が選択し、希望するインテリアとしてDIYによる選択を含んで仕上げたセミオーダーの住宅である。DIYは材料を供給するホームセンターで一週間程度の実技研修で技能を習得し、実施する。そのため、単に建築費を安く切り下げたい人だけではなく、自分の住宅を自分の力も入れてつくりたいと望む大工仕事が好きなライフスタイルを支持する世帯が集まってきた。
米国のニューアーバニズムにおけるミックストハウジングと同じ考え方である。これは実際の社会にあって人びとは、そのライフステ-ジやライフスタイルにより所得は変化するが、同じようなライフスタイルを希望する人はお互いに助け合うため、必ずしも移動するとは限らず、多様な人たちの生活がお互いに不足し合う所を補って豊かな環境をつくっている例は多い。多様な世帯の生活要求に応えるためには、多様なライフステージに対応する住宅が供給されることが重要だと考えられてきた。
この住宅地開発では、専門業者が費用対効果を最大にする地縁共同体のつながりを大切にするライフスタイルに合った全体計画をつくり、開発業者が用意したオプションの中から住宅購入者の希望を受け入れ希望するインテリアをつくる方法である。バックヤードの利用も世帯ごとにライフスタイルに合わせたガーデニングを行い、管理することが各世帯の個性ある生活を営むために適当である。両隣との間の生け垣や庭の樹木の隣の植栽を相手の敷地部分に関しては、完全に自分の植栽として利用する相隣の理解がつくられ、自分の花や果実を自由に収穫している。相隣の生活を共同化することではなく、お互いの違いを尊重しあうことが、相互の生活を豊かにし合うことであるという理解である。フランク・ロイド・ライトが住宅・建築・都市づくりにおける重要なことは、「民主主義の実現である」と言っているが、それはお互いの違いを尊重し合うことを指している。

バックアレーを挟んだ隣保住区による環境管理(ハブ&スポーク)
ライデンの伝統的な住宅地は、バックアレーを挟んで背中合わせに造られる標準的な住宅棟のまとまりを住棟計画の基本単位としてつくられている。公園を先に計画するのではなく、利用価値のない土地を集約してコモンを生みだしている。その方法は、標準化された住宅棟を使って住宅地の周辺から住棟を計画した結果、残された土地が中央公園(コモン)になっている。背中合わせに造られたコモンとしてのバックアレーを利用する人びとの近隣住宅地が、隣保の基本単位となっている。住宅地の中心に住宅地全体から捻出された共同の土地(コモン)に造られた公園には、子どもの遊具も置かれ、近隣公園になっている。複数のバックアレーを挟んで形成された隣保単位を集約して近隣公園がつくられ、そこには住宅地全体から子供たちが集まってくる。子供の目線で見ると、近隣公園(ハブ)を中心にバックアレーを短縮路として利用する道路網(スポーク)ができている。
近隣公園の周りにバックアレーを軸に隣保を構成する住棟が並んでいる。すべての住棟の裏側のバックアレーを挟んでアタッチドハウスがペアーで建設されている。その結果、どのアタッチドハウスの表側から見ても裏側のアタッチドハウスを見ることができない。近隣公園を囲んで側道の付いている道路(ビークルロード)がつくられている。正確に言うと子供の遊び場のある公園と道路(ビークルロード)と側道(サイドウォーク)は、住宅地内の中心施設ですべてコモンである。その道路および側道や、子どもの遊具の置かれている公園に対して、ライデン市の管理監督は及んでいるが、土地の所有権が公共機関の管理下にあり、コモンとして管理されている。それは道路交通の安全管理や公共施設の公共管理権とは違っている。日本では公共施設に対する公物管理は、公物・私物の管理権を区分しているが、オランダでは公権力による公共施設管理と別に、コミュニティによる管理が中世から機能している。

住民の自主管理によるコミュニティの道路
ここで紹介する住宅地経営管理は、人びとの生活視点から見たものである。日本における公共施設に関する行政の関与という視点の経営管理は、施設の管理本位の理解になりがちである。オランダの社会制度の理解は、どのようにオランダ人は住生活をいたわっているか、即ち、利用者本位の施設管理がされているかの視点である。オランダでは住環境を守る制度がどのようになっているかを、日本的な施設管理中心の制度の視点からは理解することは難しい。
この住宅地の中のバックアレーは、そのアレーに出入りする人たちの隣保地区のコモンである。住宅地内の道路や側道(サイドウォーク)は、バックアレーとは違って、一団の住宅地内の生活道路(敷地内通路:ドライブウエー)であって、住宅地内の全ての人を対象にしている。しかし、そこでの道路は、生活者を守る視点で考えられ、通過交通の利便のためのものではない。つまり、住宅地の住宅所有者の土地を少しづつ捻出してつくったコモンである。これらのコモンに対する住民の目は、「コモンは、自分たちで管理する」考え方に立っている。多分、日本的に言えば、道路交通法上の道路管理は、コモンの道路にも交通安全上は及んでいるが、コモンの利用に関し、道路管理権は及ばない。

お互いの違いを認め合う地縁共同体の生活
公園に面した住宅の台所には大きな窓があり、そこから、公園で遊んでいる子供たちの様子が分かる。わが子が遊んでいる様子を見て親たちは安心しているし、その車道や歩道に停車している車に、地区外からの車が入っていないかに住民全体が気を使っている。住民自身がコモンの利用に関し、同じ気持ちでいるので、外来者にもその感じは分かる。言い換えれば、住民がウォッチャー(監視人)でもある。住宅地内の居住者の車であるかどうかは住民にはわかっている。住宅の前の車道と歩道がついているが、フロントヤードの幅3m離れた所にある歩道を歩いている人からは、台所で仕事をしている家族の様子だけではなく家の中も丸見えである。道を歩きながら家の中を覗き込んで、懐かしそうに笑顔で、「はーい」と声をかけてくる。住宅の中を覗こうとするのではなく、お隣さんが見えたので、「お隣さんは元気かな」という程度のあいさつでしかない。
窓から住宅の中を覗かれないようにカーテンを吊ったり、ベルギー人たちがするようなレースを吊ったり,貼ったりすることをオランダ人はしない。相手に見られる意識を持つ人は、逆に、相手の生活に関心を持とうとする意識があるためと考えるため、カーテンを使う人は、秘密主義者のように見られかねない。同じ地区に生活する人同士が、お互いにその生活を知ってもらうことに恥も衒いもいらない。同じ地縁共同体で生活している人の間に隠しだての必要はなく、ありのままを知り合うことで何も困らない。それぞれが違った生活をしていることが分かることは、相互理解の上でむしろよいと考えている。

セキュリティーの高い住宅(コミュニティ)
住宅の資産価値が落ちないようにするための最も基本的なことはセキュリティーが守られることである。住宅を販売するとき、セキュリティに不安がある住宅は、買い手の腰が引ける。そのため、欧米では例外なく、住宅の資産価値を高めるために高いセキュリテイー管理をすることになる。セキュリテイーの高い住宅地として、米国ではゲ―ティッドコミュニティやスマートハウスが採用されてきた。しかし調査の結果、これらの住宅地のセキュリティーは対策をしてもしなくても、一般住宅地に比較して統計上の差異は生まれないことが明らかになった。その結果、米国では実際にセキュリティ-の高い住宅地を調査し、そこからセキュリティーの高い理由を調べることが行われた。
調査の結果分かったことは、居住者が相互に理解し合っているコミュニティが機能している住宅地がセキュリティーの高い住宅地であることが判明した。それは居住者相互がお互いを理解しているコミュニティでは、部外者の侵入に対して高い警戒感を共有しているからである。セキュリティーそのものを高めるのではなく、伝統的な近隣住区そのものの存在が、結果的にセキュリティーの高いコミュニテイをつくっていた。そのような考え方の開発を米国ではTND(トラディショナル・ネイバーフッド・デベロップメント:伝統的近隣住区開発)と言う。そのモデルがオランダにある。それは中世の市民社会から現代につながっている地域を外敵から守るコミュニテイ(地縁共同体)による住宅地経営である。

ウオッチャーとコミュニテイの帰属意識
『アメリカの家、日本の家』(井上書院)で私が紹介した実話、「人っ子一人姿の見えない住宅地に入ったある日本人が車を溝に脱輪して困っていたところ、それまでその自動車の行動を観察していたかのように多数の住民が現場に現れ、車の救出に力を貸してくれた」(英国のウォッチャーの話)が行政学会でのコミュニティの研究材料に使われた。欧米では住民全体が外部から来た人に対してウォッチャー(監視人)になる。住民の住宅地に対する帰属意識は、家族にとっては「わが家」(アワーハウス)であり、街並みに対しては「わが街」(アワーストリート)であり、町に対しては「わが街」(アワーヴィレッジ)である。「わが家」の概念が地縁共同体に向けて広がり、住宅地環境を守っている。居住者の帰属意識がセキュリティーを守る絆となる。米国のニューアーバニズムの考え方は、住宅の資産を守るための重要なカギは、犯罪の起きない住宅地である。資産価値を守る鍵はセキュリティーであるが、そのセキュリティーは地縁共同体による人のつながりであるという結論を裏書きするものである。

お互いを知ることはお互いを尊重すること
人びとがそれぞれ思い思いの生活をし、自宅のインテリアが相違することは当たり前である。オランダ人はその違いを、生活の質の優劣で見る差別観を持たない。各世帯がどのような生活をするかの違いは各世帯内部の自由で、それを他人が云々言うことではない。その違いは違いとして尊重し合うことが重要である。他人の生活に影響をしない限り、インテリアの違いを優劣と扱い、相手を差別し、社会的に問題にする必要はない。ライフステージの違いにより、またライフスタイルの違いは生まれる。その違いを尊重し合うことで近隣関係はうまく機能し合うものである。
オランダ人はその他のヨーロッパの都市住民と同様に、中世から外敵の侵略に対し自己防衛をするために安全を心掛けてきた。16世紀にスペインがライデンを陥落させようとしたとき、ライデン市民はダムを決壊させ自分自身の命と財産とを犠牲にして、ライデン市がスペインに支配させないように守った。自分自身の財産を守るために自分自身で命を賭けて守らなければならない考え方が、中世の市民社会の地縁共同体の考え方である。中世には王侯貴族が力により人びとを支配し領地の安全を守らせることもあったが、ギルドが社会経済の中心となって税金を支払っても市民の自治を守ることを重視してきた。
地縁共同体が一体となって行動するためには、共同体を構成する人たちが、主体性を持って地域を守ることが必要である。人びとの間に上下を認め、優劣の差別をする考え方では皆の力を結集することはできない。重要なことは、お互いを尊重し合うために必要な情報、つまり、「相手の嫌なことはしないが、相手が喜ぶことはする」考えを社会的にお互いが共有することが、近隣関係の結び付きが必要である。隣人との違いを自分の優秀性と考える差別意識は、オランダ社会では反社会的として排斥される。

駐車位置が特定しないパーキングの効用(お互いを知る機会)
自動車道は道路に面している住宅の居住者が乗降に際し駐停車するが、通常は、路上駐車を容認している場所にしか駐車はできない。この住宅地では住宅地の中の駐車場は世帯数に見合った数だけ設けれているが、駐車する位置は特定されていない。駐車する場所が特定されていないことは、駐車場探しに無駄な時間が使われているように思われるが、駐車場の総量は足りている安心感があるため、空き駐車場所を取るときに余裕を持って探せる。そのため、駐車場が特定されるべきと住民たちは感じない。むしろ、毎回駐車する場所が違うため隣の車の所有者が変わり、より多くの人と挨拶をする機会は増える。挨拶と併せて一言、二言の会話を通して相手にについて知ることになる。ペットの扱いや子どものバカンスの話がきっかけで、離れて暮らす家族の話にまで話が進み、思わず話が盛り上がることもある。結構、駐車場での挨拶がその後で家庭の話題になり、日常の生活を通してお互いの関心事が理解でき、近隣に生活する人の情報を知る一つの手段になっている。
娘の生活を見ていてライデンのこのパーキングの利用方法は米国のニューアーバニズムによる住宅地経営にも輸出できるのではないかと思った。オランダの生活を観察し、現在、アメリカ社会で指導的になってきたニューアーバニズムの原点を見ることができた。実際にこの住宅地の駐車場の利用を観察していると、この住宅地のコミュニケイションに大きな部分が、駐車施設の場所が毎回変わることで、少し不便ではあっても住宅地の居住者相互の接点が多くなり地縁共同体のつながりを高めている。パーキングできる車の数が、留める車の数以上にあることが、このような運営を可能にするのである。米国のニューアーバニズムでは郵便物はできるだけ早く開封したい人びとのニーズを活かし、人びとの出会いの機会を生み出すために共同郵便受け箱が使われている。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷英世)



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