HICPMメールマガジン第767号(2018.06.07)

みなさんこんにちは。

私が健康を害し、これまでのようにビルダーズマガジンの定期刊行はおぼつかなくなり、とりあえずこれまでHICPMがこだわってきた消費者の利益を大切にする住宅産業の取り組みはどうあるべきかをHICPM会員の皆様に考えてもらえればと願っています。

NPO法人HICPMの新しい取り組みとして、わが国の住宅政策、住宅産業、建築学、建築関係法規などを欧米と日本との比較を通して考えてみることを始めることにしました。私は次のテーマで書き上げました文章を、「日本の納得のできない状況」を、欧米と日本とを比較して検討しなおし手書き直しました。多分この文書をシリーズでお送りするとき、内容に重複もあり、未整理ですが、毎回の文章としてお読みいただければと願っています。

個人資産としての「わが家づくり」

 

はじめに

 

この文章は、個人の資産としての「わが家づくり」というテーマで、私の住宅官僚、住宅産業人、住宅研究者という半世紀の住宅問題との取り組みから学んだものをまとめる目的で執筆し始め、それを、消費者視点で全面的に書き換えたものである。1996年、NPO法人住宅生産性研究会を創設し欧米と日本の住宅とを比較検討する23年間の活動の中で、「消費者が住宅を購入することにより幸せになる」ことを目標に掲げて住宅産業全体が活動している欧米社会を知った。そのことがわが国の住宅産業にとって如何に重要であるかを実感し、「欧米からの住宅産業技術」の移転に取り組んだ。本書も最初はこれまでの活動と同じように、「欧米に倣う」啓蒙主義的意識で執筆を始めたが、住宅生産性研究会の活動をとおして、『自由主義に立脚した欧米に倣う』という資本主義的な取り組みは、不等価交換販売や不等価交換金融という不合理な仕組みで利益を挙げているわが国の住宅産業では受け入れられないことが分かった。わが国の住宅産業人は、消費者に対し迎合してはいるが、基本的に傲慢で、独善的で、欧米に対する尊敬の念を持っていない。

 

その理由は、わが国の住宅・建築・都市に関する教育文化水準が低いことにある。その理由は、建築設計教育として人文科学教育が行われていないためで、歴史文化的な視点が驚くほど低く、住宅・建築・都市を見る価値観が破壊されているためである。一方で、IT技術など最先端技術が駆使できるため、わが国の多くの人が住宅・建築為・都市に関する人文科学的な知識・技術・能力を持っていない。それにもかかわらず、理数系の先端的な科学技術を駆使できることが、人文科学的な知識・技術・能力を有していると勘違いし、人類の歴史文化を考えることをしない。建築設計を個人の嗜好の問題のように考えている。そのため、人間にとって歴史文化の大切なことが考えられず、人類としての豊かな生活環境形成の合意形成の重要性を考えようとしない。その結果、欧米の人文科学的知識・技術・能力はもとより、それを支えている社会科学や自然科学的知識・技術・能力まで、受け入れる必要を認めず、日本人は自分自身で何でも欧米社会のように判断できると勘違いしている。

 

そして、『欧米の住宅産業に倣う』HICPMの運動に反発し、資産価値が増殖し続ける欧米の住宅建築の基本設計技術を始め、消費者の購買能力で欧米並みの住宅を建設できる実施設計技術を持っていないにもかかわらず、欧米の住宅産業で行なわれている設計技術を受け入れようとしていない。その上、合理的な住宅建設を行うために不可欠な実施設計図書不存在状態で、高い生産性を実現する建設業経営管理(CM)技術を活用することなく、自分で判断したことを正しいと考え、欧米の考え方を無視し続けてきた。わが国の住宅産業は実施設計不存在概の概略設計(代願設計)によって、建設業者の全てが損をすることのない概算見積もりを行い、その金額で工事請負契約を締結し、建設業者は大きな利益を確保してきた。その独善的な姿勢は間違っていると指摘しても、利益を確保できている住宅産業界は聞く耳を持たない。それを推奨する住宅政策は、住宅産業から潤沢な政治献金を政治家に提供するため、そこにわが国特有の護送船団が形成され、住宅産業政策の誤りは修正されることはない。

 

住宅の設計・施工。及び建設業経営管理技術についても、欧米の建築教育自体を知らないため、建築設計業務として行なうべき設計業務をしていなくても、それを認めようとせず、わが国の異常な住宅産業政策への批判を、わが国の住宅産業人は頭ごなしに拒絶している。簡単な間取り図をつくることを建築設計と言い、大学では代願設計を作成する教育を建築設計教育と考え、実施設計なしの代願設計と「材工一式」の略算単価を使って概算見積もりを行い、それを工事請け負う契約額とする正式な工事見積額としている。下請け業者に仕事を分配し、請負契約を締結する建築士法及び建設業法違反の非常識な業務が、学校教育でも国土交通行政でも、適正な建設設計施工業務と見なし容認されてきた。

 

欧米の住宅設計図書に模した設計図書を使っても、欧米のように資産形成が実現できる住宅を造れないことをわが国の住宅産業委は自覚していない。欧米で行われている基本設計と実施設計の業務のいずれもが日本には存在していない。建築士法違違反や建設業法違反が横行し、欧米の住宅産業で行われている健全な建設業が住宅産業の全てにおいて疎かにされている。世界の建設業界では、建設業者が利益を最大化するための技術が施行生産性を向上させるCMである。米国政府が1984年のプラザ合意後、輸出振興に取り組んだとき、それを受けて日本政府は輸入住宅政策に取り組んだ、米国は建材の輸出振興を図るためには、日本の建設業者の遅れた工事生産性を高めないと日本への輸出振興はできないと考え、CM技術者(大学のCM教育専門教育者)を日本に派遣し、全国的にCM教育を実施した。

 

HICPMが23年間取り組んできた。CM(コンストラクションマネジメント:建設業経営管理)技術は、米国政府が日本に行なってきた取組みと平仄を合わせた活動であった。その取り組みはわが国では受け入れなかった。その理由を究明した結果、わが国は、不正な方法で住宅産業と住宅金融業界が巨額な不正利益を手に入れており、CMによる生産性の向上に何も期待していなかったためであった。わが国の住宅産業は曖昧な設計図書、概算見積もり、「差別化」と不等価交換販売と不等価交換金融による仕組みでいくらでも不正な利益を捻出することができた。そのため、わが国の住宅産業はCM技術を必要としていなかった。その結果、わが国の消費者は、欧米の住宅と比較して、同じ品質の住宅であれば、2-3倍近い価格で購入させられることで資産を奪われてきた。

 

日本の住宅産業政策の常識は、住宅産業の利益を重視する政策を住宅政策と考え、政府及び住宅関係者自身が住宅産業の利益中心の政策を行ってきたためである。住宅産業のための住宅政策は行われてきたが、消費者のための住宅政策は存在しないため、消費者は住宅を購入することで資産を失っている。それに消費者が気付き、住宅政策の転換を求めない限り、消費者は住宅を購入することで資産を失い生活を破壊され、国民は高齢化するにつれ製剤的破綻の途から逃れられないところに追い込まれている。

欧米では、建設業者(ビルダー、リモデラー、デベロッパー)はその利益を拡大するためには、工事生産性を高めることがなくてはならないという共通の理解があるため、CM(コンストラクションマネジメント)やOM(オペレーションマネジメンと)の技術を学んで無理、無駄、斑を最小にして利益の最大化に取り組んでいる。しかし、わが国の住宅産業はCMを学ぼうとしなかった。

 

住宅生産性研究会では20年以上に亘りCMの技術移転を取組み失敗し、その理由を調査研究し、やっと、日本でCMが取り組まれない理由が解かった。日本ではCMをするよりも「差別化」により消費者を欺罔し、不等価交換販売と不等価交換金融を行なうことで、CMを実践するよりはるかに大きな不正利益が得られる住宅産業構造が政府の住宅政策としてつくられていた。住宅産業はその住宅政策に乗せられていた。その不正利益を住宅産業が手にする仕組みは、政府が住宅政策として推奨してきたためで、不正利益を捻出する仕組みは改められることはない。日本の政治家は、不正に得られた利益を政治献金として産業界から吸い上げることで、政治・官僚・産業界という護送船団を形成し、国民から富を吸い上げてきた。しかし、その仕組みは当然のようにつくられ、当事者には犯罪意識はない。その結果、住宅を購入した消費者が例外なく貧困になり、消費者を犠牲にして建設産業と住宅金融業が巨額の利益を収めてきた。当然のように消費者を住宅産業界が搾取する構造を明らかにしなければならない。

 

そのように住宅政策と住宅産業によって国民の生活基盤が破壊されていることは住宅政策と住宅産業の歴史を国民生活の関係で見れば明らかである。しかし、このような事実を説明しても理解しようとする住宅産業関係者は少なく、自らの利益を高めることに忙しく、何十年先かに住宅によって破綻する消費者のことを考えようとしない。その現実の問題を住宅産業関係者に考えてもらうようにするためには、住宅産業のための日本の住宅政策が、消費者の生活を根底から破壊している事実をできるだけ解かり易く明らかにする必要があると考えた。その根拠と理由を解説する本書を執筆した。その中で特に重視したことはわが国が戦後米軍の兵站基地とさせられ、日米安全保障条約体制下にあって、欧米とは全く異質な「産業利益本位で消費者利益無視」の住宅政策と住宅に対する価値観を植え付けられたことにある。

NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷英世

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です