HICPMメールマガジン第775号(2018.06.21)

みなさんこんにちは。

FIFAロシア大会で日本がコロンビアに勝ち、日本中大喜びです。

「注文住宅」の第8回を掲載することにします。

第8回 住宅・建築・都市設計教育(MM775号)

 

住宅・建築・都市を考えるとき、その定義が明確に定められていなければ、住宅・建築・都市を共通の問題としてその実現する目的も、実現方法も、その実現の障害を検討し、問題を深めることもできない。そのような基本的問題であるにもかかわらず、わが国の建築学界では、建築教育の対象となるべき「住宅・建築・都市の用語の定義」もできていなければ、住宅・建築・都市教育内容も定められていない。

 

社会資産として住宅をつくる人文科学教育か、個人の要求実現の工学教育か

住宅・建築・都市問題と行政、都市開発事業、住宅産業、それらの調査研究・教育分野にまたがる私の半世紀の経験を振り返ると、日本政府は欧米とわが国との矛盾した関係を研究対象にせず、意図的に「同じ」と見してきた。わが国で供給された住宅(建築物)は、住宅所有者に巨額債務を抱えさせられるものとなっている。一方、欧米では保有する住宅は経年するに伴い純資産を増加させる住宅不動産ある。消費者にとって同じ住宅が、わが国では消費者の生活を破壊する債務となり、米国では消費者の生活を豊かにする資産となる。政府はこれまで欧米も日本も同じ住宅政策であると説明してきた。

 

住宅であるから、「わが国と欧米の個人住宅は同質」と勘違いされてきた。欧米では国民の資産形成に寄与してきた住宅が、わが国では国民を貧困にする異質のものになっている。それにも拘らず、その違いがわが国では無視され、住宅が国民の生活破壊をもたらしている状態が放置され、何一つ有効な改善策が取られていない。その理由は、政府が国民向けには住宅政策を「国民の福利の増進」と説明してきたが、実際には、国民の富を奪い、産業中心の住宅政策を実施してきた。GDPの拡大は国家の経済活動を拡大し、国民の資産を産業の利益のためにその富を消費者から奪いながら、その仕組みを国民には隠蔽してきた。政府はその国民を欺瞞する政策の真実を、国民には隠蔽し続けてきた。

 

国民が住宅を所有することで資産を失っている事実は重大である。国民の支払い能力を逸脱した高額な住宅を、巨額な担保を押さえて住宅ローンを組ませ購入させてきた。年月が経過し住宅購入者が高齢し、所得が減少し住宅ローン返済不能問題が発生している。住宅ローン返済額は均等返済で、所得が減少すると弁済できない。その理由は、住宅の販売価格が住宅の価値の約2.5倍で購入させられ、中古住宅価格は半額以下であるためである。購入後25年経過しても住宅ローン残高は70%あり、清算すれば住宅を失ってもローン債務として購買時価格の20%が残る。金融機関は融資対象住宅の価値が融資額に半額にも満たないことを知っていてローン設定時に販売額以上の担保を押さえている。

 

高額な住宅ローン返済不能問題は、住宅会社の不等価交換販売と住宅金融機関の不等価交換金融によって発生し、高齢世帯の政治・経済・社会問題、中でも、貧困問題として国民生活を蝕む問題となる。それは国家の住宅の歴史・文化・生活とも関係し、それらの影響がわが国の住宅行政、住宅産業政策に基本的な影響を与え、住宅・建築・都市関係者の業務内容に基本的な影響を与えることになる。日本の建築教育の欧米の建築教育との基本的な違いは、住宅設計教育で工事内容を確定した実施設計と、工事費見積もりを行なう建設資金との関係で建築設計教育が行なわれていない。

 

  • 欧米の建築基本設計(マスタープラン)と建築家(アーキテクト)

欧米の建築設計は人文科学である。建築設計を担う建築家(アーキテクト)は、人文科学部(ヒューマニティ・デパートメント)の中の建築学科〈スクール・オブ・アーキテクチュアー〉で建築設計教育を履修し、実務経験を積み、大学卒業後アメリカ建築家協会(AIA:アメリカン・インスティチュート・オブ・アーキテクチュアー)が実施する建築家試験に合格し、建築設計及び工事監理に関する実務経験後、建築家法に基づき格付けされている建築家(アーキテクト)と格付けされる。建築設計、中でも、「基本設計」(マスタープラン)は、資産価値が向上し続ける設計を人文科学的な学識経験に立って将来を展望して行なうことを制度化し、建築設計業務は建築家にしか行なうことはできない。

 

建築工事のための実施設計は、建築主の購買能力で購入できる実施設計であるため、建築主は建築家の設計した「基本設計」を基に、目標とする建設工事費で建設できる材料と工法を特定する実施設計(インプレメンテーション・デザイン)が、ドラフトマンと呼ばれる建設技術者(シビルエンジニア)によって作成される。建築家が自ら「実施設計」を作成ることもあるが、実務としては建設工事に専門的な知識経験を持つ有能なドラフトマンの協力を受けることが一般的である。

 

  • 日本の建築設計と建築士:

日本の建築設計は、建築確認申請に添付する建築基準法に適合することを説明する説明図書(代願設計)であって、建築士法上の設計図書ではない。「代願設計」図書は、建築士法上の設計図書(基本設計及び実施設計)ではなく、代理出願申請のためのその他の業務資料である。しかし、わが国では、大学の建築学科の建築教育で、代願設計を建築設計教育として行い、欧米の建築教育で行っている基本設計及び実施設計は行なっていない。代願設計は建築基準法例に適合していることを説明する資料であって、建築工事を具体的に説明する使用する材料や工法を具体的に説明する設計図書ではない。

 

わが国では建築工事請負額の見積もりは、一般的に建設業者が代願設計を使い、下請け業者に損をしないで工事ができる工事費見積もりの概算額を基に粗利を加算させ、その概算額の合計額で正式の工事請負契約額の契約締結されてきた。正確な実施設計が作成されず、代願設計で工事請負契約額が決定されるため、その矛盾が契約当事者間の矛盾となって発生する。その矛盾を行政上割り切る方便として「特記仕様書」が作られ、工事監理者の裁定で曖昧な設計内容を確定する妥協策が採られてきた。

 

建築士は米国の建築家法に倣って制定された建築士法上の設計・工事監理者資格で、その学識経験が規定されている。建築士は米国の建築家が履修する人文科学としての建築学を全く履修していないだけでなく、工事監理の実務経験を持っていない。建築士は米国の建設技術者(シビルエンジニア)の教育を受けておらず、米国のドラフトマンの「実施設計」能力・経験を持っていない。そのため工事費見積もりもできず、工事納まり詳細を決定することもできない。その結果、工事納まりは、設計者や工事監理者は実務対応ができず、下請け業者に「現場納まり」を任せて実施されている。

 

日本社会に存在しない資産形成を実現する設計技術

建築設計という一見技術上の問題が、わが国では国民の資産形成を破壊する問題の原因になっている。欧米の人文科学体系の中で作成された建築設計図書の場合には、時代とともに成長する「資産となる住宅不動産」形成の道筋が建築設計技術で示されている。欧米での住宅取得は、「物としての住宅」ではなく、歴史文化を反映した生活者の生活要求や、社会的なニーズ及び人びとの生活要求に応えて成長し続ける住宅環境の取得である。「売り手市場」を維持する住環境は、個人の住宅資産形成になる。

 

しかし、わが国では人文科学を建築設計技術から放棄し、建築主の要求の実現として建設工学としての建築設計が行なわれると、建築設計は当面の利益を最大化する使い捨ての住宅設計に向かい、スクラップ・アンド・ビルドの「フローの住宅」の設計が行なわれる。住宅設計は住宅産業の利益追求になっても、住宅購入者の将来を展望した設計になっていない。結果的に建設工事は、当面の建設工事による利益を目的とする仕事になってはいるが、住宅購入者の未来に向けての資産形成にはなっていない。

 

わが国の住宅と欧米の住宅の違いは、人文科学的な建築設計によるか、社会科学的な住宅産業の利潤追求本位の設計によるかの違いであり、それが住宅による資産形成上の基本的な問題になっている。この日米の違いを、わが国と欧米の住宅産業を比較研究することを通して発見した。日本と欧米の住宅の違いは、住宅産業の利益本位の「フローの住宅」なのか、住宅を購入した消費者の資産形成に導く住宅の資産形成のできる「ストックの住宅」建築設計の違いである。

 

住宅設計力の違いが住宅の資産価値の違い

住宅を購入したわが国の消費者は、住宅を購入することで購入額の過半の額の資産を失っている。その状況は、欧米のように住宅を購入した消費者が住宅を購入することで 物価上昇率以上の資産を形成することと際立った違いになっている。わが国の過去半世紀の住宅政策で、国民の不安を拡大してきた理由は、現在の住宅政策では国民に支払い能力を逸脱した高額な住宅を、販売価格に見合った巨額な担保を押さえられ購入させられた。住宅の価値は販売価格の半額もなく、売却を余儀なくされたときに、中古住宅として購入時の住宅の実際の価値を知らされ、国民が確実に貧困にさせられている。

 

その背景には、建築士の能力が住宅設計を実施する設計・工事監理技術力と施工管理技術力を持たないことにある。その弱い設計工事監理技術力を基に、建設工事業者が建設業法に違反した工事費見積もりと工事請負契約を不等価交換販売が行われている。それを等価交換販売と勘違いさせるように、住宅金融機関と建設工事業者が共謀し、販売価格以上の融資担保を押さえ販売額通りの住宅ローンを不等価交換金融を提供し、住宅建設業者の希望通りの販売価格で住宅を購入できるようにし、住宅購入者には融資額相当の価値のある住宅のように等価交換販売を欺罔する販売を行ってきた。

 

欧米では金融機関が行う住宅ローンは「モーゲージ」と呼ばれる融資対象住宅を担保に行われる等価交換金融である。その融資額は住宅の直接工事費であるはめ、販売額の80%が上限で、頭金の20%を融資保険で融資を受けても直接工事費の97%が融資限度である。米国のモーゲージを日本の現在の住宅ローンに代えて実施した場合、ハウスメーカーの住宅の場合、その直接工事費は販売額の40%程度であるので、プレハブ住宅へのモゲージは40%が限度である。そこで、60%の自己資金を用意しないと住宅は購入できない。わが国で100%のローンが組める理由は、そのローン額相当の担保(住宅の土地及び借り受け人の死亡時生命保険基金の受け取り権限)を金融機関が抑えているからである。

 

国民の生活を守る住宅か、生活基盤を破壊する住宅か

わが国では日本国憲法が、国民の基本的人権と健康で文化的な生活環境を保障しているが、それは憲法で定めた平等の原則が守られることを前提にしている。住宅産業で容認している不等価交換販売と不等価交換金融は平等権の違反であり、それにより国民の基本的人権も健康で文化的な生活権も侵害されている。現実社会で国民の貧富の差を最も顕著に表しているのが住宅である。しかも、日本では世界の住宅政策のように住宅を取得して国民は豊かになっておらず、住宅を取得することで国民は資産を失い、貧困にさせられている。日本以外の世界では、住宅は国民の生活が守る基盤と考えられ、住宅はそれを取得する個人投資とされ、個人資産が増殖することで、人びとの生活を守っている。

 

日本と欧米の住宅政策の違いは、欧米では、住宅は社会的に守られるべき資産と考えているのに対し、わが国では、住宅を専ら「個人的責任」とする住宅政策になっている。その違いとは、わが国では住宅不動産は敷地ごとに相互に切り離され、敷地に定められた土地利用計画の範囲では個人の完全な自由が保障される考え方によって、住宅不動産が無政府状態につくられているためである。一方、欧米では、都市の社会的共有空間の中に、都市計画という社会的合意を背景に決められた土地利用計画に縛られて各住宅不動産の存在を認められている。すべての住宅は社会的性格を持っていて相互に依存し合っている考え方である。そこには敷地を超えた住環境の社会的性格が個人の利益に優先している。

 

住宅政策の目的が経済活動の対象にする「フローの住宅」産業のためか、それとも都市に居住する人々の豊かな生活環境を守る「ストックの住宅」とするかの政策目標の違いとも言い換えられる。日本で住宅政策は、経済政策・産業政策の対象としての「フローの住宅」と位置付けられているが、欧米では個人の基本的人権を保障する環境として「ストックの住宅」が扱われ、経済的利益追求のためのものとは考えられていない。日本と欧米の違いは、住宅政策を「住宅産業のための政策か」、それとも「住宅に居住する国民のための政策か」の違いで、住宅政策の方向を対立させる重要な問題である。

 

消費者の購買能力に対応すべき住宅価格

人類史的に見ると、住宅価格は国民の収入と比較して高額で、住宅は人々の家庭の経済的支柱にすべきものとして築き上げ、経済的拠り所とするものと考えられてきた。戦前までの家族制度や、「家」の考え方も、住宅の資産価値に着目しそれを守ることにあった。しかし、高度経済成長からバブル経済を経験した日本の考え方は、過去の住宅に対する日本人の考え方を変えてしまった。その理由は、戦後から現在までの日本の住宅政策の考え方によってつくられ、「住宅は使い捨てされるもの」という政府の住宅政策の考え方のためで、世界でも特殊な環境下の思想であるからである。

 

住宅を恒久的な国民の資産とする欧米の住宅政策や住宅産業の考え方は、基本的にわが国の住宅政策や住宅産業政策に受け入れられず、大学や高等専門教育機関における教育でも受け入れないため、欧米の建築設計の考え方は、わが国では受け入れられなくなっている。その結果、わが国の建築教育では、欧米のような人文科学を基本にした住宅設計教育は行なわれず、住宅建築の人文科学的性格を表現するデザイン(設計)が、住宅(建築)の歴史文化的性格を表す建築設計教育と考えられないで、他の住宅との優劣を決める「差別化」の手段になっている。

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