HICPMメールマガジン第785号(2018.07.30.)

みなさんこんにちは

 

建築設計教育として住宅設計をどのように行なうかが、わが国の建築教育ではあいまいにされている。大学の建築学教育において住宅建築設計教育が未整備な状況にある。結論から先に言えば、わが国には存在しないため、欧米の建築設計教育に倣うべきである。基本設計として行うべき設計は、そこで設計された住宅建築設計自体が、その住宅を購入した人にとって、資産形成のできる住宅として設計されていることである。それは別の言葉で言い換えると、設計された住宅が歴史文化の批判に耐える効用を保持する人文科学に基づき「基本設計」された住宅である必要がある。そして、同時に、その予定された住宅需要者の家計支出の範囲で購入できる価格で建設できる建設工学に基づき「実施設計」された住宅であることである。このような基本設計と実施設計教育が大学の建築学の設計として行われなければならない。

 

住宅建築は、わが国政府が住宅政策で言っているように、「木造住宅であれば20年で資産価値を失う使い捨てをする住宅である」という考え方は間違っていて、「一旦、建築された住宅は、基本的に未来永劫まで使い続けるものである」考え方に立って設計し、施工されなければならない。その理由は、住宅建築物は恒久的な資産としての土地を加工して住宅不動産をつくることであり、住宅不動産が恒久的街並みをつくっていく。そのため、先に建てられた住宅不動産は、その後に建設される住宅不動産の設計条件になるとともに、後に建てられた住宅は、先に建てられた住宅との調和を取って街並み景観をつくり、全体として優れた住環境をつくることがなくてはならないからである。

 

計画的に住宅地をつくる場合、最初に基本計画(マスタープラン)と建築設計指針(アーキテクチュラルガイドライン)を作成し、その基本計画に従ってすべての住宅が建築される方法が採られる。都市計画法と建築基準法の関係はそのような欧米の都市計画の考え方で作成されている。しかし、わが国では、戦後米国の都市計画と英国の都市計画と、米国の建築法規をモデルに都市計画法と建築基準法ができたはずであったが、そこで実際に機能した都市計画法と建築基準法は、近代都市計画の理論を学ばず、欧米の都市計画法の法令構成を倣ったが、都市計画理論を受け入れておらず、無秩序な住環境を破壊するものでしかなかった。結果的に指摘されていることは、わが国には、住宅地のベースとなる住環境を考えた容積密度を考えた土地利用計画が存在せず、シングルファミリーハウス(戸建て住居地域)とマルチファミリーハウス(共同住居地域)の区分さえできていないで、地価負担を下げるために戸数を詰め込む計画が行われているためである。

 

住宅地の計画論ができていないで、構造安全を重視した宅地造成が行われ、造成費を回収するためにお宅地販売価格が先行した。都市計画区域の人々の生活空間が疎かにされ、販売価格に合った住宅を建築基準法に適合させるように設計することが住宅設計とされてきた結果である。住宅設計で重視されてきたことは建築基準法に適合することで、その住宅に生活することで享受することになる空環境の歴史文化は検討対象にもされず、居住者が「わが家、わが町、わが街」と帰属意識を持てる人文科学的な住宅設計が全く検討の対象とされてきていないことが問題である。このようにして建てられた住宅は、スクラップ・アンド・ビルドの対象とされ、住宅産業の経営利益に応える住宅とされてきた。

 

 

第21回 わが国の建築設計教育を建築学上の設計に改善する途(MM第785号)

 

わが国の大学の建築学科で設計教育として行なっている「代願設計」(建築基準法に基づき建築主にお代わって確認申請を行う際に申請書に添付する建築基準法に適合する計画であることを説明する設計図書)は、建築士法上の建築士が行うべき設計図書ではない。代願設計は建築主が設計を希望している工事内容を特定することも工事費見積もりを行なえないもので、建築基準法適合説明資料に過ぎない。

 

優先すべき住生活環境設計

わが国の住宅設計が世界の住宅設計と基本的に違う主要な違いは、住宅不動産の設計を住環境設計と考えず、高性能な安全(物づくり)として、単体づくりに偏った以下の勘違いした設計のためである。

  • 住宅を土地と切り離した「建築物単体」が独立した住宅不動産として設計できる。
  • 住宅の建築工事費は、建築の相場価格(坪単価)が決まれば、設計内容は自動的に決まる。
  • 建築設計は安全設計として設計することで、それは建築基準法に適合することが重要である。
  • 建築設計は基本設計(概略設計)とそれを具体化した実施設計(詳細設計)により構成される
  • 建築設計図書の作成は建築主の要求を設計条件としてそれを工事用図面につくることである。

 

上記5項目は、わが国の大学建築学科の建築教育の基本構成要素である。このいずれにも住環境という概念で検討されているものはない。住宅性能表示で取り上げられている性能を満足させれば優れた建築設計であると言わぬばかりの建築教育で、低い購買能力しかない人びとに、その住居費負担の範囲で高い満足のできる建築設計をする概念はそこには含まれていない。限られた費用によって高い満足を提供するために設計の優先順位をどうするかの検討項目は、わが国の設計教育には存在しない。

 

わが国の住宅設計は建築主が求める家族計画を含んで、現在の家族の生活空間として間取りの作成から始まり、その計画が建築基準法に適合する計画として作成される建築教育が行なわれてきた。現在欧米の住宅設計は設計する住宅不動産でいかに豊かな生活を営むことができるかの視点で設計が考えられている。その視点とは「住環境」の視点である。それは「家庭という社会」と「近隣という社会」という広がりの中で人々の行動(活動)が如何に計画されるかの視点である。

 

住宅単体の設計の考え方として家庭環境を考え、「ハブ・アンド・スポーク」という集中と分散の計画が重視されている。家族の中心(ハブ)は「夫婦」で、その空間こそ住宅の中心である。子供は両親に取って宝であるが、子供は扶養期間が終わったら巣立っていく者で家族の中心ではない。また、住生活の中心(ハブ)は、命を繋ぐ「食」である。住生活の中で食生活は家族の「団欒」の空間(リビング・ダイニング)は、相互を理解し合う生活の基本空間である。このように住宅には2つの中心(ハブ)がある。

 

住宅地環境を考えるカギ:開発密度

日本では住宅建設に当たって、宅地開発(開発許可)段階で大きな敷地を、接道条件を満たす宅地に細分化することが行われてきたが、連続する宅地が街並み景観をつくる考えは存在しない。欧米ではまず住環境と、地価負担の高さに耐えられるような住宅地の開発密度を考えてから、開発密度に合った都市開発を考える。わが国の狭小宅地の異常現象は、欧米では住宅価格は高いのに対し、住宅価格が欧米の2倍以上になっているにもかかわらず、わが国の住宅価格の高さが社会的に問題視されていない。

 

その理由は住宅価格がどれだけ高くても全額住宅ローンがつけられるから、住宅は購入できるものという勘違いが形成され、住宅産業の行なっている不正な独占価格販売に対して、国民がそれに気づかないような住宅政策が行われてきたことにある。住宅を購入した人は住宅ローンによって住宅は購入できても、その住宅ローンを適正は家計費負担で支払うことができないことに気付かされなくされている。欧米では住宅購入時に支払い能力を逸脱した住宅は購入できないので、住宅価格に敏感になっている。

 

欧米の民主国家では、都市計画上も個人の居住の自由を保障するため、所得の低い人でも都心居住できるよう中高層住宅地と低層住宅地と土地利用計画として定め、所得の高い低いに関係なく都市に生活できるような都市計画をするようになっている。欧米ではシングル・ファミリー・ハウス・ランドユース(戸建て住宅地区:戸建て、2連戸住宅、連続住宅)とマルチ・ファミリー・ハウス・ランドユース(共同住宅)と分離されていて、地価負担に合った住環境を守るためにその混合は認められない。

 

PUDとサブディビジョンとコモンを利用したコミュニテイの活性化

もう一つの開発密度と住宅地計画手法として欧米で100年以上の実績を持つ開発手法にPUD(プランド・ユニット・ディベロップメント)とサブディビジョン(1敷地、1建築物)とがある。前者は集合住宅地内の一人の経営主体の経営管理かにおける「一団地経営」であるのに対し、後者はマスタープランに従った宅地ごとの所有者の自由な利用計画である。PUDの場合には都市計画として決められた土地利用計画内で、各土地所有者が自由に開発計画を行ってよい計画方法であるのに対し、サブディビジョンは、敷地ごとに都市計画で定められた土地利用計画の範囲で自由な開発を認める方法である。

 

中高層建築を廊下・階段で繋ぎ1棟の建築物としてつくり、又は、カテッジ風に散在等として計画する「一団地」の開発か、若しくは、宅地区分して接道サービスをするかは開発計画者の選択である。その環境管理の違いがPUDとサブディビジョンの違いである。PUDとサブディビジョンとでは、環境水準を同じにした場合、開発密度で大きな差異が生まれる。PUDは「戸建て住居並みの環境をアパート並みの負担で実現できる」技法で、米国で広く採用された。わが国では建築基準法が制定されたときにこの制度が取り入れられ公共住宅地開発で広く利用された。1968年都市計画法の改正後、建築基準法行政が「一団地の住宅計画」を始め、建築基準法第86条と同法施行令第1条第1号の「用途上不可分の一団地」の規定は、法律規定は法律制定当初のままでありながら殆ど利用されなくなった。

 

欧米では住宅地の開発密度を高めるために、PUD開発のためにタウンハウスが採用され、公園緑地を住戸間に計画されるコモングリーン(共有緑地)の緩衝に利用しながら、コミュニティを活性化する空間づくりに成功し、それがその後米国で進められているニューアーバニズム開発の技術と相互に影響をしあって、活性化の高い住宅地形成を実現させている。住宅地に生活する人たちが相互に理解し合うためには土地をすべて個人所有に分割管理させるのではなく、共有利用する土地を住宅地に計画し、そこで居住者相互が接触することが活性化を生み、住民が帰属意識を持つために望まれている。

 

雛壇造成:わが国の代表的な都市開発事業

わが国の都市開発事業では、建築設計は開発許可で細分化された敷地との関係でしか建築設計業務を行っていない。これが日本の建築設計教育である。そのため、最初から近隣と協力して住宅環境を設計する事業は例外的になっている。ほとんどの場合は、住宅はバラバラに計画され、街並みとしての調和した景観デザインをつくることは困難な状況にある。その条件下で「個人は街並みため、街並み景観はその構成員のため」という認識に立って街並みデザインを行なうことを住宅産業界では全く考えていない。住環境は住宅地開発の問題ではなく、個別住宅の相隣関係の設計の課題にさせられている。

 

わが国では、地区計画制度や建築協定制度が、建築基準法上の制度として制度化されているが、設計レベルでのまとめ方の技術がなく、それを住宅地計画として作り上げても環境管理の方法は未整備である。地区計画や建築協定が破壊される危機に遭遇したとき、建築行政はそれを行政上守る責任を果たそうとせず、国土交通省は「これらの規定は建築基準法に定められた民事契約を前提にするもので、建築行政は責任を持てない」と責任逃れを繰り返してきた。街並みを考える住宅設計の必要性が理解できても、個別の住宅設計において、相隣関係にまで設計業務を広げることは困難な状況にある。

 

わが国では基本的に高い地価負担に耐えるため、平場部分を最大にする直擁壁の安全性能重視の結果、鉄筋コンクリート造雛壇造成による宅地造成工事が行なわれてきた。各宅地は直擁壁で分断され、住宅地景観は完全に分断され、視覚的にも相隣関係で対立し、接道依存の機能で、日照日射や隣地による斜線制限を受ける対立関係がつくられてきた。高い擁壁に守られた住宅は、「1国一城の主」のイメージにより、建築主の住宅に対する満足感を与える一方、相隣関係の対立意識を高めている。

 

わが国に存在しない住環境設計

建築主が生活を考えて作成する間取り図は、建築学的な知識なしに生活者として間取りをまとめる作業である。間取り図の作成は、建築学上の設計作業でも建築士法上の設計業務でもない。なぜならば、基本設計として明らかにする前提である設計の「基本コンセプト」と、それに基づく、「ストーリー」も「ヴィジョニング」もなくて作成した間取り図は、基本設計としての設計条件なしでまとめられた間取り図であっても、将来的に居住者が尊重することがなければ、基本設計ではない。

 

また、基本設計は実施設計を作成するための設計の基本的な事項を取りまとめることであると同時に、環境設計を前提にすることでなければならない。わが国の建築設計では、欧米の建築設計のようにその土地と居住者という基本コンセプトを基に、将来を展望することがなく、建築主の支払い能威力を考えず、建築主の要求を満足させるものである。「この住宅が維持できなくなったとき、どのような運命を辿ることになるか」という基本設計で考えるべきこと及び居住者の支払い能力を考えていない住宅であるため、中古住宅は購入額の半額以下でしか売却できず、購入者は貧困にさせられる。

 

「基本コンセプト」を常に意識する

欧米では、「基本コンセプト」で検討されることの中で重要なことは、敷地の担ってきた歴史・文化・生活条件と、建築主の経済的条件をしっかり設計の基本に置かなければならないことである。それは、現時点で計画された購入者が住宅を購入するためだけではなく、将来その住宅を手放さなすとき、値上がり利益が得られ、住宅を購入する人の家計費での購入を検討しなければならない。それはその住宅地経営を具体的に計画することである。住宅購入は高額の住宅ローンを組むわけでるから、住宅の購入者は、住宅ローンの支払い能力はあるかどうかの正しい判断をしなければならない。

 

日本政府は「フローの住宅」政策であるから、住宅会社の言いなりの価格で住宅販売ができるように販売価格全額を融資する金融政策である。建築主は住宅ローンにより建設業者の売却する住宅を購入する能力を持たされる。住宅会社は住宅を売却したら建築主との関係は切れ、後は金融機関がローン返済を生涯に亘って、追いかけてくる仕組みである。その際、融資額以下の価値しかない住宅であるから、金融機関は、融資額を確実に回収する担保として住宅の土地とローン借り受け人の生命保険金を第1優先順位で取得できる権利を融資の担保に取ることになる。

 

一般的に住宅を購入するときは、建築主は安定した職があり、賃金が上昇するときである。しかし、皆が順調に賃金を向上するわけではなく、企業も成長し続けるわけではない。住宅を購入しローンを組んだとき、誰一人としてローン破綻事故を起こすことを考えていない。それにも拘らず、現実に住宅ローン返済不能事故がたくさん発生している。わが国の住宅政策は、住宅購入者の立場に立っておらず、住宅ローン返済不能問題を住宅政策の問題として取り上げていない。わが国の住宅政策は住宅を売却する「フローの住宅」政策で、それ以降を住宅政策として取り組むべき問題と考えていない。

 

日本の住宅政策は1976年住宅建設計画法による住宅政策以来、一貫してGDP最大化の経済政策のための住宅政策を行ない、消費者にその支払い能力を超える住宅ローンを住宅販売価格一杯に貸し付けて販売してきた。住宅ローンが住宅購入価格全額に出されたので、住宅購入者の購買力は販売価格どおり用意される。しかし、その購買力は住宅産業の経営を維持するための購買力で、住宅購入者の家計支出からは明らかに乖離したものであったが、それを気付かせないでローンが実施された。

 

国土交通省は住宅産業の経営を住宅政策の中心に考えるとともに、日本経済のGDP拡大の経済成長中心の住宅政策を行ってきた。しかし、住宅を購入した国民の利益は、住宅政策の対象にしてこなかった。その事実を最もはっきり証明する事実は、住宅ローンの返済が苦しくなって、購入した住宅を手放さざるを得なくなったとき、住宅を住宅市場での売却できる価格は国土交通省自身が明らかにしたとおり、購入したときの住宅価格の半額以下でないと売却できないが、その理由はもともと住宅の価値が低かった住宅を高額販売したためで、「減価償却」は事実を隠蔽するための欺罔の弁明である。

 

「中古住宅」を意識した新築住宅設計

住居費支払いの問題と中古住宅として住宅を売却するときの中古住宅価格は、住宅設計を始めるより遙か以前に検討されるべき基本問題である。住宅設計は「基本コンセプト」を設定して、それに基づき住宅を設計・施工、維持管理をする将来に亘っての「ストーリー」を作成してから、基本設計が始められる。そこまでの検討を基に基本設計が取り組まれ、実施設計はそれに基づいて行なわれる。実施設計は工事内容を特定し、工事費用を見積もる実施設計を作成することである。工事費見積もりをするまではその住宅がいくらでできるか分からない住宅設計は、設計業務の専門家がする仕事ではない。

 

実施設計を作成する基本条件が設定されていない設計は基本設計ではない。また、実施設計を使って住宅を建設できる工事内容が決められていなければ、それは実施設計ではない。現場での工事の納まりが分からなければ工事費見積もりはできない。その意味で「代願設計」(確認申請書の添付する設計図書)は、設計図書ではなく実施設計ではない。基本設計及び実施設計以外は建築士法上の設計図ではない。わが国の建築士が行ってきた設計業務のプロセスは以下のとおりで、この設計は建築士法の立法趣旨で考えられてきた欧米の人文科学としての建築学で教育されてきた設計業務とは異質なものである。建築士法上の設計業務は、現実にはわが国の学校教育で教育されず、社会でも全く行われていない。

 

わが国の建築士による設計業務、

米国の人文科学部建築学科で教育されている建築設計業務とわが国の建築士が行っている設計業務を比較した相違は、以下の通りである。日本の建築士の行っている設計業務は、用語は同じでも、米国の建築設計業務とは相違し、米国の建築家による設計と別のものである。以下9項目はわが国の設計・施工の実情で、すべて工事担当技術者及び技能者任せで、業者差、個人差が大きく、設計施工業務の安定背が担保されず、国家による設計施工業務の監督行政は行われていない。

 

  • 住宅設計には「基本コンセプト」は存在しないで、一挙に間取りの作成から始まる。
  • 「基本コンセプト」がないため、「ストーリー」も「ヴィジョニング」もつくられず、基本設計の条件自体が存在しないで、建築主の設計条件をもとに基本設計が始められる。
  • 基本設計は建築主の要求も満足させる骨格設計で、実施設計はその肉付け設計として行なわれる。基本設計では歴史文化性の確認ができず将来の利用の展望がわからない。実施設計で基本設計具体的対応と確認申請図図書が作成されるが、工事価格は結果として示される。
  • 実施設計は確認申請に添付を義務づけられている建築基準関連法令に適合する設計図書(代願設計)の作成である。性能表示や長期優良住宅など国の補助金受給の関係の「差別化」販売の説明資料で、建築士法及び建設業法で定めている工事内容を決める実施設計ではない。
  • 工事請負額を決定するために、「代願設計」で工事費概算見積もりが行なわれる。代願設計は実施設計ではなく、建設工事詳細は明らかでなく、正確な工事内容を確定できない。工事費見積もりは「材工一式」の概算単価で行なうもので建設業法に定めるものではない。
  • 代願設計は、確認申請書の添付図書として作成されるもので、建築工事詳細を特定する実施設計ではなく、正確な材料も労務の必要数量も単価も分からず、工事費見積もりは正確に行なえない。問題はこの概算見積もりを根拠に、工事請負契約が締結されることである。
  • 代願設計図書で工事費見積もりを行なっても工事内容(材料と労務の数量と単価)が特定できないが、工事費見積により、概算総額が決定される。この概算総額は重層下請け構造を使って、「下請け叩きをすれば工事はできる」とされた横着な総額で、実際の工事費ではない。
  • 「材工一式」単価で計算された工事費概算額を、建設業法第20条で定めた正確な請負工事額とみなし、工事請負契約が締結される。代願設計図書とそれを基にした概算工事請負額が「一対」で工事請負契約書が作成され、建設業法上の正式契約文書と見なされている。
  • 予算が不足し、期待した利益が確保できなくなると、建築主に隠れて、工事請負契約書中で「契約文書」とされた「特記仕様書」に記載された工事監理者による「同等品」の承認で工事業者利益を確保できる「手抜き工事」を正当化し、工事請負額で実施をしている。

 

以上に記載した現行の設計・施工の業務の流れは、スケジュールどおりに業務を流していると説明されているが、実態は実施設計が存在しないと同様な状態で工事が行われている。業務の条件が基本的に決められないため、工事監理者は実施設計図書が存在しないため工事監理業務ができない。建設工事業者は実施設計図書が不十分である上、施工経営管理(CM)技術を学習しておらず、合理的な施工管理業務ができないため工事現場では行き当たりばったりの「低い生産性」工事に振り回されている。実施設計がない上に、建設業経営管理業務に必要な工事費管理、品質管理、工程管理の3つの経営管理技術による施工管理ができず、工事が長引き工事資金が不足する事態が生まれている。

 

「手抜き工事」を正当化する建設行政

施工管理が適正に行われず工事工程が遅れ、建設工事現場で予想した利益確保に不安が生まれると、工事請負契約額と添付した設計図書は変更できないので、手抜き工事が、次のように「合法化」の体裁をとって行なわれる。工事請負契約書の正式書類に、工事監理者による『同等品』承認を定めた建築主に対する背任行為を正当化する「特記仕様書」が加えられている。最終的に「背任行為」の証拠隠滅のために、工事引き渡し時に、「実際の行なった工事図面がないと建築主も困る」からと親切ごかしに言い、工事請負契約書添付設計図書と実施した「手抜き工事図面」と全面的差し替えを行なうものである。

 

この「設計図書の差し替え」は、建設業者の詐欺・横領の証拠隠滅の背任行為である。国土交通省の公共事業で作り上げてきた違法な建設業法行政を基本に、住宅産業に適用され、建設業の不正な業務実態を容認してきた。公共事業では国民の監督がないに等しく、事業主(公共団体)と政治家と建設業者が組んだしまえば、国民を欺罔することは簡単である。重層下請けの段階ごとに行なわれている工事業務は、立法趣旨及び法文で記載されたとおりの業務としては行なわれていない。

建築士法及び建設業法の条文はGHQの指導に基づき米国の建築家法と建設業法を取り入れてつくられ、建築士法では、建築士は建築主の住宅要求にこたえられる学識経験を積んだでないと設計・工事監理業務を行なってはならないと建築士法で決められている。しかし、その立法趣旨は守られず、政治家、官僚、業者が公共事業費を特記仕様書を正式な請負契約書とする違法な方法で分捕り合いをしている。

 

しかし、設計・工事監理業務の誠実な履行義務を、わが国の建築学教育で行なっていない。建築士法上では建築主の求めに的確に対応した設計及び工事監理を行なうことを定めているから、現在わが国で起きているような建築主(住宅購入者)に損害が及ぶような設計・工事監理業務は、「建築士法上の誠実な業務ではなく」、行ってはならない。上記の(1)から(9)までの建築士法違反の不適切、又は、不正な業務の結果、建設請負工事が適正に行われず、建築主に住宅の不等価交換販売が行われ、大きな損失が及んでいる。人文科学としての建築学を学ばず、設計及び工事管理技術の欠如する建築士に営業上の保護特権を与え、建築士の職業倫理を問うことは、建築士制度の欠陥である。

 

「住宅設計業務」と「代願設計業務」との違い

わが国の建設業が欧米同様に合理的に行なわれるようにするためには、建築の設計、施工に関係する関係者が、まず、正確な建設工事のできる設計図書を作成する能力を学校で教育され、設計及び工事監理の実務経験を積み、設計・工事監理、施工経営管理を実施する能力を高めることである。現行の建築士法の施行を誤らせている原因は、設計業務の成果物である設計図書が建築士法及び建設業法で定める実施設計図書ではなく、建築基準法で定める確認申請書に添付する代願設計図書とされているためである。確認申請用の設計図書をつくることは建築学上の設計業務ではない。わが国の大学の建築学教育では確認申請用の設計図書の作成を建築設計教育として誤って行なっている。

 

過去のわが国のように工事の実施は優秀な職人集団に丸投げすれば、建築物は造られてきたため、実施設計図書作成教育を疎かにしてきた。しかし、特に戦後、建築基準法が全国適用になり、確認済み証を受けられなければ工事着工は認められないと法規制されたことから、確認済み証の得られる設計図書の作成が建築設計教育の目的になっていたことに実施設計軽視の原因がある。設計教育の目的が確認申請書の添付図書を作成することであるかのような間違いが建築教育の中にある。わが国の設計業務の重点が、確認済み証の交付を受けることになっていて、建築工事を正確に行なうことが軽視されてきたためである。設計業務は、建築士法第18条に定められている設計業務で、基本設計および実施設計業務は建築工事を実施する業務である。代願設計は建築士法第18条違反である。

「NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

(7月30日、MM第785号)

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