HICPMメールマガジン第829号(2019.04.22)

みなさんこんにちは

先週は、東京都の行政指導に使われている『開発許可の手引き』が都市計画法違反であるにも拘らず、公然と違法な行政が行われていることにいかに対応するかを検討していてメールマガジンの送付ができまさんでした。申し訳ありません。開発許可の手引きは東京都による行政犯罪であると確信でき、それを是正するためには刑事告発し、検察庁の力を借りるしかないと判断し、刑事告発をする取り組みをすることにしました。5月までには東京地方検察庁に送付する準備書面を作成しようと思っています。

 

建築設計と工事費見積もりの関係

建設業法上の工事費見積もりは、工事を行なうために必要な材料と工事のための労務の内訳の提示を求め、内訳の合理性を説明させる必要がある。請負工事総額を安くするために、材料と労務の数量の厳密な数量の吟味をし、それぞれの材料と単価の価格引き下げる可能性と諸経費の内訳を、建築主と施工業者とが追求する折衝作業がないと、合理的な見積もりと言えない。工事費見積もりの根拠となる材料と労務の数量と労務時間の計算の仕方を建築主は建設業者に納得できる説明を求めなければならない。

 

しかし、わが国の場合、代願設計はあっても実施設計はない。代願設計では、「材工一式」の略算による見積もりしか行なわれないので、材料と工事の労務量とを分離して見積もりはできない。しかし、実際の工事見積もりは略算の概算工事費数量とそれに対応した「材工一式」の複合単価で計算するもので、その工事費見積もりでは材料も労務を仕入れることはできない。材料や労務の数量や単価に関しても、その内訳を明らかにすることで、不合理な工事費見積もりは糾される。しかし、代願設計では材料や労務の数量を明らかにできない。「材工一式」の概算単価は代願設計での工事費を見積もるための概算をするための単価である。

 

技能者の能力により労務費の購入単価は変動し、所定の時間で工事が行なわれるのか、超過勤務が必要なのかにより実際の労務単価も違う。労務費はその技能により、雑務と専門技能では、実際の支払いベースで労賃の単価は、時間当たりの単価で、8倍近く違う。建材の場合には、その物流経費と並んで廃材処理費も必要になる。手戻り工事や手直し工事に対しても費用が掛かる。それらの建設工事の仕方を十分検討してから、最終的な建設工事費の決定が行なわれる。相場と言われている労賃でどのような能力の技能者を雇用できるかが明らかにならなくて、実際の工事を予算額通り実現できない。

 

実際に必要な工事費と見せかけの工事費

しかし、わが国の代願設計では、工事内容を明らかにできない。それにも拘らず、わが国のハウスメーカーによる工事費の見積もりは、材料と工法が決定された段階で、工事費見積もりまで建設工事業者との間で工事詳細の合意形成ができていたかのような虚構の存在を前提に、ハウスメーカーごとの固有な見積もりシステムで、自動的に見積もられ、外部からその詳細を知ることはできなくなる。現場での材料及び労務の支払いベースの工事費が実際の工事に必要である。

 

現実に建設業者が正確な材工分離をして計算した工事見積額は、相場として提示していた工事費を大きく下回ることになる。住宅購入者側は住宅の材料や工事情報を手に入れ、より優れた住宅にするため、できるだけ高級な材料を選択しよう勧める。そしてハウスメーカーも顧客の夢を膨らませて満足を高め、成約に急がせるため、建築主の希望する可能な範囲での高額の材料を設計仕様に定め、実際には使う意図もないのに、とりあえず材料を「仮押さえ」すると言って、設計仕様として決定する。

 

建築主は夢を膨らませ、その結果、工事請負契約額は相場単価を大きく逸脱して高額になることも多く、「契約額で工事を実施するためには仕様内容を落とさないとできない」という。「バイキング」の食事で、テーブルにない「アラカルト」メニューに手を付けようとした子どもを諭すように言われる。建築主の側では相場単価を設計仕様で厳密に検討をすると、貧しい材料や工法しか採用できなくなる。

 

実施設計もなければ、工事費見積もりのできる技術者もいない

建築主が少しでも高級な材料や工法を希望すると、支出可能な費用限界を逸脱する結果、ハウスメーカーの算出した工事請負契約額での工事実施は不可能になる。そこで最初に合意した「相場単価」で工事請負契約額とするために、それまで建築主が選択してきた設計仕様を全面的に引き下げざるを得ない。しかし、ハウスメーカーによる工事費見積もりシステムは、「材工一式」の複合単価自体の単価ベースが施工会社に有利な単価設定になっているうえ、直接工事費だけではなく、広告・宣伝、営業・販売及び直接工事費のすべてに要した費用を回収する方法であるから、その見積額を減額する方法はないと建設業者は主張する。

 

建設業法上の規定に従うとすれば、実際の工事を特定できる実施設計圖書を基に、建設業法第20条に定める「材工分離」による工事費見積もりを行なえば、工事の内訳明細がはっきり算出できる。正確な工事費総額は、概算見積もり額の半額以下になる場合ある。最大の問題は、実施設計図書を作成できる設計者が殆どいないことと、仮に実施設計図書が作られても、その設計図書で工事費見積もりをする技術者がいないことである。わが国の建築教育はこのような基本的建築設計・施工業務教育を行なっていない

 

出精値引き

建設業者には実施設計図書に基づく工事費見積もりをする能力がない場合が多い。そこを問題にされると工事費全体の信頼性が崩れる危険があるため、建設業者は、「工事費値引き」を提案して請負契約締結を断行する。そこで取り入れられた方法が「出精値引き」である。「出精値引き」とは、建設業者がその利益の中から建築主に対する「誠意」の示し、数百万円単位の値引きをする方法である。ハウスメーカーが「差別化」によって住宅を高額販売した欺罔に経済的な合理性がないと同じように、「出精値引き」に合理的根拠はない。

 

このような「差別化」や「出精値引き」が可能とされる背景には、最初の「相場単価」自体に経済的な合理性がないことにある。「相場単価」を前提に着手された住宅設計は代願設計で、その設計では工事内容を詳細に確定できず、正確な見積もりも現場工事も指示することができない。工事費見積もりは施工者が絶対損をしない概算額でしか行なえない。「出精値引き」は概算工事費による請負契約額が高額すぎるので、取り過ぎの利益を、建設業者から建築主に戻す性格の値引きである。わが国では、この「出精値引き」分を建設業者が負担せず、下請け業者に分担負担させることが一般的に行われている。

 

建設業者の倫理規定

一般論として技術者は、自らの使っている技術を誇り、その誇りを汚さないような業務をする。しかし、建設業者が設計・施工に関する技術力を持たず、下請け業者に仕事を分配し粗利を抜くだけの仕事をしていると、工事を実現するために必要な技術・技能への関心が薄まり、設計された設計図書を実現する上に必要な技術や技能へのこだわりが薄れ、下請け叩きや手抜き工事に走っても痛痒を感じない技術者になってしまう。そこで建設関係事業では設計・施工のすべてで「誠実な業務」という業務規程が法律に定められている。

 

そこで定められている設計に関する「誠実な業務」とは、設計圖書では実際に工事に必要な事項を設計図書に定め、工事費見積もりを正確に行える実施設計を作成することであり、施工では、正しい施工計画のもとに材料と労務を調達し、計画されたとおりの費用と工期で設計どおりの品質の工事を、契約した工期内で行なうことである。「出精値引き」は、設計・施工業務の内訳に踏み込むことなく、一括して「工事費の値引き」によって誠実業務のけじめをつけるものである。

 

出精値引きは真面目な業者のすることではない

設計及び工事を実施する技術者の行なうべき業務に精通している限り、その業務を手抜くことはない。しかし、自ら業務を行なわず下請け業者に仕事を配分するだけの「手配者」である場合は、自ら手にする粗利と工事成果に関心があっても、その業務のプロセスには関心は薄く、業務倫理に反する業務が行なわれやすくなる。実は工事費見積もりで「材工一式」の概算で工事請負契約金額を決定する方法は、業務の内容を具体的にしていないことから、建設業として低いモラルの工事に陥る危険が高くなる。

 

それは材料と労務費と粗利の仕分けを曖昧に扱い、直接工事費と粗利で食い荒らす仕事になるからである。各下請けプロセスでわずかな粗利を抜いても重層下請け構造では「塵も積もれば山となる」諺どおり、重層下請け構造で行われている公共事業では粗利総額は工事費予算額の70%を超えている。100億円の公共工事で重層下請けの末端で材料費と労務費として支払われている工事費総額は、高々30億円で70億円は粗利である。建設業を構成する各下請け業者の経営内容を見ると、低い粗利を得るだけで大きな事業をこなしているが、それは中間下請けで抜かれる粗利の合計が大きくなるためである。

 

「一層下請け」で材工分離による工事費管理、工程管理、品質管理を正確に行えば、全体の粗利を総額20%程度に抑えても、工事生産性を高めることで、大きな利益を手にすることができる。そのために重要なことは、建設業者は建設工事の経営管理技術(CM)を駆使できる技術力を備え、CM技術を駆使することで実現でき、それが建設業務の高いモラルの実践になる。建設業に必要な業務を実施するために必要な技術を理解し、それを実施するために必要な材料費と労務費および諸経費を支払う工事費内訳を透明にでき、高い職業倫理の実践に繋がっていく。材工分離による工事費見積もりは、無理、無駄、斑を省き、建設業モラル向上のための前提である。製造業は等価交換販売をしなければならないことと、そこで製造される商品の価値は直接工事費としなければならないとされている。

(BM第829号)

NPO法人住宅生産性研究会理事長戸谷英世)

 

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