HICPMメールマガジン第790号(2018.08.10)

みなさんこんにちは

 

形骸化されている日本国憲法

昨日は、長崎に1920年に原子爆弾が投下された日で、国連事務総長が記念式典に出席され、核廃絶条約推進を訴えました。この数日は、連日TVでは原子爆弾による被害の重い苦しい話が放映され、胸がつぶされたことと思います。国民の多くは核廃絶を願っていますが、わが国は米国の核の傘の下にあるという理由で、政府は核廃絶の協定に反対しています。日本国憲法と国民の願いと政府の国際舞台での行動とが矛盾しているのです。わが国政府が国際社会で政治的な意思表示をするときには、日本国憲法で定めた枠組みに縛られることは当然ですが、最近の政治家を見ていると安倍首相以下閣僚にその意思があるようには思えません。1959年最高裁判所田中耕太郎が砂川裁判の判決で、日本国憲法と日米安全保障条約とが矛盾していることを明らかにしたうえで、「日本国憲法で日米安全保障条約の違憲性を裁く必要はない」と判決した。

 

2014年小泉・竹中内閣のとき、わが国のバブル崩壊後の不良債権がわが国を財政激減の財政危機に追い込み、政府は赤字国債にまで依存する財政政策に踏み切ったのち、「聖域なき構造改革」という都市再生事業を実施し、日本国憲法に違反する都市再生緊急措置法を立法し、それに基づく都市再生事業を実施した。その結果、都市再生事業により都市環境は悪化し地価は高騰したが、不良政権に苦しむ企業が救済され、財政危機に瀕したわが国財政は危機を脱することができた。バブル経済崩壊後の経済・財政危機の基本問題は取り敢えず回避できたが、国民の生活環境は厳しくされている。

 

日本国憲法は第2次世界大戦の軍国主義によって破壊されたわが国を、平和と民主主義を柱に日本国憲法を制定し、それに基づく新国家建設に取り組んできた筈であった。しかし、戦後のわが国は米軍の兵站基地として軍事産業に依存し経済を再建し、日米安全保障条約を基本に、都市再生事業に見られる経済主義で日本国憲法と矛盾した政治に流れてきた。広島と長崎への原爆投下で、戦後の破壊された国家の原点で苦しんだ原爆被害者の問題が、戦後73年経過し基本的に解決されていない。その問題を象徴的に示すものが「核廃絶禁止条約」に、わが国政府が反対したことに象徴されている。

 

欧米先進国家と日本の民主主義の違い

米国は多民族国家で価値観の多様な人たちが生活している。銃規制を見ていると対立する価値観の人たちの社会であることが解かる。今回紹介するホーム・プラン・システムを調べていくと、消費者利益を優先し、標準化、規格化、単純化、共通化がハードな工事だけではなく、建築様式や生活文化に踏み込んで国家を挙げて取り組み、住宅産業界の合意の下に優れた住宅が消費者の購買力の範囲で供給する取り組みが行なわれている。等価交換販売の原則、等価交換金融の原則の下に高い生産性を上げる方向に向けて住宅産業の全てが、「相違を尊重し協調する」方法で取り組んでいる。

 

木造住宅のほとんどすべてが2×4,4×8のプラットフォーム工法で作られ、材料の基本寸法は同じで、その構造材の組み立て詳細が、北米全体で共通している。フレーマーは工事施工の詳細(ディテール)が同じであるから、北米のどこへ行っても同じ技能で働ける。わが国の伝統木材は江戸時代の初めに最も統一が進み、職人は全国どこに出掛けても効率的な仕事を行ない高い賃金を得ていた。そのシステムに欧米の建築関係者は驚いたと言われるが、現在のわが国では製材に始まり工事の全てに標準化は否定され、「差別化」と言う特殊化され、非能率で高額な工事を営業のため余儀なくされている。

 

言葉を標準化し共通した用語を使うことが文明を発展させる。言葉を差別し違わせることは共同作業を困難にし、不経済になり文明を滅ぼす。このことを、「バベルの塔」の物語が説明している。共通した言葉を使うことは人びとの共同作業を可能にし、「費用対効果」を高めることを、欧米の住宅産業を見ると理解できる。「はじめに言葉ありき」と聖書に記述されているとおり、言葉(ルール)を共通することで社会全体の共同作業が可能になる。住宅産業の場合、設計、施工、住宅地経営の全てに於いて、共通した言葉を使うことで、全体の経済効率を高めることになる。建築様式という建築用語を正確に使うことで、歴史文化を超えた優れた資産形成のできる住宅を可能にしている。

 

 

第26回 経済合理性を徹底追及した「ホームプランシステム」(MM第790号)

 

住宅設計を日本では「間取り」をつくることのように考え、ハウスメーカーの営業マンが、企業で用意したホームプランをもとに顧客の住宅要求を満足する設計図書を代願設計として作成しているが、それは実施設計ではない。欧米社会で供給されているホーム・プラン・システムは、建築家が建築設計理論に照らして正しく設計した実施設計図書で、標準化、規格化、単純化、共通化を徹底することで無理、無駄、斑を省き、設計業務報酬を印税方式で支払う最も経済的な住宅供給方式である。

 

欧米のホーム・プラン・システム

現代欧米の市場で流通しているホームプランシステムは、優れた建築家が設計した住宅設計の実施設計図書を消費者が実際の設計業務費用の10分の一程度の負担で購入できるシステムである。ホームプランシステムには欧米社会には長い歴史があって、優れた住宅を安い費用負担で実現する要求に応えて生み出され、さまざまな形をとって現代に繋がっている。優れた住宅設計は、優秀な建築家が住宅の建築される土地と、そこに居住することになる人の基本コンセプトを明らかにし、基本設計を作成しそれを住宅購入者の支払い能力に合わせて実施設計を作成することで可能になる。設計者自身の建築設計能力を駆使し時間を掛けるため設計業務報酬は非常に高くなるが、それを10分の1で供給している。

 

その建築主(家族)と同じ土地とは存在しない。優れた住宅を見てそこに住みたいと希望する人はたくさんいる。既存住宅市場で優れた住宅が高い需要に支持されているように、優れた実施設計図書を利用できればそれは可能である。優れた実施設計を購入し住宅の建設を希望する人は多くいる。その場合、住宅を建設する人は、その設計図書を安価で手に入れたいと望み、設計者は、すでに作成した設計図書であるので、新たに設計する業務報酬を得なくても提供してよいと考える。出版業界で著作権を印税方式で回収し、印刷出版はマスプロダクション方式を建築設計に応用したものである。

 

同じ土地もなければ、同じ要求の消費者もいないが、類似した土地条件と類似した入居者の住宅要求であれば、「既存住宅」の購入と同じように、既存の実施設計を建築主の要求に修正して使うことができる。実施設計として具体的に存在する設計図書であれば、建築主はそれをその住生活要求に適合するようにカスタマイズは容易である。欧米のホームプランシステムを構成している実施設計図書は、実際に設計され使用された住宅だけではなく、実際の土地条件のもとに設計した実施設計図書のカタログ集である。その実施設計は標準化、規格化、単純化、共通化により合理的施行ができる。

 

ホームプランシステムで提供される実施設計

消費者はホームプラン集と呼ばれているカタログ集の中から、住宅の規模、建築様式、階数、主要間取りなど住宅の諸性格ごとに区別分類されたホームプランから、消費者の希望する条件に最も適したものを選び、その実施設計を購入する。そのまま使うこともあれば、建築主の要求に合わせてカスタマイズすることもある。その結果、実際に優秀な建築家に設計を依頼するときに比較して10分の一以上安く実施設計図書を購入できる。消費者はその生活要求に合ったホームプランに関し、3種類の価格に対応した実施設計図を購入することができる。この購入した実施設計図書は、いずれも、米国の住宅産業技術を標準化、規格化、単純化、共通化した設計として誇示用の実施設計にまとめられているため、ホームプランを工事に採用した場合、建設業職人が迷うことなく仕事を進めることができる。

 

わが国では優れた建築設計は、「差別化」と言って、既存のものと何か違ったアイデア(デザイン、機能、性能、材料、工法)を取り入れ、それを優れた内容と主張し高い価格で販売する間違った経営が行われてきた。ホームプランシステムによって供給されている住宅設計図書は、そのデザイン、機能、性能が個性的であることが重視されている。その実施設計図書は、建築主の購買能力に合ったものでなければならない。ホームプランシステムは、建設に携わる建設業者及び下請け業者が慣れ親しんだ材料と工法を駆使した実施設計に取りまとめられ、工事業者にとって工事し易い実施設計となっている。

 

現在欧米では、無数に近いホームプラン集が発行されている。その分類区分は、米国の建築設計における基本設計の「基本コンセプト」に相当する分類である。「ホームプラン集」というカタログに掲載された住宅は、建設工事費としては「松・竹・梅」(カスタム、スタンダード、エコノミー)と呼ばれる違った価格の住宅の実施設計図書を提供できる。基本設計で設計される設計内容(デザイン、機能、性能)と実施設計で設計される建築主の支払い能力に見合った価格の住宅とは、別の概念である。そのため、ホームプランシステムを使って様々な購買力層に適合した実施設計を提供することになる。

 

既存住宅を購入すると同じ意識で扱えるホームプランシステム

設計業務費用が嵩むためホーム・プラン・システムを使い、それをカスタマイズする注文住宅設計が広く行われている。建築主が既成のホームプランの中から適当なものを選択し、又は、ホームビルダーがホーム・プラン・ブックから選択し、それを建築主の要求に合うように調整(カスタマイズ)し、住宅建設する。ホーム・プラン・システムの活用は、「既存住宅」の取引と共通した内容で、建築主が設計圖書を検討し、設計内容を具体的に理解し、注文する広義の注文住宅である。

 

カタログに載っているホームプランの中から建築主が望む住宅を選択すれば、その実施設計や建築設計詳細、採用する材料や住宅設備、建具などのカタログも一緒に入手できる。ホームプラン集から選んだ設計図書をカスタマイズする仕事は建築家、ドラフトマン、ホームビルダーも行なってくれる。ホームビルダーは実施設計が出来上がるとその実施設計を使って工事費の見積もりを行なうが、基本的に使用する材料・工法・技能ごとに数量、作業時間、単価をもとに見積もられる。

 

米国のホームビルダーは、「建設現場を生産工場と考えた製造業者」とその業務を理解している。そのため、工事を合理的に安く造ることを重視し、現場の工事過程に介在する無理、無駄、斑を最小限にすることで、職人が手慣れた作業ができるよう、標準化、規格化、単純化、共通化し、工事生産性を高めている。ホームプランシステムの場合、合理的な実施設計と対応した合理的な工事費見積もりができているだけではなく、住宅の維持管理修繕を必要とする場合も職人対応ができる住宅である。

 

ホームプランシステムの合理性を取り入れた実施設計

非常に大雑把に言って、同じ実施設計を使った場合、設計者の見積額に対しホームビルダーによる工事見積額は10~15%安くできる。ホームプランシステムの場合、の工事費は一般のカスタムホームと比較して10%以上安く見積もられる。その理由は、設計者はその社会で一般的な条件で見積もるのに対し、ホームビルダーは手慣れた材料と得意な能力・経験を生かし、常時使っている下請け業者や材料取引業者を使うことで、その工事の設計見積もり額よりも10%程度安い工事費で仕上げることができている。ホームプランシステムはホームビルダーの行なう合理的な見積もりを行なっている。

 

米国の請負工事費で見積もられる工事費は、基本的に実際の支払いベースの材料費・労務費で、わが国の建設業者のような建材流通利益を「口銭」として掠め取ることは認められない。ホームプランシステムでは建築詳細まで標準化、規格化、単純化、共通化されている。一般の設計図書を使った場合とホームプランとの違いは、下請け業者の専門性を生かし実際に安い工事費で下請けさせられるためである。

 

優秀なホームビルダーは、下請けを相互に叩き合わせ、工事費を引き下げさせるのではない。建設業者の現場監督(スーパーインテンダンツ)がCPN(クリティカル・パス・ネットワーク)により無理・無駄・斑を最小限にし、直接工事を指揮し、発注規模や工事時期、施工条件、工事人の専門性等合理的な理由で安くできる下請け業者を選ぶことになる。下請け工事に粗利を加算することはない。その仕組みがホームプランシステムにはシステムの前提条件(工事費見積もり)に取り入れられている。

 

CM(コンストラクション・マネジメント)の導入

実際に工事請負契約が締結されてからが、ホームビルダーは、CM(コンストラクション・マネジメント)技術を駆使して、工事請負契約額よりさらに低い価格で工事を行なっている。そのCMの経営管理技術(工事費管理、品質管理、工程管理)を行ない、現場で工事する職人が迷うことなく工事を行なえることで、工事に介在する無理・無駄・斑を排除する。そして生産性を高め、時間当たりの工事粗利、時間当たりの労賃を高めている。CMを徹底することで生産性を高め、支払総額は同じでも時間当たり支払額を高め、年間を通してみた場合の総利益や総賃金を高める経営努力を行っている。

 

CMが実施されても、そこで実施すべき材料と工法とが建設工事を行なう職人にとって手馴れていなく、現場での工事納まりが解からず設計者または工事監理者に現場の工事納まりを糺すことがあると、現場の工事は計画通り進まない。建設職人にとって、そこで扱う材料及び工法が手慣れたものであることが実際の工事施工を最もスムーズに行なうことになる。わが国の建設現場では、工事の納まりが事前に解決されていなく、工事が始まってから工の現場納まりを考える事態が日常的に発生している。HICPMのサステイナブルハウスでは、使用する材料の品種を最小に絞り、施工方法も単純化したことで、通常の工務店が通常の建設労働者を使い習熟効果を上げることに成功した。

 

HICPMが会員を指導して行なったサステイナブルハウスでは、4カ月かけて1戸の住宅を建設していたホームビルダーが繰り返す工事により習熟し、1か月以下で1戸の住宅を建設でき、その結果、工務店の利益は当初売上高の5%でしかなかったが、通年で30%の粗利を獲得し、下請け業者はその賃金総額が4倍近くに増大した。HICPMが取り組んだサステイナブルハウスは、設計システムが標準化、規格化、単純化、共通化を徹底させ、建設現場における職人の習熟効果(学習効果)により生産性を高めることができた。その裏には、米国やカナダでのCMの経験を設計システムにそのまま取り入れた読み替えを実施し、工務店の低いCM能力でも、実現可能な高生産システムであった。

 

システム技術としてのCM 

わが国では結果的にCM技術の成果が挙がっても、それを経営者個人の能力と勘違をし、CM技術を意識的に高めようとはしなかった。工務店は工事費見積もりを見て材料費総額が大きいので、輸入建材買い付け改善で利益を拡大できると考えた。工務店経営の関心を資材購入に向け、CMによる生産性向上に向けなかった。サステイナブルハウスでは北米のCM技術が組み込まれていたが、工務店はサステイナブルハウス・ホームプラン・システムを勘違いし、習熟効果を発揮させようとしなかった。

 

個性的な設計にこだわった輸入住宅の設計は、多様な輸入建材を利用に偏り、生産性向上の成果が元の木阿弥になりCM学習は中途で消滅した。工務店は建材商社ではない。しかし、円高が高進した時代には誰でもが円高差益を手に入れ、建材の買い付け先を拡大し、建材を安く仕入れることができた。しかし、結果的に多種類の建材利用に向かい、生産性に逆行する方向に向かった。北米のように学校教育でCMを学び実践した人はCMの利益が体得されるが、わが国のように学校教育にCM教育がないため、CM技術の利益が技術知識として体得されないため、CMの合理的な追及が行われない。

 

米国とカナダを訪問したとき、両国はいずれもわが国以上に強力にゼロエネルギー住宅を政府と官民共同で先端技術を住宅に取り込む政策(PATH)を実施していた。その住宅では2×4スタッドは2×6スタッドに転換し、壁体内の6インチのグラスウールが完全に充填してあった。わが国ではゼロエネ住宅を「差別化」することで住宅価格が高く設定されているが、米国やカナダでは、「ゼロエネ住宅」は、住宅販売価格をそれまでより安くつくっていた。その理由は、NAHBが20年以上前にCMのテキスト『アメリカのコンストラクションマネジメント』(井上書院刊)で提唱したVA(バリューエンジニアリング)を実践したからであった。6インチ厚のスタッド間隔を16インチから24インチにすることで、住宅の構造性能を変化させないで材料費と労務費をコストカットした。米国では理論と実際の対応をNAHBの教育で経験しているため、合理的理論の実践が行われていた。

 

日本の建築士の学識経験とその実力

米国で行われている高品質の住宅をより安くつくる技術は、わが国は米国と同様にすることはできない。その理由は、建築教育の技術力と建築技術者の学問に対する意識付けの違いにある。それは消費者の利益を重視する「ストックの住宅」の考えをもたず、建設業者としての利益確保を優先する「フローの住宅」の考え方に立って、業者の利益中心の考え方に立っているためである。米国やカナダでは、住宅生産を「システム産業」と理解し、すべての施工場面で合理的なシステム的な取り組みをすることが顧客の利益となる「ストックの住宅」の考え方が基本になり、それが住宅産業界の信頼になっている。

 

欧米に比較しわが国では建築産業界全体に合理主義が貫徹していなくて、建築士法の内容を例にとっても建築士の学識・経験が建築士法どおりではなく、建築士の排他独占業務と定められた設計及び工事監理業務が、建築士法の規定どおり行なわれていない。わが国の大学で建築教育を受けた卒業生が欧米の大学院の建築学教育研究に入っても、業者の利益本位の「フローの住宅」の考え方が抜けず、欧米の消費者の利益本位の「ストックに住宅」の人文科学教育について行かれない。

 

わが国の建築教育が住宅建築産業に必要な設計・工事監理、並びに、工事施工経営管理(CM)技術教育と、建築材料と工法に関する教育が行われていないため、建築教育を受けた学生は実施設計図書の作成やその設計図書に基づく建設工事費の見積もりをする能力をもっていない。日本の大学での建築教育の学力では、建設工事に必要な現場の施工レベルの基礎知識が低く、実際の工事レベルの対応ができない。その上、建築学習の人文科学的な意識がないため、長期的な職人の工事の展望が持てず、将来を展望した職人の工事の実務について行けず、必要な工法の採用が行なえないでいる。

 

政府が求めている建築技術者能力

現在、建築士のほとんどが建築士法で定められた学識経験に裏付けされた設計業務能力を持っていない。建築士の設計能力では代願設計しかできず、建築士法及び建設業法で必要な設計圖書が作れず、その結果、建築士の業務成果である代願設計では、正確な工事費見積もりはできない。建築士ができることは代願設計をまとめ、「材工一式」の概算見積もり単価で概算工事費の見積もりをする程度であるが、建築士の多くは、概算・見積りすらできない。「材工一式」の坪単価の略算単価に延べ面積を乗じた概算工事費総額では、「工事はできる筈である」としか言えない。工事請負契約当事者が契約を締結したから、契約当事者は契約履行義務があるといい、工事請負契約さえ締結できれば、後は下請業者が工事を実施する責任があるから、工事費見積もりは概算でよいと政府自身が考えている。

 

現実は、建築士の作成した代願設計では工事の現場での納まりの仕方は分からず、工事に必要な材料も労務もその数量も作業時間も支払い単価も労務費用も明らかにされず、工事費を見積もることはできない。工事請負契約上、契約当事者が実施を約束しても、その実施すべき工事の計画が具体的に定められていないから、実施すべき仕様も建築詳細もない。国土交通省が建設業者は「建設サービス業者」であると政府の考え方を明確にして以来、建設業者はそこで取り扱う材料や労務のすべてに対し、建築主に支払わせる価格(上代価格)と建設業者が仕入れる価格(下代価格)の2重価格構造を前提に、差額をサービス流通経費として建設業者が着服する業務を正当な業務と指導としてきた。

 

日本の重層下請構造の下請け段階ごとに実行予算が組み替えられる。その実行予算が下請けの都度やせ細り、同じ材料と労務が使われる筈でありながら、単価は痩せていく欺罔を政府は容認してきた。日本の建設業界の下請け単価は下請けの都度やせさせる重層下請けの構造に問題がある。その背景には、概算見積りを精算見積りとみなし、不等価交換販売と設計図書の差し替える背任行為を、建設業行政が容認してきたからである。その理由は、建築士が実施設計図書を作成できないないからである。言い換えれば、わが国の建築士が実施設計を作成できないことが不正を生み出す原因をつくっている。

 

日米の住宅建設業者の違い

米国の建設業界では、建設業者はその建設業として必要な材料と労務を調達するわけであるから、材料と労務の調達価格こそ工事見積額として建築主に請求できる。それを取り扱った販売流通経費(口銭)を建設工事費として請求することを認めていない。ただし、材料及び労務を調達する建設業者が負担する流通経費は、当然、工事単価に含まれる。その流通経費を最小限にする努力がコストコントロール(工事費管理)である。これらの経費は作業時間、生産性、工程管理と一体の関係にある。CPN(クリティカル・パス・ネットワーク)により、遊び時間なし(ジャスト・イン・タイム)の工事計画こそ、HICPMが指導を受けたピンカースNAHB元会長が会長時代に進めていたCMである。

 

わが国では概算工事費で工事請負契約書を締結するため、工事が遅延し工事費が膨張し、工事請負契約額で設計圖書に定めた工事を行えない。合理的な施工を追求する米国の住宅産業と、不合理な施工を正当化しようとするわが国の違いである。その辻褄合わせをするための欺罔が、建築主に対する特記仕様書を口実にした「同等品の承認」と「工事請負契約添付設計図書の差し替え」による背任行為の原因を生んでいる。米国ではわが国の慣行として行われている設計図書の差し替えは犯罪である。わが国の建設業法上も犯罪であるが、政府か自ら公共事業でその犯罪を実施し、その後、住宅産業の行政指導で陣頭指揮してきたため、検察は起訴せず、現在は契約図面の差し替えは公然と行われている。

 

これらは、関係者の犯罪意図により引き起こされたものではなく、行政上の慣行化された違反や、建築士の能力が建築士法に違反して建築士資格を与えられ、建築士の権力をその能力と勘違いし不誠実行為になったことに原因がある。大学教育では、建築教育で建設3法は教育されているが、通り一遍の教育に終わっている。建築士法、建設業法、建築基準法による建設行政は、その実態に目を向けようとせず、「工事請負契約が適法に施行されているはず」の弥縫策に終始してきた。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

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