HICPMメールマガジン第820号(2019.02.15)

 

みなさんこんにちは

連休明けでメールマガジンの送付が遅れてしまいました。

米国のホームプランシステムと住宅設計

米国では新築住宅の場合もホームプランシステムを利用することで、建築学を学び、設計及び工事監理業務の実務経験をもった優秀な設計者の設計圖書を「設計業務報酬を負担しないで、その10分の1程度の印税負担」で注文住宅の設計圖書が購入できるようになっている。一般論として建築設計に著作権が存在すると言われているが、建築設計は創作活動と認められ、理屈の通った争いを起こしたら設計者が勝つとも言われている。住宅設計は正確に言えば、土地を建築加工して住環境を形成することであるから、同じ建築設計図書を使っても建設地ごとに作られる住空間は違う。住宅不動産ごと設計内容はみな違い、著作権の主張は動産の場合とは異質である。著作権の対象となる部分がどこかなど実務的には判断が難しく、訴訟を起こすこともそれに対抗することも困難である。

 

優れた設計を学ぶことは一般に行われても、盗作で利益を上げる例は少ない。米国では住宅不動産は不動産であるが、モーバイルホームのように土地に定着する前の住宅は動産である。その意味ではホームプランレベルでは土地は特定されていないため動産であり、その設計には著作権問題があり、ホームプランのデザイン登用は著作権違反とされている。ホームプランシステムを使って建築主が自分の生活にあった住宅を選択し、実施設計を入手できることは、注文住宅設計を作成する業務費と比較して、完成したで安価な設計業務費で手に入れられることになる。一方、建築主は、通常の設計業務報酬額の約10%程度安い価格(設計図書一式を30-40万円)で、実施設計図書(コピー)を利用でき、設計者側もホームプランとして繰り返し利用され、印税(設計図書一式の販売額の10%程度の収入)で大きな収入を得ることもできる。

 

米国のホームプランナー社で、これまで最も販売されたホームプランは一つのホームプランが約800コピー販売され、3億円近い印税総額になった。米国のホームプランシステムは、多様な人種のるつぼと言われる国で、労働力を効率的に使うことが重視され、建築工事の標準仕様が推進されてきた。全米共通の標準仕様書の利用を始め、実施設計圖書が標準化、規格化、単純化、共通化しているため、住宅の現場施工で、ホームビルダーは、CMの合理性を取り入れた生産性を上げることができる。ホームプランシステムはそれを建設する敷地条件に合わせる修正をし、居住者の生活要求に合わせた修正は当然必要になる。ホームプランシステムは既存住宅を購入しリモデリングするのと似た方法で行なわれ、建築主に高い満足を得られる設計料を印税で支払う注文住宅を実現するもう一つの住宅設計法である。

 

住宅は個人の所得に比較して飛び抜けて大きな支出を必要とする投資であるから、「住宅投資をして破産することがないよう」、住宅は購入者の支払い能力に見合った負担で購入できる価格の住宅とし、その住宅投資は何時売却しようとしたときにも、毀損住宅は、購入額以上の価格で推定再建築費で売却できるようにずることが重視されてきた。そのためには、販売しようと考える住宅地全体を、購入見込み客の家計支出に対応できる価格で販売されるとともに、販売後も、人々が居住したいと憧れる「売り手市場」として経営管理される住宅としなければならないと考えられてきた。米国ではわが国のように新材料や新工法を採用し、「差別化」により高い販売価格とすることは行われない。材料も工法も社会で最も使われてきて建設労働者の手慣れた材料工法が最も高い生産性を挙げ、部分修繕の利く最も安い維持管理費で住宅を適正に管理できる方法であるという社会的認識が形成されている。

 

既存住宅を常時売り手市場として管理すること

住宅が常時、売り手市場を維持するためには、住宅単体としての適正な維持管理や修繕を計画的に行うことである。そのための最も重要な条件は、住環境として住宅地全体が「ハードなルール」と、「ソフトなルール」をもとにした住民自治組織(HOA:ホーム・オーナーズ・アソシエイション))という住民自治が行われていることである。ホームプランシステムを利用して建設した住宅の場合も、通常の建築家に設計を依頼した場合と同様に、建築主はその住宅地の環境管理を最も少ない計画修繕費と維持管理費で行うことができる。そのためには、住宅の基本構造としてつくられる部分と、ライフステージに合わせてリモデリングできるところと、ライフスタイルに合わせて変更できるところとを明確に区分し、居住者が生活要求に合わせてリモデリングできる住宅を提供している。

 

その結果、住宅は居住者のライフステージに合わせてリモデリングされ、高い居住者満足を与え、常時、「売り手市場」を継続することが可能になる。このホームプランシステムは民間の設計監理業務に携わる人たちがその設計業務成果(設計図書)を、設計業務報酬で回収する販売価格ではなく、出版印税を負担する通常の設計管理費の10分の一程度の価格で、設計者が出版社と協力して始めたものである。建築主は、建設する敷地の条件に合わせて、購入したホームプランをカスタマイズして活用することになる。敷地に住宅を配置し、土地建物一体の住環境設計こそ、最も重要なことである。わが国のように式規模が小さく、敷地にホームプラン集にある住宅を入れ込むと言った、駐車計画のような配置計画は、住宅不動産設計ではない。わが国の狭小宅地への住宅の詰込みは、住宅不動産設計ではない。

 

ホームプランシステムの歴史

ホームプランシステム自体は、17世紀ごろからの歴史をもっている。1666年、ロンドン大火後のサー・クリストファー・レンが行ったルネサンス様式のレンガ住宅の標準設計システムが、その後新大陸のボストンやフィラデルフィアの都市づくりに持ち込まれた。さらにバルーン工法の発展に伴い、19世紀にシアーズ・リーボックが始めた「住宅カタログ販売と一体的に行われたパッケージハウス」が代表的な例である。現代のホームプランシステムは1036年FHAが住宅モーゲージに債務保証を付けたとき、金融機関のモーゲージとFHAの債務保証が確実に受けられる設計圖書の販売に端を発したシステムである。多様な人種や民族の集合した米国で標準化、規格化、単純化、共通化を進める連邦政府の政策に呼応した国民に「ストックの住宅」をできる限り安く供給する取り組みであった。その後、出版業界が出版印税方式で設計図書販売に取り組んだのが現代のホームプランシステムであった。

 

居住者の生活は、隣地境界線で区画された「座敷牢」のように住宅の内部だけで完結するものではない。敷地ごとに孤立するのではなく、相隣関係を生かした近隣環境を利用した眺望や、街並み景観として建設される住環境である。ホームプランシステムは住宅の「ロケーション」の一部を構成するものと考えられている。近隣環境には「物」環境と「人」環境があり、人々が住みたいと望む環境の質を規定することが設計である。個別の住宅は、周辺環境と独立して独自の環境管理ができる場合はほとんどない。一般的に住宅環境は、居住者のライフステージとライフスタイルに対応した就労・就学環境に対応した学校教育施設、交通・利便施設、商業・業務施設、スポーツ・リクリエーション施設、医療・福祉施設等の周辺環境と一体的に考えなければならない。欧米の住宅不動産市場では、住宅の立地環境を総称して、「ロケーション」と呼び、その中には人間環境も含まれている。ホームプランシステムは居住者の生活要求に柔軟に対応できるものであることが望まれる。

 

わが国では,[土地と住宅は別の独立した不動産」と民法上規定されているが、都市計画および不動産理論(社会科学)上、欧米の住宅不動産の考えは、居住者の成長にフレキシブルに対応し、熟成変化できる環境として供給するのに対し、わが国ではスクラップ・アンド・ビルドを繰り返すものと考えられてきた。土地に定着して住環境を形成する住宅は、街並み景観の形成の役割を担い、住宅からの眺望を含んで、住宅は土地に定着することが絶対条件で、居住者の成長に合わせて熟成し、大胡の人たちにあこがれの住環境を形成し、売り手市場を維持し資産価値を増進し続ける。これが「ストックの住宅」の考え方である。欧米では土地と住宅とは一体不可分で、都市や住宅地のマスタープラン(都市計画)の一部に住宅の設計が取り入れられ、土地を建築加工して住宅不動産が造られ、住宅の建設されている土地には土地固有の歴史・文化が伝承され、その住宅地の熟成が住宅の価値評価になっている。

 

住環境を育て、高生産性を実現する住宅地経営

米国の住宅地を調査すると、殆どの住宅地にはコモンハウス(共用施設)があり、そこには自治組織の経営管理事務所、集会室、フィットネス、スイミングプール、ゲストルーム等の共同利用施設が整備されている。その理由は、強いコミュニティの絆によってセキュリティの高い居住環境をつくっている。米国でも進んでいる長寿化に対し、健康で長寿を楽しむために健康管理が重要とされている。集会室では居住者の関心事が話題となり、共通の話題を見つけ、健康増進の話題がフィットネスを行うことを住宅地経営に取り入れて、安い費用負担で居住者相互の人間関係を育てている。フィットネスで居住者の健康増進と交流でコミュニティが良好に機能して、犯罪に強い住宅地を形成されている。

 

最近はそれに加え、有機農法による菜園の経営が加えられている。それは「医食同源」と言われるとおり、健康づくりの食糧生産は、家計支出に寄与し、自然科学と農学を学ぶ知的欲求を満たしてくれるとともに、一緒に学ぶ仲間づくりになっている。住宅環境の中で最も重要な環境は、施設環境とともに、居住者がそれぞれの関心と能力を評価し、発揮し、その作業費用を実費で交換し合えるローカリティの高いコミュニティ環境である。多様な人たちが優れた人間環境を形成するために必要なものは、居住者が合意できるルール作り、相互の知識経験を尊重しながら活用し、住宅地経営ルールを確実に遵守し合う強制権を持った自治組織による住宅地経営を実現することである。

 

住宅地経営は仲良しクラブではなく、人々の豊かな健康的な生活を居住者の家計支出の範囲で実現することであるから、その住環境を確実に実現する業務が必要になる。住宅地経営管理業務として必要なこととと、その業務を確実に実現するためには、住宅地経営業務の趣旨・目的が明らかにされ、それを確実に実現する技術的裏付けが必要になる。住宅地経営管理の目的を実現するためには、住宅地全体としての合意形成が不可欠である。欧米では、住宅地開発を始める際に設定された「基本コンセプト」と「それに基づいて作成された「ストーリー」と「ヴィジョニング」が、住宅販売時のカベナントに取り入れられ、HOA経営の基本に置かれている。

 

住民によって合意形成されたことを確実に実現させるためには、それの実現に必要な業務の役割分担が決められ、専門的な技術や知識を取り入れて実施されなければならない。住宅地の経営管理業務の実施は、居住者の権利と義務の関係に基づく責任問題は必ず付き纏い、それを避けて通るわけにはいかない。それはスポーツや園芸の場合も同じで、同じ目的に向かって努力した結果に到達した達成感に共通する喜びが報われることになる。物事を実現する過程は必ずしも面白おかしく進められるわけではない。事業を行う意義、趣旨、目的に向かっての取り組む姿勢によって、人々の能力開発や居住者相互の尊重し合う関係が育ち、助け合いと達成に向かう喜びがある。

 

その運動を腰砕けにしないようにするためには、その目標とそれに向かう取り組みの吟味と総括をしっかり行って、道に迷っても、当初の目標に向けて取り組むようにすることが重要なことになる。利益を上げる事業のように目的が明確な事業は、その目標が解かり易いため、参加者を糾合させることは容易となる。しかし、多様な目標を持った人たちが取り組む事業は、その事業計画通りに進められている事業の生産性の高さが、参加者にそれぞれの自己実現の喜びをもたらし、納得のいく住宅地経営事業への取り組みに肯定的な展望を与えることになる。

 

現在、住宅地ごとのロケーションと入居者の属性ごとに、驚くほど多様な住宅地が形成され、管理運営されている。住宅地の資産価値が維持向上されるためには、「住宅地経営」という視点で住宅地を開発し、経営することの重要性を提唱し、工場町から飛躍して住宅地経営として実践した最初の人が、英国で「ガーデンシティ」理論と実践を行ったエベネザー・ハワードである。その最初の事業がレッチワース・ガーデン・シティで、それが国家の住宅政策として取り入れられたのが英国における労働定見が始めたニュータウン政策である。そして、現実には世界中で驚くほど多様な取り組みが行われている。

 

1975年以降、TND(伝統的近隣住区開発)、サステイナブル・コミュニテイ開発、エコロジカル開発など人々の豊かな居住環境の実現が取り組まれ、それを最もシンプルな形で総括した住宅地経営原則が、カリフォルニア州にあるLGC(ローカル・ガバメンシアル・キャンセラー)が、1992年にアワニーホテル(ヨセミテ公園)で官民協調して役割分担の原則を定める会議を開催した。そして成長し続ける住宅地開発の新しい原則を「アワニーの原則」として取りまとめ、それを行政上実践した制度が、「ニューアーバニズム」の思想であり、カリフォルニア州では、ニューアーバニズムの思想を住宅地経営制度に取り入れたCID(コモン・インタレスト・ディベロップメント)が成長している。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

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