HICPMメールマガジン第750号(2017.12.11)

HICPMメールマガジン第750号(2017.12.10)

みなさんこんにちは。

12月6日HICPMとGKK合同のTNDセミナーを実施しました。HICPM会員のボークス社(社長内海健太郎)が、わが国 で最も優れた郊外住宅地として造られ、現在は日本最良の住宅地と言われている田園調布において、その歴史文化を破壊する自己主張の強いハウスメーカーの高 額な「差別化」住宅が建設されていることに疑問をもっていました.この地に親の代から住んできた内海さんは、そのような歴史文化の環境破壊を食い止め、渋 沢栄一が開発当時に描いていたガーデンシティの夢に向かっていた田園調布を復興再生することを願ってきました。その実現の手法として米国と英国で取り組ま れてきたTND(トラディショナル・ネイバーフッド・ディベロップメント:伝統的近隣住区開発)とアーバン・ヴィレッジ運動を学び、それを実現してきた米 国で展開されてきた「ニューアーバニズム」を田園調布に取り入れる取り組みを行なうことになった。HICPMはボークス社の今回の取り組みに積極的に参加 して、これまでHICPMが全国各地で実践した経験を踏まえて、必要な助言を行ってきたが、それを総合的包括的に関係者に伝えるためのセミナーを実施して きました。

今回実施したセミナーは、ボークスが取り組んできたTNDプロジェクトを、HICPMとしては、これから日本で取り組むべき住宅地開発の旗艦に役割を果た すことのできるプロジェクトと位置付け、そのTND計画を広く考えてもらい、これからのわが国での取り組みの参考にしてもらおうとTNDセミナーを開催し ました。私も2カ月程度の準備期間がありましたので、HICPMが理解しているTNDの歴史とその実践を文書化し、当日資料として配布しましたが、TNDを取り組む人に基礎技術情報を「HICPMビルダーズマガジン特別号」と してまとめ、有償資料(1,000円)として、購入希望者に販売するとともに今後TND学習上必要とする人に頒布できるようにまとめた資料として作成しま した。限られた時間のセミナーでTNDを理解してもらえるようにするために、私のTNDの理解を説明しないといけないと考えて、半世紀掛けて私が理解して きたハワードの「ガーデンシテイ」から「ニューアーバニズム」の理解の背景を年表的にまとめてみました。

その作業で気付かされたことは、TNDとは、「伝統的近隣住区開発」という用語を聞いて分かった気持ちになる人もいますが、実はそこには住宅を住環境と捉 える社会認識があり、 住宅の資産形成を確実にする、ハワードの住宅地経営に見合う住宅地計画論がC・A/ペリーがが、「ガーデンシテイに倣って作った 「フォレスト・ヒルズ・ガーデンズ」に生活し、その計画論を「近隣住区論」としてまとめ、戦前の「ラドバーン開発」や戦後の英国のニュウータウン計画で実 践されたものが現在のTNDに繋がっているのです。私は戦後日本政府が英国の住宅政策に倣って始めた公営住宅政策やニュータウン政策を学んで日本が取り入 れたものと、それが日本で実践されたものの違いを見てきました。それを伝えない限り、英国と米国d開発されたTND技術は日本に正しく伝えられないだろう と思いました。如何に数例を挙げてみました。。

私が、(1)戦後の公営住宅制度を建設省で担当したとき、「住宅」は土地を住宅加工した「住宅不動産」という環境形成するものであるとされたものが、住宅 政策の中で土地と住宅が切り離され、住環境という概念が消えてしまったことも、(2)英国のニュータウン計画と一緒に紹介された「近隣住区論」が、住区の グループ化とサービス道路計画技術に矮小化されたことも、(3)1968年英国の都市農村計画法を日本の都市計画法のモデルにするとき、換骨奪胎の英国で は考えもつかぬ雛壇造成を行なう開発許可制度になって日本に伝えられたこともその例です。私は建設省の官僚として英米の制度を学び、それと違った技術とし て実施されてきた「英米の住宅地開発技術」が乖離していることを、この機会に再確認することになりました。そこで、日本の住宅地開発に取り入れられた「ハ ワードの技術」と言われているものが、いかに歪められているかを、TNDの日本での実践のためには、全面的に検討しなおさなくてはいけないと考え、 「HICPMビルダーズマガジン特別号」を纏めました。

このテキストで勉強をされたい方には、ご購入されお読みいただくことを基本に考えていますが、この特別号をテキストに使って、個別に希望者には説明をして 差し上げようとも考えていますので、ご希望の方はお申し出ください。受講料は、セレブレイションの「アイデアホーム」の見学料に倣って、「入場料がテキス ト代金(¥1、000円)」として実施します。「出張セミナー」をご希望の場合は、それに交通費を加算した額とします。そのセミナーのテーマは、「ハワードのリースホールド経営の「ガーデンシテイ」からディズニーのフリーホールド経営の「セレブレイション」へ」です。

 

 

以下、前回に引き続き「注文住宅」の説明をします。

 

欧米の人文科学による建築「基本設計」

基本コンセプト:土地と居住者

米国では住宅は、「土地を加工して住宅不動産という恒久的な住環境をつくる」と考えていますから、土地は移動することはでき ず、「建築加工する土地」の担ってきたその住環境に影響を与える周辺環境を含んで、過去の歴史文化と、建設後の住宅が現在から未来に向けての住環境の辿る 道の検討から始めます。その住宅加工設計作業は、設計に入る以前の土地と居住者の世代を超えて担ってきた歴史・文化・生活の基本条件整理から始まります。

その作業は、住宅の建てられる土地の担ってきた歴史文化と、そこに生活することが計画されている建築主の歴史文化、社会的属性、経済的条件を整理し、その 検討に基づいて、設計の「基本コンセプト」を作成します。ときにはネイティヴアメリカンや、有史以前の歴史にまで検討することもあります。英国でもコッツ ウォールに関連し、プレートテクトニックスにより、赤道直下にあったサンゴ礁のイングランドが移動し、はちみつ色の石灰岩の土地を形成したことが、その基 本コンセプトの基本要件とされていたことに驚かされました。

土地の性格とそこで生活することになる人々の人文科学的、社会経済的要件を基本要件を基本コン セプトの2大要件とすることは、計画の枠組みを大きく捉えることで、間違いない計画を立案する上で、すごいことだと思います。

「ストーリー」と「ヴィジョニング」

その「基本コンセプト」作成後、設計者は建築主に基本設計の根底に置かれるものが基本コンセプトであることを説明し、「基本コ ンセプト」の合意を形成させ、建築主の要求内容を聞き、基本設計を始めるための「ストーリー」と「ヴィジョニング」を作成します。その段階で基本設計とし て取り組むべき設計条件をまとめることになります。

個人が所有する「注文住宅」といえども、社会的な街並み景観の担い手の一部に組み込まれるもので、建築主も都市計画的合意に服 すべき義務を負っています。居住者はコミュニティの構成員で、地縁共同体の担い手で、社会と切り離して存在するものではありません。一旦造られた住宅不動 産の居住者は住み変わることもあります。しかし、住宅は土地を都市計画に従って建築加工したものですから、一旦造られた住宅は、計画修繕と善良借り義務を 果たすことで、新築した状態の効用を維持し、入居者に持続的な満足を提供するため、都市計画上は基本的に取り壊さないことになっています。居住者が住み替 わり、住宅を売却することは売買当事者にとっても、近隣住民にとっても重大な関心事です。既存の住宅が売り手市場を維持できていれば、その住宅の価値は推 定再建築費で計算され、キャピタルゲインを売り主に与えるだけではなく、買主にもキャピタルゲインが得られる住宅として購入します。

日本の住宅設計

わが国のように「売り抜けるため」に計画し、設計した「差別化」を目的に行なった設計計画は、文字通り、売り抜けが目的である ため、そのようにしてつくられた住宅は、売却したときに目的が終わってしまっているため、そのような住宅の命もその段階で終わっているのです。日本では住 宅は売却して代金を回収する時点で建設目的は完了しており、その住宅は建設し、売却された段階で存在目的は終わっているのですから、それ以降は、時間が経 過すればするほど無用になって行きます。

建築される土地とそこに居住する建築主(一般的に特定された建築主を、一般化した普遍的な需要層とに置き換えて考えることにな ります。)の2つの基本要素が「基本コンセプト」として決定すれば、その両者の担ってきた人文科学的な条件によって、将来に向け、その土地と建築主によっ て社会科学的環境がつくられます。このように新しく作られる住宅不動産は、居住する人の歴史的・文化的生活の営みを通して住環境の発展を担います。「基本 コンセプト」は、入居者とその住宅不動産の担うことになる一般的な社会的性格を建築主に理解させることになります。

欧米の住宅設計では、「基本コンセプト」と「ストーリー」と「ヴィジョニング」がまとまると、そのすべてに関し建築主に説明 し、建築主に納得をしてもらってから「基本設計条件」がまとめられ、その基設計条件が作成され、建築主との間で合意確認されます。基本設計は基本設計条件 を前提に、設計者の創意工夫とその建築思想を具体化する創作作業です。その中で設計者が最も神経を使うことは、その住宅や住宅地を建築主が、「わが家(ア ワーハウス)」、「わが街(アワーストリート)」、「わが町(アワーヴィレッジ)」と文化的帰属性を感じられるデザインとしてつくられるとともに、建築主 の購買力で購入できる価格の住宅です。基本設計では住宅の品質(デザイン、機能、性能)と住宅建設上の資金配分計画(コストアロケーション)の基本を決め ることであるからです。

基本設計が完成すると、設計内容に関し建築主の了解を得てから、実施設計が着手されます。基本設計どおりの施工するためには、 その工事内容である材料と工法が特定されなければなりません。実施設計とは、工事される設計内容として、材料と工法と技能を特定することです。実施設計図 書が正しくできていれば、建築現場では設計図書どおりの工事を施工者が行なえます。その施工は、工事請負契約書で定めた設計図書(実施設計)がなければで きません。住宅建設業者は実施設計を基に、施工経営管理(CM)計画を立案し、資金管理計画、住宅品質管理計画、工事工程管理計画を作成 し、それらの3種類の管理計画を実施します。

このようなCM業務を行なうことで、最も合理的な方法で設計見積もりのされた請負工事費より低い価格で、同じ 設計図書で定められた品質の住宅を建設します。請負契約当事者である建築主と工事施工者の双方から独立した工事監理者が、設計図書と現場工事を照合し、工 事請負契約書どおりの品質の実現を工事監理します。設計者、施工者、工事監理者のすべてが、それぞれの学識経験を発揮し、建築主の利益を最大にする努力を し、高い評判(レピュテイション)を築くことで信用力を高め、それぞれの経営を拡大します。 

 

日本の工学教育による建築設計

わが国の建築設計では、建築主の「現在の夢の実現」の「物づくり」として行なわれる「注文住宅」ですから、建築主の求める家族 全員の要求を書き上げ、それらの「要求の実現」の「物づくり」を実現する検討から始まります。家族の抱える多数の要求を、「注文住宅だから叶える」目先の 「総花式ものづくり」の要求を実現する設計です。設計は目先の要求の実現(具体化)で、家族の歴史文化を築くものではありません。そこでは住宅以外の相隣 関係、街並み景観づくり、将来の環境変化に対応することは、設計上の検討事項とはされません。近隣の土地と孤立した「敷地」上で「一国一城」の建築ですか ら、周辺の土地との関係を考えず、建築主の要求を敷地内に詰め込む「設計」が行われてきました。「太陽光発電」パネルやエアコンの屋外機が街並み景観を壊 し、または、周辺に日影や排気ガスを放出しても、法令に抵触しなければ正当な権利の主張と考える建築士による設計です。

住宅・建築・都市の設計は、都市計画や地区計画という住環境を考えることは行なわれません。「物づくり」の設計教育では、欧米 の基本設計を始めるための人文科学的な準備作業が存在しません。建築主の要求に応える「注文住宅」の設計は、建築主の要求を「設計条件」としてまとめ、設 計条件に応える直接的な設計になります。日本では、設計条件に応えることを確認した段階の概略設計を、「基本設計」と言ってきました。建築主の要求、また は設計条件と言って示されたものを「概略設計」としてまとめるまでの段階の「骨格としての設計」を「基本設計」といい、それ以降の肉付け作業として設計を 「実施設計」と言って継続されます。日本では、「基本設計」と「実施設計」は連続し、「設計詳細の程度の違い」として考えられ、欧米の設計のように違う目 的の設計とされていません。

欧米では「基本設計」と「実施設計」とは、設計の目的が、「建築家による創作的な設計」と「基本設計を基にした実現のための設 計」と違っていますから、別の設計目的を持った設計とされています。しかし、日本では「実施設計の骨格となる設計」を「基本設計」と呼んでいて、設計業務 の目的の定義として基本設計と実施設計の定義は明確でありません。当面する要求の実現が日本の住宅設計であるため、将来の生活の変化や社会経済環境の変化 を考えること、人文科学的な思考とそれに対応した設計業務は設計条件にはありません。その結果、先を展望できていないため、資産価値の下落する住宅が生ま れているのです。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

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