HICPMメールマガジン第874(2019.09.25)

みなさんこんにちは

 

第6回

「セレブレイション」の基本コンセプトと対比された「ジョージタウン」、「ケントランズ」

セレブレイション開発は、米国の新時代に必要とされているTND(伝統的近隣住区開発)の実現に応える取り組みです。HICPMは、最初の段階から植民地時代の首都ウイリアムバーグ、独立当時の首都フィラデルフィア、現在の首都ワシントンD.C.の従業地と就業地の位置関係を調査した。その結果、ジョージタウン(ワシントンD.C.)やアレキザンドリア(バージニア)の都市を伝統的近隣住区開発の原点と考え、それを念頭に取り組まれたケントランズ、レイクランズを歴史の首都と対比検討した。首都の住宅地の「ストーリー」と「ヴィジョニング」に関し、DPZがケントランズに取り入れたウイリアムズバーグのマンション(総督邸)とケントランズの歴史的な小屋(バーン)を、TNDの「ストーリー」と「ヴィジョニング」の鍵とされた要素を調査研究のため現地に出掛けた。

米国のTNDを代表する「セレブレイション」のヴィジョニングのモデルになった「ウイリアムズバーグ」や、ジョージタウンのモール以上に、「米国人が歴史を感じる」都心のモデルにする設計者の設計意図を確認するためであった。「セレブレイション」の調査は、基本設計の基本条件を8日間の専門家の議論を通して確定する「シャレット」(開発基本条件決定会議:議長DPZ)であった。

セレブレイションの建築設計者と建築様式の選考は過去の作品と設計思想を基に「シャレット」で選考された。建築設計者ルーニー・リック・キスはハーバータウンのTNDの実績評価により選考された。ハーバータウンのTNDデザインを、ルーニー・リック・キスに面談し説明をうけた。そのとき、セレブレイションの事業に合わせ、DPZだけではなく米国の多くのTNDの実績を評価し、建築家と各地でのTNDの取り組みの中から建築設計担当候補者と建築様式(スタイル)が選考された。住宅建築のデザインは歴史に遡って伝統的建築スタイル(様式)の調査研究をしスタイルは建築が伝える「思想」であり「言葉」である。実践した「スタイル」とその事例を評価対象にしていた。

 

セレブレイションの基本計画の検討作業

ワシントンD.C.のジョージタウンのモデルになったウイリアムズバーグのモールや、それを参考にして進められたジョージタウンの中心の路面鉄道、それらを意識したケントランズの基本計画との比較検討の上に、セレブレイションの都市計画の評価検討を行なった。セレブレイションでは都市開発の軸線を南北にとり、ゴルフ場とダウンタウンの中央の水面を結ぶ人工的に循環させる中央河川とその両側を走るブールバール(並木道)とする最高の都市景観を基本に、歴史文化を伝承するセレブレイションの都市計画が検討されていた。TNDとして取り組まれたセレブレイションが「米国の首都」の歴史文化と、過去の首都の住宅地計画で重視されたブールバール(サイドウォークのある並木道、街並み景観と眺望、建築様式・材料と工法)を評価し、駐停車が価値並み景観から取り除かれ、建築空間と都市空間が過去の文化を伝承することが重視されていた。HICPMはセレブレイションのマスタープランで検討された建築様式が、住宅所有者の個性を尊重しながら街並み景観い、予定調和するように「様式の選択」が計画されていることを、10年以上の期間、毎年のように現地を訪問して見学した。

ジョージタウンは首都ワシントンD.C.の指導的立場にある政治、経済、行政、産業、文化の要人の住宅地と言われ、J・F・ケネディーやD・G・アチソンたちが大統領や長官時代この地に生活したことはよく知られている。米国を代表する女優ロバート・テーラーや、津田梅子らの文化人たちがこの地に生活したこともよく知られている。その理由を調べて見ると、ジョージタウンの立地がホワイトハウス(大統領官邸)やキャピトルヒル(国会議事堂)やFRB(中央銀行)から自動車によって20分以内で到達できる距離にあり、自宅に重要な客を招きもてなす必要があるからと言われている。

 

米国の政治、経済、行政、金融、産業、文化、教育の中枢にある仕事の関係者にとって時間と人間関係は重要である。その重要な職務にある時、ジョージタウンに自宅があることはその活動をするために重要である。その理由を踏み込んで尋ねると、米国は民主主義の国で国民の意見を広く聞くとともに国内外の情報に敏感に対応する社会的に影響力のある人間関係が重要である。全ての仕事は個人で行なえる範囲は限られており、ヒューマン・ネットワークで適切に仕事を行うためには情報だけではなく、信頼し合える人間の関係を日常生活でつくり、それを仕事に取り組むことが必要になる。その結果、社会的影響力のある事業をする人たちは、ジョージタウンのような土地に居住することになる。

 

「歴史をつくる都市」の作り方

以前私がリゾート開発に関係したとき、ホテル計画者から、盛んにリゾートホテルの計画として「歴史をつくるホテル」造りの重要性を聞かされた。歴史をつくるホテルとは、歴史に名前が残る著名人がホテルに宿泊したことや重要な会議の開催で決められると言う。歴史に残る政治家、行政官。産業人、文化人の宿泊や歴史的な会議は、ほとんど例外なく社会的重要性の評価により宿泊や会議が計画されている。宿泊は偶然決められることもあるように思われているが、会議も宿泊者のホテルは、社会的評価、社会的地位や著名度を反映して決定される。宿泊したホテルと宿泊者との関係がホテルの歴史になる。歴史の評価を受けるホテルを含む建築物の評価は、建築物とそれを利用し評価した人との相互に影響し合う関係の歴史で決められる。その「物と人の人文科学的関係」の評価が重要とされている。多くの場合、著名人との関係で建築物や都市の評価を説明することが多いが、主権在民の国家においては主権者である国民大衆や消費者一般が大切にされている都市ではその社会的評価が問われる。

多くの消費者に好まれる都市は住みやすく、消費者が大切にされている都市でもある。米国のTNDによる都市は、歴史・文化軸に立ち返ってみると、消費者が豊かさを感じることのできる都市をつくることであるから、歴史文化の教訓を大切にすることで、多くに居住者に愛される都市をつくることである。街並みを歩くことが楽しい街は、眺望を考えた道路計画や植栽が植えられ、街中で立ち止まって話をし、佇んで眺望を楽しみ、景色を写真に撮ったりしたくなる都市である。そのような居住者に愛される都市こそ、多くの居住者に愛される歴史文化を感じることのできる都市である。都市計画をわが国のように工学で、安全性や機能性を重視したもの造りで都市を考えていると都市には、文化は育たない。

 

住宅を介したヒューマン・ネットワーキング(人脈)の育て方

わが国でも「他人と寝食を共にすることでお互いに理解し合える」と考えられ、「その接待時間と接待資金の負担の大きさを通して、お互いが誠意と信頼感を感じ合う」と言われてきた。欧米でも友人を自宅に招くことは、家族を含んで相互に理解し合うために必要なことと言われ、自宅に客を招く意味は、家族を含んで一緒に相手の人格を吟味し理解し合い、共同の仕事をする場合には欠かせない「相互に理解」に必要なことである。戦前のわが国は基本的に現在の欧米における家族ぐるみの付き合いが、家族に支えられた個人の信頼関係の基礎になる。生活費自体の苦しい人たちは自分の家計支出を詰めて人を招き、宿を提供し飲食を通して、自分の気持ちを伝え相手の気持ちを理解した。個人の家計支出の規模は限られていて、家計費支出の中で接客費用は大きくなくても、個人の家計に影響を与えることを理解し相手に見返りを求めない。子供のころから友達の家に泊める社会教育が行われてきた。

戦後のわが国では都市膨張し、都市の「遠・高・挟」により客や友人を自宅に招く家族による接客のライフスタイルが消滅した。その結果、わが国の伝統的な「一宿一飯の恩義」と言われた個人で負担できる費用の範囲で相手をもてなす住空間は、現代の国民生活には無関係になってしまった。米国で活発なTNDは、欧米の近隣の人間関係として家族でのパーティに子供たちを家族相互で招き宿泊させ、家族ぐるみで交際し、共通の喜びや悲しみを共にするおもてなしを日常茶飯事で行なう近隣社会である。TNDの営みを行なうとき、個人がそれぞれに見合った対等の付き合いをする上で、住宅はお互いに「提供できる宿泊施設」として使われてきた。TNDはわが国の昔の住生活に近い住生活空間である。

 

私費接待と公費接待

それに代わって現代のわが国では、取引上又は職業上の地位と権力を公費接待費の使い方で相手に見せびらかし、それを個人の権力や信用力、又は、企業の信用力として誇示してきた。公費接待により個人の信用力と人間関係に利用し、事業を発展させる生き方が現代社会を汚染してきた。問題はその費用を、会社のお金を含む公的資金で行なわれてきた。接待経費を使わせる権力を自分の権力と勘違いし、お座敷接待や料亭会議となり、裏の政治、経済、行政、産業、文化を取り仕切る公費又は交際費接待を,企業の営業や官僚の事業資金の分配と割り切り、政治家や官僚による遊興費を必要経費と欺罔し、外郭団体に「伝票の付け回し」と「脱税社会」をつくってきた。政治資金規正法から会計法上の財務経理処理等、税金及び経営資金と必要経費処理にまで及ぶ資金の使い方の問題である。そこには非常に不明瞭な税金と会計処理の不明瞭な関係の資金処理が、官僚人事と遊興費に隠れて行なわれている。私の官僚時代、建設省が会計検査院を御座敷接待し、その費用を地方公共団体に配分した補助金を上納させた。現在はそれをスマートに伝票処理で行ない、その裏方官僚は政治家の引きで昇進している。

個人の人間関係を大切にし、個人の経済負担で交際する「背丈に合った交際」は、個人の住宅の中で行われる。しかし、現代わが国では、個人的接待は姿を消してしまった。米国の「ロビー活動」と言われる政界や産業界を対象にする政治的な働き掛けも盛んであるが、それはわが国のように公金を欺罔するものではない。わが国では国民の血税を財務処理により資金洗浄し、政治家が着服している。世界大戦までのわが国の住生活空間はその支持文化を失い、現在、昔の住宅空間を再現しても、そこに昔の住生活文化が生み出されるわけではない。床や書院を作ってもそこに飾る軸や置物や花器をTPOに併せて飾れる生活はない。住宅を個人の社会的生活の場とする文化の復興なしに住文化は復興しない。米国のTNDは人々の生活に地縁共同体の生活に向けての文芸復興を起こしている。

 

セレブレイションの基本計画のための「シャレット」

DPZはTNDの提案者であったので、セレブレイションの計画もすべてDPZが担当したものと思っていたが、実はセレブレイションの事業を構築する際に開催された「シャレット」(開発の基本構想を、DPZを座長に据え、8日間で基本事項を決定するもの)であった。その中で住宅建築設計者の選択も行われた。セレブレイションの建築設計者は、ハーバータウンの計画をまとめたルーニー・リック・キス事務所であった。DPZはTNDの提唱者で、セレブレイションのシャレットの座長であったが、統括設計者ではなかった。セレブレイションの設計者は、適材適所の人材をシャレットで参考したという話を聞いて驚いた。ルーニー・リック・キス事務所はハーバータウン(メンフィス)計画を実施したときの設計者で、ミシシッピー川に面した土地の水面を利用した住宅地計画で優れたデザインを成功させていたことで、セレブレイションの建築設計者として設計業務を担当することになった。米国の建築家たちは多士多才で、高い能力と個性を主張し、その特性を尊重し合うことで、多くの建築家がお互いを尊敬して切磋琢磨し合っていることが分かった。ルーニー・リック・キス事務所の行なったハーバーランドは、水辺の土地利用が上手く設計し、セレブレイションで水辺の建築設計を担当した。

 

ディズニーが考えた「セレブレイション」の生活文化

ディズニーは事業として取り組んでいたため、セレブレイションのダウンタウンは全事業のショウルームで、セレブレイションの事業責任者から事業化に関係する話を、形を変えて何度も聞くことになった。アイズナー社長と直接面談する機会はなかったが、セレブレイションの事業責任者から、アイズナー社長の意向が関係者の口を通して聞かされた。その事業の経緯の説明を聞く内に、住宅及び住宅地開発問題が米国民にとって最も重要な課題であることが分かった。専門家集団を集めた8日間の「シャレット」とでは、基本計画立案の方法は、実質本位でディズニーとして専門家の知識経験を結集した計画立案する会議である。住宅地計画立案に専門技術者をそれぞれの能力経験を生かし担当させる方法である。米国社会では、ディズニー社の経営者にとっても社員にとっても、住宅や住環境の問題は個人の基本的人権に関する問題と理解され、住宅を国民の共通の社会資本とする考え方であった。

ディズニー社が行なった「セレブレイション」のための調査研究も、そこでディズニーが実現しようとする住宅地開発は社会性の高い事業であり、セレブレイションの住宅地経営自体が国民の基本的人権を尊重するもので、社会的評価されることに拘っていた。その取り組み自体が企業の基本的評価を左右するものであった。「セレブレイション」以前に取り組まれた住宅地開発の成果が、消費者本位の如何に民主的な事業として社会的な評価をされてきたかの検討が行なわれた。その政治的な評価を基に、過去の「シーサイド」の成果を乗り越えるチャレンジが取り組まれた。「シーサイド」の計画はミッテラン仏大統領が進めた「自由時間都市」構想に対抗する地球規模での労働時間短縮により労働者に生活を豊かに使う時間配分をさせるもので、その実践が「セレブレイション」の住宅地開発である。

住宅の資産価値は住宅の品質が維持管理されて決められることが不動産鑑定評価制度で決められ、その評価が住宅の金融担保価値を決定する。住宅の品質は定期修繕と善良管理義務に左右される。米国では自分の生活環境を自分の嗜好と建設技術を使って改善しようとする人が多い。それを可能にしている最大の理由は、住宅のリモデリング自体には特殊技能を使わなくて安全に工事をすることが出来るためである。DIYで暇に任せて自分の嗜好を生かしてリモデリング取り組む人が多いが、それ以上に米国の建設工事は産業として標準化、規格化、単純化、共通化が進んでいて、ホームセンターで資材を購入し、DIY教室に行って工事技能を学ぶことで、誰でもがお金の節約をしてリモデリングできる環境が整備されている。リモデリング工事に関しても資材がホームセンターで自由に手に入れば、時間さえかければ労賃は必要ないため、かなりの工事でも住宅所有者が作ってしまうことが多い。米国の住宅には大きなガレージがあるが、それはリモデリングを行なうときのワークショップとして使われている。

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