HICPMメールマガジン第778号(2018.07.09)

みなさんこんにちは

日本国中が集中豪雨の被害を受け、多数の死者が発生した。今後復旧作業が国民生活を圧迫することになる。順調な復興を願うだけである。

今回の「注文住宅」は、今回は、1960年代の住宅政策の確立して「フローの住宅」政策を説明することにした。

わが国の住宅政策に関し、政府は一貫して国民の住宅事情の改善のための政策を行なってきたと説明してきましたが、日本では住宅難世帯の解消が戦後の住宅政策の目標とされてきましたが、それは戸数主義の政策目標でしたが、国民にどのような住宅環境を供給するかという政策目標は存在しませんでした。住宅政策は戸数目標を達成することで、全国を一つの市場と考えて、住宅の量的供給が住宅政策目標とされ、その中でプレハブ住宅が取り組まれた。

第12回.欧米に倣ったと欺罔したわが国の住宅政策とプレハブ住宅(MM778号)

 

わが国の住宅政策は戦後、朝鮮戦争の勃発と米軍の兵站基地の経済復興の下で始まり、60年日米安全保障条約改正と関税・為替・貿易の自由化と所得倍増計画と全国総合開発計画による列島改造として実施された。1976年米軍はベトナム戦争での敗北し、軍需産業のための住宅産業が不要となり、住宅産業のための住宅政策、住宅建設計画法が始まった。ドル危機に対応した「プラザ合意(円高ドル安)」を背景に日銀の金融緩和でバブル経済が拡大し、日銀の金融引き締めでバブル経済は崩壊した。バブル経済の崩壊による不良債権の拡大と国家財政の破綻で国債依存となり、小泉・竹中改革による「聖域なき構造改革」で保守政権は延命できたが、わが国の住宅・建築・都市は展望を失い混迷に陥っている。

 

住宅・建築・都市と取り組んだ半世紀

1960年代、新安保体制下のわが国は官僚主導のケインズ経済学により、行・財政政策が進められた。私はわが国の未来の改革に直接的に参加する途として住宅官僚の途を選んだ。自らの理想の実現の途を住宅政策と考え選択したが、わが国の住宅行政は、戦後一貫して国民のためではなく、米軍の軍需産業や住宅産業のためで、国民の福祉は政策目標にされていない。世界恐慌からの復興を成功に導いたケインズ経済学は、戦後の経済復興の基本経済理論とされ、米国から理想主義を掲げるケインズ主義者が戦後復興に関係し、政府、産業界、学界を巻き込んだ。池田内閣が取り纏めた『所得倍増計画』の実践をケインズ経済学のテキストと勉強した。所得倍増計画と切り離してわが国の経済政策は理解できない。

 

欧米では住宅設計、住宅施工、住宅経営管理のすべての段階で、住宅を個人及び社会投資資産と考え、住宅の資産価値が向上する取り組みが行なわれた。欧米の住宅政策では「住宅購入者の立場」で無駄な経費を削減する努力が払われ、住宅は「ストック」としての純資産価値(エクイティ)を高めることを重視した。金融機関は住宅の純資産価値が高くなれば、純資産価値金融(エクイティローン)を行なう。

欧米は等価交換販売と等価交換金融が行われている国である。しかし、わが国は不等価交換販売と不等価交換金融が行われているため、住宅の取引価格が価値と乖離して高騰し、消費者が販売価格相当の価値を持たない住宅を購入させられ、高額な販売価格に対応した税金を支払わされている。

 

地方財政は「フローの住宅」としての住宅の取引価格が増大すれば、不動産取引税、固定資産税の増大を得ているが、住宅の取引価格が不等価交換販売と不等価交換金融により実際の住宅の価値以上の額で取引されているため、住宅所有者は住宅の価値と乖離した住宅取得価格に見合った税金を支払わされる。住宅資産保有者は、住宅の取引価格と連動して税負担をさせられ、住宅産業が利潤を追求するが、消費者は住宅の資産価値に見合わない過大な住宅購入価格と税負担となる。国家も住宅産業界もいずれも「フローの住宅」の資産価値(価格)の増加を求める税収及び産業利益のための住宅政策で利益を得ている。国家も住宅産業も住宅を購入した消費者の住宅不動産の経済的な資産価値が、住宅購入価格の40%程度であることも、住生活環境(ストックの住宅)自体の貧しさは考えていない。

 

利潤追求の仕方が、欧米では同じ資本主義・自由主義を掲げ、利益を確保する方法が平等の原則が尊重され、等価交換販売と等価交換金融(モ-ゲージ)によっている。しかし、わが国では住宅産業の利益を拡大することが住宅政策目標になって、消費者の利益が疎かにされている。日本と欧米と同じような商取引が行われているように見えるが、その基本的な違いは、欧米の自由市場か、わが国の独占市場かによって違っている。資本主義社会の基本は金融であるが、その金融もまた、 根本的に違っている。欧米では金融が等価交換金融(モーゲージ)によって合理的な経済活動を支えている。しかし、わが国には融資対象物の価値を評価して金融をするモーゲージ(等価交換金融)が存在しない。

 

不等価交換販売の原因「差別化」

わが国では住宅の設計・施工、並びに、住宅及び住宅地の経営のすべての段階で、自由主義社会でありながら、「差別化」という小細工で等価交換の原則が崩されている。一方、欧米の不動産取引の場合、不動産と貨幣を等価交換として行なうため、不動産の価値を貨幣で評価する不動産鑑定評価制度がある。その不動産鑑定評価制度まで、わが国では欧米と同じ名称の専門用語を使って、同じ制度のように組み立てているが、社会科学的合理性はなく、間違った評価しかできない。「差別化」と言われる方法には、それを科学的に評価するには方法はない。差別化の本質は憲法第14条違反である。

 

欧米の不動産鑑定評価制度は、原価積算法(コスト・アプローチ)、販売価格比較評価法(セールス・プライス・コンパリソン・アプローチ)、収益資本還元評価法(プロフィット・キャピタライズド・アプローチ)の社会科学的に実証できる3つの方法で行なわれている。そのいずれの方法も科学的な理論と実施方法である。わが国の場合、欧米に模倣した名称上3つの不動産鑑定評価が存在するが、その内容が裏付ける理論とデータベースが存在しないため実用することができない。わが国では、相場とか不動産鑑定士の経験によって、不明なところを補うことにより、不動産鑑定評価が不正に歪められ不動産鑑定評価士の売り手側の経験に依存し根拠を立証できず経済的交換がゆがめられている。

 

住宅産業者が住宅販売上の工事費の見積もり、販売価格の設定、広告・宣伝、営業・販売の手段を選ばず、利益を得るための独占販売で住宅が取引されている。住宅の資産価値概念自体が、住宅産業関係者の業務の対象になっていない。同様に、わが国では設計、施工、住宅金融、不動産取引業者が取引(フロー)の過程で「如何に利益を上げるか」だけを考える。設計・施工に関係する住宅産業は「差別化」による高額な住宅販売を重視し、金融機関は融資額の約3倍の担保を抑え、多額の融資により貸金利益を取っている。地方自治体は不等価交換取引額を基礎の固定資産税を取っている。すべて住宅産業者の利益と連動しているが、政府の不動産政策自体が産業利益の拡大を重視し、等価交換取引を破壊する政策を実施してきた。土地の「資産の評価」がゆがめられ、所有権と借地権の関係が歪められ、相続税の課税が借地権を所有権と同列の権利とする扱いにより、土地所有者に損失を与えている。

 

「フローの住宅」の価値と「ストックの住宅」の価値

わが国の住宅政策と住宅産業政策は、専ら不動産取引に関係する産業政策及び経済政策として住宅問題で不等価交換販売を認めた「フローの住宅」の価値として扱ってきた。一方、等価交換販売を前提にした「ストックの住宅」の価値は、住宅購入者の資産と住生活環境の問題で、国富や固定資産税や金融機関の信用の原点である。わが国の住宅政策や都市政策、金融政策、住宅産業政策からは、消費者視点での政策は完全に脱落している。政府は住宅の取引価格の下落の原因を新築住宅時点での不等価交換と不等価交換金融であることに基本的な原因があるにもかかわらず、それを無視し続けてきた。

 

政府は住宅産業の行政法(建設業法)違反の不正経営責任を問題とせず、逆に、不正取引を正当と追認し、その不正を欺罔して、「減価償却」の問題にすり替えてきた。政府はすべての住宅取引での損失の発生の責任は、「減価償却理論を知らないで住宅を購入した消費者の自己責任の問題」にし、「不正取引の問題」と扱わなかった。現在のわが国では、全ての住宅購入者が住宅を取得することで資産を失い、中産階級であると誇りを持っていた人が住宅の資産価値を下落させ、「下級老人」に突き落されている。

 

住宅の資産価値下落のからくりは、購入した住宅の価値が等価交換販売と信じているから、支払った住宅購入代金で示された価値と勘違いに原点がある。住宅購入の際消費者が支払った購入代金は金融機関が提供したもので、金融機関は住宅ローン額に見合った住宅ローン担保を取っているので損失を被らない。住宅ローンの担保は、融資対象住宅、その敷地及びローン額と同額の団体生命保険の死亡給付金受け取り権限の3種類の担保である。金融機関は融資対象にした住宅の価値は、融資額相当ではないことが分かっているので、融資対象住宅だけでは担保が足りず、住宅購入資金は足りない。

 

「米国のMBS」と「日本のMBS」

2006年住宅建設計画法による住宅政策が破綻し、政府は米国の住宅金融政策に倣い、「住生活基本法」を制定し、民間中心の住宅政策に変更したと説明してきた。しかし、政府は「日本のMBS」を「米国のMBS」による金融2次市場に倣った制度と説明してきたが、日本のMBSは、米国のMBSとは「似て非なるもの」で、「日本のMBS」は額面相当の経済的価値を持たない。「日本のMBS」の見尾デルにされた「米国のMBS」では、FHA(連邦住宅庁)が金融機関の発行した等価交換金融(モーゲージ)を債務保証した金融証券(MBS)をFNMA(ファニーメイ)に買い取らせ、それを証券市場に流通させ、その売却益を再度住宅金融に還流させる金融2次市場を形成させた。

 

一方、「日本のMBS」は政府保証債で、政府信用の後ろ盾で金融市場に流通させているだけである。

日本政府は米国の住宅金融政策に倣うと言いながら、その実体は金融機関の交付した住宅ローン信用債権を住宅金融支援機構が額面価格で買い上げて「日本のMBS」の名称を付け、政府信用で金融証券市場に流通させているもので「米国のMBS]とは異質である。「日本のMBS」はカジノのチップと同様、胴元(日本政府)の信用で金融市場を流通させているだけである。住宅不動産の価値(中古住宅の市場取引価格)が「日本のMBS」の本当の価値(直接工事費)で、額面価格の約半額である。

 

「日本のMBS」は国内の証券市場で政府の信用でその取引を行なえるようにしているが、金融的な合理性はなく、事故が起きたときは政府が保証しなければならない。1,000兆円の国債を抱えた日本政府に「日本のMBS」の事故の際の保険担保能力があるとは考えられない。日本政府が胴元となって信用保証をしている条件の中で、額面価格の取引が保障されているだけで、「日本のMBS」はその額面に相当する価値を持っていない。「日本のMBS]の基になっている住宅ローン債権自体が債権であって物権ではなく、債権額面通りの価値を持っていないもので、それを金融支援機構が額面価格で購入したことで、「日本のMBS]に額面通りの経済価値が具備される理屈はない。

 

わが国の新築住宅価格は独占価格

わが国の「フローの住宅」政策における新築住宅価格は、住宅産業関係者が損失を被ることのない概算見積もり額で工事請け負う契約を締結できるようにした独占価格である。独占価格とは、住宅販売会社が、広告・宣伝・営業・販売をとおして損失を発生しない販売価格を前提にした住宅供給者本位の住宅市場独占支配の政策である。それを可能にしている第1の理由は建築基準法偏重の住宅政策で、代願設計を実施設計と見なす扱いが行われ、代願設計を基に概算額としての工事費見積もりが行われ、その概算見積額を建設業法上の請負契約額とする不正(手品)が正当と認められていることである。

 

わが国の中古住宅は住宅会社が価格操作することができず、市場取引に委ねざるを得なくなり、市場に登場した価格が、需要と供給の関係で決められた住宅の価値を表す市場価格である。中古住宅価格はその住宅の市場価格で、経済学的には、住宅の価値を表す。その中古住宅価格が新築住宅価格の半額程度の価格に短期間で急落することはなく、その住宅の価値は当初から中古住宅価格相当の価値しかなかったものを独占販売価格で欺罔していたものであるから、当然、住宅購入者は損失を被る。

 

一方、欧米の「ストックの住宅」の不動産価値は、新築住宅販売時点からモーゲージで裏書されており、「米国のMBS」取引価格と同じで、購入後、物価上昇率以上に上昇し続けている。日本と欧米の住宅を比較したところ、同じ建材、住宅設備、同じ工法・技術を使いながら、日本では住宅の独占価格が住宅の価値の2倍に設定され、購入した時点で購入額の半額が失われる。米国では経年するに伴い、資産価値が増大している。日本では政府により住宅の価値と価格の関係を破壊させられている事実を理解する必要がある。わが国の住宅同様、「日本のMBS」には額面相当の価値がない。それを額面相当の価値があると欺罔して金融商品として証券市場で取引させているところに問題がある。

 

欧米の建築設計とわが国の建築設計

日本では住宅建設会社は、顧客に等価交換販売の建前で住宅価格の説明をしているが、実際は不等価交換販売を行い、金融機関は不等価交換販売を追認する形で不等価交換金融を行なってきた。そこで金融機関は貸金の回収を担保するため、融資額の約2.5倍もの巨額の担保を押さえてきた。そこで明らかになったことは、住宅の設計及び工事監理を、建築士法上「排他独占業務として行う建築士には、住宅の販売額に見合った価値のある住宅の実施設計作成能力を持たないことにある。

 

建築士が建築主の支払い能力に見合った住宅の実施設計ができないだけではなく、自分の設計した代願設計では正確な見積もりはできず、概算見積もりができても、その見積額通りの設計も施工もできない。その理由は、大学の建築教育で、設計・施工に必要な学識と経験の教育訓練が欠如し、適切なテキストもカリキュラムもなく、大学での建築設計教育が存在しない。大学では建築設計・施工・工事監理教育が行われていない上、特に材料と労務に関する必要数量と単価を設計計画に取り入れできていない

 

建築士は建築主の支払い能力に見合った建築設計の方法を知らず、材工一式の略算単価を延べ面積に乗じた総工事費をその建築士の設計した建設工事費と頭から決めてしまう雑な概略設計しかすることができない。工事費の内訳を、工事に使用する材料と労務を積み上げ、見積もりもすることはできない。わが国の住宅設計は代願設計と概算工事費で工事の枠組みを決定して、実際の工事は下請け業者と駆け引きで決める大雑把なもので、工事に必要な材料と労務を特定できる実施設計は存在しない。

 

標準化、規格化、単純化、共通化が進んでいない日本では、工事単価自体が安定的に定められていないので、仮に実施設計ができていても正確な工事費の見積もりはできない。わが国では正確な実施設計が存在せず、下請け工事業者ごとに工事の仕方が違うため、工事費を安定的に見積もることができない。わが国では実施設計を作成した建築士自身で工事費を見積もれないといわれる異常な設計環境にある。建設現場では工事納まりが分からないため、下請け業者が工事納まりを現場監督に聞いても分からず、結局は現場の下請け業者に丸投げ(現場納まり)して下請け業者任せになっている。

 

将来まで使い続けることのできる欧米の住宅設計

欧米の住宅設計は、建設現場で職人が高い生産性を発揮できるようにするために、標準化、規格化、単純化、共通化を取り入れた設計となっている。言い方を変えると、実施設計は現場で工事をする職人がその持てる技能を発揮しやすい工事内容として設計されていることが、最も高い生産性を挙げることができる条件である。そのため、実施設計においてドラフトマンが行う最も重要な設計は、材料と工法の決定である。職人は基本的に現場を渡り歩く労働者であるから、基本的な技能を身に着けていて対応できるが、それ以外な特殊な工事には時間と費用が掛かる。ドラフトマンは職人に仕事がしやすい実施設計を作成することで、結果的に工事費を安くし、職人に高い賃金が得られるようにする。

 

欧米では、建築設計の暗黙裡の了解事項として、基本設計は基本的に住宅を取得した人がその住宅を手放さざるを得なくなるときまで、家族の構成や生活の変化に柔軟に対応して満足できるように使える設計をする。そのため、居住者は住宅に生活していて常に満足できる空間を享受できるため、その住宅は手放すときも生活満足の高い住宅として更新し続けるため、住宅は推定再建築費で取引の対象になることを前提にしている。それが人文科学に立脚する基本設計と、住宅購入者の支払い能力で購入できる価格で建設できる建築材料と建設技能力を明確にした実施設計である。

 

建築家が設計した基本設計を基に、建築主の家計支出で購入できる住宅を実施設計として設計する建設工事知識をもったドラフトマンは、建築主の支払い能力に見合う住宅として建設できる材料と工法を選択して実施設計を作成する。ドラフトマンはその社会で働く職人の共通する技能と賃金のデータベースをしっかり把握していて、予定された価格で建設できる実施設計を作成する。そのため建設現場の工事納まり等の詳細も全て的確に把握し職人を特定できる。工事費の見積もりも正確に行なうことができる。実施設計があればスパーバイザー(現場監督)は、建設業経営管理(CM:コンストラクションマネジメント)を正確に実施し、高い現場工事生産性を挙げて工事ができる。スーパーバイザーは建設工学と建設業経営管理技術(CM)を学び、現場の建設工事を完全に統率できる。

 

欧米の基本設計、実施設計、工事費見積もりが、設計・施工業務として行なわれていることと比較すれば、わが国で建築士の行なっている設計・施工業務の全ては概略で、欧米の現場監督と比較すれば、でたらめに近い精度の低い業務である。設計施工に関係する業者が必要な利益を確保してそれを繋ぎ合わせて住宅を造るため、仲介手数料や工事粗利は肥大化し、それでできない場合には手抜き工事で予算額に合わせることが行なわれてきた。建築士は設計及び工事監理者であるが、建築士法で定められた設計・工事監理業務能力を持っていない。建築士法があっても建築士法行政が全く機能していない。

 

住宅産業が利益を挙げるための住宅政策と建設行政

日本社会ではベトナム戦争後の住宅建設計画法の時代から、政府が住宅を米軍の軍需産業に代わる経済成長の手段に位置づけ、行政が住宅産業の利益本位で住宅行政が進められてきた。その方法として、政府は米国のOBT(オペレーション・ブレーク・スルー)に倣って、住宅生産を向上政策に置き換える政策を住宅生産工業化政策として実施し、プレハブ住宅政策として実施した。そのため、建設技能者の伝統技能を使う生産方式が崩壊し、住宅生産はプラモデル方式に変質することになった。

 

戦後の大学での建築教育は、建築設計を代願設計の作成にされ、建築材料の厚さや加工の仕方を無視した確認申請用の図面の作成で設計業務は足りるとされた。建築基準法上の確認済み証が得られる説明図で建築設計は十分とされた。代願設計を基に建設業者が構造材料を組み立て、そこに建築設備を設置し、それを覆い隠すように面材を取り付けることで住宅はつくられてきた。当然のように建築主の要求に併せて平面計画が変化すれば、その影響は大きく住宅工事費は拡大する。住宅購入者は、購入価格を下げるために、プレハブ住宅会社のできる既成の住宅設計の中から選択させられることになった。

 

主権者である国民の利益を粗末にするような実際の価値の半分しかない住宅を、建築士は2倍以上の価格で販売する住宅を設計し、その代願設計を基に施工業者が工事費を見積もれば、直接工事費の2倍以上の販売価格になる。しかし、建設業者は金融機関にその見積額通りの住宅ローンが交付させ、消費者にその住宅を買わせてきた。住宅ローンを受けることで消費者の購買力は高くなり、住宅価格がどんなに高くなってもローンが付くから支払えると勘違いさせ、住宅会社が販売したい住宅を購入させた。金融機関は融資額相当の担保を押さえ、住宅の価値と無関係の返済困難な多額の融資を実施してきた。

 

建設3法に違反した商業流通産業:プレハブ住宅政策

政府は住宅産業の利益を拡大するように、わが国の大学建築教育の教育者が住宅産業の要求に学問体系をすり寄らせ、建築基準法に適合すればコンプライアンス(法令順守遵守)の消費者保護を果たしたと勘違いをし、住宅産業の利益を拡大する形で建築教育が行なわれてきた。「代願設計」による建築教育は、プレハブ住宅建設産業の育成を目的に行なわれてきた。基本設計も実施設計も作成できず、工事費見積もりのできない代願設計を工学部建築学科の設計教育で行なってきた。その実体はプレハブ住宅の営業販売で住宅産業を発展させることで、大学の建築教育者がプレハブ住宅の集客や広告宣伝の企画に参加し、大学の建築教育の教鞭をとり、プレハブ住宅産業教育が大学で行われてきた。

 

建築学系の大学卒業生も建築士資格を保有している人たちも、欧米の建築設計教育での基本設計も実施設計も理解できず、それらの設計図書を与えられても工事費見積もりができない。工事現場で下請け業者から工事の納まり方を聞かれても、答えられない集団が建築士である。そこではまともな請負工事を行なうために必要な工事費の見積もりができないため、結果的に工事費は下請け業者の言いなりに肥大化させざるを得なくなってきた。住宅会社はその工事費に対応できるように住宅金融機関と提携し、住宅ローンを拡大することで請負契約を成立させることが行なわれてきた。

 

金融機関は融資額に見合った担保を押さえるが、融資対象となる住宅の経済的な価値は、融資額の半額以下しかない。住宅購入者には住宅購入者の購買力に見合った価値のある住宅であると等価交換販売のように欺罔し、実際の価値の2.5倍もの販売価格に見合う担保を押さえ、住宅ローンを組ませて購入させてきた。しかし、住宅購入者がその住宅を売却しなければならなくなったとき、購入した住宅の価値は購入額の半額以下であることに気付かされる。政府が進めてきたプレハブ住宅産業は、すべて産業の利益拡大のためで、消費者を守る視点での政策は、政府の住宅政策から取り外されてきた。

 

わが国で行なわれてきたプレハブ住宅政策は、戦災の大都市火災の経験に立ち、不燃都市建設を目標にした不燃建築と鉄鋼産業の需要を住宅産業で創造するための産業政策として、政府が鉄鋼産業界と共同して組み立てたものである。国民の生活要求や、伝統的な住宅産業界の材料や職人労働要求から生み出されたものではない。そのため、プレハブ住宅は伝統的な建材を使わず、既存の職人の労働機会を奪い、住宅建設業の経営基盤を破壊してきた。プレハブ住宅は過去のわが国には存在しなかった全く新しい住宅展示場をベースにした商業流通業として、住宅を人海戦術で営業販売する営業販売員で構成され、木造市街地の「建て替えによる地上げ」をハウスメーカーが過当競争する産業として生み出された。

 

プレハブ住宅産業は、住宅を設計施工するこれまでの建設業のように考えられたが、建築士法上の設計及び工事監理業務は行わず、建設業法上の請負工事契約を締結して工事を行う形式をとりながら、工事請け負う契約の基本とすべき実施設計は存在せず、建設業法で定めた請負契約に必要な工事費見積もりを行なわず、等価交換契約を行なわない。営業販売業務が、住宅展示場を拠点にした建築の設計施工技術を有しない営業マンによって進められた。それまでの設計・工事管理業、建設業や不動産取引販売業でもないカタログ販売を通して住宅を販売する全く新しいプレハブ住宅の商業流通産業として誕生した。建設業法、建築士法、宅地建物取引業法上の行法登録をし、既存の不動産業の枠内で業務を御こないように社会を欺罔し、その法適用を受けない不思議な業態が住宅産業政策として活動を始めた。

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