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HICPMメールマガジン第726号(2017.06.26)

掲載日2017 年 6 月 26 日

HICPMメールマガジン第726号(2017.06.26)
みなさんこんにちは

先週までは約1カ月カリフォルニアの住宅・建築・都市を調査した報告を行ってきて、「日本でも同じような住宅地開発ができればよい」と考えていました。先週の金曜日には海老塚さんが主宰している比較住宅研究会があって香川大学経済学部の岡田鉄太郎教授の米国の住宅報告があり、海老塚さんからのお誘いを受け、「米国における低所得者対策」ということで興味を持って出かけました。事前に私の関心を主催者に伝えてはいたのですが、結果は私の関心とはすれ違いをしていました。
セミナー参加者は、米国の低所得者住宅に関心をもち、CDC(コミュニティ・ディベロップメント・コーポレイション)問題研究者が殆どでした。私はこれまでの米国の住宅調査でCDCに対する関心はなく、海老塚さんからは、「CDCを知らないでは住宅問題を議論することはできない」かのような批判を受けましたびっくりし、「CDCとは何ですか」と質問したことに、主催者、講師、参加者の誰一人応えてくれませんでした。それは、参加者の中にCDCの組織自体を正確に説明する人がいなかったからでした。ホームページで調べれば簡単にわかることでした。CDCを一口に言えば、「国の支援を必要とする低所得者を対象にした住宅地開発事業主体で、米国の低所得者向け住宅政策の受け皿としての事業主体」と理解すればよいと思います。
岡田さんの研究は米国では財政による補助事業に代えて、金融機関がCDCへの投資を促進できるような税制政策により、様々な資金が投資と同様な利回りが得られるということで民間資金が流入し、低所得向け事業を金融および税制政策を利用して、経済的な利益追求を行うという視点で、大きな事業資金を集める必然性をもっていることを説明したものでした。岡田さんは学者として、制度の仕組みとその適用を受けた事実関係を多数正確に調べ、それを基に米国のシステムの合理性を説明した労作でした。
しかし、そこに事例紹介として、「専門分野ではありませんが」との断り付きで、住宅のデザインの話が出されましたが、デザインの問題は全く別の問題で、金融や税制と関係しているかのような説明は正しい理解を妨害するものでした。実は、金融や税制の問題と同時に取り組むべき問題で、実際のプロジェクトではデザインの問題が課題にされたと思います。私がこれまで米国の住宅として関心をもってきたことと、岡田さんの研究との関係を聞ければと思って出席し、期待は裏切られたわけですが、話がかみ合わなかった責任は岡田さんにあるのではなく、私の関心と別の問題であっただけに過ぎません。

米国社会で取り組まれてきたHICPMが取り上げてきた住宅調査研究
米国社会では、基本的に住宅は国民の基本的人権に関係するもので、経済力の不足する低所得者には政府がそれに見合う救済をするコンテキストの中で、正義の住宅政策が行われてきました。米国では、直接住居費補助をするという政策から、減税、金融、行政上の政策義務・助成、開発規制、など、要するに支援を必要とする人に家賃を引き下げたり、税控除をしたりする経済政策を行うものです。低所得者向けの取り組みを資金や財政、金融、税制から取り組むことは重要なことです。その研究対象は、私がHICPMの活動として米国から技術移転しようとしてきた学問分野ではありません。私が住宅官僚になってから住宅政策上の関心を国民の資産形成に傾け、退官後、HICPMでその実現の方法を取り上げてきたことは、購入した住宅が確実に資産形成ができる住宅地を開発し、経営をすることで、そのために行政、産業界、設計監理業界が住宅居住者が生活したい魅力ある環境をつくることでした。最近1991年の「アワニーの原則」から現在のニューアーバニズムへの取り組みは、生活者の視点で分かり易い取り組みでした。これらの私の関心に岡田さんの研究が直接貢献することがなくても、住宅問題を構成する側面であるため、その関係を知ることができればと願っていただけです。。

HICPMが技術移転の対象としてきた米国の取り組み
(1)    ミックストユース:住宅所有者は基本的に住宅を兼用住宅として利用することで復讐の収入を得られるようにして、結果的に所得に見合った住宅費負担を可能にする。
(2)    ミックストハウジング:賃貸住宅や、持ち家、空き室貸しといった多様な住宅利用形態の混在を積極的に行って、多様の居住者が入居後、その生活に環境の変化に合わせて柔軟な関係で支援し合って同じ住宅地に共存共栄できる環境をつくることで、所得の高い人と所得の低い人の共存繁栄を実現する。
(3)    住宅地開発政策:上記2つの政策を実現できるような開発計画とするクロスサブシディで開発条件としたり、住宅地経営をすることを開発許可や住宅地経営条件を定め、それを行うことを財政および金融政策でサポートする。
(4)    住宅不動産流通:不動産情報を自由化し、取引自由の原則(価値=市場価格)が実現できるように、住宅不動産鑑定評価制度、住宅取引の権利と資格条件を構成に管理する制度の公正な運営と連動させて金融機関が行うエクイティローンや地方公共団体の固定資産税。
(5)    住宅地開発思想と理論:「スクラップ・アンド・ビルド」の「フローの住宅」政策を排除して、それに代わって、住宅の資産が現在から未来に向けて確実の向上する「ストックの住宅」を実現するための計画設計技術の大学及び高等専門機関における人文科学的教育を徹底する。
(6)    住宅建設業者、住宅地開発業者、リモデリング業者の経営技術(CM:コンストラクションマネジメント):建設業者の生産性向上を図るため、工事に必要な実施設計図書の作成を重視し、材工分離による正確な工事費見積もりを実施させ、CM技術を駆使し高い生産性を上げることで、住宅購入者に寄りやすく住宅を供給し、建設業者が高い利益を手にする職業教育。
などがHICPMでこれまで紹介してきた米国の消費者の利益を守り、そのための住宅の設計・施工・住環境の維持管理経営で、わが国が米国から技術移転を受けるべきことと考え、HICPMビルダーズマガジン(月間)とHICPMメールマガジン(週刊)で紹介してきた。すでに22年継続し、毎回の記事は、その時点での問題意識に立って必要とされる技術移転の紹介です。それを通読してみると、米国の住宅産業の全貌とその連続性をもった取り組みが理解できるためHICPMビルダーズマガジンは一種の「百科全書」になっています。住宅産業の各時代の情報を実際調査した私自身の「備忘録」で、住宅事業の取り組みを考えるときには、私自身、雑誌を検索し、利用しています。

学者の研究と実務者の関心
今回の岡田さんの研究報告は米国の低所得者住宅に利潤を追求する米国の金融が参加し、米国の金融機関として「期待した利益を上げている事実」を実証した調査です。その合理的なメカニズムの証明ができたから、それを日本に応用できないか、できないとした場合、その障壁な何かということを明らかにしてくれると、私のような実務に立った関係者には有効な情報になると思いました。
以前、海老塚さんの比較住宅研究会で、国土交通省の小林不動産対策室長が、米国の中古住宅の流通制度を報告されたときも同じ印象を受けました。小林さんが行政官ですが、学者的調査報告て行政官の調査報告には思えませんでした。小林さんは米国の既存住宅市場の調査分析を行い、これまで私が調査してきたことと比較して、はるかに精度の高い調査で米国の事情を正確に説明できていましたが、行政的視点が弱いため、例えばその後国土交通省が実施し始めたインスペクション制度を例にとっても、付け刃になっていて、それを日本の住宅不動産流通制度に導入しようとする上での問題と理解できないでいました。米国の不動産流通制度が優れているのでそこで行われている政策メニューを、日本の不動産流通に持ち込めば、日本の制度に有効になるとアプリオリ(先験的)に決めてかかり、インスペクション制度を日本的に制度化すると言った間違った政策が行われています。
今回の岡田さんの研究成果は、「米国のコミュニテイ・ディベロップメントで大きな政策的な機能を絶たしている金融・税制を利用した住宅制度の理解」という内容で、米国で行われていることを日本に導入するとか、参考にするとかするとした場合には、この岡田さんの研究を米国の制度の理解材料とすることはできても、この報告された内容は、それ以上のものではありません。

CM教育の苦い思い出
日本政府(中曽根内閣)が「輸入住宅」政策を実行に移し、米国では「輸出住宅」政策が取り組まれました。HICPMはNAHBと相互協力協定を締結し、そのための技術移転事業に取り組みました。米国政府はHICPMの取り組みに先立って、経済的に低迷している米国経済を復興するためには、「輸出住宅」を振興し、外貨獲得をする必要があると考え、米国の住宅産業界から日本に向けての「建材輸出」を強力に推進する必要があると判断しました。その「輸出住宅」を振興するためには日本のホームビルダーである「工務店」の経営体質改善を推進し、国民に向けて日本の住宅の市場価格(米国の住宅価格の約2-3倍)を合理的方法により事業量の拡大をしなければならないと考えました。
米国政府の日本市場調査で分かったことは、日本の住宅価格の異常な高さは、実施設計が作成できず、建築確認申請図面と「材工一式」の略算単価で建設工事費を概算し、その概算額で請負契約を締結し、現場工事がうまく収まらず、時間を浪費し、結果的に工事費がかさみ、それを請負契約額で仕上げるために、不足した資金を工事監理者に「同等品承認」をさせている不正で処理していることでした。その工務店やハウスメーカーの実施している住宅産業経営では、合理的な方法でコストカットはできず、期待した「輸出住宅」政策の展開はできなくなると米国政府は考えたのです。
「輸出住宅政策」にとっての鍵は、日本の住宅建設業者に建設業経営管理(CM:コンストラクションマネジメント)教育を行わせることと考えました。そこで米国政府は日本への建材輸出が最大のワシントン州と協力して、ワシントン大学でCM教育を担当して、CMの実務経験も豊かなオッシンジャー教授を日本に派遣し、北は北海道から南は九州まで全国7カ所でCMセミナーを実施しました。このセミナーには約2万人程度の聴取者を集め大盛況でした。しかし、それ以上の発展をすることはなく、港区赤坂で日本の建設業者からの技術指導要請を受け付ける事務所を開設して相談を待っていました。しかし、日本の住宅産業からの相談・指導要請はゼロで、事務所は閉鎖を余儀なくされました。
その後、HICPMが創設されNAHBとの相互協力でNAHBのCMテキストを翻訳開設したテキストを作成し、その後22年間技術移転セミナーを行ってきました。最初は政府の「輸入住宅政策との関係で盛況でしたが、技術移転を受けようとする者は先細りで、結果は、CM技術を国内に定着できない状態で現在に立ち至っています。それは日本の住宅政策は、合理的な建設業英英を行って適正に利潤拡大する政策を放棄し、「差別化」という詐欺行為を行うことで住宅流通サービスに要した費用を直接工事費であると欺罔して販売価格で回収してもよいという政策を行ってきたからです。日本の工務店による住宅価格は、当時と基本的に同じで、広告・宣伝、営業・販売経費を直接工事費に潜り込ませる欺罔を行って、非常に高額で、国民に巨額な住宅費負担をさせ、それでいて工務店の利益は向上しない状態が続いています。欧米工業先進国では建設業を工事業として扱い、住宅価格は基本的に直接工事費とすることになっています。そのため既存住宅市場で価格下落は起きず、物価上昇分以上に既存住宅価格は上昇しています。
日本では建設業者はCM教育を受けておらず、実践しておらず、その状態で建設価格から無理、無駄、斑を取り除いて価格を引き下げ、住宅建設業経営を改善することをしない限り、未来住宅建設業の展望を開くことはできません。それは中古住宅制度の改善や貧困者向けの住宅政策の展開に関し、米国の実情把握とその技術の実践までには、実践する技術の移転という大きな道のりがあります。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)



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