HICPMメールマガジン第805号(2018.10.15)

みなさんこんにちは

 

注文住宅設計と建築学

「注文住宅」というテーマで連載してきたが、「わが国の注文住宅」と「欧米の注文住宅」とは、その内容を考えていけばいくほど、わが国は住宅産業の利潤追求と国の税収増大をもたらすが、住宅購入者を貧困に陥れる「間違った住宅」を追い求めているように思われる。その理由は、わが国の現代における「注文住宅設計」が目先の要求の満足で、欧米の資産形成の注文住宅設計とちがっているからである。欧米の注文住宅設計は、土地を建築加工して、未来に残る住環境づくりを前提にしているのに対し、わが国の住宅は政府と住宅産業の口車に乗せられて、高額な費用を住宅建設に浪費させられ、政府の住宅政策は住宅産業経営支援に終始し、消費者の負担を増大させ続けてきた。

 

「注文住宅」の意味は、建築主の要求通りの住宅という意味である。衣食住の全てに於いて消費者はその希望するものを、支払い能力な範囲で手に入れようと願ってきたが、多くの消費者は「注文する住宅が分からず、提供された住宅が適正価格であるかわからない」状況に置かれている。その原因は住宅を購入する人のための資産形成のできる住宅・建築設計教育が存在せず、住宅産業が売り抜けできる住宅建築設計が行われてきたからである。7月に井上書院から刊行した『欧米の建築家、日本の建築士』はその問題を取り上げた本である。

衣服や料理を消費者に満足のいくものを提供しようと呉服産業や料理産業が生まれ、消費者を満足させた産業が経営を成功に導いてきた。住宅は衣食と比較したらはるかに巨額な費用を支払う産業である。わが国の街並みを構成する住宅の全てが、消費者の住要求に応えて作られた「注文住宅」であるが、実際に消費者が既存の注文住宅を見るとき、それを消費者にとって憧れの「注文住宅」と見ることはない。

 

大都市には戸建て住宅と同数以上の集合住宅が建設されているが、その全ての住宅は、建築士が設計した住宅である。わが国では欧米の建築家法に倣って、建築士法を制定し、設計者は人文科学としての建築学を学び、資産価値が上昇し続ける設計を行なう設計者でないと建築設計を行なわせないと建築士法に基づき設計業務を行なうことが定められたが、建築士法はその制定の過程でモデルとした米国の建築家法と、以下の通りの違いを生む大きな誤りを犯してしまった。

  • 建築家が大学で学ぶべき建築学は、人類の歴史文化・生活を学ぶ人文科学としての建築学でつくられる基本設計と、建築主の支払い能力で購入できる価格で購入できる建設工学を駆使した実施設計で構成されていなければならない。
  • 建築家は、人文科学で学んだ建築設計技術とそこで作成した基本設計を基に、建築主の購買力で購入できる建設工事を確実に実施できる実施設計を作成し、その基本設計と実施設計通りの建築を実現するための工事監理能力を具備しなければならない。

建築士には米国の建築家に義務付けられている人文科学部建築学科建築教育と、設計図書通りの工事監理業務を行なう能力の「建築家の受験資格」に倣った「建築士の受験資格」を定めたが、その建築家と建築士の受験資格は、似て非なるもので、それが建築士を米国の建築家とは異質にしている。

 

わが国の建築設計教育

わが国の工学部建築学科で行われている建築教育は以下の3つの教育内容に集約される。

  • 建築基準法令に適合し、建築基準法の確認申請のできる設計図書の作成する技術。
  • 政府の推進する住宅政策に沿って政府が誘導する住宅支援補助金を受けられる計画。
  • 顧客満足を最優先し「差別化」による住宅政策を取り入れ、販売促進を推進する事業。

以上に要約されるわが国の大学における建築学教育はその本質において、国家の経済政策として始められ実施されるもので、「国民の健康で文化的な生活を実現するもの」(日本国憲法第25条)ではない。

 

その根拠は、建築設計を建築士法で排他的独占業務として行うことになっている建築士は。学識として基本設計に必要と考えられている人文科学としての建築学を履修していないだけではなく、実施設計の作成に不可欠な建設工学としての材料委及び工法に関係する建築学を履修せず、建築士法に定められている建築設計図書を作成する建築設計学を履修していないため工事費見積もりを行なう技術を学んでいない。建築士は大学及び高等建築教育機関で履修している知識は、建築基準法に適合する建築技術と、確認申請書に添付する代願設計作成技術だけで、建築設計に不可欠な建築用語〈建築の形態、建築詳細、建築装飾で構成されるアーキテクチュアル・ボキャブラリー〉を学んでいないため、建築思想を建築設計に作成することができず、建築文化を建築設計によって訴えることができない。

 

明治時代欧米からジョサイア・コンドルを招聘した建築設計は、明治政府が条約改正を実現するために、わが国にも欧米同様な文明国であることを訴えるために、当時欧米で広く建築されていたルネサンス建築様式のデザインを「意匠」教育として、正確に設計図書の模写をする教育として行なった。しかし、ルネサンス建築の背景にある西欧建築思想は、わが国に有害な西欧建築思想を導入することになると判断され、建築設計のなかから建築思想を取り除いた図案という意匠教育として導入された。その教育思想を「和魂洋才」と言う。そのときの建築教育は関東大震災後、国民の生命と財産を守ることのできなかった建築教育として、東大工学部建築工学科教授佐野利器が提起した「意匠か構造か」のインターカレジ論争後、放棄された。

 

建築雑誌と建築教育

戦後になって、世界的には、コルビジュエやミース・ファン・デル・ローエらが先頭に立って、新しい時代に沿った建築思想がインターナショナルスタイル(国際建築様式)としてわが国にも紹介された。しかし、わが国では戦後になっても建築思想に対して受け入れず、建築思想ではなく、建築意匠として前川国男、丹下健三、坂倉順三、吉岡 隆正らが欧米の建築デザインを国内へ紹介し、わが国の建築水準は欧米並みと宣伝した。その建築設計は欧米の建築家の模倣以上に出ることはなく、明治の近代建築教育同様、欧米で有名になった国際様式の意匠を模倣することで、欧米の建築設計と同じことをしたつもりになっていた。その代表的建築家が丹下健三以下黒川紀章、菊竹請訓らであった。その間違った建築設計教育が安藤忠雄ら現代の有名建築家や大学の建築教育にそのまま伝えられている。

 

欧米の建築家たちはすべて自己に確信のもてる建築思想を建築設計により実現することで、その建築思想を社会に問うてきた。わが国の建築家は意匠、図案として欧米の建築設計をうらやましいと思い、その意匠を模倣し、精確に模倣することでその建築設計力が欧米の建築家と同様であると勘違いしてきた。歴史的に見ると欧米の建築家は、古代から中世、近世、近代においても思想家であり、政治家であって、その思想を、建築を通して社会に訴えてきた。そのため、彼らの設計した建築は社会思想として社会に反映されその思想を社会に影響させてきた。モダニズムやインターナショナルスタイルは現代社会思想に大きな影響を与えてきたが、その影響を受けなかった国が日本であったが、代わってそこには「シンプルモダン」と呼ばれる無思想の粗悪なバラック建築が生まれるけっかになっている。

 

わが国の建築雑誌に掲載される建築デザインの多くは、欧米の建築の物まねでしかないだけではなく、それを打破していると言われる「前衛」と言われているものは、過去にない新しさを主張するものがほとんどで、その設計を支える建築思想がない。これらの建築雑誌に登場する丹下健三、黒川紀章、菊竹請訓ら有名建築士は、雑誌にその前衛的デザインを掲載することを目的に設計し、建築主と喧嘩・物別れになる例も多い。自宅の便所を使うために雨傘をささないと便所が使えない安藤忠雄の「住吉の長屋」のような非常識な住宅が多数建築され、建築雑誌を賑わし、建築主と訴訟になった例は無数にある。そのような建築士が大学で建築設計教育を担当し、建築家の学生に悪影響を与えてきた。

 

第33回 わが国における注文住宅の「異常な」つくられ方

 

消費者不在の建築士の営業本位の住宅設計

わが国では住宅の設計施工業務の全てが、住宅産業主導で進められ、設計者や建設業者が仕事を獲得するために、顧客を設計業務に引き込む作業から始められる。そこにはわが国の有名建築士の設計宣伝が消費者を迷わせてきた。建築士法が設計及び工事監理業務は建築士にしか行なわせない規定により、住宅購入者に「建築士は設計・工事監理の専門技術者」と勘違いさせる規定が置かれているためである。建築士が設計及び工事監理業務の専門技術者となることを規定した建築士法上の業務制限を、建築士を設計者とすることで建築主の設計の夢が叶えられると勘違いさせてきた。

 

建築士法は、建築士資格者以外には設計及び工事監理業務を行なってはならないと規定し、建築士法で建築士の学識経験を有する者にしか設計及び工事監理業務を行なわせてはならないと規定している。しかし、建築士に設計及び工事監理業務を行なう能力があるとは規定していない。建築士は、建築士の受験資格として学識経験を積んできたことを条件にしているが、建築士の多くは、その学識経験がなく、社会的に満足できる設計及び工事監理業務が履行できない。建築士が設計及び工事監理業務をする場合、設計及び工事監理業務能力を消費者に説明し納得してもらうことがその業務実施の前提になる。建築士資格そのものは設計及び工事監理業務の法的要件に過ぎない。

 

建築士が提供するものはその業務成果である。建築士事務所がその設計及び工事監理業務を営業の対象にすることは適法な営業であるが、そこで実際に提供する業務サービスを消費者に解かり易く説明できなければ、建築主はその業務を委託することはできない。しかし、わが国では建築士法で定めた建築士の就業制限規定を営業に使い、建築士資格を有する建築士事務所に業務委託すれば、消費者の設計要求を満足させるという宣伝は、提供できる業務を説明しておらず間違っている。建築士行政まで建築士の営業の方を持ち、建築士事務所の営業を行なって、消費者に被害を及ぼしている。

 

基本設計と実施設計

建築士の受験資格として定められている建築系大学での4年間の建築教育とはどのようなものかを考えないといけない。建築系大学教育のモデルとされている東大建築学科では、必修科目として建築設計教育を実施していない。しかも、東大を含む大多数の建築系大学は工学部建築工学科で、建築教育を欧米の建築教育のように人文科学教育として行なっていない。工学部は物づくりを行なう学部で、住宅、建築、都市という人類の歴史文化、生活環境を考え、計画する学問分野は工学部の仕事ではない。基本設計は文字通り基本的な計画であり、そこには施設計画もあれば、建築設計指針「アーキテクチュラルガイドライイン」のように、計画区域内の関係者が自由に検定できる大枠を決めるものもある。

 

人文科学とは、人類の歴史文化の流れをつかみ、人類がそこで豊かな生活を送るための環境を考え計画することで、そこで重視されることは住宅・建築・都市に関する歴史観を学び、社会的合意形成のできる住宅・建築・都市思想を育み、それを住宅・建築・都市の基本計画・基本計画にまとめることである。それを具体的な物づくりにまとめる教育は、予算支出を伴うモノづくりの実施設計及び建設工事施工で、欧米ではシビルエンジニアリング(建設工学)で教育されている。わが国では都市施設計画と呼ばれるものや、建築実施設計として決められるもので、建築基本計画が先行することもある。

 

欧米での人文科学として建築学を学んだ建築家(アーキテクト)は、基本設計として歴史文化を継承する歴史軸と、都市空間の広がりによって影響し、される都市空間の広がりによってつくられる都市空間環境を計画・設計する。そこで計画設計するものは、マスタープラン(基本設計)と言われるもので、そのまま実現する計画ではない。基本設計を具体的に実現するためには、当然費用が問題にされることから、基本計画をもとにした実施設計の作成をすることになる。実施設計の基本は工事費用と不可分の関係になることから、材料と工法を決定することによって実施設計をまとめることになる。

 

建設工事受注営業から始まるわが国の建築設計業務

わが国には人文科学による基本計画も実施計画もなく、建築主の要求を実現するための工事受注をするための営業活動が、わが国の住宅産業で設計業務として間違って始められている。それは工事実施に向けて受注内容を具体的に絞り込むための業務である。住宅産業側は、工事受注による「金儲けが目的」と割り切っているから、「建築士による注文住宅設計」を特別のサービスとして受注することを目的に行ない、受注の営業トークに「建築士の就業制限規定」を企業の設計能力として使い、顧客の獲得がその経営のすべてになっている。その営業は最初の段階から工事単価が営業活動の中心とされ、工事品質を決定する材料や工法、住宅設備などの設計仕様が営業の交渉条件のように持ち出されている。

 

そこでの住宅産業の関心は、一人の顧客から取り上げることのできる総金額であるから、住宅産業の営業は、注文住宅のために支払う金額の決定から始まる。住宅産業側は建築主にできるだけ支払い能力一杯の略算工事坪単価(例えば坪60万円)を提示させ、要求があれば「高級な住宅も建設できる」と説明し、顧客が住宅に満足できなかった場合は、「顧客に支払い能力がないので仕方ない」と諦めさせた。建築主の注文住宅の要求はお金さえ住宅会社の要求どおり支払うならば、顧客の住宅要求のすべてが満足させられる「暗黙裡の了解」の上で集客活動が行われてきた。

 

それは建築士法に規定された技能と経験を有しない建築士の現実を隠蔽したまま、建築士法通りの技能と経験を持っていると、建築士の現状と乖離した広報宣伝を行い、「建築士による注文住宅設計」が住宅購入者の夢を叶えられる間違った幻想を国民に与えてきた。そのうえ、住宅産業の振興と建築士事務所の宣伝や設計管理業界の営業活動が、住宅産業行政に対する信頼を確保するため、建築基準法、建築士法、建設業法の建設三法で消費者保護を行なってきたと宣伝してきた。その中で悪徳業者に騙されないために、建築士に設計・工事監理業務は「法律上の義務」と広報宣伝することで、「建築士に設計及び工事監理業務を依頼すれば安心」と建築士の違法な営業に政府が手を貸してきた。

 

不等価交換販売を消費者に見えなくしている住宅ローン

建築士法を基本的に蹂躙する営業をしてきたハウスメーカーは、住宅展示場を利用して建築主が実際購入できる住宅価格の5-10倍高額なモデルホームを見せ、ハウスメーカーは優秀な建築士を揃えて、設計及び工事監理を行ない、住宅を造っていると虚偽の宣伝し、政府はそれを容認してきた。ハウスメーカーでは、ハウスメーカーごと「差別化」により競合させ、優れた住宅を供給すると政府は説明しているが、住宅展示場でモデルホームを比較しても、単に「差別化」による高額な住宅であるだけで、住宅設計としての思想も主張もなく、モデルホームの住宅品質の差は見られない。

 

政府の住宅政策として進めている「差別化」は、憲法第14条で「国民に差別をすることで、不利益を与えてはいけない」と禁止している行為で、「単なる材料や工法の違い」を「住宅の品質の優劣の違い」と欺罔しているもので、自由主義市場における等価交換の原則を蹂躙した営業である。わが国の住宅産業は政府の住宅政策に合わせ、単に「品質の相違」を「価値の高低」と差別・欺罔し、集客を行い、設計業務を始め、その先に、不等価交換販売で成約し不正利益の拡大を図ってきた。集客後の最初は、無償で注文住宅の設計に誘導し、ハウスメーカーは住宅金融機関と結託して、不等価交換金融和前提にした不等価交換販売により、建築主はハウスメーカーの提示する住宅は購入できると説明する。

 

国民に住宅を購入させ、住宅産業支援を目的にした住宅政策

わが国の新築住宅価格は欧米の新築住宅価格の2倍以上で、建築主の購買力を逸脱している。しかし、政府はベトナム戦争での米国の敗北で、軍需産業向け住宅需要を失い、住宅政策は大転換を迫られ、1976年に住宅産業救済を目的で始めた住宅建設計画法以来、住宅産業需要を軍需産業向け住宅需要を、国民大衆の住宅需要に転換するため、以下の3つの方法で国民の住宅の購買力を、融資額相当の無限責任担保を取ることで金融機関が提供する住宅ローン額と勘違いをさせてきた。

 

  • 政府は住宅金融公庫に住宅産業が設定した巨額な粗利を前提にした不等価交換販売を前提にした販売価格一杯まで住宅ローンを与え、住宅購入者に自らの住宅購買能力を勘違いさせた。
  • 国民の年収の8倍までの住宅価格を、住宅購入者の購買力の範囲と説明して住宅ローンを行なう住宅政策を行なったが、多数の住宅購入者は住宅ローン償還前にローン返済能力を失う。
  • 政府はわが国が長期高齢化年金依存社会を迎え、所得が縮小し、医療・介護費用が拡大することを一切住宅政策に組み入れず、単なる貸し金返済政策を住宅金融政策と説明して行ってきた。

 

このような政府の住宅産業の利益を確保する政策に、国民が騙されやすくする方策として、建築主自身が自己責任で住宅の選択肢を選ばせ、建築主の自己責任で、住宅購入者が主体的に住宅供給会社と住宅金融機関を選ばせた。そこでは、住宅の品質(効用)と住宅の価値(市場価格)の公正な等価交換市場ではなく、住宅の品質と価値の関係を「差別化により隠蔽し、工務店やハウスメーカーごとの住宅の「相場」が業者選定材料として住宅産業側から建築主に提示されるようにした。欧米では不動産鑑定評価制度が消費者を守っているが、わが国政府は業者の利益を守る政策を行なってきた。

 

建設業法が機能していない「異常」な「わが国の住宅政策」

ハウスメーカーであれば、坪80-100万円以上、中堅工務店であれば坪60-80万円程度、中小零細工務店は坪40-60万円程度、低価格住宅は坪30万円程度といった具合に相場価格が業者間で決められている。わが国では建設業法があり、住宅の品質は実施設計によって明らかにし、工事請負契約は実施設計に基づき工事費を見積もることで、等価交換販売価格を決定する制度になっている。そこには住宅産業界で横行している「相場価格」が建設業者と消費者との間の価格に影響を与える余地はない。建設業法が機能していない理由は、工事費見積もりのできる実施設計が存在しないことにある。

 

実際の住宅品質は、相場の違いほどの大きな違いはなく、外構、インテリア、住宅設備など全部一括して「一定水準以上の住宅品質」で住宅販売しようとするハウスメーカーと、少なくとも、「相場」価格で客を引き付ける販売価格には、約3倍の開きがあっても、安い住宅に追加工事に必要は住宅設備をつければ、その価格差は2倍以下に縮小する。それらの安い住宅も、米国の同品質の住宅と比較すれば、2倍以上の高い価格である。建築主は政府が国民を騙してきた年収の5-8倍の価格の住宅を購入できると住宅産業に相場をつくらせ、高額な住宅価格を消費者に当然と感じさせてきた。

 

住宅政策の最も大きな役割は、消費者の購買力と比較して著しく高額な住宅価格を消費者の購買力に範囲で購入できると信じさせることである。世界中の住宅政策は消費者の購買力と住宅価格の乖離を如何に埋めるかに取り組んできた。住宅産業が最大限の利益を挙げるために、消費者の巨額の借金をさせ老後の生活破綻が起きてもそれを消費者の自己責任と平気で言っている政府、住宅産業者、住宅関係の学識経験者で構成されているわが国は異常である。

 

「サービス業」としての住宅設計業務の始まり

わが国の建築教育は欧米の建築教育のような建築設計理論はない。顧客の求めている住宅を設計するために、顧客に営業を行なう共通の土俵つくりから始められる。顧客からお金を引き出させることが営業であるとされ、建築主と施工者が共通の土俵をつくることは、住宅の販売価格を設定することとさられてきた。欧米の建築設計のように建築主の求めている必要条件を満たす設計を「基本設計」として設計し、顧客が満足した基本設計を、顧客に支払い能力に合った実施設計を作成する方法であれば、基本設計は必要条件を纏める設計であるが、わが国では、最初から住宅産業が経営上の利益を追求するための営業としての設計であるから、請負工事代金が設計上の最大の関心となる。

 

設計者と建築主の営業上の最初のステップは、工事請負総額の決定である。わが国の建築士の最大の関心は、建築主が購入できる住宅購入総額を決めることである。それが決まらないと建築士の設計は始まらない。住宅購入総額が決まると、それを相場単価で除して、建築主の購入できる住宅延べ面積を算出すれば、間取りづくりに踏み込める。そこで、平屋か2階建ての階数や住宅の形態の検討が始まる。実際の住宅設計は欧米のホーム・プラン・システムを見れば明らかなように、同じホームプランによって、松(カスタム)、竹(スタンダード)、梅(バジェット)の価格の住宅設計を得ることができる。

 

わが国の相場価格と言われている価格が設計仕様の「松・竹・梅」であると説明され、それぞれの仕様で作られた住宅の延べ面積は、購入価格を相場単価で除すことで決められることにはある種の経済適合性が認められる。しかし、わが国の相場単価は工事施工と建材流通の重層下請け構造を前提にした相場単価であって、米国のような「1層下請け」を前提にしたものではない。つまり、わが国の住宅営業として始められる相場単価による建築工事額の決定は、これまでのわが国のサービス業としての建設業の工事費で行なう住宅建設設計で、消費者の支払い能力に合った工事に合った住宅設計ではない。

 

重層下請けを前提にした代願設計

建築士が実際に行なう設計は、「代願設計」でしかなく、工事で使う材料や工法や職人の技能力を考量したものではない。建築士は、代願設計として作成したものを重層下請けで工事する関係業者に配布され、そこで関係した下請け業者がそれぞれごとに行なう工事費を見積もり、それの粗利を加算して元請け業者に請求する工事額の合計を元請け業者は工事請負額とする。一層下請け業者が自ら工事をしないものは再下請けに出されるため、中間下請け(手配師集団)は実質的な工事をしなくても、「口銭(粗利)」だけは請負工事額に加算されるため、材料と工事費一式とした方が口銭は大きくなる。建築士の建設業業務知識は貧弱で、代願設計があれば下請け業者も工事費見積もりができると考えている。

 

現実に工事資金を含んで与信管理を行なう商社が中間に入る結果、商社の理屈としては、必最小限の保険によって工事を完成に導くと説明するが、少ない金利であっても重層されることで、その総額は大きく膨れ上がっている。代願設計は実施設計ではなく実際の工事を明らかにできないので、重層下請けに対応した設計である。欧米では建設工事においても中間業者の口銭で手数料が累増することがないように、工事期間の建築物に対する先取特権(メカニックスリエン)に対して建設工事融資(コンストラクションローン)をする等価交換による工事下請けが行なわれている。コンストラクションローンに対して金融機関は先取特権を押さえて、10日程度で建設融資を実行し、現金取引と同じ状況である。

 

このような欧米の建築設計論と無関係な営業利益確保の方法で住宅の設計条件を決めている国、先進薨御y国で、わが国だけである。代願設計が建設業務を一層混乱させている。南面間口を91cmの倍数で最大に取れば、奥行きは同じく91cmの倍数で最大に取り、そのグリッドに柱芯か、壁芯として設計をするのがわが国の一般的な建築設計である。設計の専門家を自負する建築士は、集団規定による外壁・屋根の形態制限を持ち出し、大学で学習してきた代願設計を建築設計技術と信じている。消費者の生活も文化も無視し、間取りづくりの設計をCADで作る作業を行なうことになる。建築主の求める間取りを建築士がCADでまとめることをわが国では設計業務と言っている。

 

わが国では、営業業務とされている建築設計業務

ハウスメーカーは住宅設計図書の作成から工事費見積もりまでの作業をしても、業務費用は無償で行なうと言い、無償の設計業務で顧客を契約に向けて誘導することが営業である。その実態は「客引き」で、建築学的な学識経験を必要ではないので、建築士法上の設計業務報酬を要求できない。わが国では請負工事費の15%程度の設計業務報酬を相場と言い、そこには代願申請上も必要であると主張している。要するに建築設計業務は代願設計を行なうことと誤解している建築士が圧倒的多数である。ハウスメーカーが行なっている「名義借り」も代願申請上の記載が目的である。建築士法上では、代願設計は「設計業務」とは別の「その他業務」と説明されてきた。その「その他業務」がいつの間にか「設計業務」となり、設計業務報酬を徴収し設計業務が行われたと説明されてきた。

 

建築士法上の「設計業務」の定義が曖昧であるとともに、大学の建築設計教育が曖昧で、多くの工務店もハウスメーカーと横並びの設計・施工一貫の営業に対抗し、建築士事務所は設計・施工一貫の営業を施工利益のための設計と批判してきた。そして、設計・施工一貫は、建設業者に騙されると一部の有名建築家の主張を真似し、設計・施工分離の建前で設計業務を受注し、設計・工事監理費業務報酬を建築主に要求してきた。設計・施工一貫も、分離も、いずれもが、「代願設計」で実施設計図書ができておらず、工事費の見積もりができないことに責任を感じていない。また、工務店に工事の現場納まりが説明できなくても、それを実施設計の欠陥と認識していない。建築士は工務店に工事を紹介すると騙し、自らの設計した設計図書を工務店に渡し、無償で工事費見積もりをさせている。

 

設計者が行う「設計見積もり」と工事業者が行う「工事見積もり」とは、その工事費見積もりを行なうデータベースが違う上、その目的も使途も違うから、相違して当然であるが、材料と労務の数量と単価とが合理的にされない見積もりは認められない。わが国の場合、そのいずれも「材工一式」の略算単価で工事費概算を算出するだけであるから、概算額以上の意味はない。わが国の住宅産業(ハウスメーカー,工務店、建築士事務所)は、建築士法及び建設業法に定められた業務を行なっておらず、営業トークのとおり無償でもおかしくはない。しかし、住宅産業は「代願設計」を含む設計業務費用を、住宅販売代金の一部に設計業務費用として当然のように徴収している。建築士が行った代願設計が建築士法で定められた設計業務ではなく、住宅産業関の「営業サービス業務」費用として徴収している。

 

建築士法と建築士法行政

建築士法で設計及び工事監理業務は、建築士の「排他独占業務」とされている。しかし、建築設計業務及び工事監理業務は、現実の社会で、建築士事務所でどのように扱われているかという現実の姿を極端な形で説明すると、以下の2つに集約されている。

  • 建築設計業務は、建築士が建築士事務所として行っている営業宣伝業務である。
  • 工事監理業務は、建設工事請負契約の「特記仕様書」の地位としてわが国の建設業行政でオーソライズしたとおり、建築主に対する背任行為で、施工業者からキックバックを受けている。

この2つの業務は、建築士法で定めている建築士の基本業務であって、その業務を実施する学識経験を建築士法では大学における4年間の建築学教育と2年間の実社会での工事監理業務研修と定めている。

 

しかし、建築士法で規定されている大学又は建築の専門教育機関で、建築士法で定めている教育を実施しておらず、實社会で工事監理業務を実施している建築士事務所が例外的にしか存在せず、建築士資格を得ようとしている人が、工事監理の実務研修を受けられない状況にある。わが国で、現行の建築士法で定められた建築士の受験資格は違法ではないか疑問視されている。建築士受験を希望しても、わが国ではその要件である人文科学としての学校教育としての建築学教育も、設計業務と完全に分離して工事監理業務を行なう建築士事務所が存在せず、工事監理実務研修を受ける機会が存在していない。

 

建築士法が立法された当時、「設計・施工を業者として完全分離せよ」という意見と「設計と施工移管はわが国の建設業の基本的な経営方法であり、設計施工一貫により経済合理性が実現されてきた」という真っ向から対立する2つの考え方を国として建設業法、建築士法上の基本問題として明確にしない限り、建築設計、工事監理、工事施工という概念が混乱させられ、建築士法及び建設業法の施行が混乱した状況から抜け出せないことになる。それは大学の建築学教育にまで関係する問題である。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

HICPM入会案内

HICPMへは、住宅についての知識・技術を研鑚しようとする方はどなたでも入会できます。住宅の本来のあり方を勉強したい方、追求したい方。私たちと一緒に学び、豊かな住環境をつくりませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です