第232回(2007年10月1日)

みなさん、こんにちは。

 日本住宅会議が2年に一回発行している 「住宅白書」 が先月手元に届き読んでいますが、多くの著者の合作で、連歌のような面白さを感じます。現場からの見解、学者としての発言、業者からの発言もあるといった多くの立場からの見方であるため、立体的に読めるということでお勧めの本と言えます。竹山清明氏はこの本の編集者でありながら、HICPMの理事という立場で私とは色々意見交換をして、住宅の資産が大切であるということで共感し合い、その縁でこの本の著者に加えて頂き複数の原稿を掲載してもらいました。私が押しかけで書いたのではなく、皆に知ってもらった方が良いという竹山氏の考えで依頼を受けて書いたものです。

 連歌調の編集は、視点が小編ごとに変わるため、退屈しない上、中にはおかしな観念論と捉えられるところもありますが、不愉快になる前に次の全く別の新しい視点で書かれた見方に出逢え、ある意味ではメリハリと言うか、逆に変化を感じて退屈せず、ついつい読み進んでいけるのが良いところだと思います。中には、現行の制度の紹介に終わっているものもありますが、現場からの報告では迫力のあるものも多く、どのようにして取り組んだのだろうと考えさせられるものも、多々あります。

 今回の住宅白書の基本視点は、住宅は基本的に国民にとって資産となるものでなければならないという考えに立って編集されています。この「住宅を資産」と言う観点で考える土壌がなかったわが国で取り組まれたこの白書は、それだけでも大きな前進であると評価できるのではないかと思います。

 「住宅を貧困」と言う言葉と一体にしか考えられない多くの住宅研究者がいる中で、それとは別に、国民にとって「住宅ほど大きな負担を強いて手に入れた財産はない」、という現実に目を向けて、その「住宅の資産価値が年々高まっていかなければ、国民の生活は豊かにならない」という当然の事実に、住宅白書が着目したその取り組みを高く評価したいと思います。

 日本の国民のように、住宅を手に入れてその投資額全体を 26 年で失うやり方をやっているのは、世界の工業先進国でも日本だけです。単純計算をすれば、年収 500 万円と言う平均的な所得の人が、その 5 倍の 2500 万円の住宅投資をすると、毎年その住宅を手に入れたことで、金利を無視して、その家に住んでいる 25 年間毎年 100 万円ずつ失っていくことになります。実際には、金利を含んで、少なく見積もっても 2 倍の 200 万円ずつ資産を失うことになります。その大きさは、年収 500 万円の世帯にとっては、 40 %の資産を失なうことを意味しています。個人資産が失われることは、実は、国富自身が失われることをも意味しているのです。

 アメリカのサブプライムローン事故が社会問題になって、住宅というものは国の如何を問わず、国民にバブル経済の原因を作り、国民を不幸にするものと日本もアメリカも同じだと考える人が、日本には沢山います。アメリカで起こっているサブプライムローンは、住宅を購入した人に不幸を与えているとニューズウイークには書かれています。それは、支払い能力を逸脱したローンを組んだ人は、ローン返済が出来ず、住宅を差し押さえられて住めなくなってしまったという悲劇を書いているもので、日本のバブル崩壊のときのように、住宅を差し押さえられた上に、その 7 〜 8 割の債務が不良債権として残り、その債務返済のために自殺をしてその生命保険により支払うということは、アメリカではあり得ないのです。

 この住宅白書の中で取り組んだ問題自体が、現代社会の住宅認識を反映しています。これを機会に、この問題を日本住宅会議でも取り組んで頂けることを期待しています。これは住宅関係者の問題だけではなく、国民的な広がりを持つ問題として、政界、財界、官界、学会、産業界全体で取り組まれなければならない問題です。基本的人権の問題として、一月ほど前大阪で、ヨーロッパの国々の住宅の様子をイタリア人から聞いた話は大変面白いものでした。イタリアでは、住宅の屋根が3分の1以上残っている限り、その家を壊してならないという法律があって、スクラップ&ビルドは基本的に禁止だそうです。既存の住宅を壊さないとする考え方の裏には、住宅自体がその地方の文化資産であって、その住宅はそこに住んでいる人やその町に住んでいる人々のアイデンテイテイである、という考えがあるというのです。住宅を文化遺産と考え、それが国民の財産であり、それを守ることが基本的人権をも守ることになるという考えなのです。

 住宅に対して、それを文化資産と言う見方と、経済的な資産と言う考え方とは同じではありません。人々が文化遺産を大切に思い、それを自分自身の宝と考え、その宝を自分の財産として手に入れて大切に守ろうと望み、文化遺産のある生活を自らのライフスタイルとして大切にしようと言うことになれば、結果的に、それらの文化遺産として高い評価を受けた住宅は、マーケットにおいて多くの買手に支持されて、その需給関係を反映して、高価な価格で取引きされることになります。そのことが住宅の資産価値が上昇することを意味することになるのです。文化遺産として国民の住宅を考えている国々では、その住宅の集合体として、町全体が観光資源になっています。ベルギーのブルージュや、チェコのプラハの町に行けば、その様子がよく分かると思います。

 竹山氏とは以前、グローバル研修企画のツアーで、イタリアのフィレンツェや、ポールグリモなどフランスのプロヴァンス地方の町を訪れてデザインを勉強してきました。私達の訪れたプロヴァンスは、古代ローマ時代の城郭の外に出来た貧しい農民たちの、自然発生的につくられた町を母体とする農村です。その自然と調和したさほど豊かではない町が、世界の人々を魅了しているのです。ポールグリモの町は、マークスプリングスの設計者である渋谷氏を惹き付けたといわれるデザインで、現代のリゾート開発のデザインとして採用されたものです。その原点は自然発生的にできた農村のデザインで、それに倣って作られたものです。農村の歴史的に作られたデザインの中に、南仏のプロヴァンスの文化遺産としてのデザインがあったのです。

 日本住宅会議の住宅白書は、住宅を国民の文化遺産として取り組むべきものであるという考え方が基本にあり、それを何処まで踏み込めたかと言うことではなく、これから踏み込むべき問題として提起していることを重視して、皆様には是非読んで頂けたらと思います。

 住宅を大切に思い、住宅白書にご関心のある方は、

近畿支部の猪谷善久氏( shishiya@healthy-house-labo.co.jp ) 或いは

竹山清明氏 ( takesan@kpu.ac.jp ) にご連絡しご注文下さい。