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HICPMメールマガジン第649号(2016.02.08)

掲載日2016 年 2 月 8 日

HICPMメールマガジン第649号(2016.02.08)
皆さんこんにちは
日本の住宅政策の特殊性

この数年は小泉・竹中内閣の「聖域なき構造改革」に関係した行政事件の問題整理に時間をかけて研究をする中で、日本の住宅政策が欧米と大きく違ってしまった理由を歴史に遡って調査研究してきました。
そこで分かったことは、戦後の日本は、日本人自身で住宅政策を考えてこなかったということと、日本には世界に通用する住宅・建築・都市の技術が基本的に育っていないということです。
私は1962年に建設省に入省し、住宅局住宅建設課で公営住宅の標準設計や家賃の仕事を担当しましたが、そのとき住宅建設課には、英国の「ハウジングマニュアル」を翻訳した『住宅建設要覧』という本がたくさんあり、仕事に困ったときには『住宅建設要覧』を参考にせよといわれ、建設省住宅局は英国の住宅政策をモデルにしていると思っていました。しかし、それは「付け焼刃」だったことが反政治を超える経験と文献研究の結果、ようやく解かりました。

英国をモデルにした日本の戦後の住宅政策
英国の住宅政策はアトリー労働党内閣が進めた住宅政策ということは終戦前の内務省が情報を入手し、その検討を進めていました。その基本は、公営住宅とハワードガーデンシティを骨格にしたもので、ロンドンのグリーンベルト政策と一体として行われていると聞かされていました。以下その大きな政策の日本政府の取り組みを急ぎ足で要点だけを、以下のように説明します。

公営住宅と社会住宅
日本では、公営住宅法の立法が住宅局住宅建設課の技官が中心になって行い、そこには主権在民の新憲法に盛り込まれた地方自治の考え方が採り入れられました。公営住宅の事業主体は地方公共団体が担い、国は地方公共団体に対して住宅建設費補助をすることで、所得に見合った家賃を実現する方法が採り入れられました。公営住宅の家賃は、ドイツ人統計学者の「シュワーベの考え方」に基づいて整備されました。その後、住宅経済の権威とされた谷重雄教授や下総薫教授らがその仕事をしていました。
現在ヨーロッパの国々に出掛けて見ますと、殆どの国は、「社会住宅」が、国民住宅として国民の住宅の下支えをしています。それは「家賃補助」によるもので、「建設費補助」ではありません。日本がモデルにした英国も、サッチャー首相の時代に、財政危機のため、建設費補助を廃止し、家賃補助による社会住宅に変って行きました。

減価償却論と木造の償却年数20年
しかし、興味深いことは「シュワーベの考え方」が基本的に踏襲されていることです。住宅の建設費は住宅の構造材料により違いますが、国民の負担する家賃は、「適正規模の住宅に対し、国民の適正な住居費負担」として決められるべきという考え方です。その不足分は家賃補助をするというシステムです。実は日本が最初に取り入れた「公営住宅の家賃の考え方」がその考え方でした。
建設価格の違う公営住宅の家賃を公営住宅階層には同じ家賃の住宅として供給するために、家賃決定方式に減価償却論を取り入れました。建設工事費から国庫補助金を差し引いた残りの地方公共団体負担分を好材料が違っても家賃が同じになるように減価償却期間を調整したのです。
最初に当時9坪の木造住宅という最も安価にできる住宅で、家賃が公営住宅階層の所得の20%以下にするために償却期間を計算したら20年で償却することに決めたのです。それが現在の日本の不動産鑑定評価制度の中に採り入れられた減価償却論の「木造償却期間20年」の根拠となった始まりです。
コンクリートブロック平屋(簡平)コンクリートブロック2回(簡2)、鉄筋コンクリート(RC)の償却年数は、家賃を同じにした結果、35年、45年、70年が決まり、それが住宅の耐用年数となり、いずれも減価償却論の償却年数として国土交通省により、「不動産鑑定評価制度」に変化させて採り入れられ、間違って使われています。

ニュータウンとグリーンベルト
英国ではハワードのガーデンシテイとグリーンベルト政策が戦後の都市住宅政策として取り組まれ、ハーローニュータウンがそのモデルとして開発されました。そこで日本も英国に学ぶため、ニュータウンとグリーンベルトを取り入れようとしました。それが日本のニュータウン政策と近郊緑地政策でした。
千里ニュータウンに英国のハーローニュータウンの都市開発の技術を受け容れるということで、住宅局の技官が大阪府企業局に出向され、そこから英国に長期出張し技術導入することになりました。東京大学(高山研究室)と京都大学(西山研究室)は政府の政策に合わせ英国に研究者を派遣し、ハーローのニュータウン技術として近隣住区論(ネイバーフッドユニット)を学び、千里ニュウータウン事業を実験台として、その技術移転をするとともに、大学の教育の中で「近隣住区論」を最先端の都市計画論として教育しました。日本ではニュータウンも近隣住区論間学校教育の中で今も「魂の抜けた抜け殻知識」として試験問題には依然出題されています。多分教育している教師もそれを学んで学生たちも英国で命をもっていたニュータウンも近隣住区論も正しく説明できないだけではなく、使うことも出来ません。

「物づくり」の日本の建設工学と人文科学の欧米の住宅・建築・都市学
日本では住宅・建築・都市に関する学問教育を「物づくり」の建設工学(シビルエンジニアリング:建築工学、土木工学、都市工学)として教育してきました。この考え方は、物づくりをしたときが最も良い品質で、経年するにつれ劣化し、やがて取り壊ししなければならない「スクラップ・アンド・ビルド」の考え方です。その考え方が減価償却論とどこかで繋がっていて、日本の大学では建設工学で減価償却論を正当化する議論も行われています。世界でこのような教育をしている国はありません。
欧米では住宅・建築・都市の学問を人びとの生活の歴史・文化の問題であるとして人文科学(ヒューマニティーズ)として取り扱ってきました。それは人類が絶えず豊かな空間を享受できるように空間を造り、維持管理し、リモデリングし次世代に繋いでいくものという考え方です。欧米では住宅不動産、建築不動産は、土地と建築が一体不可分の不動産と考えられています。
土地も住宅や建築物も有形のものは物理的な劣化は避けられなく、放置しておけば、いつかは消滅すると考えています。しかし、人文科学として捉える住宅・建築・都市は人類の歴史文化として住宅・建築・都市を理解し、優れた不動産(住宅・建築・都市空間)は人類の弛まぬ努力で維持管理を行い修繕を繰り返していかなければならないと考えています。その歴史文化空間に対する善良管理義務を果たすことで住宅・建築・都市不動産は常時建築された時以上の状態を保つことになります。その結果、住宅不動産、建築不動産、都市不動産の資産価値は現時点土それらを建設したときの推定再建築費として評価されます。それが欧米の人文科学を基礎に置いた不動産鑑定評価制度の資産評価の考え方です。
昨年、井上書院から刊行した「フローの住宅、ストックの住宅」の蘭、米、日の住宅比較で説明。

日本人の知識とその実践
こと住宅・建築・都市問題に関する限り、日本の建築工学、土木工学、都市工学は欧米の建築学とは、「似て非なるもの」で、同じ土俵で考えることはできません。今回は公営住宅、ニュータウンという英国から学び技術移転したものが日本に定着したときには、英国とは「似て非なるもの」になっている事実を紹介しました。多くの基本の住宅・建築・都市関係者は、日本国内で建築工学、土木工学、都市工学輪学び、建築士や技術士の資格を得て、世界に通じる技術と思っています。日本の大学の建築学、都市工学の学者、研究者も同じです。世界に通用する知識を持った技術者、研究者と思っていますが、部分的な知識で世界に通用する知識もないとは言いませんが、基本的に日本でしか通用しないと考えた方が良いと思います。
日本が経済的に豊かになり、欧米にも盛んに出かけるようになりました。盛んに「欧米では」という枕詞を使って自分の勝手な主張が欧米の事実によって証明するようなことを言う人が沢山います。その人たちは自己主張を欧米で見つけた事例が証明しているかのような「牽強付会な論理」で説明しているだけで、世界に通用するものではありません。日本のニュータウンの理論や近隣住区論など世界中で相手にされることはありません。確かに日本にも住宅・建築・都市は造られています。しかし、同じように見える住宅・建築・都市は長い時間をかけてみるとその違いが分かります。

トヨタ自動車に見られる教師と反面教師
このような歪な日本の住宅・建築・都市に関する知識、技術は、明治時代に始り、戦後になって特に著しく歪んできていると思います。その理由は「和魂洋才」という言葉に象徴されているとおり、世界の技術や知識を謙虚に学ぶのではなく、自分の利益に合うように勝手に理解してきたからです。自分の独善的な価値観(和魂)で優れた技術(洋才)をつまみ食いしてきたためと言えます。現在世界で最大の自動車メーカーになったトヨタは、戦後米軍の軍需物資として車両生産をしたとき、米国の配慮で、日本の自動車産業にデトロイトの自動車工場を開放し、そこで使われている技術(OM)と経営の価値観(利潤実現の生産性理論と資本主義経営)を無償で植え付けました。当時の日本は米軍の兵站基地として軍需物資の生産をしており、戦場での予想車輛の生産を安く生産させることは軍需物資を買い上げる米国にとって必要なことであったからです。それをトヨタは米国の自動車産業の技術とその生産の考え方(洋魂洋才)を学び、その置かれた日本の条件に合せ「トヨタ方式」(和魂和才として自分のものにしました。しかし、トヨタ自動車の住宅部門は、自分は能力があるという勘違いが先にあって、欧米の住宅技術をつまみ食いしてやろうとし「和魂洋才」から抜け出せないでいます。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)



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