HICPMメールマガジン第846号(2019.09.11)

みなさんこんにちは

台風第15号の影響で配信が遅れました。

第4回

TNDのヴィジョニング:セレブレイションの「アイディア・ハウス」

「シーサイド」は事業主デービスが、「住宅を取得することで資産形成を実現する」ことを事業の前面に出して事業を展開し、その予想以上に社会的な支持を受けた。アイズナーは、ハワードの提唱したガーデンシティと、DPZによるTNDによる「シーサイド」に高い期待を持ち、それまで英米で取り組まれてきたハワードの思想に立つ住宅地開発を調査した。ハワードがレッチワース・ガーデン・シティ(ロンドン)で実践した事業を詳細に調査し、「ハワードにもできなかった夢の実現に挑戦する」目標を設定した。その夢の実現に向かう興味深い取り組みの一つが、フロリダに根を張った地元生活住宅文化誌、『サザン・リヴィング』の活用であった。『サザン・リヴィング』誌は、米国の東南部諸州に移住した人々が夢中になって愛している「西欧から米国南部のプランテーションに持ち込んだ住文化」は、ヨーロッパからの生活文化を伝承し、南部での歴史と生活文化の豊かさを誇りとしている。その住文化を「セレブレイション」で文芸復興することを、同誌はディズニーから委頼された。

 

『サザン・リビング』誌は、長年月、米国東南部での足を使った取材を基に、この地に住む人たちの「理想の住宅と生活」をTNDのモデルハウス・「アイディア・ハウス」(1部3.5ドル)の冊子にまとめた。そのコンセプトと住宅設計と生活を豊かに演出する家具・住宅設備を含むインテリアをまとめた。そして、セレブレイションに居住を希望する人たちのために、コンセプトハウス、「アイディア・ハウス」をセレブレイション内に建設し、改定印刷の冊子代金を入場料をとした。その入場料収入総額は3年間で「アイディア・ハウス」建設費の5倍に上った。セレブレイションに居住する人たちに米国の東南部で家族が顧問を囲んで、一緒に「豊かさを享受する生活」の参考を提示した。

「セレブレイション」で建設した伝統文化を取り入れた「アイディア・ハウス」は、側道のある自動車通に面して立派な玄関が設けられている。家族は、美しい中庭への引っ込み道路から気楽に出入りする。バックアレーから車庫へのアプローチがあり、車庫の2階にはスタジオ(1LDK)があり、そこには巣立ちを迎えた子供か、老親が生活する。セレブレイションの日常生活が個人生活を重視している生活を訴えた。TNDは「物づくりではなく、家族を思いやることで豊かになるか」の提案であった。

 

「一人はみんなのため、皆は一人のため」

セレブレイションでは居住者の全てが、徒歩で近隣の住宅を訪問する住宅地として、全ての住宅を歩道(ペデストリアン・ウエイ)のネットワークで結ばれている。歩道を利用し、安全、かつ、便利に計画されている。それを実現する方法として、セレブレイションではそれぞれの住宅所有者が歩道部分の土地を、近隣の誰でもが利用できるように提供し、個人の所有権を認めた歩道を造り善良管理を行ない、入り会地通行権を認め合う土地管理下に置いた。敷地の所有権は個人敷地(ロット)であるが、この住宅地に来た人は、誰でもが自由に私道を通行できる。大きな敷地所有者は長い私道を提供し、小さな敷地の人は敷地に面する私道を管理する。道路管理者でもある住宅所有者が私道の善良管理義務を負う。歩行者が歩道管理の欠陥で事故が発生しないよう管理責任が計画されている。

住宅敷地の管理責任は住宅所有者である。住宅所有者には善良管理義務を果たすルールに住民が合意して作られ、そのルールに合意して住宅を所有しているから、合意したルールは自分の生活の一部と考えている。近隣住区(コミュニティ)は住宅所有者相互の違いを尊重し合う「個人主義」(1人は皆のため、皆は一人のため)の生き方が基盤になっている。TNDの思想に立つセレブレイションは、全ての人が尊重され、中でも、子供や高齢者が大切にされる「人間の絆」を育てる住宅である。

TNDでは、個性ある生活の違いはお互いに尊重されるとともに、住民合意とルールの施行と住民の自治組織(HOA)が確実に行ない、歩行者優先の交通原則、ペットや植栽の管理や、コモンガーデン(共有庭)の利用に関し、お互いがルールを守ることで住宅地の秩序が保たれている。「アイディア・ハウス」は邸宅の例であるが、地価の高い土地で複数世帯が豊かな生活をするユニット開発では、立派な庭園(コモンガーデン)を囲む住環境を共有する個人住宅では得られない環境を確保している。

TNDの街並みでは、前面に私道を持つ住宅の間口の4分の3以上をリビングポーチとしてつくることになっている。その理由は、居住者は住宅の前面に街並みを観られるリビングポーチで寛ぎ、その前を往来する居住者と挨拶を交わし、同じ街並みに生活する人たちの様子を知り、お互いにその個性的な生き方を尊重し合う。居住者相互がお互いを思いやり健康であることを知り、近隣の人たちが地域の安全に関心を持ち、ウォッチャー(監視人)であることがセキュリティを高めることになる。

 

住民の全てがウォッチャー(監視人)

住宅地の安全を守るために最も確実な方法は、居住者全員がウオッチャー(監視人)になることである。自動車の駐停車や走行の際に、居住者が非日常的な騒音を耳にした場合、居住者は窓のブラインドを少し開けて異常な事態が起っていないかを覗き見する。その行為が、「ウォッチャーの監視活動」である。住民全員が監視活動をすることが街の安全を守る方法である。犯罪者は不審な行為を人に見られることを最も恐れている。セレブレイション計画の基本はすべての住宅は、前面にリビングポーチを持ち、そこで住民が生活としてウオッチ(監視)活動を行なっている。美しい街並み景観を眺めることもウォッチ(監視)になっている。そこでの人々の動きや街並み景観は、居住者が見ていても楽しいし、街歩きをする近隣居住者の動静を知ることも安心した生活の必要情報である。歩道からリビングポーチ眺め、居住者と挨拶をすることでお互いの健康状況を知り、日常の情報を交換する。個人と挨拶を交わすことは個人主義を基本とする民主的な近隣生活であり、地縁共同体の円滑は経営の基礎である。

TNDの原点は、民主主義の基本となっている個人主義を尊重する社会の構築のためで、個人主義が基本とされなければならない考え方に立っている。歩道を通る歩行者と住宅所有者が同じ目線で挨拶を交わしお互いに関心を持ち、馴染みのない人の侵入に住民が警戒することは団結力のある安全な住宅地形成の基本である。誰でも自分宛の郵便は早く見たい欲望をもっている。TNDでは人びと気持ちを生かし、集合郵便受箱(メールボックス)を人の集まる広場に設置し、住民同士の出会いの機会を殖やしている。出会いの際お互いの安否を確かめるが、逢いたくなければ、時間をずらせばよい。

一方、居住者は、近隣からもその出入りを監視されたくないため、TNDでは全ての住宅にはバックアレーから自家用車を出入りさせている。自家用車の停車・駐車状況は、居住者の在宅情報を表示しているともいわれる。不在情報は空き巣に留守情報を提供する危険な行為である。わが国では、高価な自家用車を社会に見せびらかす虚栄心を豊かさの表現と勘違いし、住宅の前面に駐車が行なわれている。その住宅前面駐車が、油断で家族や近隣住民を自動車事故に巻き込む原因になってきた。

 

話題の「シーサイド」を乗り越えた「セレブレイション」

HICPMはセレブレイション・プロジェクトを計画当初から、建設段階だけではなく完成後も、経営管理の状況を繰り返し訪問・調査してきた。セレブレイション・プロジェクトが目指したものをわが国に技術移転するために、米国の住宅地経営から学ぶべきものを住宅地経営の視点から多角的に取り組んだ。住宅地開発の思想、計画、理論、技術は、訪問の都度、変化し・成長している姿を見ることになった。セレブレイション(事業主・ディズニー)プロジェクトに対しHICPMは現地に出掛け、事業主の立場と具体的な計画を照合させ、現場で働く多数の技術者(設計者、施工者、営業担当者)の立場からの説明を受け、プロジェクトが伝承しているTNDの歴史文化を学ぶことに努めた。

その中でわが国と相違する視点は、消費者本位の視点が一貫していることであった。米国では、開発業者が手にする「開発利益」と、形成された住環境が提供する「消費者利益」の交換が均衡(等価交換)する取引を、事業主側が常に消費者に納得させようとしている。TNDとして開発された住環境が、購入後、消費者が所期の効用を獲得し続けるためには、生活者中心の計画どおりの住宅地経営管理が不可欠である。住宅購入者は全員強制加入する協会(HOA)が、住環境ルールにより強制的な経営管理で住環境を守る自治で、住民は所期の効用を手に入れている。現在、消費者は高度なIT技術を駆使した設備や機器を駆使して事業を行なっていると同様に、住宅地経営管理には高い専門技術が不可欠となる。一般消費者は優れた住宅地経営を通してTNDで開発された品質の住宅を手にすることになる。

HICPMは人文科学的な調査研究を基にして、そこで住宅取得者の資産形成を実現するために取り組まれている事業が、人文科学的必然性を持つ計画として設計計画され、住民の理解と合意形成によりHOAが住民主体で自治環境を育て上げている。それが欧米の「ストックの住宅政策」で計画通りの住宅都市経営の結果、住宅を購入した人は優れた住宅地環境の中で所有した住宅資産価値を、物価上昇以上に確実に上げることができている。セレブレイションは、そこで実現された豊かな環境と豊かな個人資産が消費者に適正な経営管理されることで、住宅購入者に高い満足を与えている。

 

「都市空間を市民のものにする」オースマンの思想の継承

1980年、「シーサイド」(フロリダ)で始まったTNDに直接的な影響を受けて始まった「セレブレイション」は、その背景に、欧米の住宅・建築・都市を人文科学思想がある。住宅環境形成に関する共通の人文科学的理解の上に、英国でエベネザー・ハワードの開発した『レッチワース・ガーデン・シティ』(ロンドン)に始まる資産形成実現の取り組みが凝縮されている。最初にHICPMが「シーサイド」を訪問したとき、事業主デービスが完成した事業を案内し説明してくれた。「シーサイド」のメインストリートを、ナポレオン3世の下でジョルジュ・オースマンが計画した「パリの大改造計画」の道路思想を基本的に取り入れたものと説明した。オースマンは、「市民が都市空間を楽しむ空間に改造実施した」都市思想を、デービスは「シーサイド」の都市の幹線道路計画に取り入れた。都市は市民が生活を豊かに楽しめるよう計画したことを受け入れ、「シサード」の幹線道路の計画に取り入れていると説明した。リゾート都市を計画しようとしたデービスにとって、パリのシャンゼリゼ通りの街並みは、「シーサイド」の街並みにも共通するもので、市民本位のもでなければならないと考えていた。

その10年後、シーサイドの道路と都市計画のデザインのコンセプトを再確認するためシーサイドを訪ねた。そのとき、デービスは10年前の話をそのまま続け、オースマンの思想をシーサイドは生かし、「市民が都市生活を楽しめる公園環境として道路計画を取り入れている」と住む人にも理解することを促していた。都市の景観計画はそこでの居住者がこの地に帰属意識を持てるものである。

 

当面する事業の方向性の意思表示「EPCOTセンター」

ディズニーはカリフォルニアで企業の基盤を作った会社であったが、どのような事業を行なうためにも土地は不可欠である。ディズニ―の開発は都市開発計画理論の基本に立ち返って、開発の「2大コンセプト」一つ「土地」の確定することからプロジェクトは始まった。ディズニー社が数年かけてフロリダで広大な土地を取得したとき、米国社会の経済環境も世界の経済環境は大きく変化していた。

ディズニーが未来に向けて取り組もうと考えていた経済成長ゼロ時代の「ゼロサム社会」や、エネルギー危機を予言し、第一次石油危機として的中したことで世間の注目を浴びたエルンスト・フリードリッヒ・シユウマッハが「スモール・イズ・ビューティフル」で提唱した危機的社会は消滅していた。しかし、土地は取得したが、土地を購入下締めたときと、土地を購入したときの状況は全く違っていた。社会を根底から変革するためにディズニー社が買収した広大な土地で「何を実施すべきか」の事業の展望が見えず、土地に根を張った恒久的な計画は立てられなかった。「子どもたちに未来への夢を与える」それまでの取り組みは可能であった。しかし、社会経済環境の変化により、新しい事業は構想できなかった。ともかく「未来に向けての実験」に取り組むことにして、未来を展望したテーマパークの開発によって、新しい時代に貢献できる事業を模索することになった。エプコットセンター(EPCOT:Experimental Prototype Community of Tomorrow:未来社会に向けての実験的コミュニティ)こそ、当時のディズニーの抽象的な考え方を象徴したプロジェクトと言われている。しかし、誰もテーマパークとして開発したEPCOTによってディズニーが満足したとは思わなかった。

 

マイケル・アイズナーによる初代ディズニーの「原点回帰」の政策

ウォルト・ディズニーは、試行錯誤的に買収した土地で取り組んだ「マジック・キングダム」、「エプコット」、「ハリウッド・スタジオ」、「ディズニー・アニマル・キングダム」の4つのテーマパーク開発は、いずれも、それまでのアメリカ社会には発想でも事業規模でも存在しないテーマパークで、人々を驚かせ、米国社会の多様なニーズにマッチし大成功した。そこでテーマパークのために存分の土地を利用したが、その利用した土地は、開発後10年経過しても買収した土地の約半分で、まだ巨大な土地が残っていた。そこにはリゾート・ヴィレッジ、ホテル、スポーツ(水上、陸上)、ゴルフ。テニス等)・リクリエーション・アトラクション、ミュージカル、アート・マジック等、考えられるあらゆる消費者中心の企画が実現され、世界中の人々の要求に応えられる計画が相乗効果を発揮していた。

マイケル・アイズナーはユダヤ人で、高い知恵と賢さを具備した経営者といわれるが、そのテーマパーク事業の成功を見ながら、土地のほぼ半分が過去の人々の追い求めていた問題をテーマパークとして開発され、社会的ニーズに応え、大きな利益をもたらした事実を評価した。しかし、その上で、「ウォルト・ディズニーが、土地取得を考えたとき夢見た事業は、そこで実施したテーマパークではなかったのではないか」とアイズナーは考えた。アイズナーはもう一度、ウォルト・ディズニーの土地取得に取り組んだときの初心に立ち返って、「米国社会が閉塞状態に陥っていた時代に、ディズニーが取り組もうとした事業は何か」を考え直すことを社員に提起した。アイズナーの問題提起に応えて社員が当時の米国を調査し、TNDの思想に立った住宅地開発を「シーサイドの先にある取り組み」と提案した。

(NPO法人住宅生産性研究会理事長戸谷英世)

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