HICPMメールマガジン第783号(2018.07.25)

みなさんこんにちは

私自身住宅官僚として4半世紀働き、その間、公営住宅、改良住宅、公団住宅、公庫住宅という政府施策住宅の供給に関係し、国民の住宅の向上に寄与してきたと信じていた。官僚として住宅政策は、不正な行政を行なった上司から人事権の濫用で官僚の世界から追い出され、官僚として住宅行政に携わる道を奪われてしまった。そこで、民間人として、NPO法人の活動をとおして欧米の住宅産業技術の国内移転に取り組んできた。しかし、政府の住宅政策は欧米の住宅産業の活動を妨害し、護送船団の利益中心の住宅政策を行ない、消費者に、住宅を購入することでその資産を失わせてきた。国家は国民のためにと信じていたことが裏切られていたのではないかと感じることが多数露見してきた。

 

信じられないことであるが、政府はGHQが占領下でわが国に持ち込んで、新憲法の下で戦災復興を行なうため、米国で世界恐慌に取り組んできたニューディール政策を経験した人たちが、その夢を戦後の日本で実現したいと考え、民主的な行政法を日本に制定しようとした。しかし、その夢は実ることはなかった。日本の戦後は朝鮮戦争が突然勃発したことも有るが、政治家、官僚、産業界が政治と行政をその権力如何に起き利権を拡大した結果、産業の利益と政治家と官僚の利益が守ることが優先し、消費者の利益を考えない政治となっていた。1960年日米安保条約を一緒に戦った私の周りにいた官僚たちは、国民の利益を口にしながら官僚の利益しか考えなくなっていた。

 

私自身の住宅官僚として戦災復興のために行ってきたことも、英国の住宅政策に倣うと考えて、国民のためと言いながら取り組んできたことの全てが、実は、日米安全保障条約の枠組みの中で軍需産業のための住宅産業政策を担わされ、ベトナム戦争後は住宅産業のための住宅政策を国民のためと説明して行ってきたことには変わりはないことを、半世紀を経て、あらためて確認させられている。住宅生産性研究会の活動をとおして日米の住宅産業を直接比較する4半世紀の経験を通して、欧米諸国の住宅政策との比較だ、わが国の住宅政策が如何に間違っているかと認識させられた。その住宅政策の間違いは、住宅・建築・都市の教育研究にまで関係していることを気付かされた。

 

『ゲッベルスと私』は、犯罪国家に組み込まれた労働者は、国家の間違いには口を挟まず、個人的な利益を受けても、「それは犯罪に与したことにならない言い訳」を70年の沈黙を破って社会に説明した。かつて、アイヒマンが、「私は組織の一員として機能しただけで、犯罪者ではない」と言ったことと同じである。東京裁判で被告になった多くの先般も似たり寄ったりの発言を繰り返した。現代の平和な社会になっても。権力者には犯罪を犯してもその意識はない。安倍内閣の「もりかけ」問題も犯罪である。私は住宅・建築・都市行政に関与し、そこで私も官僚として構造的に国民(消費者)の資産を奪い、住宅産業が利益を奪ってきた犯罪に与した事実は少なくともはっきりさせなければと考え、現在「注文住宅」の論文の中で住宅産業界で経験してきたことを通して犯罪を明らかにしている。

 

第19回 欧米の大学教育で行っている人文科学による住宅設計(MM第783号)

 

住宅産業は、住宅購入者に住宅を購入させることを目的にする産業である。わが国で住宅を購入した消費者は例外なく住宅を購入することで資産を失っている。一方、住宅を購入することで資産形成を実現している欧米の住宅供給は、住宅を取得し利用している間に不動産投資として資産価値が上昇し続ける。その違いは住宅政策の違いと、工学としての住宅設計と人文科学としての住宅設計の違いでもある。消費者の富を奪うことで、産業が不正に富を得ていることは、わが国社会の仕組みであっても、それは本当のところは、犯罪である。

 

欧米の人文科学としての住宅設計の仕方

住宅建築設計を業務として行なう人は、米国では建築家(アーキテクト)と呼ばれ、住宅・建築設計の専門技術を大学等で学習し、建築士事務所で数年間、設計(デザイン:基本設計と実施設計)及び工事監理(モニタリング)の実務経験をすることになる。米国では、建築家試験に合格した後、建築家協会員(AIA:アメリカ建築家協会)の会員に登録し、協会が定めた建築家の倫理規則(エシック・オブ・アーキテクト)を遵守し、協会の定めた建築関係技能・技術・法令情報研修プログラムを履修し、その時代に社会的に通用する技能力を発揮できる技術者であるよう研鑽する。AIAは建築家に対し自主規制を行なうことで、AIAの信用を高めている。

 

欧米では建築設計は、都市の中で未来に亘って存続する建築不動産を設計し、都市の環境設計の構成要素として建築設計を行なうことを業とする建築家であるから、建築家はその素養として住宅・建築・都市に関する知識と能力を求められる。その条件を満足する設計者は、建築家(アーキ・テクト)の語源どおり、多くの技術者(テクト)を統括(アーキ)して、住宅・建築・都市をつくりあげる者と呼んでいる。建築家に求められている知識経験は、わが国のように建築工学ではない。その理由は、住宅の設計は、歴史・文化・生活を担った土地の上で営まれるに人々の歴史・文化・生活を未来に向けて育てていく環境を設計(創作)する技術である。つまり、プロジェクトはそれぞれ固有の目的が歴史文化的にあり、工学部のような建築主の要求に応える設計図書通りの「物づくり」ではない。

 

歴史文化を担うことのできる住宅

住環境設計は、事前の完成させる計画図があるわけではない。建築家が土地とそこで居住する人の生活と歴史文化を調査研究して新しく創造する住環境である。また、設計した住宅は建築主の家族とともに成長し変化し、常に関係者に満足できる人文科学的環境を提供できるよう設計されなければならない。そこで建築家に求められている設計業務は、建築主が建設しようとする「土地」と建築主の「社会・経済的条件と人文科学的な歴史観」を基に「基本コンセプト」をまとめることから始められる。「基本コンセプト」に基づき、過去・現在・未来を結ぶ「ストーリー」と「ヴィジョニング」を取りまとめる。建築家は建築主にそれらの基本条件を説明し了解を得て後、建築主の要求を聞き基本設計条件をまとめ、その条件を満足する基本設計に取り掛かる。

 

建築家は建設される住宅不動産が、居住者の家族の成長や生活の変化に対応して求められる生活要求に応えられる個性的な「ストーリー」と「ヴィジョニング」を具体的に構想し、建築主の住要求を聞き、「基本設計条件」を取りまとめ、建築主の基本設計に対する同意を得た「基本設計」に基づいて、基本設計作業を開始する。建築主の支払い能力は、設計に取り組む経済的基本条件である。どのような材料と工法を使って工事をするかは、工事内容を確定する「実施設計」である。実施設計によりつくられる計画内容(使用する材料と工法と技能者の技能と作業時間)は、具体的な工事のすべてを確定するため、実施設計では、材料や工法の選択が工事費との関係で最も重要は計画になる。

 

施工者(職人)が手慣れて容易につくりやすい住宅

実施設計図書通りの住宅ができるかは、職人の手慣れた技能を駆使して、工事管理者(スーパー・インテンダンツ)の工事の経営管理(CM:コンストラクション・マネジメント:工事費管理、品質管理、工程管理)能力と、工事監理者の監理(モニタリング)に左右される。建設工事費が左右されるため、建設業者の選定が鍵となる理由である。施工業者の能力は下請け業者で決まり、下請け業者の職人が鍵を握り、その選択にあたり、そこで実際に工事に携わる職人の過去の実績と工事成果の評価を見ることで判断できる。

 

実施設計どおりの工事は、実施設計に採用された材料や工法を駆使した経験がないと実現できない。わが国のような代願設計を基に下請け業者に入札や見積もり合わせで業者を決定し、業者が自由に工事を実施する現在のわが国の方法は、実施設計不在のための工事であって、実施する工事の内容も工事費も確定することはできない。工事を実際に施工する下請け業者の職人の技量が工事内容を最終的に決める。

 

下請け業者の職人による工事実績を正しく評価し、実施設計は実際の工事内容を特定できて工事ができる。工事の標準化、規格化、単純化、共通化が正しく工事に取り入れられることで工事が計画通り実施できる。実施設計から材料及び労務の内容とその数量と単価とを明らかにでき、正確な工事費見積書の作成ができる。その結果、実施する設計にふさわしい能力を持った下請け業者や職人を選択できる建設業者を選考でき、施工に当らせることができ、実施設計どおりの工事が予定通りの工事費でできる。

 

住宅設計における「基本コンセプト」

住宅設計をするためには、住宅を建設する時点だけではなく、その後の家族の成長や社会の変化を見越して、その住宅を取り巻く歴史的、社会的、経済的条件の整理検討を行い、それに基づき過去から未来へと連続する住生活を考え、設計の「基本コンセプト」を明らかにしなければならない。HICPMが2000年に作成した「サステイナブル・ハウス・ホーム・プラン・システム」では、住宅に要求されている4要素(アフォーダブル、ヴァリュアブル、フレキシブル、グリーン)をまとめた。

 

この「サステイナブルハウスの4要素」は、2000年を前に国民の住宅の基本を検討していた全米ホームビルダーズ協会(NAHB)、カナダ住宅抵当協会(CMHC)が取りまとめていた住宅の「基本コンセプト」作りを消費者視点で作成していた要素に学んで取り入れた基本である。この、「基本コンセプト」は住宅設計に取り組む大前提として、「土地」と「建築主」の2つを扱う建築学上の住宅設計条件として住宅を造るときだけではなく、住宅が滅失するまで守り続けるべき品質の基本である。

 

欧米の住宅設計の「基本コンセプト」の2大要素

わが国と欧米の住宅設計の基本的な相違は、わが国は単体として住宅を捉えようとしているのに対し、欧米では住環境という生活環境として捉えようとすることである。土地と単体としての住宅建築物が同じでも、そこで提供される住宅不動産の住環境は同じではないという視点がわが国と欧米の基本的違いである。わが国で1980年代に住宅都市整備公団が開発した住宅地計画不在の「共同分譲住宅」の計画論がわが国の住宅設計・計画論を最も解かり易くわが国の住宅設計を説明している。

 

  • ロケーションの歴史文化:

住宅は土地を加工して造るもので、立地条件は住宅の基本的な性格であるため、住宅の立地する土地の過去、現在、未来を連続的に繋ぐとともに、その土地の水平的な広がりを、歴史・文化・生活という視点から見た条件を理解することである。それは欧米の住宅不動産業界では「ロケーション」と言われている。住宅不動産は土地を建築加工して住環境を造るもので、住宅は土地の性格から離れられない。住宅を建設しようとする土地に建築主が帰属意思をもてるようにするデザインをつくるためには、土地(ロケーション)の歴史・文化・生活について認識が不可欠である。

 

  • 建築主(想定入居者)の歴史文化:

人々の生活は一つの住宅不動産の中だけで完結しない。人々が集まって住宅地環境(ロケーション)を形成する。住宅の居住者も近隣地域地区の居住者も環境の重要な要素である。建築主の「祖先から子孫を結ぶ」家族とコミュニテイが伝承する文化デザインを採用することで、そこにつくる住宅に建築主が帰属意識を感じるデザインを決める。建築主にもその先祖から継承されている文化的背景があり、家族とコミュニテイが伝承している歴史・文化・生活を、過去・現在・未来と連続した形で発展させる住宅とすることは住宅の基本とすべき設計条件である。

 

「家族の未来」や「社会の未来」の条件は未知であるが、その社会経済条件に対応して変化することこそ、基本設計で考慮すべき条件である。具体的な設計条件の中には「形にできるもの」と「形にできないもの」がある。その条件を将来の生活空間設計に取り入れる「基本コンセプト」を定めることは、住宅設計を計画軌道に乗せるための基本である。基本コンセプトには、そこで実現するものが、そこに居住する人々の経済的負担で実現する工事として実現することがなければならない。

 

「基本コンセプト」としての「差別」と「区別」

「基本コンセプト」で明確に定めるべき「ロケーション」の条件(コンセプト)と「建築主」の尊重されるべき条件(コンセプト)は、一見別の要素のように見えるが、実は「建築主」の対象と考えられる需要者の集団が、住宅地開発や住宅地経営をする場合、「ロケーション」の性格を決める要素になる。かつて、米国では「資産形成のできる住宅地開発の条件」としてディベロッパーは「人種差別」を持ち込んだ時代もあった。その「差別」の考え方は現在では否定され、環境特性として区別する条件として扱われても、優越感や劣等感を引き起こすことは厳しく排除するべきである。

 

サッカーとラグビーとはいずれも蹴球であるが、その違いは優劣ではなく「差別」はせず、性質が違う条件として「区別」し、別のスポーツであるから、別のピッチで競技することで、それぞれの特性を生かした協議と扱うことになる。住宅地の場合も、居住者が人種差別で優越感を感じるのではなく、ライフスタイルの違いという生活者の個性という特性を生かすことを、「居住者による住環境ルール」で「区別」した「ロケーション」をつくり経営することで、「建築主の要求を満足させること」ができる。

 

居住者により構成される「ロケーション」の中で、住宅の購入価格は社会科学的条件は重要である。住宅価格は一般に個人の所得と比較して高額で、通常は、住宅を購入するために住宅ローンを利用する。政府は消費者支援と説明してきたが、その本質は住宅販売を容易にするためで、建設費用全額に融資する住宅金融政策をとってきた。わが国では住宅購入者の住宅購買力は住宅金融により決められるため、欧米のように、住宅購入者の収入や家計支出によって決められる認識は低くなっている。

 

その結果、住宅購入時の所得が、将来上昇する予測を元に購入すると、所得上昇が住宅購入時の予測通り進まないと、住宅ローンの返済、固定資産税、計画修繕費や住宅に維持管理費の支出が予想外に大きく住宅ローン返済計画が破綻する事故の原因になる。わが国のバブル経済当時に住宅購入した多くの世帯が、バブル経済崩壊後多くの経済破綻に遭遇し、住宅ローン破たんを起こした原因こそ、購入者の支払い能力を逸脱した価格の住宅を購入することで生まれたものである。

 

バブル経済崩壊後に発生したローン破綻の2つの問題

わが国の新築住宅の販売価格は、表向き自由市場の需給関係で決められている市場価格と説明されているが、その実際は、独占販売価格として操作されている。この問題は住宅政策や住宅産業政策の基本が産業の利益本位になっていて、欧米のように住宅購入者本位の住宅政策や住宅産業経営が行われていないためである。このような矛盾是正の具体策は、住宅供給を購入者の購買力の範囲での等価交換販売を行ない、購買力の不足している者に過剰な担保を押さえた不等価交換金融をしないことである。

 

住宅地が住環境を守る住民の自治コミュニティを形成していないため、居住者が助け合って生活環境を守ることが行なわれていない。住宅地に居住する人たちは、それぞれ多様な学識経験と社会的活動とつながりをもち、皆それぞれ違った価値判断の人たちである。同じ住宅地に個性的な人たちがお互いの生き方の違いを尊重し合うとともに、それぞれの持っている知識、能力、経験、ネットワークを活用することで、少ない費用(実費)で地域の人の役に立つことで共存共栄する。そのニューアーバニズムの取り組みは住宅地経営に必要であるが、日本社会では殆どで取り組まれていない。

 

住宅の資産価値が下落しない欧米の建築設計

注文住宅の目的は家族の幸せの実現することで共通している。しかし、現実にはそのように考えて建設した住宅に住み続けられなくなることが住宅政策の失敗により、建築主の主観的な希望に反して起きている。人々の生活のすべてが政治、経済、社会環境に左右された結果、様々な悲劇が住宅をめぐって起きている。住宅を取り囲む住環境変化のすべてを注文住宅設計に織り込むことは不可能である。しかし、欧米の人文科学的な住宅設計方法は、住宅を持つことで個人生活に「万が一」事件が発生した場合にも、住宅はその経済的は生活を支える資産となることが織り込まれている。それは住環境管理によって住宅の資産価値を向上させるシステムが用意されていることである。

 

わが国でも、昔から住宅を建設した人には「立派な身上(資産)を御造りになられました」と羨ましい気持ちを込めて挨拶されたものである。現在の日本以外のどこの国でも、住宅を持つことで個人資産はその購入額プラス物価上昇率分の資産を形成している。少なくとも、その条件が世界で実現している事実は、必然性が実証されたことである。このことはわが国においても、注文住宅の設計条件とすべきである。世界で通用する「住宅を持つことが個人生活の経済的バックボーンになる」ことが、わが国で失われた理由は、政府が住宅産業の利益中心の高度経済成長政策以降である。

 

わが国の建築士は実施設計を作成できず、設計した住宅の工事費見積もりを依頼しても正確な見積もり業務はできない。その理由は、確認申請用の設計図書はあっても、実施設計図書が不正確で工事費見積もれないからである。実際、建築士が作成している設計図書は、建築確認申請書の設計図書で、建築工事を実施する設計図書ではない。建築士には実施設計図書を作成する能力もなければ、工事費見積もりをする能力もないことが住宅産業界の常識で、実施設計が存在しないところに問題がある。

 

わが国の住宅で資産形成ができない理由

現実にハウスメーカーが販売している住宅は、確認申請書上の設計者及び工事監理者として建築士が名義上で存在するが、建築士法通りに建築士が設計及び工事監理業務を行なうことはない。建築士にはその能力がないことをハウスメーカーも知っているから、建築士に設計及び工事監理をさせない。実際は営業マンが企業の設計システムを使って設計をし、工事費を見積もり、施工を行ない、巨額な利益を上げている。しかし、そこで造られた住宅は、不等価交換により高額の利益を生むものであっても、販売価格通りの価値を持たず、中古住宅になると例外なく値崩れを起こす住宅である。

 

建築士が設計・工事監理を行っても、その他の住宅会社の住宅のように建築士がその業務を行なっても、中古住宅になると大きな値崩れを起こす住宅であることに変わりはない。消費者が注文住宅を建築する目的は家族を幸せにするためであったが、それを供給するハウスメーカー以下の住宅産業は、住宅を不等価交換販売することで高利潤を上げることを目的にしてきた。そのため、注文住宅は消費者を裏切り続けてきた。わが国では消費者本位の住宅政策も住宅産業経営も行われていない。

 

住宅の資産価値が欧米のように高まるためには、建築士が欧米の建築家のような学識経験を高め、設計・工事監理で住宅投資に見合う業務が行なわれなければならない。欧米の住宅設計のデザインを真似ることができても、欧米の建築家同様の学識経験を持たず、建築主の負担能力で購入できる住宅を供給できなければ、その住宅は建築士法で定められた要求に応えることはできない。

 

欧米の建築設計に学ぶべき基本:「基本コンセプト」の明確化

欧米の住宅設計で最も重視されていることは、設計に先立って「基本コンセプト」を明確にすることである。その「基本コンセプト」で検討すべき重要なことは、住宅を購入したときに消費者に満足を与えることではない。建築主が住宅に生活し、家族の成長に対応して高い満足が得られるだけではなく、建築主が誰であっても、その住宅を手放さなければならなないときには、いつでも、その住宅を購入した価格以上の価格で売却できる「資産形成が約束できること」である。

 

わが国では、一旦購入した住宅を売却しようとするときには「中古住宅」と呼ばれ、購入時の価格の半額以下である。この現実を十分考慮し住宅計画を立てることが重要である。そのためには、住宅購入者の支払い能力の範囲で購入できることと、将来売り出されたとき、多数の住宅購入希望者に支えられる住宅であることである。その方法として世界中どこの国でも、住宅ローンの返済額は、家計費支出の30%程度以下に収める住宅価格で住宅を建設し、住宅ローンを組む指導がされている。

 

「基本コンセプト」の中には住環境の設計・施工・経営管理をどのように行なうかと同時に、それを確実に行なうためには、経済的な住宅産業環境を整備することが必要である。基本コンセプトに基づき基本設計と実施設計が行なわれるが、その実施設計こそ基本計画を経済的に実現することで基本コンセプトの中で明確にするべきことである。それは実施設計の基本的によって立つべき経済的なコンセプトや住宅価格や住宅費負担の考え方である。日本のように金融機関が住宅の価値を評価せず、住宅会社の言いなりの住宅価格を融資する金融機関は日本以外にはない。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

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