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HICPMメールマガジン第633号(2015.10.19)

掲載日2015 年 10 月 19 日

HICPMメールマガジン第633号(2015.10.16)
皆さんこんにちは

急に秋めいてきましたがいかがお過ごしでしょうか。今回は、現在連載中の目下とりまとめ中の「CM」テキストの「はしがき」に相当する部分を掲載しました。

CMを考える前提としての「人文科学としての住宅・建築・都市」見る視点
日本の住宅を考えるとき、住宅を「物造り」という工学と考えていることに、住宅による資産形成をする上での基本的な間違いがあります。江戸時代も、明治維新以後も、日本では関東大震災までは、住宅・建築・都市をその時代に生活する人びとの豊かさを実現するものと考え、人々の所得に見合って住居費を負担し、社会的地位や資産に見合った身上(財産)として造るものと考え、住宅は世代を越えて守り育てていくものと考えていました。そのために重要なことは、住宅のデザインがしっかりしていることで、その住宅のデザインの良さが、居住者自身の内面にある文化性や、思想・信条が著され、その社会的属性を表現することになる住宅所有者の誇りとなっていました。住宅はその所有者の社会的な評価(信用)となったことを基本に、結婚や就職等の際、その住宅を評価の対象とされたことで、人々がその住宅を大切な財産として、造り、作り守ろうとしてきました。
明治維新で日本が近代化として欧米に倣うとしたときも、その基本は変わっていませんでした。英国から建築家ジョサイアコンドルを東京大学に招き、ルネサンス様式設計のできる建築家要請をした理由も、近代日本を訪問した欧米人が尊敬できるような日本の顔を造ることにありました。ルネサンス建築様式の建築物を設計する技術は非常に短期間に習得しました。しかし、関東大震災で大きな建築被害を受けたとき、建築は耐震安全性を重視しなければならないと考えたこと自体は間違ってはいませんでしたが、そのため建築教育を人文科学でなくしたことに基本的な誤りがありました。
建築教育の目的が人文科学ではなく、構造安全という工学の問題に2律背反の関係とフレームアップして、対立を際立たせ、安全重視に転換させるために、東京大学佐野利器教授が日本建築学会(当時は「造家学会」と呼んでいた)を巻き込んで日本全体の建築教育に対し、「意匠・構造論争」を仕掛けました。その結果、住宅・建築教育を工学の問題に転換させたことが、建築教育を「物づくり教育」に偏らせ、基本的に、人びとに需要と供給との関係によって、常時、売り手市場となる住宅地経営を行うことで、住宅取得した人の立場に立って資産形成のできる住宅を育てると言う「世界の住宅経営管理」と違う道を歩かせる原因をつくることになりました。

人文科学としての住宅・建築・都市
住宅を構造的に安全に造ることは間違っていないし、欧米でも建設工学(シビルエンジニアリング)によって、住宅・建築・都市づくりにおける安全で衛生的な物づくりを行っています。しかし、それは物造りとしての技術として利用している技術であって、住宅・建築・都市を、「住宅所有者や、居住者のために造り、経営管理するか」ということを目的にした住宅・建築・都市教育の一部の技術でしかありません。建設工学は、安全や衛生といった工学を扱いますが、その住宅建築物を、どこの、誰のために、どのようなデザインの住宅・建築・都市を造るかということを担う学問ではありません。建設工学で扱う住宅、・建築・都市は、安全・衛生的に優れていても、その住宅・建築・都市は誰のために造っているのかということが意図されなければ、その住宅・建築・都市が大切に守られ育てられることはありません。人々が住宅・建築・都市に対し、帰属意識を持ち、大切にしようと考えることは、住宅・建築・都市のアイデンティティを決めるデザインによって左右されることです。
住宅・建築・都市は、そのデザインによってそこで生活する人々との基本的なつながりが作られることになります。設計という業務は、建設するための生産図面の作製です。そのため、まず設計段階に建築主の生活要求を設計図書としてまとめることが重要になります。建築主の生活要求は絶えず変化しており固定していません。しかし、日本の建築工学とそれに関する建築行政では、建築物はそれ自体が「完成したもの」として造らなければならないという間違った考え方に囚われていて、建設段階に将来的に家族が成長した状態の住宅建築物を造るように指導してきました。
最近の建築基準法では、未完成建築物の建築は許さないと言わぬばかりの建築行政指導と、それに対応した建築設計教育が行われてきました。世界の建築も、日本の戦前までの建築も、増改築を前提で、建築時点で必要最小限のものをつくり、それ以降は状況の変化に合わせて自由に増改築することが取り組まれてきました。しかし、現在では基本的にスクラップアンドビルドを進め、リフォームと呼ばれる工事では、建築物を構造だけのスケルトンにしてしまい、それに内外装を行い、新築と同様にした高額販売するものになっています。欧米のリモデリングのように、既存住宅に必要な増改築工事を行うような工事は日本では例外的にしか見ることができなくなっています。
その風潮が、新築住宅には、その時点で家族の将来の変化を見込んだ設計を行わせ、巨額な工事をさせることになり、実際は、家族計画通りに家族が殖えず、大きな空間を持て余している例が日本には多数みられ、住宅購入者に無駄なお金を使わせています。CM(コンストラクションマネジメント)という視点で見た場合、出来るだけ無駄な費用を掛けないということです。だから、建築主の立場に立って、建築工事として実施する予定になっている設計図書に関し、本当に現在の生活に必要としている空間かどうかということを中心に、実際に生活文化上必要な空間であるかという人文科学的な視点で、既に完成している設計図書を吟味しなければいけません。そして、建築主にとって、現在必要でない空間はできるだけ節約し、当面の住居費負担を軽減するように、CMを行う建設業者は、設計と見積り内容を建築主の立場で吟味することが必要です。
建築主自体の生活は家族の成長とともに変化するもので、将来の生活を固定的に縛ってしまう住宅は好ましくありません。しかし、多くの住宅メーカーは将来の夢まで現時点で造らせることで、工事費を高めようとしますが、それは物づくりの考え方であっても人文科学的な考えではありません。人文科学的な視点に立てば、住宅は常に未完成であり続けるべきであるということになります。

計画段階での確定事項
住宅を計画するときは、街並み計画(ストリートスケープ)との関係で決定することと、住宅計画とで決めるべきことをはっきり区分することが必要です。ドイツのバゲゼッツ(都市計画法)での、ベバオウングスプランで建築物の外壁面などストリートスケープを決定するものが決められます。そして、建築物計画は、各敷地ごとにストリートスケープを決定する条件をここの建築の設計条件として、それを尊重してここの建築設計が行われることになります。つまり、建築する住宅建築物の総容量は街並み計画の中で基本的に決められ、その条件の下で個別の住宅設計が行われることになります。住宅設計の場合、家族の成長は家族構成の変化という要素を予想して計画が造られますが、現在の生活と将来の生活とを同じ重さで考えることは適切ではありません。特に子供の成長に依る空間のニーズの質的変化は非常に大きいため、屋内空間は、子供の成長に合せて暫定利用を繰り返すといった利用として考えることが必要です。子どもたちは、やがて成人した段階ではその住宅から巣立っていくわけですから、子どもの空間の計画はそのように考えることが必要です。実は、多くの建築主は最初から変化をしない理想的家族生活を前提に住宅設計を行いそのまま建設に走ってしまう傾向があります。
CMを始める前に考えるべき大切なことは、NAHBのテキストで繰り返しているように「CMは、顧客の利益を専門的立場から考え、実際に工事に入る前に建築主と合意を形成することがなければならない」のです。建築する住宅は、建築主のニーズに応えるためのものであり、建築主のニーズが変化すれば、工事中であっても、工事完了後でも変更することがなければならないため、建築主のニーズに装変更をしなければならないときには、出来るだけ工事を始める前か、初期段階で修正することが重要であることを肝に銘じるべきである。

建築デザインに関する理解

日本では、建築教育を行っていないか、又は、間違ったデザイン教育を行っているので、設計者がデザインの果たす意味を理解しないで、商業デザイン並みの流行を追うデザインが住宅に対しても行われ、資産価値が失われる住宅が建築されてきた。そのため、せっかく努力して設計図書通りの工事を行っても、その完成した住宅が市場での取引において価値が下落し、建築主が大きな損失を被っている。そのようなことを防ぐために、建築デザインの住宅市場で果たす役割を正しく理解させるようにする必要がある。住宅購入者は住宅が提供する以下の3つの効用と建築主の支払い能力に対応する価格条件をもとに住宅の購入を決定してきた。3つの効用とは、デザイン(意匠)、ファンクション(機能)とパフォーマンス(性能)である。
このうち機能と性能とはその時代の文明水準に対応して造られ、どの建設会社であっても、ほぼ同じ水準のものを設計し、施工業者は設計図書さえしっかりしていればつくることができる。しかし、デザインはその住宅の立地する土地の歴史文化環境と入居者の歴史文化環境を反映して、建設地と建築主のアイデンティティとして住宅は設計される。一旦設計図書として設計されていても、工事を実施するまでであれば、工事を始めてからの変更と比較すれば、遥かに容易であるため、着工前の変更であれば、住宅ファサードのデザインは、納得がいかなければ変更させるべきである。
そのデザインは、住宅所有者の文化性を社会的に表すことになるため、採用されたデザインに関し、そのデザインの歴史文化性に関し、街並み景観との関係と、建築物単体のデザインについて、その具備するデザインの歴史文化性に関し、建築主に十分説明をしなければならない。
そのために、住宅建設業者としても、設計する能力を持たなくても、住宅デザインに関する基礎知識を学び、建築主にそれを解説する建設業者としての建築デザインに関する知識として専門性をもつようにしなければならない。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)



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