HICPMメールマガジン第818号(2019.01.28)

みなさんこんにちは

 

わが国の住宅建設計画法は、ベトナム戦争で米軍が敗北し、軍需産業労働者向け住宅の供給という日米安全保障条約下での役割分担が消滅し、わが国の住宅政策は国民の住宅需要に直面した政策に転換した。それまでのわが国の住宅政策は、政府施策住宅の全てが、日米安全保障条約を根拠とする米軍の兵站基地として、米軍に軍需物資を供給する産業に働く労働者(広義には国民全体、狭義には軍需産業関係労働者)向け住宅の供給であった。住宅金融公庫による産業労働者向け住宅と日本住宅公団による特定分譲住宅は、狭義の軍需産業の社宅であり、それ以外の政府施策住宅は,広義の米軍兵站基地向け住宅で、政府施策賃貸住宅経営主体として、米軍の兵站活動に関係する労働者の住宅を供給してきた。

 

住宅建設計画法もよる住宅産業のための「フローの住宅」政策

住宅建設計画法による住宅政策は、米軍による軍需物資買い上げの軍需産業は終了したため、国民を住宅の最終購入者とする住宅政策になった。そのため、政府は個人がその購買力で高額な住宅を購入できるように、産業支援策及び地方公共団体に対する交付税支援策を廃止し、消費者の購買力を高める政策を、消費者の購買力を決定する住宅金融を住宅政策実施の中心に据え、下記の3つの方法を執っていた。

  • 住宅購入者にその購入住宅額全額を融資対象にすることで、住宅産業の販売価格に見合った購買能力を高めさせた。住宅購入者の住宅の購買力は融資額、即ち住宅ローン額で決まる。
  • わが国の住宅ローン期間は世界最長の35年の融資期間とし、元利均等償還制度(元金後返済)と合わせて、住宅購入者に「ローン痛」を感じないようにし、供給される住宅価格全額をクレジットローンの融資対象にした。
  • 金融機関は融資リスクを負わないよう、融資額の約3倍の担保を押さえ、政府金融を保護した。融資担保は、融資住宅、その敷地及びローン借り受け人の死亡時給付保険料である。

 

住宅建設計画法時代には所得が所得倍増計画により急激に拡大し、地価の高騰と経済成長でインフレが進み、住宅ローン債務は実質縮小した。その結果、賃貸住宅の家賃負担以下になる場合もあり、持ち家政策は経所得倍増計画による経済成長の順風を受けて発展した。住宅建設計画法による政府施策住宅(公営住宅、公団住宅、公庫住宅)は、土地を購入しなくてよい建て替え住宅と、公団、公社による中高層分譲マンションによる高密度開発により、少ない地価負担で住宅を供給し、国民に分譲住宅を需要対象に取り込ませることに成功した。それを飛躍的に拡大したのは、都市計画法で新たに設定された市街化調整区域と言う農地並みの地価の土地を利用したことであった。分譲住宅は住宅建設費を販売時に回収し、それを住宅金融に置き換えるもので、結果的に、住宅建設資金の回収を住宅金融に繋ぐことで短期に行い、新規建設を継続させる政策を可能にした。住宅建設計画法による住宅産業の財政主導の住宅供給重視政策は、ベトナム戦争終了以前の軍需産業向け住宅需要額を超え、かつ、住宅投資の波及効果は、その投資額の3倍と高く、住宅産業のための需要保障をはるかに上回る規模になった。

 

わが国の経済政策の中心になった住宅政策

政府は公共分譲住宅政策でマンションを軌道に乗せることに成功した。そのことで、民間住宅産業が一気にマンション供給に乗り出すことになった。その結果、住宅政策はわが国の経済政策の牽引車になった。当時、所得倍増計画の計画前達成と住宅ローンがインフレの高進により、住宅購入者の住宅ローン債務が実質的に目減りしたことを反映し、住宅の建て替えと分譲マンション建設は加速された。住宅建設計画法は公共住宅による財政支出と政府金融により、住宅産業に対する財政・金融政策が行なわれた。わが国の非常に貧しい住宅事情に支えられ、無尽蔵に存在する住宅需要を住宅政策の対象に拡大できることになった。政府は住宅需要を政府施策住宅で保障する政策を行なうことで、国民全体を対象に住宅による経済的な支配が出来るようになった。やがて住宅財政・金融政策によるわが国経済の舵取りを住宅政策が行った。

 

住宅投資による経済波及効果が、財政投資の3倍になることが、わが国の経済成長と結び付けて議論され、建設大臣は経済6閣僚(大蔵、通産、農林、建設、自治、経済企画庁)に加えられ、GDPを拡大する財政主導の経済施策の中心的役割を担わされた。しかし、住宅ストックが貧しかったため、住宅需要は無尽蔵に拡大できると考えた住宅需要は、わが国の低生産性と販売経費の高騰が原因で、住宅建設費が高値硬直し、それが期待通り住宅需要を拡大出来なかった。プレハブ住宅政策は、「工業生産により生産性を高める」という政府の説明であったが、プレハブ住宅は工事生産性を高めることはできたが、営業・宣伝、広告・販売経費が肥大化して、販売価格は高値硬直した状態で終始していた。

 

「フローの住宅」政策

住宅政策は、住宅産業の成長発展のための産業の利潤追求を求める「フローの住宅」政策とされ、実際に行なわれた政策は、住宅産業の利益を中心に考える住宅政策で、住宅購入者の利益を中心に考える政策ではなかった。住宅の不等価交換販売が正当な住宅販売とされ、それを支持するための住宅金融における不等価交換金融が、信用金融(クレジットローン)として行われた。国民に販売価格の価値に見合わない住宅を販売することになり、国民に住宅を購入することで資産を失わせる政策を行なうことになった。その政策は、バブル経済崩壊でローン破産や住宅ローン自殺という事故を多数発生したにも拘らず、誤った住宅政策は修正させられることなく、現在の住宅政策にそのまま引き継がれている。

 

日本の住宅政策は、GDPを最大化する経済成長政策や、景気をよくするための経済政策と同義のように考えられ、住宅を取得した国民にとっての「ストックの住宅」政策という国民本位の世界の住宅政策とは異質な、産業・経済本位の「フローの住宅」政策になってしまった。わが国では、GDP最大化を図るスクラップ・アンド・ビルドを促進するため、住宅購入者の集客支援を行なう住宅展示場では、建築後10-15年で住宅の建て替えを繰り返させるる経営を行った。展示場への来場者を誘導する顧客誘致の招待状のポスティング(投函)住宅営業は、建築後10年を経過した住宅をターゲットに実施された。この早期建て替えに向けての集客営業は、政府の経済政策の後押しを得て、住宅展示場主体のハウスメーカーの経営方針となり、企業利益及び従業員の賃金上昇を裏付ける経営政策であった。そのため、住宅展示場自体がプレハブ住宅産業の市場拡大と営業マンの営業拡大とが相乗効果を発揮して、ハウスメーカー相互の営業を加速化させることになった。

この時代に住宅を建設した人はその住宅価格はその年収の5倍を超え8倍になり、12倍を超える異常な住宅販売価格の住宅も多数取引された。その経済的背景としては、賃金が定期昇給として増額される以上に基本給は上げず、企業利益に対応した手当(通勤、残業、家族、子供、遠隔地、職務別特殊)等の各種手当が新増設された。本給と同額以上の手当が支給されることが一般化され、国民の預貯金や投資額も増大し、住宅の購入価格が高騰しても、それが社会問題化することはなかった。建設大臣は住宅政策で財政需要を呼び起こし、経済成長を牽引するケインズ経済に基づく財政政策を執行する大臣になって、経済政策に大きな発言をするようになった。その時代に住宅投資を行なって高い利潤をあげた人も多数いたが、その多くは住宅不動産取引による利益であって、住宅を購入した人たちは、経済成長の波に乗ってうまく売り抜けた人たちは利益を上げたが、そこで資産として高額な住宅を買い求めた人は景気の波の後退で大きな損失を被ることになった。

株式取引、土地取引その他高所得の職業で資産を形成した一部の人を除き、大多数の人は所得倍増計画と一体的に進められたインフレ政策と金融緩和政策を利用し住宅を購入した人々であった。高度経済成長時代には、住宅のスクラップ・アンド・ビルドを繰り返して大きな住宅への買い替えが行なわれた。しかし、金融引き締めによるバブル経済崩壊後、住宅ローン破綻の結果、住宅を売却により個人資産を失い、又は、リストラにより収入の途を断たれ人たちは過労により健康も維持できず、過大な負債やリストラを受け、家計は固定的な赤字経営になった。好況時代には基本給以上の手当が支給されていたが、バブル崩壊後の不況期には諸手当がカットされ、正規社員から非正規社員にされた。基本給自体が減額され住宅ローン返済は破綻した。長寿化に伴い確実に「下級老人」と呼ばれる生活苦に陥らされることになった。住宅ローンの返済が滞り住宅を売却をしなければならなくなり、その売却益は購入時価格の3割にも満たないことを知らされた。

 

住宅政策とは、何だろうか

政府の住宅政策は産業中心の経済政策として住宅産業と住宅金融機関は繫栄しているため、わが国では住宅産業政策が順調に見えるが、わが国は「フローの住宅」政策で住宅産業本位である。わが国以外の国の「ストックの住宅」政策では、住宅に居住している人にとって、その住宅は居住者の生活を豊かにするものではならないと考えられている。「フローの住宅」政策は住宅産業の利益を中心に見ているのに対し、「ストックの住宅」は住宅所有者(消費者)を中心に行っている。つまり、わが国の住宅政策では消費者の住宅資産問題は住宅政策の政策責任ではなくされている。わが国のように、住宅ローンが返済できなくて住宅を売却しようとしたら、住宅を手放してもローン債務だけが残り、住宅をローンと清算すれば負債しか残らない国は、世界中に日本以外に見当たらない。

住宅を所有することで資産を失った人は、住宅ローンの住宅金融公庫の融資条件を読んで納得してローンを組んだ人だから、政府は「消費者の自己責任だ」と言う。住宅金融公庫の住宅ローン制度の説明は、国語の文書として理解できても、その説明で住宅ローン負担がその将来生活との関係で返済可能なものであるかを知ることはできない。それ以前に住宅金融公庫の融資金額が、融資対象となる住宅の価値を担保しているように消費者は信じて住宅ローンを組んでいるが、住宅金融公庫自身が、「融資対象住宅の価値は、融資額ではないこと」を説明していない。政府も金融公庫も住宅の価値は融資額に対して不足していることを承知しているので、住宅に対してしか融資していないのに、その住宅の土地に加えて、その土地と、さらには融資を受ける消費者本人の生命保険として、融資額以上の死亡者保険を担保に押さえている。

その担保に押さえた住宅と土地と生命保険の死亡時の返戻金の合計は、住宅金融公庫の考える融資額に見合う額である理屈であるが、その担保は融資額の約2~3倍である。過大な担保を押さえたうえに、金融機関は融資額と同額に利息を得ることになっている。その事実は、住宅金融公庫からも政府からも住宅ローンを受ける消費者に説明されていない。少なくとも、これまでの住宅政策は、住宅を所有している国民の未来の生活を見通した住宅政策ではなかったことは明確である。住宅を持つことで国民を貧困に追いやる政策をわが国では、「住宅政策」と呼んでいるが、それは投機的な「フローの住宅」政策で、日本以外の欧米先進国の住宅を取得することで資産形成を実現する「ストックの住宅」政策とは「似て非なる政策」である。既に説明してきたとおり、日本の住宅政策は住宅を所有し生活する国民を中心に置いた政策は行われていない。

住宅産業のために需要を保障し、住宅産業が供給した住宅を国民に購入させる住宅政策が「建て替え政策」や「住宅ローン緩和政策」によって国民の購買力を拡大する政策が実施されてきた。政府の住宅政策に政策提言をする立場にある住宅政策審議会は、政府が実施してきた「フローの住宅」政策を科学的に研究分析せず、その言いなりの政策追認を繰り返してきた。政府は「フローの政策」を煽り経済成長に寄与すると説明してきた。経済成長政策の手段として国民に価値の低い住宅を高い価格で購入させた結果、住宅産業と住宅金融機関は法外な利益を上げる一方で、国民の住宅資産は減少し国民の住宅による貧困化が進んでいる。その事実を住宅関係の学者・研究者、メディアは、政府の準備した政策を客観的な立場で批判せず、または、大学や産業界から政府が選考した学識経験者たちは、住宅対策審議会で政府の用意した住宅政策の答申を国民の求める住宅政策として提案してきた。そして大学での住宅・建築・都市関連の教育も政府の住宅政策を追認して行われてきた。

 

欧米の「ストックの住宅」政策

日本のような「フローの住宅政策」が住宅政策として行われている国は、世界中には見られない。「フローの住宅」とは、住宅を流通させることで利益を得ようとする産業政策で、新築住宅や既存住宅の流通業者本位の住宅政策と言い換えることもできる。本来、住宅政策は住宅により、「家族の幸せ」を実現するための政策であるから、住宅政策は本来、「ストックの住宅」政策しかなく、日本の「フローの住宅」政策で国民の幸せを実現出来るものではない。世界の住宅政策は例外なく「ストックの住宅」政策で,「フローの住宅」が行われているわが国だけである。わが国のスクラップ・アンド・ビルドの住宅政策は、GDPを最大にする経済政策として行われる住宅政策である。

 

「建て替え住宅」政策のでは、政府は既存住宅のことを建設廃棄物の同然と言い、プレハブ住宅振興のため既存の木造をスクラックしてきた。その後にプレハブ住宅をビルドしたが、その目的は住宅を建設するために資金を引き出すための経済政策が目的で、住宅購入者の資産形成など考えていない。その政策目的は住宅を取得することを目的にするものでも、住宅所有者の利益を目的にしてはいない。スクラップされるのは、国民(消費者)が、高額な買い物として購入した住宅を建設廃棄物にすることで、その損失は住宅の所有者に及ぶ。その後ビルドする住宅は、「差別化」と言って、住宅産業が不正利益追求のために行ない、独占価格販売で巨額な利益を得るが、住宅購入者はその利益の分配に与れないどころか、購入時に詐欺価格で損失を抱えることになる。

 

わが国の「フローの住宅」政策住宅を建設・流通させることで得られる利益を目的にする政策である。政府は公然と「住宅産業は流通サービス業である」と言い、住宅を流通サービスする業者の利益を中心にする政策を行なっている。住宅産業の目的は「住宅流通利益の拡大である」とも言っている。住宅政策は住宅を取得する人にとっては、「家族の幸せ」をもたらす政策であることは世界共通している。わが国では、表向きでは同じ説明をしているが。目的は住宅産業のためで、消費者本位の住宅政策は「ストックの住宅」政策である説明から始めなければならないところにその異常さがある。これまで「ストックの住宅」と住宅政策の説明をするときに、改めて、住宅政策の問題は「ストックの住宅」と修飾語をつけなければならなくない異常さを考えさせられる。住宅政策の異常さが、「土地」と「株式」でも表れていた。土地や株式を「所有することで、資産利益(キャピタルゲイン)を得る」資産の持ち方が世界の常識がある。しかし、わが国では「土地ブローカー」と「博打打」と同じ「株屋」という「土地や株を売買する商人」が重要視されている。資本主義・自由主義国家の欧米では、私有財産制の基本に立って、株主(資本家)や地主(資本家)と同様に、住宅所有者が資本主義国家の住宅政策上、最も重要視されている。

 

わが国の「フローの住宅」政策

欧米の住宅政策では、住宅不動産価値を高めることを不動産政策の目的とする常識に反し、わが国では住宅所有者の資産価値が高まることを住宅政策の目的に掲げてきたが、その住宅政策の枠組みの中で、土地を流通させ株式を流通させることで、不動産業者が「流通利益(口銭)」入れることを目的に不動産取引と不動産行政が行なわれてきた。不動産業者が取引利益の大きさを拡大するため、消費者を犠牲にした「差別化」の手段を使う取引(売買)が、住宅産業経営による経営利益の拡大が容認されてきた。土地自身の効用を高めるのではなく、架空な計画や予測を「差別化」として持ち出し、事業計画もないのに開発許可手続きをし、取引価格を吊り上げることが原野商売のような取引が行われ、都市計画行政が開発業界の言いなりに許可を与えてきた。

小泉・竹中内閣時代の都市再生事業では、都市計画法に違反する東京都の「開発許可の手引き」を運用し、「土地の切土、盛土として1m未満の開発行為は、開発行為自体が存在しない」からと「開発許可不要」と都市計画法違反の説明をした建築確認が行われた。建築行為としての土地の掘削は、「建築工事であるから開発行為には該当しない」といい、開発許可基準に抵触する開発を進めた事例は無数にあった。開発行政と建築確認は住民のためではなく、開発業者の利益を拡大するために使われてきた。東京都に代表される都市計画法違反の開発行政は、目先の開発業者の要求に応える許可により業者に利益供与をすることが目的になり、都市計画法どおりの開発を許可する考えは全く存在しない。都市計画法違反の開発許可が行われると、それが改められることはなく、建築確認段階で開発許可違法を指摘しても、建築行政では許可済みのこととして取り合わず、申請開発業者の言いなりの確認を行うことで住宅産業者の利益を可能にすることが開発と建築の行政になってきた。

 

わが国の民間の不動産経営と不動産行政は「不動産取引や株式取引という投機的利益(期待利益)追求」を目的とする「差別化」経営による販売利益追求を支援する行政になっている。欧米での不動産の関心は、計画通りの事業経営を行い、不動産経営で挙げた実利益を住宅購入者に分配し、住宅不動産の資産価格(エクイティ)を引き上げる実業の経営である。わが国では市場取引により利益を挙げる営業販売技術と説明されてきた。それは「フローの住宅」では住宅購入者不在の住宅産業本位の住宅政策である。「ストックの住宅」は、住宅購入者利益本位の住宅政策になる。そのため、欧米の住宅政策には「フローの住宅」政策は存在しないし、また、住宅政策上あってはならない政策と考えられている。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

(MM第818号)

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