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HICPMメールマガジン第659号(2016.04.11)

掲載日2016 年 4 月 11 日

HICPMメールマガジン第659号(2016.04.11.)
皆さんこんにちは

4月5日グローバル研修企画が実施した国内研修で、Fujisawa SST(サステイナブル・スマート・タウン)に出かけてきました。この見学は始まってから1年半くらい待たされた見学で、住宅産業界の関心の高いプロジェクトでした。グローバルの国内研修でも全国各地からお集まりくださいました。
参加者は皆、非常に高い関心を持って見学ツアーに参加しました。見学はマネジメント株式会社が設立され、この町の説明案内を含む経営管理を専門に行っています。このマネジメント会社にこの事業の性格が特徴的に表れています。

1.住宅地経営管理
米国の住宅地経営管理を実施するマネジメント会社は、住宅地経営を自治体であるHOAが行いますが、その専門的な経営管理部門を管理会社が行っています。例えば、ウォルトディズニーが開発したセレブレイションは、全体の約80%の入居が終わった段階で、デズニー自身が行っていた住宅地経営管理業務全体を専門の住宅管理会社に譲渡しました。その管理会社はHOAの経営に助言を与え、HOAの決定に対して専門的な知識経験を駆使して、ホームオーナーの利益最大の経営管理業務を行います。
FujisawaSSTマネジメント会社は、Fujisawa SST協議会の利益を最大にする会社で、全く米国の住宅管理会社とは違います。 ここで考えられている経営管理はこの地でビジネスをしている企業のフローとしての住宅関連産業の利益を最大にすることで、政府の考える「フローの住宅政策」の一環として実施されているものです。その意味では政府の考えている住宅地経営とはどのようなものであるかが最も分かり易く経営されています。そこで計画されていることは、この地に居住することになる住民に、その購買力を如何に新しいビジネスの消費人口に組み込むかということで、居住者はSST養殖池の対象になっている人たちで、その利益はSST協議会として刈り取る構造になるように計画されています。

2.Fujisawa SSTの計画
この地はパナソニックの工場跡地で、その跡地利用計画として経済的な利益を挙げられるプロジェクトとして政府の経済特区として計画されました。「太陽と緑と海の潮風のある温暖な湘南」と言う優れた立地を利用して、藤沢市が都市経営として最も確実な税収を挙げられる事業として商業と業務を組み込んだ住宅地経営として実施したものでした。湘南・藤沢の経済開発の一環として都市開発が実施されたものです。それは、米国で取り組んでいるピーターカルソープが実践したサステイナブルコミュニテイの住宅地開発のように、ここで生活する人の生活本位の開発ではありません。SSTの開発は、藤沢市及びSST協議会メンバー会社の利益を高めるためのもので、居住者は都市経営の利益を挙げるための消費人口(顧客)でしかありません。
米国の住宅地経営の場合には、HOA(ホーム・オーナーズ・アソシエーション)と言う土地所有者(ホームオーナーズ)が中心になった自治体が結成され、その利益を高めることがHOAの目的になります。SSTの場合には、住宅購入者はそれぞれの財産として土地付き住宅を購入し、その住宅地家管理に関しSSTマネジメントが業務を置けとって実施しています。日本の団地経営管理と同じ管理契約として居住者と管理会社が対等の関係で管理を依頼しています。日本では住宅管理組合のメンバーである条件として住宅の所有者であることが条件で、土地の所有者であることは重視されません。

3.SST計画担当者の説明
SSTを企画したときの担当者が当日説明に来てくれましたが、その説明の一部を以下に紹介します。
「SSTの基本コンセプトは(1)太陽エネルギー、(2)セキュリティシステム、(3)カー&バイクのシェアリングによるモビリティ、(4)医療、介護、看護のウエルネス、(5)ITによるくらし情報で繋ぐ“エコ&スマートなくらし”が持続するスマートタウンと計画の骨子が決められた。
この開発で供給する住宅の価格は6,000万円で、その入居者の所得は800万円です。住宅価格は所得の約8倍になっています。購入に当たっては親からの支援を得ている人が沢山います。
太陽光発電により利益を挙げ、経済特区の関係で太陽光発電を含む先進的な取り組みで国や神奈川県や藤沢市からの支援を受け、この都市の中心に湘南T-SITE商業施設として、この住宅地だけではなくその周辺地を商圏に取り込んで、SST居住人口を基礎的商業需要として地域的な商業集積を持ち込むことで、この地域復興の商業・業務拠点の拡充を考えています。
この地域は、高齢化社会に向けて、サービス付き高齢者向け賃貸住宅も計画していますが、戸建て住宅居住者からは、所得の低い高齢者が居住することはこの住宅地の格式が落ちるという反発もあります。」

4.Fujisawa SSTの計画概要
Fujisawa SSTが生まれる場所は、パナソニックの工場跡地で、1961年に19ha(東京ドーム4個分の面積)の工場跡地に、SSTとして、1,000戸の住宅、商業施設、福祉施設、各種クリニック、保育所、学習塾などが建設されました。そこには、パナソニックを含め17社1協会が協業会を結成し、経営に参画し様々な新しいビジネスをうみだしています。Fujisawa SSTは、自然に恵まれた藤沢の地域ポテンシャルを最大限活かし、藤沢市と協力して地域の経済開発を進めています。
1時間半の見学は、一方的に説明することで時間が終わるように計画されていて、質問をさせないようになっています。NAHB・IBSのTNAHのモデルホームの説明者同様、一方的に宣伝することだけの情報を発信するだけで、来場者には基本的に質問をさせないように計画されています。
この事業は日本から海外に情報を発信し、SSTそのものを海外に輸出すると説明がなされていますが、ここにある技術はすべて一般に取り入れられているものばかりで、世界から輸入したいと考えられる技術は何もありません。SSTは19ヘクタール規模で開発したという集積の利点をIT施設の再三可能経営規模としたところが特性ですが、経済特区、太陽光発電、地域商業業務集積の3要素の共同で経営的に成り立っているもので、その経営基盤は脆弱といわざるをえません。
この住宅を中古住宅で販売しようとしたらどうなりますかという質問に対し、販売価格の下落は避けられませんがと説明し、後の説明は濁されてしまいました。欧米で住宅に関し、サステイナブルと言った場合の条件は、住宅の取引価格がさ低減物価上昇以上に値上がりし続けることを言い、SSTのような
開発は欧米の基準では、とてもサステイナブルできる条件を持っていません。

5.SST計画できになったこと
HICPMがこの20年米国のニューアーバニズムによる開発が、住宅購入者の住宅資産形成に大きな力を発揮してきたことを実際の住宅地開発を通して確認検証してきているので、ニューアーバニズムによる住宅及び住宅地開発の計画、デザインとの対比でみると、殆ど比較にならない基礎的な取り組みが行われていません。以下その中で気になったことをランダムに指摘することにします。
(1)    歩行者道路が全て裏道になっていますが、歩行者道路こそ住宅の玄関にアプローチする道路として計画すべき道路で、住宅のファサードは通りを通る人に向けて造られるべきです。
(2)    建物の外壁に凹凸が多すぎ、屋根も複雑になり、工事費が非常に無駄になっています。建物を独立住宅として造っていますが、隣地間の空間が死んでいて、隙間空間は無駄の集積です。
(3)    幅員6mの舗装された道路が、開発道路として造られ、藤沢市に管理移管されていますが、本来、舗装部分は3-4mで道路の両側に緑地とすべきで、道路が街の豊かさを殺しています。
(4)    歩車分離か、一体化は計画の種類の問題で、それ自体の優劣は決められませんが、この開発には空間利用の考え方自体が不明瞭で、納得の行く住宅地内の生活計画が考えられていません。
(5)    防災や緊急時の対応施設が計画されていますが、多種多様な災害地策が思い付き的に実施されているだけで、災害を突き詰めて計画されておらず、実際の災害時に使えそうもありません。
(6)    住宅地の中で最も重視すべき空間は子供や老人などの生活弱者を住宅地として守る計画が不可欠です。住宅と広場の関係(位置関係、視覚的関係、活動内容の想定)が重視されていません。
(7)    この住宅地計画は商業業務施設の経営を重視し、その周りにバラバラに宅地を配置し、居住者を施設に誘導する商業・業務本位のもので、生活者のための計画になっていません。
このSSTの住宅地開発は、戦後の日本での区画整理事業で実施してきた都市開発と基本的に同じで、道路パターンに並行配置と同心円系の2種類の方を採用し、車道の間に緑道を入れていますが、道路の性格と利用のされ方が分からず、全て太陽光発電を前提に造られたのではないかと思われます。住宅地のマスタープラン自体にこの住宅地で計画している生活の計画理論があるようには見られません。

6.SSTの住宅地開発と望まれる米国のニューアーバニズムの学習
SSTの開発は日本の宅地造成事業と基本的に変わらず、出来るだけ販売対象宅地面積を最大にする宅地造成のための計画であるため、19ヘクタールの開発地が、同じ規模の敷地に細分化され、各宅地ごとに思い思いの住宅を穿設するといったこれまでの宅地造成事業です。そこには「向こう三軒両隣」という単位が集まって近隣分区をつくる地縁的な生活環境をつくろうとする計画は見られません。
日本には戦後、近隣住区論が採り入れられ、大学教育でも盛んに教えられましたが、「ものづくりの近隣住区論」は、欧米の「生活空間を管理する近隣住区論」のように人びとの生活を「お互いの違いを尊重し合う」個人主義を活かした住宅地づくりをつくることにはなりませんでした。その結果、現在の日本には住宅地計画論はないも同然で、販売可能宅地をつくる商業主義の宅地開発しか残っていません。このような計画はニューアーバニズムで実施されている米国社会から見ると、人間の生活空間の計画以前の問題とされるに違いありません。
日本から住宅関係者が米国を訪問し、優れた住宅地としてニューアーバニズムの思想でつくられた住宅を見てきたはずです。しかし、米国のニューアーバニズムによるような優れた住宅は造られていません。多分、訪問した米国の現場では、素晴しい住宅地を見たと思ったに違いありません。しかし、優れた住宅地を見たから、その人の住宅地を計画する技術が備わったわけではありません。しかし、私の知る限りでは欧米の優れた住宅地を見てきたことで優れた住宅地を計画する力ができたようなことを言う人が沢山います。
住宅地計画の理論や技術を日本で教えてくれているところは皆無です。日本で住宅地開発の方法を教えてくれる技術書は皆無に近い状態です。HICPMではNAHBの住宅地開発のテキストを翻訳し、ビルダーズマガジンに連載してきました。また、米国のニューアーバニズムにより開発された住宅地のビルダーズ画人で報告してきました。またその簡易なテキスト『サステイナブルコミュニテイの実現』(HICPM刊)も出版してきました。その小冊子にはニューアーバニズムの理論とそれをHICPM会員が実践してきた街づくりの事例が少なからず掲載されています。
戦後の公団公社の宅地造成は、「販売宅地面積を如何に大きくするか、販売宅地区画をいかに多くするか」だけに重点を置き、宅地であれば面積が同じであれば、その価値も同じと考えてきました。土地と住宅は別の不動産で、宅地と住宅とは別々に造るものと考えてきました。その考え方を取り入れた開発が共同分譲住宅開発の考え方です。土地を建築加工して住宅不動産をつくるために、まず土地建物一体の土地利用計画を立てる考え方を取り入れなければなりません。日本ではかつての宅地開発を1980年住都公団ができたときから、都市開発と呼ぶようになりましたが、「都市開発」と「宅地開発」の違いがないような「都市開発」が行われてきた所に、このSSTの基本問題があるのです。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)



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