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HICPMメールマガジン第595号(2015年1月27日)

掲載日2015 年 1 月 27 日

NAHBメールマガジン第595号(2015.01.27)
みなさんこんにちは、

2015年NAHB・IBSが開催されGKK・HICPM研修ツアーが無事終了いたしました。そこでまず、冒頭に、特に今年の北米研修で改めて感心させられたことをお伝えします

米国の住宅産業の優秀性
(1)    まず、エネルギー政策が末端のホームビルダーの実践現場でまで徹底していることでした。ゼロエネルギーを実践するために団結、遮熱に大きな努力を払いながら、住宅の建設コストはこれまで以上に削減していることでした。その方法は、HICPMで翻訳刊行しているNAHBの「アメリカのコンストラクションマネジメント」の中の「バリューエンジニアリング」で提案しているスタッド間隔を16インチから24インチにするコストカットを実践することで、「断熱性能を上げた上で建設コストを引き下げている」ことでした。住宅ローンは住宅購入者の所得との関係で(年収の3倍以下)の総額制限を受ける範囲で、断熱性能を高めてこれまでと同問以上の規模で品質の高い住宅を供給することに取り組み実現していることでした。消費者の購買力の範囲で品質向上を実現していることでした。

(2)    住宅産業は住宅バブル崩壊から7年目でほぼ過去の成長曲線に戻り、住宅価格は順調な資産形成路線に戻って、米国の経済成長の一角を担うようになっています。この7年間の低迷期に破産又は値下がり物件の資産価値増大の方法として、バスとキッチンのリモデリングが取り組まれ、IBSと併設されたバス・アンド・キッチンが驚くほど充実し、既存住宅の資産価値向上に如何に貢献したかを教えてくれていました。米国は住宅により資産価値向上を国の政策の中心に置き、オバマ大統領もNAHB・IBS技術研修に向けてのメッセージを送っていました。

以下前回に引き続き「米国の住宅と住宅地のデザイン」のお話をします。

「ニューアーバニズム」の思想は、「アワニーの原則」の実現です。それは都市や住宅地の新開発、再開発(コンサーベイション、リハビリテイション、クリアランス)及び都市経営の全てに適用される思想です。それは、街づくりから住宅設計を含む歴史文化環境の経営管理にまで及ぶ広い概念です。
この3つの開発を支持した理論、「アワニーの原則」を生み出した背景には、歴史的に見ると、以下の「経済理論」と「街づくり理論」と「環境理論」(いずれも邦訳があります)とに支えられています。
(1)    エルネスト・F・シューマッハ「スモール・イズ・ビューティフル」の経済理論
(2)    エベネザー・ハワード「明日へのガーデンシテイ」の住宅資産価値増殖の都市経営理論
(3)    シム・バンダーリン「エコロジカル・デザイン」のサステイナブルエコロジー理論

この「アワニーの原則」は、2000年6月、クリント民主党政権時代にアル・ゴア副大統領が中心になって「住みよいコミュニテイの建設に向けて」(ビルディング・リバブル・コミュニテイ:21世紀米国の都市成長政策(都市白書)(HICPMで全文を翻訳した資料を刊行・頒布¥2,000)として取りまとめました。しかし、アル・ゴア候補は大統領選挙には敗北しましたが、ジョージ・ブッシュの都市政策として、共和党政府の政策にそのまま採り入れられ踏襲され、その後、HUD(住宅都市開発省)のHOPEⅥ計画(ホーム・オーナーシップ・アンド・オッポチュニティ・フォー・ピープル・エブリホエヤー:どこに住んでいる人にも持家を持てる機会を与え、住宅により資産形成を実現する政策)に全面的に取り入れられました。今回の北米住宅研修旅行で2つのHOPEⅥ計画を見学しました。米国ではこの種の国民に共通する政策は政権政党が変わっても継承されてきました。

「フロー」としての住宅計画、「ストック」としての住宅計画
日本の住宅産業と米国の住宅産業との基本的な違いは、「米国ではストックとして住宅の資産価値を高めることにより、住宅購入者が純資産額(エクイテイ:市場取引価格-住宅ローン残高)を高めることを住宅経営の目的にしてきました。顧客からの高い評判(レピュテイション)を得ることで紹介客を得られるので、広告宣伝や営業経費を節減するためにも評判(レピュテイション)を高めることを重要視した住宅地経営が行なわれています。その実績がディベロッパーやビルダーの信用をつくり、その評判(レピュテイション)が企業の営業宣伝力となり企業の将来的な経営力の基盤をつくっています。米国社会では、住宅不動産の資産価値が下落すれば、その住宅を供給したホームビルダーの信用が失われます。住宅ローンはモーゲージですから、金融機関はその種の住宅供給を行ったビルダーの住宅にはモーゲージを認めません。ビルダーは必死になって住宅の資産価値維持向上に努めます。
一方、日本のように「防犯警戒報知設備を付けたから防犯対策は万全」と「差別化」し、高額な価格付けをして売却し、以降は住宅会社との縁は切れ、住宅ローン返済の関係が金融機関との間で残っているだけです。住宅を販売するまでのフローが住宅政策として問題にされるだけで、その後の住宅ローンの問題は、金融機関にとっては販売価格の約3倍の担保(住宅、土地、団体生命保険)を押さえているため融資額は担保に3分の1程度で問題にされません。

住宅の資産価値が持続的に維持向上する街
米国では建国以来英国のエベネザー・ハワードのガーデンシテイの都市経営理論を取り入れて、ニューヨークにおけるサニーサイドガーデンやカンサスシテイのカントリークラブのようなリースホールドによる住宅地経営が開発されてきましたが、借地ではなく持家の方法で実現できないかと言う希望を持っていました。それがJ・C・ニコルズとチャールズ・アッシャーの手で、住宅地経営者の利益から住宅所有者の利益に転換することを、新たに都市経営の主体を自治団体(HOA)として組織することにより、ラドバーン開発として実現しました。そのときの資産価値を維持向上するデザインとしては、ニコルズがカントリークラブで実施したセットバックとアーキテクチュラルガイドライインと公園を取り入れた住宅地計画で、ハードとソフトのルールと一体になった「三種の神器」です。

ピーターカルソープによるサステイナブルコミュニテイ
ピーターカルソープは、重厚長大の産業構造から軽薄短小の産業構造に産業構造が変化するに対した都市計画の考え方で、産業の効率中心から人びとの生活を中心にするコペルニクス的転換をした考え方を提案しました。ピーターカルソープが提案した「サステイナブルコミュニティ」の都市計画の考え方は、エベネザーハワードの提唱している「ガーデンシテイ」の考え方と基本的に同じでした。そこでの提案は、産業構造の変化を感じそれを展開した以下の開発の事業の流れを素直に計画論に纏めたものでした。
(1)    アーバイン開発、(スタンフォード大学、ソルボンヌ大学、ハイデルベルク大学)
(2)    カスタ・デル・ソル開発、(アクティブ・リタイアメント・コミュニテイ)
(3)    ランチョ・ベルナルド開発、(IT産業開発との対応を睨んだ住宅地開発)
いずれも豊かな生活を享受する環境都市が計画されれば、優秀な人間を雇用している企業はそこに従業員を住まわせるために企業を移動してくるであろうし、生活重視の人たちはそこに居住場所を移し、そこに必要なサービス業務はその後を追ってくるという考えです。そこには大学など頭脳集積とし、自由な時間を享受できる人たちのための時間都市、従業員を大切にする企業活動のための都市です。

最初のサステイナブルコミュニテイ:ラグナーウエスト
ラグナー・ウエスト(事業主:ヒル・アンジェデリス、元カリフォルニア州開発行政担当官)はピーターカルソープがカリフォルニア大学バークレイ校で実施した「サステイナブルコミュニティ」のセミナーに参加し、その開発の考え方に感銘を受け、それまでの進めていた開発投資を無駄にして、ピーターカルソープをラグナーウエストのプランナーとして招聘し、最初から全体計画の作成をやり直しました。
ラクナーウエストの計画はそれが社会に提示されたとき、大きな社会的共感が起こり、その中で当時IT産業を牽引していたアップル・コンピューターが企業グループを纏めてラグナーウエストへの移転を表明しました。そのことでサステイナブルコミュニティの考え方は社会的に大きな話題となりました。
1992年ごろカリフォルニア州を襲った不動産不況の結果、ラグナーウエストは計画に見直しが求められた。事業主のヒル・アンジェデリスは、ラグナーウエストが熟成段階を迎えていることから、「高級住宅中心の住宅供給を行うこと」でラグナーウエストの熟成を推進しようとしました。ヒル・アンジェデリスに対し、計画者・建築家のピーターカルソープは「所得の低い人たちの住宅供給を行うべきである」と主張しました。両当事者間の不況対策の対応の違いは合意を見ることはできなかった。
そこでピーターカルソープはラグナーウエストのチーフプランナーの席を断って、その後の計画に関係しなくなった。カリフォルニア州の不動産不況の経済環境はやがて回復し、その後のラグナーウエストはヒル・アンジェデリスの計画通り実施され、現在見ることが出来る通り、見事に熟成していった。

GKK・HICPM研修ツアーとの関係
この両者の都市開発に対する考え方は、都市を造るという戦略上の違いではなく、不動産不況対策に対する戦術上の違いであったと考えられるが、都市の熟成を「フィルター効果」(高級住宅を供給すれば、その効果は順次所得に低い住宅の向上に影響する)を考えたヒル・アンジェデリスの考えに対し、ピーター・カルソープは社会政策として「底上げをする」住宅地づくりをすべきというものであった。
今回、ピーターカルソープがプランナーとして実施したデュポン市でのノースウエストランディングと、目下建設工事中のソルトレイクシテイのデイブレークの二つの開発を見学した。デイブレークは、ピーターカルソープのTOD(トランジット・オリエンティド・ディベロップメント)を取り入れたもので分かり易いニューアーバニズムの計画となっていた。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷英世)



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