HICPMメールマガジン第763号(2018.03.26)

HICPMメールマガジン第763号(2018.03.26)

みなさんこんにちは

 

ハワードと伝統経済学理論と小林一三の「郊外開発論」

産業革命により国府が急増したというハワードの時代背景を理解できれば、ハワード が「住宅を取得した人たちに、資産形成を実現させる」ために「どのような住宅地経営仕組みを計画したかが分かると思います。ハワード著『ガーデンシテイ』 を経済理論という視点で読むと、「どのような仕組みで住宅の資産が増殖するか」を考えた「ハワードの経済学」が理解できるはずです。しかし、日本では大都 市の郊外開発という電鉄資本の経営という観点で評価されましたが、住宅を購入した居住者(消費者)の資産形成という視点はありませんでした。

日本では明治時代から欧米では高い関心で取り組まれたハワードの『ガーデンシテ イ』を参考にして、阪急開発を取り組んだ小林一三の提唱する「田園都市開発」が、日本でハワード著作を『田園都市論』と翻訳し、東京と関西の電鉄開発の行 なう郊外都市開発理論として紹介されてきました。そのため、ハワードの発明家と自称する「住宅を購入した人が資産形成を確実に実現する経営技術」としては 紹介されず、ハワードの都市模型を勝手に解釈した都市理論がわが国では独り歩きしてきました。

 

現代の欧米の「都市経営論」,『都市経営論』

そこで欧米の都市開発の歴史文化を調査すると、ハワードの「ガーデンシテイ」の理 論が、現在においても、基本的に住宅地経営の基礎理論として使われ、欧米の人々は、「住宅を取得することで資産形成による利益」を享受しています。ハワー ドが「都市計画の父」と呼ばれている理由は、「資産価値の増進する住宅を育てる都市経営を行ったからだ」と思います。

現在米国の最先端の住宅地開発と言われるサステイナブル・コミュニテイ、 TND(トラディショナル・ネイバーフッド・ディベロップメント)やエコロジカル・でベロップメントのすべての計画者で「アワニー原則」の参加者は、いず れもその理論を、都市計画や都市開発の基本としてきました。わが国のように、都市開発事業者や電鉄業者の産業資本の利益を中心にせず、消費者の利益を中心 に考えた開発であることを明らかにしました。いずれも、ハワードの『ガーデンシティ』を尊重した開発であることを明言しています。欧米と日本の住宅地開発 に対する私の行ってきた比較調査の原点こそ、「アワニー原則」が米国で支持されています。わが国ではこの「アワニーの原則」は、欧米の街づくり運動の一部 として紹介されても、ハワードの考える都市経営の基本として理解されないことに、英米との住宅地経営の違いがあります。その原因究明なしには、ハワード以 下「アワニー原則」の理解はできないと思います。

 

人文科学としての「都市計画」と「街づくり計画」

欧米の住宅・建築・都市の考え方は、江戸時代までの住宅・建築・都市も、歴史・文 化に根を張った「人文科学的な取り組み」としては同様でしたが、住宅・建築は都市と一体的に計画され、封建的の社会秩序の基本になっていました。住宅は土 地に定着し、住宅の機能を発揮し、そこで発揮する「住宅としての効用」は、住宅地及び住宅の環境(ロケーション)によって決定されるものです。つまり、そ れらは社会・経済活動や居住者の入退去と、住宅地経営の在り方により影響され続けるものです。住宅地が当初計画されたとおりに健全に発展するかどうかは、 その計画時点において、開発地「土地」と、そこへの居住者「人」という2大「基本コンセプト」の人文科学的考察に基づき決定されます。その住宅地開発が、 過去、現在、未来という歴史文化の流れの中で、どのような成長をするかを考察し、街(都市)の発展する「ストーリー」と「ヴィジョニング」を作成すること で基本が決定されます。

都市(住宅地)は、社会・経済環境の影響を受けて変化しますが、基本的に、「当初 入居した人々が安心して、継続して生活をし続けるように」、そこには都市(住宅地)として基本的に尊重される物理的な「環境管理ルール(ハードなルー ル)」と、居住者の環境を尊重して生活する「生活ルール(ソフトなルール)」を設定することになります。この2つのルールは、居住者の全員の合意形成に よって作成され、変更できようにつくられていますが、そのルールどおりにルールを尊重して生かすためには、「住宅地の経営管理」としてルールが遵守されな ければならなりません。それは住民主主義国家の「自治」という統治の論理によることになります。

 

ハワードの都市経営理論と「三種の神器」

英国でハワードが始めたレッチワース・ガーデン・シティにおけるリースホールドに よる住民自治は、リースホールダー〈借地権者〉が結成する借地人組合が、そこでのルールの遵守を基本にしたガーデンシテイ経営を行ないました。住宅地の経 営管理主体である借地人組会がそこのルールに基づく基本的判断を行い、その借地人組合の判断(ルールに対する判定結果)に基づき、レッチワース・ガーデ ン・シティ株式会社が、住宅地経営の行政主体として借地人組合の行なった判定どおりの行政を行ないました。ガーデンシテイの自治政府(立法、行政、司法) は、借地人組合が担い、ガーデンシテイ株式会社はその政府の行政機関(官僚機構、行政と司法の執行)としての役割を果たしました。

英国も現在の米国も、コモンロウの国であるため、「契約自由の原則」によって決め られたことや、裁判所の控訴審の判決は、すべて慣習・強制法として遵守することを義務付けられています。住宅地経営のための「ハードなルール」も、「ソフ トなルール」も、カベナントという強制力をもつ付合契約(住宅地経営主体がルールを受け入れる承認をする)による民事契約として締結されます。

 

ロードマップどおりに「成長する都市」

住宅地に生活する人たちは、年とともにその生活要求は変化し、既存施設の改善やそ の管理規約の変更を求めることが発生します。当初開発された住宅地は、その開発された時点で求められた効用を基本的に維持させるために、計画修繕が施さ れ、善良管理義務が果たされることで、開発時点の効用を維持することができます。当然、計画修繕に要する費用は、住民が住宅地の環境を健全に維持する費用 として負担します。

欧米の優れた住宅地を見学すると、当初の計画が基本的に尊重され、日本で一般的に 取り組まれている再開発や都市再生事業は行われません。その理由は、住宅・建築・都市計画は人文科学的な認識に基づき、計画され管理されているからです。 開発当初に「土地」と「居住者」という2つのコンセプトを人文科学的に分析し、作成された住宅地の進むべき「その土地とそこで住む人」の歴史・文化を尊重 したロードマップ「ストーリー」と「ヴィジョニング」で示された社会的合意の軌道を住宅地が走っているということです。

 

「ガーデンシティ」をモデルにしたニュータウン経営

英国においても、戦時中、ドイツ軍の空爆を受け、戦後の住宅事情が悪化したとき、 ハワードの開発したレッチワース・ガーデン・シテイは投機の対象になりましたが、居住者は、その環境の崩壊を阻止させるため、国会で特別委立法を求め、投 機利益を阻止するための買収は阻止されました。アトリー労働党はその見返りに、英国政府として「ガーデンシテイ」もモデルにした「ニュータウン開発」に取 り組むことを決定しました。ニュータウン事業は、基本的にハワードの提唱した「ガーデンシテイ」の都市経営を地方公共団体に帰属するニュータウン公社が継 承しました。

「三種の神器」による住宅地経営管理は、その住宅地の経済的な価値を推定再建築費 で計算する裏書きを与えていました。住宅地環境改善の基本計画は、アーキテクチュラル・ガイド・ラインに基づくものと、それを変更して行なうものとがあり ます。レツチワース・ガーデン・シティが開発された当時は、車は、まだ、国民の日常生活の足になっていませんでした。

しかし、現在は車が居住者の生活の足になり、車により便利さを享受したが、一方、 車による危険が増加したことで、基本計画は建築設計指針の変更を余儀なくされた事例もあります。このような場合、計画変更に伴う費用負担の問題は大きな問 題となり、「路上駐車」で妥協した例も少なくありません。たいていの場合には、住宅の取引価格で回収事業費は十分回収できると説明されていますが、当面に 費用分担ができないことが問題にされてきました。

 

都市経営の基本は、「都市という資本(株式)」を育てていくこと

住宅地は基本的に収益事業ではないため、そこで潜在的に資産価値が上昇しても、そ の資産価値増を回収できるわけではありません。そのため、新しい開発事業費用の捻出は、欧米の優れた住宅地でも苦労しています。そのため、既存の都市施設 空間を生活要求に合わせて、生活空間として使うことに、居住者の関心が向かっています。

重要なことは、居住者はその住宅及び住宅地を当初計画され開発された応対を善良管 理することで、そこの住宅及び住宅地は建設当時と同じ以上の効用を活用しながら育て、享受できる施設として経済的評価を受け続けているということです。別 の言い方をするならば、自分の住宅不動産を物価上昇分以上の資産価値で売却できるようにするためには、住民自身がルールを守り、修繕と善良管理費を惜しま ないで支出することが、人々の労働による創造価値をつぃ化し、住宅の資産形成を実現するという共通認識ができているのです。

 

「売り手市場」を持続する住宅地環境改善計画

ハワードが提唱している住宅地環境改善は、居住者の生活は住宅不動産の中で完結す るものではなく、居住者の行動圏といった生活の広がりと併せて、居住者が享受できる街並み景観や眺望、街並みに対する帰属意識を育むことにより、居住者に 高い満足を与え、生活環境に誇りを持たせることができます。住宅環境改善はそこに居住する人に環境価値の創造と、生活の満足を与えるものです。「わが家 (アワーハウス)」、「わが街(アワーストリート)」。「わが町(アワーヴィレッジ)」という住宅からの生活の広がりに対応した個性のある住宅地は、民主 主義(個人主義:個人を尊重する〉の原則を大切にした「都市づくりの計画論の原則」であると考えられています。

一方では、経済性を重視し、住宅及び住宅地の設計・施工に当っては、標準化、規格 化、単純化、共通化を行うことによって、欧米の住宅産業では、総飛車の購買力に併せて、生産コストの削減に努めることを主張します。しかし、その一方で、 居住者にとって個性ある住宅及び住宅地を形成することは矛盾することでないことを明らかにし、豊かな個性が尊重さえた「多様性の統一」こそ、民主主義の実 現(フランク・ロイド・ライトの「建築の4原則」)であるとし、居住者が尊重され、誇りを持ち続ける住環境であるのです。

 

基本コンセプトを尊重すること

そのため、住宅地環境改善計画は当初の設計における基本コンセプトに立ち返って、 居住者一人ひとりにとって、個性的な生活を享受する上で、もし、欠如しているものがある場合には、その原因追及を先行させ、既存の住宅地のルールの見直し を含めて、現在の環境との関係を考えて環境改善の趣旨目的を考えて、居住者の生活を中心に据えて、取り組まなければなりません。

「ハワードが重視した住宅地経営」とは、基本的に居住者の生活満足を維持すること で、その住宅地は外部から見て「住みたい」と思える生活要求に応える高い効用を提供させる住宅地をつくり、社会的に評価されることです。それは住宅市場に おいて売り手市場を維持し続けるならば、住宅の鳥光価格を上昇させることができます。

 

ケントランズの事例

DPZがTNDとして計画したケントランズ(ニュージャージー州)は、その購入者 の多くは一旦購入した住宅を、そこでの生活する必要がなくても売却しないで、賃貸住宅として収益不動産として経営するということです。その理由は、高額な 賃貸料収入のほかに、いつでも高い売却益が得られるという理由であった。このような住宅不動産は、高い年利益が見込まれることで、さらなる住宅売り手市場 を形成しています。

米国や英国で行われている住宅地には、日本に一般的に行われている環境計画を全否 定したゼロからやり直す計画は行なわれることはありません。それは住宅地計画自体が人文科学的に検討され、将来の姿を合理的に描いていて、住宅地の生活環 境計画と一体的に作成されているためです。開発当初から、当面の販売促進を目的とした流行の環境計画を施すものではないためです。住宅地の環境計画は、居 住者の属性やライフスタイルを反映したものであるため、建設費用と維持管理費用負担に関し厳密な吟味をしないと、販売段階の計画では実行段階に進めませ ん。実行の担保がない計画は、継続性を持たず、その住環境計画はその住宅地とともに維持されないことになります。そこには持ち家化借家かという区別はあり ません。居住者に高い満足を与える住宅であれば、資産価値を上げ、売り手市場を継続させます。

 

ハワードの「都市経営」

ハワードの実施すべき住宅地経営は、入居時の一過性の住宅地経営ではなく、将来に 亘って経営管理主体が実行を担保するものでなければならなりません。英国や米国における住宅地経営上のカベナント(民事契約)は、住宅地の資産価値と不可 分な関係を持つ担保権に裏付けられたものです。欧米におけるハワードの思想で行われてきた住宅地経営は、その住宅地で居住者が享受できる環境のことを言っ ており、居住者の教示できる効用が重視され、外観の装飾や豪華さや目新しさを言っているわけではありません。すべて居住者のニーズに応えることのできる行 為要を持っていることが重要です。

既存の住環境をスクラップ・アンド・ビルトする場合もありますが、その場合の既存環境施設は居住者に提供できる効用を失ったと判断されるため、既存施設には価値はなく、スクラップされることは当然と考えられ、新たに居住者の生活要求に合う環境がビルトされます。

 

「ハワードの住宅地経営」の総括:住宅の資産価値を上昇し続ける住宅地経営

ハワードの「住宅による資産形成」の理論は、住宅市場における売り手市場を維持す ることです。最近の世帯規模は小さくなり、住宅内に生まれた余裕空間を「商業。業務オフイス利用」に充て、小世帯を受け入れる小規模賃貸住宅にすること で、それから不動産利益を得ることを、住宅地経営として居住者に認めることで、若年世帯や高齢者世帯の要求に応え、同時に住宅所有者の利益を助けること も、その住宅地経営の範囲に取り込んできまました。ハムステッド・ガーデン・サバーブは、その立地条件の良いことから、高所得者の住宅需要がありますが、 開発当初の住環境の形態は基本的に尊重しなければならず、最初は住宅の外観を変更せず、小屋裏空間や車庫の住居用転用という形で大規模空間の要求に対応し てきました。

しかし、数年前ハムステッド・ガーデン・サバーブで驚かされたことは、既存住宅を リフトアップし、地階を建設し、そこに既存住宅をリフトダウンして設置することで、全面地下空間に利用した大きな住宅として提供する取り組みが始まってい ました。この工事において、ハムステッド・ガーデン・サバーブの街並み景観は変更されず、所得の高い人向けの住宅を供給できるようになりました。住宅地経 営の基本は多様な要求も持つ個人の住要求に応え、住宅地全体の環境が守られます。

この既存住宅全体のリフトアップを認め、大きな近い空間を建設し、リフトダウンし リモデリング以前の街並み景観を戻し、リモデリングにより、ロンドンに働く人たち子育て中の勤労者の需要の拡大を図り、当地の住宅を売り手市場に動かす大 きな要素となっています。「ハワードの住宅地経営」は、「三種の神器」を尊重した住宅地経営管理を恒久的環境管理として行い、居住者の要求と社会の要求に 十分配慮し、最終的に住宅地の資産形成を実現するために使われ、住宅地全体を売り手市場として維持し続けているのです。

ハワードがこのような現在のリモデリングを想定していたとは考えられませんが、考えていたといっても不思議ではない未来に続く住宅地経営を構想していたことは事実です。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷英世)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です